第二話!~先生と記者と平手打ち~
壇上に現れた人物を見た時驚いたが、それと同時にその人物の〝話し方〟にも驚いていた。
壇上の男性―――ウォルツ―――の話し方は、自分が知っているどのスピーチとも違った。
身振り手振りを加えそして生徒一人一人の目を見ながら、聞き取りやすい速度でかつ力強く話していく。
さらに時折こちらに問いかけながら〝聞いている者を飽きさせない〟見えない工夫も感じられる。
奏音が〝有名だ〟と言った理由がなんとなく分かった気がした。
その奏音は、すっかりウォルツの話しに惹きこまれ瞬き一つせずその話に耳を傾けている。
そして大成もその話に知らず知らずのうちに惹きこまれていった。
今は簡単な挨拶が終わり、〝ケモビト〟と〝ヒト〟を取り巻く環境の話へと移っていた。
「〝ケモビト〟と〝ヒト〟これらはこの世界に共存しながら何故互いに受け入れる事が出来ないのか、考えた事はあるかな?」
何故……。
大成にとってそれは、意識的に避けていた問題だった。
けれど何時かは、直面する時がやってくるのだろう。
ただ今は、その事はあまり考えたくなかった。
「そもそも〝ケモビト〟と〝ヒト〟この両者にどれほどの違いがあるというのだろうね? 身体能力が違う? 能力を使う時には耳や尻尾が発現する? しかし左右にいるこれから学友になるであろう〝ヒト〟の顔や容姿を見てみたまえ。何処が違うのだろうか?」
〝ケモビト〟と〝ヒト〟の違いはやはりその身体能力だろう。
中には素手で〝ヒト〟を殺める事が出来てしまう〝ケモビト〟だっている。
でも……。
大成は左側に座っている生徒の顔を見やる。
横に座っていたのは、ブラウンのショートヘアーの女子生徒だった。
それを見た後、大成は振り返って奏音を見る。
奏音はブラウンの長い髪を頭の左右でまとめるツインテールヘアー。
しかし髪形が違うだけで、別に左側の女子生徒となんら変わりは無い。
確かに、何処も変わりは無い。
「そう、同じだろう。しかし重要なのはここからでね。〝ヒト〟も〝ケモビト〟も互いに内面を知ると態度がころっと変わってしまう。それは一種の防衛本能というか集団心理という物なのか……それははっきりとは分からない。しかし、分からないからこそ互いによく知ることも必要だろう」
〝ヒト〟か〝ケモビト〟かで二分するのは簡単だ。
〝ヒト〟はアレは〝ケモビト〟だ。化け物だと。
危険だから、危ないから、避けよう、話しかけないようにしよう……。
逆に〝ケモビト〟も〝ヒト〟は自分たちを嫌っているのだと。
普通に接していてもどこか、避けているのだろうと。
もちろん大成には〝ケモビト〟側の意見しか分からない。
そう分からないのだ。
「その分からないという事をどうか疑問に思ってほしい。何故、どうして……その疑問を一つ一つじっくりと。君たちには充分時間はあるのだからね。〝ヒト〟と〝ケモビト〟が共存しているその意味。何故分かりあえないと思ってしまうのか。その答えはきっとそれぞれだろうが必ず出るはずだ」
分かりあえない…。
大成も少なからずそう思っている〝ケモビト〟の一人である。
そのきっかけはとある事件。
〝ヒト〟が苦手になったのもそのためである。
大成にとっては、それこそが分かりあえないと思う答えだった。
だがウォルツの言うように、考えたらまた違う答えが出るのだろうか。
それこそ〝分からない〟のだが。
「そしてその答えが出た時、この学園の〝ヒトとケモビトの融和と協調〟という理念に、目標に君たち自身がたどり着けたと胸を張って言えるのではないかな。少なくとも私は信じているよ。〝ヒト〟と〝ケモビト〟が手を取り合い共存できる世界が必ず来る事をね」
〝ヒト〟と〝ケモビト〟が手を取り合える世界……。
この後もウォルツは、様々な興味深い話を続けたが大成にはその台詞が妙に頭の中で響いて仕方がなかった。
「はぁ~~凄かったね。うわさ通りだったよ~」
式が終わり、自分たちの教室へと移動する。
既にもう何回目か分からないほど、繰り返されるこのフレーズ。
