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ある日の下駄箱の話

ミステリーというにはおこがましいミステリーです。

 学校で体育の授業があった。

 学校指定の運動靴を履いてその日は外で砲丸投げをした。

 私の運動靴は爪先の部分にペンで片仮名でサトウと書かれている。

 体育が終わると、お昼休みの時間だ。

 明後日から二日間、学校祭が始まるから残りの二時間は準備する時間割になっている。

 私のクラスは今年は焼き鳥屋をするので出店で使う機材を借りに行く人、外で大工仕事をしている人、衣装を縫っている人、飾りを作っている人など様々な役割をみんな果たしている。

 私は大工補佐係なので打ち付ける板を運んだり、釘を補充したりしている。


 私は今年で三年生だから、高校生活最後の学校祭になる。

 総合優勝を取れるように一生懸命準備した。






 惜しくも私のクラスは総合二位だった。

 残念だ。


 学校祭が終わって次の週の水曜日。

 体育があったから運動靴を出した。

 さあ、履こうと思った所で気付いた。

 先にも言ったが、私の運動靴は爪先の部分にペンで片仮名でサトウと書かれている。

 それがどうだろう、今、私の手にある運動靴の爪先の部分には黒いペンで漢字で鈴木と書かれていた。

……………………(・Д・)

 いや、まてまてまて

 私の苗字はサトウであって鈴木ではない。

 両親が離婚して母方の苗字になったとしても、杉田になるだけで鈴木にはならない。

 確かに最初の「す」は一緒だけれども、それを言うなれば「す」以外に接点はない。

 隣のクラスに友達の鈴木さんがいるから彼女のと入れ替わったのかなっと思い、彼女の下駄箱を見たが空っぽだった。

 おかしいな、錬金術的な感じの等価交換なら鈴木さんの下駄箱には私の運動靴が入っているはずなのに。

 某錬金術アニメのワンシーンが頭に浮かぶ。


 どうしよう……。


 悩んだ末、自分の普段の登校時に履いているスニーカーで授業を受けた。

 話が単純ならどこかの鈴木さんの靴と私の靴が入れ替わっているだけだから、そのうち元に戻るだろうと思ったからだ。

 と言うか、私がローファーで学校に来ていたら危なかったな。


 三日後、再び私は下駄箱を見た。

 相も変わらず私の運動靴は鈴木のままだった。

 暫く思考した末に私は三年生の鈴木の下駄箱の靴を確認することにした。

 何故三年生の下駄箱だけかと言うと、幸いなことにこの学校、私が入学した翌年に別の学校と統合したため一、二年生の運動靴と私の学年の運動靴の種類が違うのだ。

 私は三年生の全ての鈴木(まぁ、五人しか居ないのだが……)の下駄箱の靴を確認したが、奇妙な事に全ての鈴木の下駄箱に運動靴は一足も入っては居なかった。


 私はいよいよ困り果てた。

 何故なら、前回の体育の授業の時に普通のスニーカーを履いて受けたのだが、普通のスニーカーは蒸れやすく、尚且つ少し動きにくい事が分かったからだ。

 仕方がなく、友人の手を借りて私は全三年生の下駄箱の靴を確認する事にした。だが、やはり私の爪先の部分にペンで片仮名でサトウと書かれた運動靴は見つからなかった。

 仕方がないので、私の下駄箱に入っている鈴木の運動靴を名前が見える様にして置いておいた。

 何処かの鈴木さんが自分の運動靴を見つけられるように。


 土日を挟んで学校に行くと、私の下駄箱に入っていた鈴木の運動靴は無くなっていた。

 そして、友達の隣のクラスの鈴木さんの下駄箱に靴は入っていた。

 彼女に直接聞いて見たらこう言われた。


 「私の靴が何処かに行っちゃったみたいで無くなってたんだけど親切な誰かが見つけて入れてくれたみたい」


 どうやら、私の最初の読みは当たっていたようだ。


 そうしてついに、私の下駄箱は空っぽになった。


 さて、どうしよう。

 私の運動靴はいよいよ本格的に行方不明になってしまった。

 かくなる上は……。


 「え?運動靴が無くなった?」


 こくこくと首を振る。


 「心当たりはある?」


 心当たりは無い。

 あったらとっくの昔に当たっている。


