~プロローグ~
西暦2100年代。
いわゆるケモビトという人種の始まりは、一人のヒトだったらしい。
でもそのヒトは、人間と呼ぶにはあまりに異様であった。
手足や身長などは、平均的な人間のそれだったのだが、異様だったのは頭部に生えた動物の様な耳そして尻尾だった。
その当時でも、萌え要素として定着していたネコミミや尻尾の類。
だがそれはあくまでアニメやラノベ、コスプレの世界だった。
しかしその人間には、確かにあったのだ。
頭部に生えたまるで犬の様なピンっと立った耳とふさふさの尻尾が。
その当時の人々は、地球外生命体だの未知との遭遇だのと騒ぎ立てその〝始まりの種〟を捕え、さまざまな検査や調査を行った。
そして研究者達が発見したのは、その〝始まりの種〟が持つ高い身体能力とそしてまるで獣その物の様な嗅覚や聴覚を有していたという事だった。
身体調査と共に進められたのが、後に全世界へと急速にこの種が広まる要因を作ったと言われる人工交配だった。
最初は、このすぐれた種を後世に残さねばならないという研究学的見地から、それが次第に民間にも広がって言ったのだ。
ヒトは、より優れたヒトを望む。
他よりも優れたものになりたいという一種の欲が、その〝種〟を世界にばらまいていったのだ。
そして〝始まりの種〟の発見そして世界への急速な広がり……それらが始まった2100年から時は過ぎゆき西暦2301年……。
発見から二世紀もの長い年月を経た世界でいつしかその種はこう呼ばれるようになっていた。
ヒトでありながらケモノである存在。
―――――――――――――ケモビトと――――――――――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
朝日まぶしく、降り注ぐマンションの一室。
そこで、布団にくるまって眠りこける一人の少年が居た。
めざましは疾うに鳴り終え、眠りこけるこの部屋の主にたたき落とされている。
もう彼を起こせるものは誰一人として――――――――。
「このバカたれがぁッ!!!」
「うぉぅッ!?」
……いた。
一人の少女が乱入し、その少年の布団を引っぺがしたのだ。
「お、おまッ!?」
「何回べル鳴らしたと思ってんのよッ!!」
「鍵閉まってただろ!?」
「だから親切丁寧に大家さんに鍵借りたわよッ さぁ、起きなさい。あんた今日が何の日か分かって寝てたわけ?」
「……よかった、蹴破ってなくて」
「なんですってーッ」
「うごッ!!」
少女は、器用に片手でくるくると掛け布団を丸めて未だ目のさめきらない少年に投げつける。
フンっと鼻を鳴らして腰に手を当てる少女。彼女はこの布団を投げられて、起きたそばから彼を若干のノックアウト状態に陥れた幼馴染――沢井 奏音。
ちなみに先ほど少年が、蹴破らなくてと安堵したのは彼女がカンガルーをベースに持つケモビトだからだ。
カンガルーの脚力は大型種になれば80kg以上ある身体を、跳躍によって時速70kmという速度にまで持って行く。
ヒトが食らえば真面目に内臓破裂である。
そんな脚力を奏音は、受け継いでいるのだ。
実際奏音はこの少年の玄関の扉を幾度となく蹴り抜いている。
そして布団を投げられたこの少年は、柴澄 大成。
この世界では、あまり珍しくはない犬をベースに持つケモビトで、細かく分けると名字の通り柴犬である。
好きな物は甘いもの全般。
能力はごくごく普通に、嗅覚聴覚が優れている程度の一般的な犬のケモビトだ。
「だ、大体お前不法侵入だろ!」
「何が不法侵入よッ! 起こしに来てあげてるんだからありがたく思いなさいッ!」
そう奏音は大成にとって目覚まし代わりの様な存在でもある。
大成は、色々訳あって今、一人暮らしをしている。
そのため、寝坊しないように一応めざましはセットするのだが、結果は先ほどの通り……。
だがなんにせよ、起こしに来てくれるのはありがたい。
……まぁ少々手荒いのは、なんとかならないものかと思うが。
「とにかくッ!! ほらとっとと着替えなさい! あんた今日入学式でしょう!!」
「お前は俺の親かッ!? ってか今日入学式なのお前も一緒だろ」
「いいから着替えろ~~~~ッ」
「分かった分かったから、とりあえず部屋から出てけッ」
大成は奏音を、無理やり部屋から追い出して鍵を閉める。
ひとまず嵐が去り、安堵しながら滅茶苦茶になった布団を直しつつ大成は着替え始める。
奏音が言ったように、彼は今日高校の入学式を迎える。
クローゼットを開けると、そこには色々私服に混ざって真新しい紺を基調とした制服が顔をのぞかせていた。
大成は、制服を取りだすとそれを椅子に一旦掛けて寝巻を無造作に脱ぐ。
そしてパリッとアイロンのかけられたカッターシャツに袖を通し、エンジ色のネクタイを締めその上から紺色にエンジ色の縁どりのされた裾丈の少し長いブレザーを着る。
最後にスラックスを履きベルトを締めて着替えは終了だ。
ちなみに女子制服は、基本的な色合いは変わらずスラックスがスカートになる程度の変化で奏音がその格好であった。
「終わった?」
「あぁ、今行く」
大成はタイミング良く掛けられた声に、短く返して鍵を開けて部屋を飛び出す。
もちろん鞄は忘れていない。
大成はリビングに掛けられたいた時計をちらりと見やる。
「うわ、本当にヤバイな…」
「だから言ったでしょうが……全く」
「とりあえず急ごうぜ」
「誰のせいよ」
大成は奏音を急かしてバターロール二つをこれまた器用にくわえて、下駄箱の上にあった封筒をバッと取って家を後にする。
それは入学案内の封筒で、そこには大成が入学する学校の名前が記されていた。
私立嵩観獣人学園。
ヒトとケモビト共学という意味の獣・人だが一般的に獣と学をもじって〝ケモガク〟と呼ばれている。
大成の家から一番近い高校にして、この地区唯一の学術機関だ。
大成はそこに今日入学する。
〝共学〟という言葉に少し不安と若干の戸惑いを覚えながら……
―――――――――――――柴澄 大成の波乱の日常が幕を開けた。――――――――――
さてプロローグを終えて。
中々オリジナル小説というのは難しいですね。
二次創作だとヒントを原作から得られるのですがね(汗w
それでは、次回から第一話です。
よろしくお願いします。