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栗次郎  作者: 田崎史乃
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9

 四人が見た光景は、これまで誰も目にした事がないものであった。

 村には無数の鬼が働いていた。大きな袋を運ぶ鬼たち。首には縄が巻かれている。その縄は鬼同士の首をつないでいた。等間隔に並ぶ鬼たちは、ひたすら何かを運んでいる。

 人間の姿はどこにもなかった。

「いったいどうなっておるんじゃ……」

 栗次郎は思わずつぶやいた。山の草陰に隠れた栗次郎、ごん、つんと青八は、目の前で起こっていることが理解できないでいた。

「どうなっているんだ?」

 ごんも言った。頭の中がぐちゃぐちゃで、整理できていない。

 仲間が苦しそうにしている姿を見て、青八は言葉すら出ない。

「とりあえず、後を追ってみよう」

 つんも気になった。村で何が起きているのか。あれほど恐れていた人間がいない。こんなに嬉しいことはないが、青八が呆然としているのを見て、つんは複雑な気分だった。

 栗次郎たちは鬼の列についていった。向かっているのは、山の中。道をどんどん進んでいく。すると栗次郎とごんにとって、見覚えのある風景が広がった。

「まさか……」

 栗次郎とごんが顔を見合わせる。

 山の村外れ。山道の途中に開けた場所。鬼たちが目指しているのは、おじいとおばあの家だった。


 栗次郎は、裏口から家に入った。

 おじいとおばあは家にいない。

 いたのは桃太郎だった。桃太郎は痩せこけて、袋の山に埋もれていた。

 桃太郎は、栗次郎によく似た少年だった。

「一生この世から消えることがないのだ」

 桃太郎は、栗次郎に気づいて、そう言った。疲れている様子だ。

 鬼はただ桃太郎の指示に従って、大袋を運んでいるという。食べ物、金、銀、ごみまで袋に詰めさせては、担がせ、山を行ったり来たりさせていた。

 無意味なことだった。

 何の理由もない。

 ただ鬼を疲れさせ、何も考えさせない。

 桃太郎は言う。

「村人たちをひとり残さず殺した。このわしと、鬼たちで。わしも鬼も人間が憎かった。力のある者に対して、冷たい態度を取る。しかし、必要なときだけは、頼りにして、利用する。そんな、わしらを道具扱いするような奴らなんて、死んだほうがましなのだ」

 では、今この状況は何のためなのか。栗次郎は理解した。

「罪だと思っておるのじゃろう。人を殺した罰として、やっても無駄なことをくり返しておるのじゃろう」

「ちがうっ!」

 桃太郎が立ち上がった。栗次郎は、桃太郎の言い訳を制する。

「わしにはわかるのじゃ。桃太郎やい。桃太郎の気持ち、よぉくわかる。わしも人間でない。桃太郎と同じ、おかしな存在なのじゃ。生まれてきたのが間違いじゃった。出来れば、人間としてこの世に生まれたかったのじゃが、わしらには、どうも決められまい」

「うるさい……うるさいぞっ」

 桃太郎は、栗次郎をにらむ。桃太郎の目尻にしわができる。

「生まれてきたのが間違いだと? そんなはずがない。ならば、なぜわしは今、ここにいる? なぜここに立っていられる? なぜこうして栗次郎と話していられる? なぜ……」

 そこまで言うと、桃太郎は力なくその場にへたり込んだ。

「わからん。わからんから、間違いなのじゃ」

 栗次郎は、桃太郎の肩を抱く。

「もう少し、共にいたかったのう」


 我々は、なぜ生まれた? ――――我々が、間違いを犯したからだ。

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