 「そっか……あ、もしかしたら体育教官室にあるかもよ?彼処忘れられた運動靴がいっぱいあるから、俺伝えておくよ」


 先生の提案にありがたく甘える事にした。


 次の日、体育の先生に呼び出された。


 「無くなった運動靴ってこれ?」


 先生の手にあるのは間違いなく私の運動靴だった。


 「うちでは、ずっと放置されていたか体育館の脇にある外下駄箱に忘れてかれた運動靴があるんだけど、多分サトウさんは外に置き忘れたんだと思うよ」


 それは無い。

 何故なら、体育で運動靴を使った時は毎回必ず忘れないように更衣室まで持って行くし、忘れたら忘れたで目敏い友達がちゃんと気付いて教えてくれるからだ。

 その旨を先生に伝えた。


 「……そっかぁ、じゃあ誰かが自分が忘れたから勝手に他人のを使ったんだね。最近多いからねぇ、そうゆう常識知らずが」


 先生は少し呆れたような顔で言った。

 全く、はた迷惑な事だ。


 私はサトウと書かれた運動靴が鈴木に変わったこの一連の騒動を一人の男友達に話した。


 「ふぅーん、なかなか興味深い話だね。水色のペンで書いたサトウの文字が鈴木になるなんて」


 この友人はとても頭が良い。

 どれ位かと言うと、授業中にはいつも本を読んでいるか寝ていて全く聞いていないのにテストでは入学してから今まで不動で学年首席の座を守っている上に、全国学力調査で毎回五位以内に入る位だ。

 彼曰く、「あれ位の授業教科書を見ただけですぐ解る」らしい。

 私の様な赤点ギリギリ人間の立場としては腹立たしい事この上ない発言だ。

 毎回テスト時にはその脳ミソを分けてほしいと切実に願う。


 さて、話を戻そう。

 私は彼に最近起こったあの下駄箱騒動を話した。

 彼ならばこの騒動が起こった原因を面白く推理してくれるだろうと思ったからだ。

 学校祭の後の日常は暇すぎて困る。


 「さて、そうだなぁ。まず君と鈴木さんの運動靴が入れ替わった原因は簡単にいくつか予想できる」


 例えば?


 「例えば君に好意を寄せている人がいる、その人は想い人である君の持ち物が欲しかった。そんなある日、ついに君の運動靴を手に入れたが君はよく運動靴を履くから無くなったらすぐにバレてしまう可能性が高い。そこで、カモフラージュ代わりに偶々目についた鈴木さんの運動靴を入れた」


 何それ、私ってばモテモテやん。


 「でも、これは限りなくゼロに近いと思う」


 何でさ?


 「君なんかの靴なんて頼まれても誰も欲しがらないでし、痛ッ痛いって!」


 そんなこと言うのはこの口かな? ア゛?


 「嫌だなあ、冗談に決まってるじゃないですかサトウさん!」


 だよねー。

 本気で言ってたらどうしようかと思ったよ。


 「ハハハハ……危ねぇ」


 で、他の可能性は?


 「第二の可能性としては、この間の学校祭で来ていた人がちょっとしたイタズラで君たちの運動靴を交換した。その後、鈴木さんが運動靴を使う機会があり自分と君の運動靴が入れ替わったのに気づかずに使い、体育館脇の外下駄箱に忘れた、かな。因みにこの可能性は高いよ」


 なるほど、ちびっことか精神年齢が低い人も居ただろうしね。


 「第三は鈴木さん本人が君の運動靴と自分の運動靴を交換した」


 はあ? 何のために?


 「君、学年上がってから鈴木さんとクラスが変わって疎遠になってただろ?鈴木さんはそれが寂しくって少しでも話す事ができるかと思って君と自分の運動靴を交換したとか」


 なるほど、……回りくどいな、直接口で言えば良いのに。

 と言うか良く知ってるね。

 疎遠になった事言った覚え無いんだけど。


「たまたまだよ、それに鈴木さんは引っ込み思案だって君何時だか言ってたじゃないか」


 確かに言ったかもだけど、引っ込み思案な人がわざわざ自分の運動靴を他人のと交換するかなぁ。

 それに、その後には体育館脇の外下駄箱に放置するんでしょ?

 そんなことする子じゃ無い筈なんだけど。


 「引っ込み思案な人は思い込んだら極端な方向に走るって言うじゃないか」


 いや、知らない。

 そうなんだ。


 「うん、そして第四の可能性。実は君の運動靴を動かしたのは人間ではなく宇宙人であり、宇宙人が人間の生態を知るために君の運動靴を使った」


 ふざけてる?

