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第一話 リリー

私はいらない子。

第四皇女として生まれながらも離宮に閉じ込められ、侍女にも冷たい態度をとられる。


それは私の出自が関係していた。

私の母親は正室の侍女で女性関係にだらしない皇帝に無理やり関係を持たされたのだ。母親はそのまま私を産んで死んでいったらしい。


だから他の兄弟との関係も1人を除いて悪く顔を見合わせるたびに貶される。


「この私生児が。なんて汚らわしい。」


「このような者が皇族であるなんて。」


この離宮の外に出るとそんな風に兄弟たちに言われ宮殿の者たちにも陰口を囁かれる。


もう慣れてしまったけれど面倒くさいのでほとんどこの離宮で過ごしている。ここには元々変わり者の皇族が住んでいたらしく様々なジャンルの本がたくさんあるし侍女もほとんど来ない、つまり仕事を放棄しているので気楽なのだ。1日のほとんどを離宮の図書室で過ごしている。


「リリー!」

図書室の扉を開けて入ってきたのは兄である第二皇子のギルバードだった。

「兄さま!!」

私は思わず抱きつく。兄さまは唯一私を可愛がってくださる兄弟だ。


「今日も変わりはないかい?」


「ええ、ずっとここで本を読んでるわ。」


「そうか、母もリリーのこと心配していた。会いたがっていたよ。」


兄さまのお母さまは正室で私のことも可愛がってくださる心優しい方だ。私の母親とも仲が良かったらしく何かと私のことを気にかけてくれる。


兄さまは壁にかかった時計を見て残念そうな顔をした。


「もう会議があるから行かなくては。また明日。」


そう言って私の頭をポンポンして帰っていく兄さま。


兄さまやお義母さま気遣ってくれるからここにいても1人じゃないって思える。他の人たちの嫌がらせにも耐えられる。


お兄さまが毎日私の顔を見に来てお義母さまともときどき会ってお話しをする、こんな日常が続いてくれればそれでいい。






日常が変わり始めたのは皇帝の持病が悪化してからだった。王太子を設けていなかったので皇帝の座の争いが始まったのだ。


第一皇子と第三皇子はそれぞれ側室の子だが特に第一皇子の母親の実家の力が強く本人たちの野心も高い。だがあんな暴君ではこの帝国が滅びる一方だろう。

だからギルバード兄さまは国のため皇帝になろうと奮闘している。忙しそうで離宮に来ることも少なくなった。


また私たち皇女も無関係でなく力の強い家に嫁がされ政略結婚の道具となる。私もどこかに嫁がされるのだろうか。




急に図書館の扉が開いた。ギルバードが今まで見たことのないような青白い顔をしていた。


「どうしたんですか、兄さ」


「父上が亡くなった。母上も何者かによって殺された。」


「え・・・」


お義母さまが殺された・・・?

あの優しい方が・・・?


兄さまが私の肩を掴んだ。


「これから帝国には混乱が起こる。リリーにも危険が及ぶだろう。覚悟して欲しい。」


「わかったわ。」


これからこの国はどうなってしまうの───







暴動が起きたのはそれから2ヶ月後、私の16歳の誕生日のことだった。

政治を第一皇子が行うようになったのだが税金をあげ貴族の負担を減らしたため国民の不満が爆発したのだった。

兄さまはお義母さまが亡くなった後後ろ盾が無く政治になかなか口出し出来ない。



国民は城に突撃し荒らしていった。城の中の高価なものを奪い調度品を傷つける。


「王族はどこだ!」


「俺らの暮らしはもうめちゃくちゃだ!明日食べるものもない!」


「どうしてくれるんだ!」


離宮にいても聞こえてくるそんな声。侍女はとっくに逃げ出してしまったから1人でがたがた震える。


私はどうなってしまうの?このまま国民たちに殺される?16歳になったばかりなのに。




そこで離宮の扉が開いた。

立っていたのはギルバード兄さまだった。

皇帝とお義母さまの死を告げたときよりも落ち着いている。

兄さまは椅子に座っている私のそばでひざまづいた。


「よく聞いてくれ。もうこの城は危険だ。実は隣国の友人にお前だけでも連れ出すように頼んでいてそれは今日の予定だったんだ。もう迎えは来ている。はやくその馬車に乗って逃げなさい。」