大成も確かに、ウォルツのスピーチ能力の高さそして雄弁家と言われる所以は分かったがそれを何回繰り返すつもりかこのカンガルー頭は。
「分かった分かった……だからもういい加減黙れって…」
「本当に分かってんのかなぁ? 大成ってあんまりこう言うスピーチとか聞く経験ないだろうしなぁ」
「ほぉ…じゃあお前はそんな経験が豊富だとでも?」
「こう見えても、あたし一回スピーチの賞貰ってるもんね~」
「……小学生の時だろそれ」
「い、いいじゃんかッ!」
小学校の時のスピーチの知識が、どれだけ今活かされてるのかなど分かりもしないが多分そんなに役だっていないはずだろう。
奏音は、ふくれっ面でブツブツ小言を言いながら先に歩いていってしまう。
大成は、それをあえて追いかけようとしなかった。
触らぬ神にたたりなしと言うではないか。
ああなっては、また言葉選びに失敗して怒りを買うよりは放っておくのが一番ベストだろう。
「女の子を怒らせちゃいけねぇだろ?」
「ん?」
「…よう」
「……あ、あぁ」
奏音の放置に徹していると恐らく先ほどのやり取りを見ていたのであろう一人の男子生徒に声をかけられた。
身長は大成よりも高く大体一七〇センチ後半ぐらい。
ブラウンのツンツンとした髪形で、瞳は鮮やかなスカイブルー。
体格も、程よく筋肉が付き中々がっちりとしている。
気さくに声をかけられたものの、彼は知人では無い。
まぁ、入学したてなのだから友人などいなくて当然なのだが。
「えーっと…」
「あ、俺寺島、寺島 正義っての。よろしく。
ちなみに正義ってのは正義って書いて正義な」
「お、おう…、なんだか分かりにくい自己紹介だけど…
俺は柴澄 大成……こちらこそよろしく」
「んで、怒らせちゃいけねぇだろ」
「……あいつの事言ってんのか?」
「そうそう」
正義は大成の右肩に腕を乗せて、もう片方の手で先を歩く奏音を指さした。
初対面で自己紹介をしたとはいえ、馴れ馴れしいなとも思ったが彼はこう言う性格なのだろう。
まぁ、いろんな人がいるという事だ。
「別にほっときゃいいの。今変に刺激すると蹴っ飛ばされるぞ?」
「いや、それでも怒らせたんなら謝るべきだろ」
「……その理屈は、まぁ間違っちゃいないけどさ」
「なら善は急げだろッ!」
「お、おいッ!」
正義はポンっと大成を押す。
しかし彼にとってポンでも大成にとってはその衝撃はドンッぐらい。
大成は、思いのほか強く押され体勢を崩しながら前のめりに転んでしまった。
「ってぇ……あのやろ……ん?」
大成は正義を振り返ろうと、顔を上げると丁度目の前に女子生徒の足がある事に気が付いた。
それに従ってゆっくり視線を上に移動させる。
「………大成……何か言う事は?」
「………奏音……スパッツは良い選択だと思う」
「いっぺん死ねッ!!」
「うごッ!!」
当時その場の近くにいた、生徒は後に「何かが砕ける音を聞いた」と証言している。
教室に着いた大成は、頭に大きなこぶを作っていた。
だが今思えば、奏音に頭を蹴り抜かれてよくもまぁこの程度で済んだと自分で自分の身体の強さを褒めてあげたかった。
もちろんであるが、新入生の中で最も早く保健室に厄介になった生徒である事は言うまでも無い。
クラスでは早くもグループが出来始めており、教室はそれなりにざわついていた。
ただの一人を除いては。
「…」
「……なぁって」
「……」
「……さっきのことなら謝るから…」
「つーん…」
奏音である。
いくら事故とはいえ、そりゃスカートの中を見られれば怒るのは仕方がない。
こうなっては、もはや犬だのカンガルーだのは言っていられない。
大成に残された道は唯一謝り続ける事だけだった。
「そりゃ、怒って当然だわなぁ……うんうん」
「……誰の所為だよ」
「俺の所為だってか?」
「むしろそれ以外に考えられるかッ!」
そして更に、正義だ。
奏音の事だけでも頭が痛いのに(蹴り抜かれても含む)全く悪びれる様子も無く大成の横で首を縦に振っている。
