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図書館

作者: ちーたん


 32度。眩むほどの暑さに見舞われた。天気予報では熱中症に注意だとか。

 8月の上旬、周りの緑が一層濃くなってまさしく真夏日だった。





「んー。これにしようかな」


 目の前の本棚から本をとりだして裏面のあらすじにかるく目を通す。 


 私は春ごろから図書館に通うようになった。きっかけはテスト週間だった。

 館内は涼しく、静かで課題がよく捗るのである。好きな小説も借りれて一石二鳥というやつで。


 本から図書カードを抜き取り名前を記入していく。あとは番号をかいてーー……


「あっ」


 机を滑り床に図書カードが落ちた。

 拾おうと腰を屈めかけたら綺麗な白い手が伸びてきた。


「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 咄嗟に頭を下げて一礼してチラリと相手を伺う。私よりはるかに高い身長に細身の体。恐ろしく整った顔つき。見た目は大学生、真相は不明。でも、思わず見とれてしまうほどに美しかった。



 ……私が図書館に通うもう一つの目的だったり。


「相変わらずですね」

「うっ……すみません……」


 相変わらずと言われてしまうのも無理はない。彼は大体私が図書館に訪れる数分後に現れるのだが彼が偶然通りかかるたび私は何かと失態をおかす。


「では」

「あ、はい」



 彼は図書館の常連さんだ。初めて会ったのは3回目に図書館を訪れた日だった。関わったきっかけは私が本棚から本を数冊落としてしまった時。 


『…………』

『ありがとう……ございます……』



 何も喋らずに拾って私に渡して去っていった。第一印象は無愛想。あんまりいい印象ではなかった。


 でも……私の恥ずかしさ極まりない失態のおかげで縁ができたわけで。話してしまったことでにやけてしまう顔を本で隠しながらイスに腰掛けた。


 名前は知らない、歳も、なにも。

 でもなんだか気になる人。







ーーーーーーーーーーーーー 

ーーーーーーーー


 それからしばらくたって夏休みの半ば。予定が立て込んでいて、図書館に行くのは随分と久しぶりだった。


 ぼんやりと空を見上げていたら図書館の前に着いていた。イヤホンを耳から抜いて正面を見据える。


「……あ」



 ぱちぱち。

 瞬きをしてみれば目の前には図書館の常連のお兄さんが入り口の横に立っている。どうしたんだろう。会釈をしながら通り過ぎようとしたら声をかけられた。


「久しぶりですね」

「そう、ですね」

「…………」

「…………」


 き、気まずい。なにか言ったほうがいいのかな。あ、でも緊張しちゃってなにもうかばない……。ほっぺた熱くなってきた……なあ。


 途端ーー。

 熱かった頬に冷たい感触。



「え、」

「……顔が見れてよかったです。では」


 お兄さんは表情を変えることもなく私にペットボトルのジュースを頬から手へと持ってこさせると踵を返した。


 歩きだしたお兄さんの背中を見ていたら咄嗟に手が伸びていた。

 勢いで掴んでしまった服の裾、お兄さんも私も動かないまま。空気がゆっくり動いてて口が開かない。でも言わなきゃ。



「あっあの、名前! 教えてくださ……い」


 搾り出すように俯きながら小さい声でお兄さんにむけて言葉をつむぐ。反応がなくて、おそるおそる見上げてみれば鳥肌がたってしまいそうなくらい綺麗に微笑んでいた。



「東雲ーー、東雲優人」






 私の夏はまだ始まったばかりだ。




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