「でも、兄さまはどうするの?」


「私には国民たちを救う役目がある。ここから離れるわけにはいかない。」


兄さまの覚悟を決めた目。


「だから、私がこの国を建て直して、リリーが安全に暮らせる国になったら戻ってきて欲しい。それと、」


兄さまはポケットから何か取り出した。

指輪だった。それをまるで童話の王子様のように私に着ける。

「誕生日おめでとう、リリー。君の安全と幸せを祈っているよ。」


「にいさま•••」


私は涙は溢れ出してしまった。兄さまはいつも大変な役目を背負っているのに私を気にかけてくれる。こんな素晴らしい人がこんな目に遭うだなんて。


「馬車まで案内するよ。」


兄さまは私の手を握って離宮から連れ出した。





馬車は城の裏、目立たないところに停めてあった。


私たちが近づくと御者が扉を開けた。私は素早く乗り込む。


扉を閉める前、兄さまとハグをした、兄さまの温もりを忘れないように。兄さまも私も泣き出しそうだった。


「大好きです。」


「ああ、俺もだ。」


「兄さま、きっとまた会えます。兄さまのこと信じてますから。」


「任せてくれ。」


暴動の声がこちらに近づいてきたここももう危ない。

兄さまはもう一度私と目を合わせた。


「幸せになってくれリリー。それが俺のいちばんの望みだ。」


「はい!」


泣かなかった。泣いたら兄さまの顔が見れなくなるから。





馬車の扉が閉まる。私はその瞬間泣き出してしまった。

兄さまと私の目の色である青色の宝石がかたどられた指輪。それを強く握りしめる。


顔を上げると向かいに男性が座っていることに気がついた。


男性が私のことを優しい眼差しで見つめる。でも何も声を掛けてこなかった。

その優しさが、暖かかった。




私が落ち着いた頃、男性は話し始めた。


「初めまして。私はアレンと申します。フェリス王国の王弟でギルバードの親友です。」


まさか王弟だったとは。アレン様はお兄さまと同い年の20歳くらいでブロンドの髪に緑の目で見目麗しい。


「初めまして。私はリーズレットと申します。オルタナ帝国の第三皇女です。」


アレン様は相変わらずにこにこしている。


「本当にありがとうございます、殿下。」


「いえいえ、親友の頼みですから。それと私のことはアレンと呼んでください。私もあなたのことをリーズレットと呼びますから。」


「わ、わかりました。」


「それで貴女のこれからを話したいと思うのですが大丈夫ですか?」


「はい」


「では話していきます。貴女にはボーデン公爵家の養子になっていただきます。そして本国の学園に通っていただく。ちょうど1ヶ月後に新学期が始まるのでそこから編入という形です。」


「わかりました。その、ボーデン公爵家というと・・・」


「そうです冷徹一家と言われている公爵家です。貴女を受け入れるのにいちばん適切なのはボーデンだったので。でも心配しないでください。みなさんいい方達です。」


「そうですか、それを聞いて安心しました。」


「よかったです。しかし随分お疲れのようですからフェリスに着くまでお眠りください。」


「ありがたいです、ではそうさせていただきます。」


目を閉じた瞬間、深い眠りについた──



目を覚ましたら屋敷の前だった。

大きいけど冷たい雰囲気の屋敷。


「ちょうど目が覚めましたか。では私はここまです。またお会いできるといいですね。」


「はい、本当にありがとうございました。」


そこで馬車の扉が開き前に立っていた執事服に身を包んだ初老の男性がエスコートをしてくれる。

馬車から降りて改めて屋敷を見回す。

よし、ここからがんばろう──

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