この時になって初めて、正義が一種のトラブルメーカーである事を確信した大成であった。
とはいえここまで、悪びれる様子も無くては怒るのも馬鹿らしく思えてくる。
大成は大きく息を吐くと、机に突っ伏した。
その時、ガラッと教室の戸が開く。
そして入ってきた人物を皆が確認するとさっきまでの喧騒が収まり一斉に自分の席へと急ぐ。
いわゆる〝担任の先生入場〟である。
入ってきたのは二人、一人はふわっとしたセミロングヘアーの小柄でおっとりとした瞳にメガネをかけている。
いかにも新人教師といった感じの女性だ。
服装もそれほどピシッとしてはおらず明るめのシャツにロングスカート、そしてその上から軽くセーターを羽織る比較的カジュアルな服装。
もう一人も、女性だったが、こちらは真逆で長いつやのある銀色の髪をポニーテールで束ねカーキー色のスーツに身を包み、目つきも鋭かった。
そして手には何やら多き目のファイルを持っている。
どちらかが担任でどちらかが副担任という事は理解できるが、余りにも……。
そう、真逆すぎるだろうこの二人は。
新人教師風の女性は、教壇に出席簿を置くとコホンっと一つ咳払いをしてから口を開いた。
「…め……て……が……たんに……の………」
小っさ!?
なんて言っているのか全く聞こえない。
犬の〝ケモビト〟なので耳は良いはずなのだが全くと言っていいほど聞き取れなかった。
更に教室のほぼ真ん中の席の大成がこれでは、恐らく一番後ろの席の生徒になんて声どころかただ無言で立っているようにしか見えていないだろう。
そこへ、今度は目つきの鋭い教師がゆっくりと近づいた。
その先生が何をするのかと、その行動に注目が集まる。
そして新人教師同様、んんッと喉を鳴らし……。
スッパーーンッ!!
「ふぎゅッ!?」
「声が小さいですよ」
「えぇぇ~、だからって叩かなくても…」
「出るなら出してください…生徒も困惑しています」
その大きな原因があなただとは間違っても言える雰囲気では無い。
そして更にその先生の行動は終わらない。
その先生はダンッと教壇に凶器を叩きつけると大成達生徒に向かって言い放つ。
「いいか、さっき声が小さかったのは別に藤木先生が嫌がらせで行ったわけではない!
藤木先生は、人見知りで初対面の生徒が苦手なだけだッ!!」
「あの、あの……わざわざそんな事まで~」
「別に変な事を言うつもりは…。
フォローしますので、大丈夫です。もう少しだけお待ちください」
「ふぉ、フォローになってないんですよ!」
「大丈夫です、ちゃんと場を和ませますから」
「もうすべての言葉づかいを辞書で調べてきてください!」
「む、あ、ちょっとッ!?」
藤木先生と呼ばれた女性が、スーツの女性を強引に壇上から引きずり下ろすとそのままの勢いで、その先生を廊下へ押し出した。
その時のドアの動きに擬音を付けるなら、ガラピシャンッ!!が妥当なところだろう。
そして改めて、藤木先生が自己紹介を始めた。
「……はぁはぁ……はぁ皆さん、私が一年間担任を務めます、藤木 泉と申します。……はぁッ……よろしくお願いしますね……」
多分この人の事を自分たちは一生忘れないだろうと思えるほど印象に残った自己紹介だった。
「ちなみに、私は狐薊 冬子。お前たちの副担任を務める。分からない事があればまず私に聞け。変な質問や細かい事で藤木先生を困らせるなよ?」
あんたがそれを言ってしまうか。
いきなり廊下に面した窓が開きそこから自己紹介をする冬子。
どうやら、ドアは藤木先生があの素早い動きの中でしっかり内側から鍵をかけていたらしい。
息をようやく落ち着けた泉も、もうあえてそこには触れず、冬子の自己紹介に補足説明をさらっと付け加えた。
「狐薊先生は、〝狐のケモビト〟として主にケモビト側の立場から色々アドバイスや相談などをしてくれますので、そちらも有効に活用してくださいね。あ、私は〝ヒト〟ですけど別に私に相談しに来てくれてもそれはそれで構いませんから」