 うん、ふざけてるよね?

 殴っていい?

 殴っていいよね?


 「冗談だよ、軽ーいジョークじゃないか。だからその拳をしまってくれないかい…?」


 ふぅ、で?


 「第四の可能性、これは少しありえないけれど、近所の犬の仕業。ここら辺は犬を放し飼いしている家庭が多いし、この間だって学校に犬が学校内に侵入して騒ぎになっただろう?それに犬は靴を集めて隠す事があるからね、君の運動靴を盗んで運んでいる途中で何かがあって、体育館の外下駄箱近くに放置した」


 なるほど、でもそれってかなり可能性としては低いよね。


 「うん、まぁ、最初に一番ありえない可能性だって言っただろう?」


 そこも冗談かと思った。


 「……話を戻そう。第五の可能性は運動靴を忘れた子が居て、偶々靴のサイズが君と同じだったから君の運動靴を借りて、そのまま外下駄箱に忘れて帰った」


 なんとゆう奴だ!

 人様の物を勝手に使うなんて。

 おかげで学校中の下駄箱を漁る羽目になったじゃないか。


 「漁るって聞こえが悪いね。原因はともかく、ちゃんと運動靴は返って来たんだから良かったじゃないか」


 まぁ、それはそうだが君。

 まだ何か話したい事があるような顔をしているよ。


 「…へぇ、良く分かったね実は他にも可能性がある」


 もう一つ?


「でもこの可能性は、これを聞いたら君は気を悪くすると思うよそれでも聞くかい?」


 彼の問いかけに私は頷いた。


 「……それじゃあ、第六の可能性、それは。君と鈴木さんの運動靴が入れ替わったこの一連の事件、これが君の自作自演だったと言う可能性だ」


 はあ?

 何で私がそんなことしなきゃいけないのさ。


 

「ああ、気を悪くすると先に断っただろ。だから言いたくなかったんだ」


 だから、何で私がそんなことしなきゃいけないのさ。


 「例えば、君が学校祭が終わってあまりにも暇だったからその退屈しのぎにこんな事件を起こし、僕の推理を聞いて暇潰しをしようとした……とかね」


 例え暇だったとしても人をそこまで巻き込んでまで暇つぶしはしないよ、失礼しちゃうなぁ。


 「ごめんって、でも暇つぶしには十分なったじゃないか」


 まぁね、原因はともあれそれには感謝するよ。


 キーンコーンカーン


 「おっと、チャイムが鳴った。君も早く自分の席に戻りなよ」


 ああ、はいはい。

 じゃあね。



 彼のお陰で昼休みだけとは言え、暇つぶしには十分なった。

 彼の推理は面白かったなあ。


 数学の方程式を解いている時、私は彼の話の違和感に気付いた。

 おかしい……。

 私は彼に私の運動靴に関わる不思議な出来事を話した。

 けれども、私は彼に運動靴にサトウの文字を水色で書いたとは一言も言っていないのだ。

 体育は男女別だから彼が私の運動靴をよく見る機会はそうそう無いはずだし、爪先とは言え白い運動靴に水色でサトウと書いたから良く良く見ないと私が書いたサトウの字は見えないのだ。

 女子ならまだしも、男子がそれを知っているのは少し可笑しい。

 例え、私が履いている時に見たとしても見にくいだろうし第一、人の靴の爪先をまじまじと見る人はそうそう居ないから無理がある。

 男子が知っているとしたら、その人が私の運動靴をまじまじと見た事があると言うことだ。

 そして、最近運動靴をまじまじと見る機会があったであろう人は私の運動靴を下駄箱から出して代わりに鈴木の運動靴を入れたであろう人だけだ。

 つまり…………。


 「君が今回の事件の真犯人ではないかと言う結論に至ったんだけど何か異論は?」


 またもや彼の前の席の人の椅子を奪い、後ろ向きに座り、彼の席に頬を付きながら自分の考えを言った。

 彼は黙って目を閉じ、腕を組んで私の話を聞いている。


 「ふむ、確かに君の推理は一見筋が通っているかのようだけど、決定的なミスがある」


 ミス?何が?


