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四人が見た光景は、これまで誰も目にした事がないものであった。
村には無数の鬼が働いていた。大きな袋を運ぶ鬼たち。首には縄が巻かれている。その縄は鬼同士の首をつないでいた。等間隔に並ぶ鬼たちは、ひたすら何かを運んでいる。
人間の姿はどこにもなかった。
「いったいどうなっておるんじゃ……」
栗次郎は思わずつぶやいた。山の草陰に隠れた栗次郎、ごん、つんと青八は、目の前で起こっていることが理解できないでいた。
「どうなっているんだ?」
ごんも言った。頭の中がぐちゃぐちゃで、整理できていない。
仲間が苦しそうにしている姿を見て、青八は言葉すら出ない。
「とりあえず、後を追ってみよう」
つんも気になった。村で何が起きているのか。あれほど恐れていた人間がいない。こんなに嬉しいことはないが、青八が呆然としているのを見て、つんは複雑な気分だった。
栗次郎たちは鬼の列についていった。向かっているのは、山の中。道をどんどん進んでいく。すると栗次郎とごんにとって、見覚えのある風景が広がった。
「まさか……」
栗次郎とごんが顔を見合わせる。
山の村外れ。山道の途中に開けた場所。鬼たちが目指しているのは、おじいとおばあの家だった。
栗次郎は、裏口から家に入った。
おじいとおばあは家にいない。
いたのは桃太郎だった。桃太郎は痩せこけて、袋の山に埋もれていた。
桃太郎は、栗次郎によく似た少年だった。
「一生この世から消えることがないのだ」
桃太郎は、栗次郎に気づいて、そう言った。疲れている様子だ。
鬼はただ桃太郎の指示に従って、大袋を運んでいるという。食べ物、金、銀、ごみまで袋に詰めさせては、担がせ、山を行ったり来たりさせていた。
無意味なことだった。
何の理由もない。
ただ鬼を疲れさせ、何も考えさせない。
桃太郎は言う。
「村人たちをひとり残さず殺した。このわしと、鬼たちで。わしも鬼も人間が憎かった。力のある者に対して、冷たい態度を取る。しかし、必要なときだけは、頼りにして、利用する。そんな、わしらを道具扱いするような奴らなんて、死んだほうがましなのだ」
では、今この状況は何のためなのか。栗次郎は理解した。
「罪だと思っておるのじゃろう。人を殺した罰として、やっても無駄なことをくり返しておるのじゃろう」
「ちがうっ!」
桃太郎が立ち上がった。栗次郎は、桃太郎の言い訳を制する。
「わしにはわかるのじゃ。桃太郎やい。桃太郎の気持ち、よぉくわかる。わしも人間でない。桃太郎と同じ、おかしな存在なのじゃ。生まれてきたのが間違いじゃった。出来れば、人間としてこの世に生まれたかったのじゃが、わしらには、どうも決められまい」
「うるさい……うるさいぞっ」
桃太郎は、栗次郎をにらむ。桃太郎の目尻にしわができる。
「生まれてきたのが間違いだと? そんなはずがない。ならば、なぜわしは今、ここにいる? なぜここに立っていられる? なぜこうして栗次郎と話していられる? なぜ……」
そこまで言うと、桃太郎は力なくその場にへたり込んだ。
「わからん。わからんから、間違いなのじゃ」
栗次郎は、桃太郎の肩を抱く。
「もう少し、共にいたかったのう」
我々は、なぜ生まれた? ――――我々が、間違いを犯したからだ。