〝ケモビト〟の副担任と〝ヒト〟の担任教師。
或いは逆の立場という事はあるが基本的に〝ケモガク〟では一クラスに対してこう言う布陣で教師を配置するのが普通である。
それは、この学園が獣人共学であるための当然の措置で、ヒト〟と〝ケモビト〟双方の視点からの考えや意見を授業に反映し多面的に〝ヒト〟と〝ケモビト〟の問題や関係などを捉え考えるためなのはもちろん、仮に〝ケモビト〟の生徒が暴れ出した時などにはその〝ケモビト〟の教師が取り押さえるなど〝ヒト〟に対しての安全面への配慮という側面もある。
「さて、それでは今日は特に授業はありませんので、軽い諸連絡だけしておく事にしましょう」
そう言って泉は、キョロキョロと辺りを見渡す。
そして廊下の方を向いた時に、大きなため息を吐いた。
そこには諸連絡に必要な書類が入ったファイルをなぜか自慢げに掲げる冬子の姿があったからだ。
冬子を教室の中へ(渋々)入れ、ファイルを受け取ると、そのファイルをパラパラとめくり学園についての設備や諸々主要な場所の説明などがあった。
そして最後にこんな説明があった。
「それと、皆さんにはまだ少し時間がありますが何か部活動をしたいと思われている方も多いと思います。もし何か部活動で気になる事があるという生徒は一度私の所へ来てくださいね、その部とコンタクトを取ってあげますから」
「ケモビト共、特に運動系への部活動を望む者は、私の所にに来い。いくら共学と言っても、身体能力で勝る〝ケモビト〟が〝ヒト〟とガチでやりあったら怪我じゃすまん事もある。〝ケモビト〟は〝ケモビト〟で一括別口管理だ。分かったな」
一応そう言う所はしっかりと、分けられているようだ。
まぁ、確かに変な事故でも起きないとは限らない。
事故が起きる可能性はゼロになならないがゼロに近づけることはできる、と、そう言う事だろう。
「それじゃあ、私からはこのぐらいですね。狐薊先生の方から他に何かありますか?」
「いえ、注意事項は特に。あ、そうだ。配るのが面倒だから教卓に先ほどの連絡事項が書かれた配布物を置いておく。後で各人一枚づつ持ちかえるように」
「では、このあたりで。あ、また後日委員会なども順次決めていきますので考えておいてくださいね。それでは今日はここまでッ!」
礼が終わり、二人が教室を後にする。
強烈な担任と副担任が消え、再び以前の喧騒を取り戻していった。
「……はぁ……なんか疲れた…。た~いせ~い……プリント取ってきて~」
「はぁッ!? なんで俺がお前の分まで――――」
「……スカート」
「……分かりました…」
「もう、許してあげるんだから気をつけなさいよね」
「はいはい…そりゃどうも」
「何?」
「な、何でもないですッ」
大成は足早に自分の席を後にすると、教卓におかれたプリントを二枚取り戻ろうとすると不意に遠目から声をかけられる。
「お、大成俺のも」
「お前も? 分かったよ……」
正義の見計らった様な申し出に鼻を鳴らしつつプリントを三枚取って自分の席に戻る。
そして一枚を奏音に、そしてもう一枚を少し離れたところに座る正義に届けた。
「おぉ、サンキュー」
「自分で取りに行けよ」
「いいじゃねぇか、ついでついで」
「そりゃそうだけどさ…」
「あ、ねぇ大成、その人誰?」
「ん?」
てっきり疲れたとか言っていたから座ってるのかと思っていた奏音が気付けばすぐ横にいて正義を興味深そうに見やっていた。
そう言えば、紹介してなかったなと思い大成は奏音に向き直る。
「コイツは、寺島 正義。丁度あのお前に踏みぬかれた時に廊下で出会ったんだよ」
「あぁ、あの時ね」
「おぅ、よろしく」
「ってか、まぁアレもコイツの所為なんだがな…」
「おいおい、だから他人の所為にすんなって。経緯はどうあれスカートん中見たのはお前だろ?」
「そう言う事を大っぴらに口にしてんじゃねぇッ!!」
「……なんで、怒ってんの大成?」
なんで奏音がキョトンとした顔で聞いてくるのか凄く不思議。
さっきまでツーンとして、自分の頭まで踏み抜いたくせに…