 「何故僕が君の運動靴に名前が水色のペンで知っていたらおかしいんだい?」


 それは、男子と女子で体育は別だから見る機会は無いと思って。


 「そこからしてまずおかしい。

 君と僕は一年生の時から同じクラスだし、君が時間が無くて急いでいる時に僕に運動靴を取ってきてくれって頼む事があるじゃないか。

 これまでの約二年半の内に度々あったんだ、気付かない確率より気付く確率のほうがかなり高いと思わないかい?」


 う、た、確かにそうだけど……


 「あと、君の運動靴が無くなった理由としての可能性でさっき言えなかった事がもう一つ事があるんだけど今話しても?」


 もう一つの可能性?


 「第六の可能性。

 君が運動靴を外に置き忘れた時にたまたま誰かが間違えて君の下駄箱に鈴木さんの運動靴を入れた」


 えー!!

 私は絶対忘れてないよ!


 「果たして本当にそうかな?人間誰でもうっかりミスを犯してしまう事がある。それに君はどこか抜けてる所があるし、ドジっ子属性に近いから可能性としては二番に高いよ」


 抜けてるって……。

 ドジっ子って……。


 「そんな所が可愛いって言う人も世界にはたくさん居るから大丈夫だよ。案外、君のすぐ近くに居るかもよ?」


 あー、はいはい、そうですか。


 「意味、分かってるかい?」


 何が?


 「……いや、気にしないでくれ」


 ??

 それに、私は絶対に忘れていない自信があるよ。

 だって私はその日の放課後に運動靴を使う予定だったもん。

 まぁ、結局使わなかったけど。

 だから体育が終わった後には確実に自分の下駄箱に仕舞った記憶がある。


 「なるほどねぇ……っ!!そうか、真相が分かったぞ!」


 え?!

 何?突然。


 「君は大事な情報を僕に話さなかった。だから僕はこの真相に辿り着けなかったんだよ」


 大事な情報?


 「そう、君が記憶違いではなく『確かに下駄箱に運動靴を仕舞った記憶』が大事な情報だったんだよ」


 え?

 そうなの?


 「ああ、良いかい?まず、今まで話した可能性は全て『君がもしかしたら自分で体育館脇の外下駄箱に忘れて来たかもしれない』と言う第一前提のもとでで考えて居たんだ」


 失礼な奴だな。


 「大事な情報を話さない君が悪い。だけど、君が確かに下駄箱に仕舞ったのなら話は別だ、真相へは簡単に辿り着ける」


 で?真相は?


 「まあ、焦らない焦らない。少しは考えてみなよ。

 ヒントは君が確かに下駄箱に運動靴を仕舞ったと言う事」


 ヒントって、馬鹿何だからヒントだけで分かる訳無いじゃんかさー。

 それにちゃんと自分の運動靴を仕舞ったってさっきからそう言っているじゃないか!


 「いや、一つだけ間違っている。確かに、君は下駄箱に運動靴を仕舞った。

 けれど、それは君の運動靴じゃなくて鈴木さんの運動靴・・・・・・・・だったんだ。

 それが今回の君の運動靴が行方不明になったと言う事件の原因になったんだよ」


 ごめん、頭悪くて分からない。

つまり分かりやすく言うと?


 「事件の真相はこうだ。

 君は体育が終わった時に自分のでは無く、鈴木さんの運動靴を間違えて自分の下駄箱に仕舞ってしまった。

 だから鈴木さんは自分の下駄箱に運動靴を入れる事ができず、下駄箱は空になったんだ。

 そして、君の運動靴は放置されていると思われて体育教官室に回収された。

 君、先生が呆れたような顔をしていたって言っただろう?あれは、忘れたのに素直に認めない奴だと思われてかもしれないよ」


 うわぁ……、マジでかぁ。

 無いわー…。


 「どんまい。

 そして、君は自分の運動靴だと思い込んで下駄箱に仕舞ったから、履くときにはあたかも鈴木さんと君の運動靴が何者かによってすりかえられたかのように見える。

 たまたま、学校祭を挟んでから気付いた事と他の鈴木さんの下駄箱が空だった事、最近、鈴木さんと疎遠になって鈴木さんの運動靴が無くなった時の様子を知らなかった事が重なって今回の事件はややこしくなってしまったんだよ」


 つまり……


 「そう、つまり今回の事件の犯人はサトウ、君だよ」


 ……………………………。

 うわぁ……

 最悪だ――――!!!!!


 余りの恥ずかしさに頭を抱えて床の上に倒れ込み身悶える。


 「仮にも女子何だからそんな汚い床で寝るなよ」


 寝てないわ!

