表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女院  作者: きい
3/3

椅子の足

「本日付で、更生施設科へ配属になります」

きつい目をしたお姉さんが、無機質な声で、無表情でもって通達してくる。

時間はまだ早朝で、窓には室内の灯りを反射した粉雪が現れては消えてゆく。


「またまた冗談を。あんなの出世した刑事さんとかが行き着く先じゃないですか。私みたいな若造は足で仕事を…」

「決定事項です。そもそも、あなたを巡回科へ回したのは明らかな悪意があったと思われます。未だ生きているのが奇跡なのですよ。自分の命を大切にしなさい」

「しかし私は生きています。仕事自体も問題無くこなしていると思うのですが」

「これは左遷では無く昇進なのです。貴重な男性の因子を不要なリスクの元に晒すのは適切では無い判断でした。それに、今回の配属先も必ずしも安全とは言い切れませんし……」

「このご時世安全な仕事なんてありませんよ」

「残念ながら、これ以上は仕事が推しておりますので…現在の部下もそのまま移動となりますのでそちらの方で通達宜しくお願い致しますね」

「了解しました」

「あ、あと本日から配属ですので、部下を回収後に管理科エリアの事務室へ顔を出してください。引き継ぎ作業を含めて、そちらで面倒を見てくれると思いますので」

「え!?今日からですか??私の引き継ぎ作業とかは…」

「問題ありません。巡回科に重要な引き継ぎ業務は無いと記憶しております」

「了解しました。それでは、本日付で更生施設科へ移動致します。今までありがとうございました」

頭を下げる。

お姉さんを申し訳程度に頭を下げる。

そして、もう目を合わせる事無く部屋を後にした。


この科に愛着等あるはずも無く、正直かなりつらい仕事だった。

何度も死にかけたし、何人も殺した。

これが治安維持かと首をひねりながら、仕事をこなしてきたのだ。

どう考えても治安を悪くしている。

きっと政府の"力"を見せつける為にだけ存在する科のような。

そんな気がしたのだ。


太古の昔に配備されたナノマシン。

それを簡単に検索、制御できるバッジ。


遥か上空に浮かぶ衛生から発射されるマイクロ波も使用できる。

こんな過去の遺物におんぶに抱っこでようやく維持できる権威等捨ててしまえばいいのに。


この移動はもしかしたら天職への近道なのかもしれない。

殺さなくて済むかもしれない。殺されなくて済むかもしれない。

俺の精神安定の為にも、安全な職場と言うのは非常にありがたいものだ。


巡回科の事務所に着き、重い防寒扉を開ける。

「おはようございます先生」

「おはよう。今日から移動になった。」


「了解しました。それでしたら」

と、唐突に机を殴った。


俺では何回殴っても、びくともしなかった硬い机に拳の跡がついていく。

10発は殴った後に、椅子を思いっきり蹴った。


蹴りが速すぎて、椅子の足だけがダルマ落としのように高速で飛んで、ホワイトボードに刺さる。

嵐が過ぎ去ったかのような静けさが部屋の中を支配する。


「僭越ながら、先日の先生の代わりに発散させて頂きました。先生の元以外で働くつもりは御座いませんので、処分はそのままバッジで、もしくは上へ報告して頂いて構いません」


「何言ってるんだ、お前もだ」


「え?」

ときょとんとする。

高速で突き刺さった椅子の足が落ちた。


「お前も一緒に移動になったんだよ。いいから行くぞ」

ストン、と力が抜けたかのように椅子に座り、足りない脚でバランスを取れずに後ろにひっくり返った。


そのまま数秒間転がっていたが、すぐに立ち上がってきた。


「先に言ってくださいよぉ…」


俺は、穴が空いたホワイトボードにコルクボードを貼ってごまかしながら、

「いいから椅子にくっつけろ」

と拾った足を渡す。

泣きそうな顔で椅子の足を胴体にねじ込む。


そのまま、鞄に数枚の書類を放り込み、巡回課の部屋は静けさに包まれた。


傾いた椅子だけを残して。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