大成は、いい加減頭痛がして来たのを我慢しながら奏音に問うた。
「お前、俺の頭踏みぬいてキレてなかったか?」
「何言ってるのさ。女の子の中にも恥ずかしがらない子だっているんだよ」
「じゃあ、なんで俺は?」
「一応、あそこで怒っておかないと、周囲から見たあたしの女の子株が下がりそうだったから」
「俺の中では大暴落だよ!」
むしろ、世界恐慌も真っ青な勢いで今も絶賛降下中だった。
もー嫌だ、幼馴染と初めてできた友人がこれとはあんまりじゃなかろうか…。
「クシシッ……暴落か知らないけどスカートの中見たのは穏やかじゃないよね?」
「ん……っておわッ!?」
び、びっくりした……。
奏音の登場にも驚いたが、今回の方がもっと驚いただろう。
なぜなら声がした方を振り返ると、すぐ真後ろに女子の顔があったからだ。
グレーで短めのサイドポニーの少し小柄なその女子生徒。
ぱっと見可愛いが、ただ一つ。
目の周りの黒い〝クマ〟がその容姿の全てを駄目にしている。
なんとも残念な子だ。
「そんなに驚かなくてもね、良いのにね」
「だ、誰だっていきなり気配も無く現れたら驚くだろ………で、誰だよお前…」
「クシシッ、話題をね、反らしたよね……まぁ良いけど。私はエルカ・ブランドルこう見えてもね、ハイエナの〝ケモビト〟なんだよね」
いや、逆にそれで何となく納得した自分がいる。
むしろ〝ヒト〟だったらその〝クマ〟は病気だろうから。
エルカは自己紹介を軽く済ませるや、再び先ほどの話題に興味心身で首を突っ込んできた。
「で、何なのかな? さっきのスカートのね、中覗いたって言うのはね。柴澄君」
「その話に結局戻るのか……って、あれ、お前に自己紹介したか?」
「クシシッ、何事もね今は情報だよ情報。君が柴澄 大成、んでもってそっちの被害者が沢井 奏音で、そこのトゲ頭が寺島 正義だよね?」
一人一人指をさしながら名前を当てていくエルカに、驚きの顔を浮かべる一同。
更にエルカは、その奥の情報まで当てて見せた。
「それとね、柴澄君が〝柴犬〟沢井さんが〝カンガルー〟んでもって寺島君が〝シェパード〟だよね」
「「「なッ!?」」」
ほ、ほんとに何だこの子は。
名前だけでなく、何のケモビトかまで当ててしまうとは。
それにだ……。
「ってか、あんた〝ケモビト〟だったの?」
「あれ、言ってなかったか?」
「俺も聞いてないが……」
「あ、そうか悪ぃ悪ぃ」
「駄目だよね、友人同士でしっかりと情報は共有しないとね。そういう極めてローカルな情報がえてして重要になる時もあるんだからね、クシシッ」
「ってかさ、お前情報情報って言うけど一体どっからそう言う情報持ってくんだ?」
正義が、怪訝そうな顔でエルカに尋ねる。
確かに、そう言うのは個人情報なんじゃなかろうか。
その問いに、エルカは不気味にクシシッと笑う。
「クシシシ……知りたい? ほんとぉ~に知りたいぃ?」
その声が余りに低く、不気味で更に目の周りの〝クマ〟がその印象を更に強くする。
その空気に耐えかねた、大成は正義の小脇を突っついた。
「おい、今すぐさっきの質問を取り消せ」
「なんか、知っちゃいけない気がするんだ……あたし達」
「そ、そうだ……な……わ、悪いブランドル……忘れてくれ…」
「なぁんだ、残念だね……クシシ。まぁぶっちゃけちゃうとね、中学から新聞部にいて情報なんて集め慣れちゃっててね。その流れでちょちょ~っと……ね」
ちょちょ~とやって個人情報が漏れるなら、今日本は大変な事になっていると思う。
「クシシ、まぁそう言う事。あ、そうだ…クシシッちょっと失礼するね」
エルカは特徴的に笑うと、何処からともなくデジカメを構えて有無を言わさず一回シャッターを切った。
「クシシッ、とりあえずね。写真は貰ったから情報は後で集めるからね……今回は勘弁してあげるね」
「何勝手に撮ってんだよ!?」
「そう言うあんた……手……」
「え?あッ」
しまったついカメラを向けられて反射的にダブルピースをッ!?