 身悶えてるんだよ!


 「何でも良いからさ、とりあえず起きなよ」


 彼の言葉に素直に従い、立ち上がると親切に背中やらを叩いてゴミを落としてくれた。


 センキュー


 「どういたしまして」


 椅子に座り直し、膝を着いて再度頭を抱える。


 いや、本当にすみません皆さん。

 図らずも多大なご迷惑をお掛けしてしまいました。

 何とお詫びをすれば良いものか。


 特に、彼には切に謝りたい。

 何て言ったって一度疑ってしまったのだから。


 あー……

 ねぇ、君。


 「何だい?」


 えっと……その、な?


 「だから何だい?」


 あー、うー、その……


 いざ、謝るとなるとなかなか言葉が出てこない。


 「帰っても?」


 あぁ、待って待って。

 その、さ……ごめん、ね?疑って……


 「…………」


 彼は顔を手で押さえると無言でこちらに背を向け、後ろの席の机を叩き出した。


 「…………デレが……!

 ついにデレがっ!」


 何やら呟いているようだが、声が小さくて聞こえない。


 おーい、どした?


 「い、いや、何でも無い」


 ?

 何だか、緩みきる一歩手前みたいなしまりのない顔をしている。

 何か変な物でも食べたのだろうか?


 それにしても、あーどうしよう。

 いや、本当にどうしよう。


 「おーい、大丈夫かい?」


 ……うん。


 ちょっと疑っちゃったし鈴木さんにも謝った方が良いだろうなぁ。


 「話聞いてる?」


 ……うん。


 いや、犯人が私だったとはバレて無いだろうしこのまま……いやいや、それは駄目だ。


 「聞いて無いよね?」


 ……うん。


 誤解されたかもだし、体育の先生にも言うべきか?


 「そう言えば、僕は君の事が好きなんだけどさ、君はどうなんだい?」


 ……うん。


 や、でも言い訳がましいかな……。


 「そうか、そうか、君は僕の事が好きなんだね。だったら付き合おうか」


 ……うん。


 いやいや、ここはガツンと一発……ん?


 彼の言葉に何やら聞き逃せない単語が含まれていた気がする。

 顔を上げると、にこにことした彼の笑顔が目に入った。


 あのー、今、何と?


 「君が僕を好きだと言ったから、僕たちは今この瞬間から晴れて恋人同士になった」


 ……え、ええええええ!!!

 いつ、私が好きなんて言った!?


 「うん?さっき」


 さっきって、話聞いてなかったし……。


 「君は僕の事嫌いかい?」


 いや、嫌いじゃないよ。


 「それなら良いだろ?」


 えーと、それって良いのかな?

 その聞き方は卑怯だと思う。


 「卑怯何かじゃないよ。それに、君が良いんなら良いんじゃない?」


 えー。

 …………それなら、ちゃんと告白して欲しいな。


 「……また今度ね」


 え、何それ!


 「じゃあ、逆に聞くけど君は僕の事、好きかい?もちろん恋愛感情で」


 それを言ったらちゃんと告白してくれる?


 「それはもちろん」


 ……保留という事で。


 「……ここは空気を読んでちゃんと答えるところだろ!」


 ふ、私はKY(空気読めない)なのだよ。

 手相にもはっきりKY線が出る位ね!


 「うわ、本当だ…見事なKY線だ」


 そう言えば最近ではKYは恋の予感と言う意味に変わってきているらしいよ。


 「へぇ、そうなんだ……君、話を剃らそうとしているね?」


 突如、ハッとした顔で言われた。

 ちっ、気付かれたか。


 「話を剃らそうたってそうはいかない。さぁ、言って貰おうか」


 い、や、だ!


 その後、言え、言わないの言い争いになった。


 この言い争いで取り敢えず私は自分からは決して好きだとは言わないと決めた。


 「はー、絶対に言わせてやる」


 だから、言わないってば。


 「そのうち、頼まなくてめ自分から言うようにしてやる」


 え、ちょっと待って、なんか怖いんだけど。


 「絶対に言わせてみせるから覚悟してなよ」


 突然至近距離から不敵な顔で言われ、不覚にも心臓が騒いだ。


 まぁ、私からは絶対に言ってやらないけど。


 だって、好きな人に最初に言って欲しいしね。


 それが女心と言う物でしょ?


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