『ジャンル詐欺』と『入口詐欺』
見つけてくれてありがとうございます。
読んでくださっている皆様に、心からの愛をこめて。
はじめまして。
姫松チミノと申します。(注1)
思うところあって、今回、生まれて初めて小説を書いてみましたの。
どうせ書くなら、読んでくれる人がたくさんいる場所で。
どうせ書くなら、一番人気があるジャンルで。
そんな浅慮から、『異世界恋愛』というフレームがすんなりと決まりましたわ。
ナーロッパ世界。
虐げられ令嬢。
スパダリからの溺愛。
悪役令嬢にざまぁする。
ハッピーエンド。
構想は、完璧です。
「これを投稿したら、無茶苦茶バズっちゃうかも……初投稿で書籍化? いやぁ、まだ心の準備が……えへへ……」
そんな妄想は、すぐに消し飛びました。
なんですの?
小説を書くって、こんなに、こんなに……難しいんですの?
視点?
伏線?
冒頭で死体を転がせ?(注2)
執筆って……物騒ですわね!
「こんなはずでは」
全然、思い通りにならない世界。
へし折れていく野心。
くじけそうな心。
「投稿者の皆様、心から尊敬しますわ」
そうして四苦八苦して書き上げた、人生初の小説。
推敲。
再読。
改稿。
そこにあるのは、調子外れのホンキートンクピアノのような物語。
「……これを『異世界恋愛』と呼んでいいのかしら?」
ナーロッパ世界。
虐げられ令嬢。
スパダリからの溺愛。
悪役令嬢にざまぁする。
ハッピーエンド。
初期設定はそのまま生きていますわ。
それは間違いありません。
間違いないのだけれど。
ああ!
完成した小説には、『異世界恋愛』としての節度が、節義がなかったんですの。
チンケな作者エゴをコントロールできないまま、走り抜けてしまったのですわ。
冒頭に死体も転がっていませんし!
『これ』をどうしたらいいのでしょう。
物語の構造は完全に『異世界恋愛』なのです。
これを、それ以外のジャンルに設定して投稿したら、『ジャンル詐欺』になってしまいますわ。
「だけど、これ。中身は、『文芸/ヒューマンドラマ』とかなのではないの?」
……他のジャンルを選びたい。
でも、やっぱり、どこからどう見ても、『異世界恋愛』なんですの。
構造は。
ええい。
もともと『異世界恋愛』を投稿するつもりだったのではないの?
吾 ことにおいて後悔せず!!(注3)
決意して。
なろうの設定画面に遷移します。
ドキドキ。
こういうふうになってるんですのね!
予約投稿機能?
初心者には無用の長物ですわね!
質問板を読んで勉強したから、詳しいのです。
なろう耳年増。
ジャンル設定――完了。
タイトル、あらすじも、『異世界恋愛』に相応しい『スタイル』で。
一生懸命、考えましたわ!
タイトル。
「屋根裏で搾取されていた令嬢は、天才刺繍師でした」
作品の内容に、合ってますわ。
虐げられ令嬢は基本中の基本。
職能で下剋上するドラマって、人気なんですのよ。
「スパダリ富豪に買われて人生大逆転の私を」
うんうん。
その通りの展開ですわね。
みなさん、こういうのお好きなんでしょう?
私も大好きですわ!
「毒家族が連れ戻そうとするけどもう遅い」
完、璧。
どんなキャラクターが登場する、どんなストーリーなのか。
一発でわかるタイトルとあらすじになった、と自負していますの。
さあ……みなさん……いいのよ……クリックしても!
私が許可しますわ!
人生初小説。
初投稿。
『投稿』ボタンを、震える指で、押下する。
行ってらっしゃい。
私の作品。
◇
笑っちゃうほど、読まれてませんわ!
『書籍化』とか言っていたのは、どこのどなた様かしら!?
読者様!
読者様はどこに目をおつけになっているの?
ここに……ここに、あるのよ!
魂を込めたマスターピースが!
オマエ達の目はフシ穴か!?(注4)
これはあくまで想像なのですが。
更新一覧リストとかで見つけてくださった読者様は、まず、どこから読むのでしょう。
おそらく、最新話をクリックして、中身をチラ見しているのではないか、と思うのです。
「これは自分の好みの作品かも」
「面白そうだな」
そう思っていただいたら、第1話を開いてくださる。
きっと、この順序です。
だって、エピソードごとのアクセス解析を見たら、最新話だけ突出して閲覧が多いんですもの。
そこで、私の作品ですが。
最新話をチラ見した読者様の『離脱率』、これがすさまじいんですの。
ほとんどの人は、第1話に行かずに離脱しています。
ほとんど、です。
ああっ! 行かないで! 私のアクセス解析、見に行かないで!