「大成……おまえ見かけによらずおもしれぇな」
「ち、違ッこれはその……」
「ついでにアヘ顔もやる?」
「女の子がそれを言っちゃだめッ!!」
全く、カオスだ……初日からこんな事になるとは―――――ん?
頭を抱え奏音達から顔をそらした大成の目に、一人の少女が写る。
綺麗なブロンドの髪にサファイアの澄んだ瞳。
ロングスカートに改造された制服も相まってその姿はさながら人形の様であった。
見ると机の上には、配布物が無造作に置かれ、表情は不機嫌そのものと言った感じだ。
すると、突然換気のために開けられた窓から吹き込んだ風がその少女の配布物をさらう。
「あッ」
少女は短く言葉を放つと、慌てて飛んだ配布物を追った。
そして配布物は、ゆらりゆらりと宙を舞いながらやがて大成の足もとへと舞い降りた。
「あ……」
大成がそのプリントを拾い上げるとまたも短く少女は声を発する。
大成としばしの間、見合った少女だったが大成に近づくとバッといきなりその手からプリントをもぎ取った。
「なッ!?」
思わず声を上げる大成。
その声に少女は、不機嫌そうに鼻を鳴らし礼も言わずに踵を返す。
流石の大成も、こんな事をされて黙っていられるほど〝ケモビト〟出来てはいない。
「おいッ」
「………」
大成は語気を強め、少女を呼ぶが無視してズンズンと歩いていってしまう。
目に余るふざけた行為に加え無視までされた大成に、もはや冷静に話し合いうという選択肢は無い。
「おい、待てってッ!!」
「―――――ッ!!」
大成が少女を捕まえようと腕を取った瞬間だった。
パッシィーーーンッ!!
頬に感じる鋭い痛みに大成が、そしてその音にクラスが静まり返る。
もちろん間近で見ていた奏音や正義は何が起こったのか分からず目を見開き、ただ一人情報に詳しいエルカだけが、その様子を静観していた。
頬を打った少女は、大成をまるで怨恨の相手の様に睨む。
そもそも、何故プリントを拾ってやっただけで叩かれなければならないのか。
当然なん奥の出来ない大成もまた少女を睨み返す。
「……お前」
「……あなた……」
「なんだってッ」
「お黙りなさいッ!」
「ッ!?」
少女はピシャリと言うと、大成の手を振りほどくともう一度低い声で大成に話しかけた。
「あなた、失礼ながら先ほどのお話聞かせていただきましたわ」
「さっきの?」
「えぇ……あなた、ケモビトなのですってね」
「……だったら、なんだって――――――!?」
少女は返す刀で今度は手の甲で大成の反対側の頬を思い切り叩いた。
手は、当然だが甲の方が固い。
一発目よりも威力の増した平手打ちに、大成はバランスを崩し近くの机を道連れに倒れてしまった。
そんな大成を、少女は蔑んだ目で見ると吐き捨てるように叫んだ。
「触らないでいただけますかしら!? 私はっきり申し上げましてケモビトは大嫌いですの!」
亀子ペースって本当にそっぽ向かれるんですね(爆w
色々と忙しくて第二話が遅れに遅れてしまいました。。
個人的に〝狐薊先生〟がマイフェイバリットキャラクターです。
内容を読んでいただければ、(特にこの輪ではウォルツの演説部分ですが)分かることなのですがこの物語は一種の人種差別の様な事をストーリーの根底に添えて描いていくつもりです。
ケモビトは優れているから、ヒトは逆に優れた種に対する危惧や畏敬の念などから互いに見えない所で対立していると言った構図ですね。
ただそこまで重たい話にするつもりもないのですが…
それにこれからの展開もさほどシリアスでもありませんしね(汗
中々個人的に難しいテーマですが、何事も挑戦です。
頑張っていくのでよろしくお願いしますね。