「これは、自分が読みたいものではない」
一見して、そう判断されているんですわ。
そりゃあそうですよね。
みなさん、『異世界恋愛』を読みたくて、検索して来てくれたのですから。
「美味しいラーメンが食べたい」と検索して来店したのに、実際の店では、なんか変なのを売っている。
きっと、そんな感じなのでしょう。
ごめんなさいね。
入り口はラーメン店風。
中身は全然違う、別のなにか。
券売機のメニューやお店の雰囲気、他のお客様が食べている料理を見て、Uターンするのは理の当然。
いま起こっているのは、きっと、そういうこと。
私だって、美味しいラーメン屋さんを始めたかった。
なんでこんなことになってしまったのかしら。
吾 ことにおいて後悔しまくり!
だけど、Uターンしないで、食券を買ってテーブルに座ってくれた、数少ないお客様。
この方たちは、ほとんど『完食』して帰って行かれるんですのよ。
「食べたいものとは違ったけど、まあこれはこれで」
とか思っていらっしゃるのかしら。
ありがてえ。
あなたたち、本当にいい人ですわ!
どーですか、ちくわぶも……。(注5)
この『ジャンルのズレ』『入り口のズレ』と言うのは、本当に怖いものですわ。
身をもって知りました。
恐ろしいのは、ラーメン店と思ってやって来た読者様を捕まえられないことではありませんの。
ラーメン以外のものを食べたい、と検索している読者様が、この作品にたどり着くための導線。
それは、いま、たぶん、ほぼ存在していない。
それが、恐ろしいのです。
自業自得ですけれど。
「今からでも、タイトルとあらすじを書き替えて、『文芸/ヒューマンドラマ』に変更したい……」
毎日、考えてしまいます。
いや、でも、作品の構造が……。
でも、ねえ。
これ、『文芸/ヒューマンドラマ』なんですの?
『文芸』って、なんですの?
『異世界恋愛』は『文芸』ではないの?
山本周五郎先生に、『小説家になろう』をお見せしたいですわ!(注6)
……そもそも論はよくありませんわね……議論をゼロベースに逆行させる迷惑行為ですわ。
よしましょう。
おお。
なんか、すごいスラスラと書けました。
ここまで1時間かからず、ですわ。
小説は、5,000文字のスピンオフ1本を書くのに6時間かかったのに。
ここまで読んでくださってありがとう。
せっかくなので、ひとつ、知見を得て帰ってくださいな。
私が、血と汗と涙で得た取り返しのつかない学びを、おすそ分けいたしますわ。
◇
レッスンワン。
どこにカテゴリしていいのか迷うようなものは、書くな。
レッスンツー。
ジャンルを決めたら、『そこ』の節度と節義に、徹底的に忠実になれ。
「書くな」
「なれ」
こういう、上から目線の、断定口調。
小さなスマホ画面で情報を得るユーザーを『三秒で刺す』ための、スキルですわ。
自己啓発書やビジネス書で覚えたテクニックですの。
真似をしても、よろしくてよ?
◇
『ジャンル詐欺』は怖い。
『入口詐欺』は恐ろしい。
私を他山の石としていただけたら、本望ですわ。
それでは全世界の皆様、ごきげんよう。
※注1 お気に入りのお菓子屋さんの最寄り駅と、好きな映画監督の名前から作ったペンネームです。
※注2 これ、うまいことおっしゃるのね! あちこちで目にするのですが……言い出しっぺは誰なんですの?
※注3 出典:『空手バカ一代』
※注4 出典:『え!? 絵が下手なのに漫画家に?』
※注5 出典:『グラップラー刃牙』
※注6 山本周五郎先生、70年も前に、商業小説と純文学の対立について言及していらしたのですわ。神原駿河もオススメの作家様。ぜひ、ご一読くださいな!
追記:
小一時間で書いた3,000文字の、このエッセイ。
「短編/エッセイ」部門でランキング入り、という通知が来ましたわ。
慌てて確認したら、「評価ポイント」もたくさんついていて!
嬉しい。
本当にありがとうございます。
……投稿中の小説は、100,000文字超えてるのに。
評価ポイントの累計は、このエッセイの半分以下……。
キイイイイイ!
何故!?
納得いきませんわ!
読んでね!
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◇
2026年6月20日。
『完結済み』設定と同時に、作品の『タイトル』『あらすじ』『ジャンル』を変更しました。




