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第25話『【悲報】厄介オタク(イケメン)無事死亡【ネットの反応】』


 神崎ハヤトの「正義の暴走」事件から数日が過ぎた。

 世間の喧騒は未だ収まる気配を見せないが、当事者である私の生活は驚くほど平和な凪を迎えていた。


 社長室の奥にある私の城(倉庫)。カビと埃の混じった実家のような安心感のある匂い。


 私はスチールラックをデスク代わりにして、コンビニで買い込んだジャンクフードの山を築いていた。

 『ポテトチップス・コンソメパンチ(BIGサイズ)』、『じゃがりこ』、そして1.5リットルの『ドクターペッパー』これぞ堕落のフルコース。


「さーて、始めますか。至福の答え合わせタイムを⋯⋯!」


 私はプシュッと炭酸の栓を開け、下品な音を立ててラッパ飲みした。喉を焼く強烈な炭酸と甘味をダイレクトに受けた脳細胞が歓喜の声を上げる。


 今日は久しぶりの半日オフ、レイコ様は「他社との打ち合わせがあるから、掃除でもしていなさい」と言い残し、外出されている。


 つまり今の私は「自由」だ。誰に気兼ねすることなくネットの海をサーフィンし、自分の評価(株価)を確認できるゴールデンタイムなのである。


 私はタブレットとスマホを並べ、慣れた手つきで某巨大掲示板のURLをタップした。


「まずは、あの『お邪魔虫』の末路から確認してやろうか」


 私はニヤリと笑い、検索窓に『神崎ハヤト』と打ち込んだ。


 ◇


 【悲報】神崎ハヤト、無期限活動休止www Part108


 スレッドの勢いが止まらない。

 パート108って何だ。煩悩の数かよ。


 ***


 1: 名無しさん

 【速報】神崎ハヤト、体調不良を理由に無期限活動休止を発表

 所属事務所が公式サイトで謝罪文掲載

 事実上の引退勧告か?


 15: 名無しさん

 イケメンざまぁwww

 あの公開処刑見たら、もう表出てこれないだろ

 「僕が救う(キリッ)」→ Aiちゃん「ヒッ(拒絶)」→ 社長に論破されて退場

 ダサすぎて草も生えない


 28: 名無しさん

 やってること悪質なストーカーと変わらんからな

 「君のためだ」って言いながら、相手の気持ち無視して自分の正義感に酔ってるだけ

 一番タチ悪いタイプ


 45: 名無しさん

 アイちゃんのあの怯え方、マジだったぞ

 ハヤトの大声と強引な接触が、完全にトラウマスイッチ押してた

 傷ついた女の子の傷口に塩塗って「治療だ」って言ってるようなもん

 罪は重い


 82: 名無しさん

 西園寺社長の「レイプと同じよ」って言葉、刺さったわ

 あれが全てだよな

 善意なら何しても許されると思ってる勘違い野郎が多すぎる

 社長、怖そうに見えて実は一番アイちゃんのこと考えてる説


 102: 名無しさん

 ハヤト信者が「社長が洗脳した!」って暴れてるけど、映像見れば一目瞭然

 アイちゃんはハヤトから逃げて、社長の背中に隠れた

 これが答えだろ


 ***


「っはー! 全会一致で有罪判決! 気持ちいいー!」


 私はポテチをバリボリと頬張りながら、画面に向かって親指を突き立てた。


(見たかハヤト。これが民意だ。お前の「独りよがりな正義」なんて、私とレイコ様の美しい関係にはノイズでしかないんだよ!)


 特に45番の書き込み、いいとこ突いてるねぇ。

 「トラウマスイッチ押した」だって。その通り。ただし、そのトラウマは「私の完璧な奴隷ライフを邪魔される恐怖」だけどな!


 ハヤト君、君の犠牲は無駄じゃなかったよ。

 君という「絶対的な悪(勘違い野郎)」が存在してくれたおかげで、レイコ様が「頼れる守護者」として神格化されたんだ。

 最高のヒール(悪役)っぷりだったよ、勇者様。


 ◇


 さて、次は私自身についてのスレだ。

 ハヤトの一件を経て、世間が私をどう分析(誤解)しているのか。


 Aiちゃんの精神状態を考察するスレ Part44


 ***

 1: 名無しさん

 先日の放送事故と、これまでの経緯を踏まえてAiちゃんの精神状態を真面目に考察するスレです

 アンチ・荒らしは回れ右


 12: 名無しさん

 あの男性への過剰な拒絶反応⋯⋯

 ハヤトだけじゃなくて、司会者の男性にも怯えてたよな

 これ、完全に「男性恐怖症」確定じゃないか?


 18: 名無しさん

 >>12

 ありえる

 パパ活疑惑の写真も、実は「強要された」って会見で言ってたようなものだし

 過去に男関係で相当酷い目に遭わされたんじゃないか?

 だから男が怖くて、女性である西園寺社長にだけ心を許してる


 30: 名無しさん

 社長の背中にしがみついて震えてたあの姿⋯⋯

 今のアイちゃんにとって、信じられるのは世界で西園寺レイコただ一人なんだろうな

 「洗脳」とか言われてるけど、もっと深い「依存」に見える

 雛鳥が親鳥を見る目だった


 38: 名無しさん

 しかしアイの精神状態に漬け込んでいいように操ってるようにも見えるけどな 


 55: 名無しさん

 >>38

 でも社長も社長で、ハヤトに対するあのキレ方、尋常じゃなかったぞ

 「私の商品」って言ってたけど、あれ絶対それ以上の感情あるだろ

 独占欲というか、庇護欲というか⋯⋯

 歪んでるけど、二人の間には確かに「愛」がある


 88: 名無しさん

 男に傷つけられた少女と、それを冷酷に囲う女帝

 共依存関係尊い⋯⋯

 もう誰もこの二人を引き裂かないでくれ


 ***


「⋯⋯ふっ、ふふふふ!」


 笑いが止まらない。

 ドクターペッパーが変なところに入りそうだ。


(「男性恐怖症」設定、いただきッ! これは使える!)


 私は膝を叩いて喜んだ。そうか、世間はそう解釈してくれたか。

 これは今後、非常に都合がいい。アイドルである以上、異性とのスキャンダルは命取りだ。


 そこに「男性恐怖症」という印籠があれば、どんな男が寄ってきても「ヒッ!」と怯えるだけで撃退できる。ファンも「アイちゃんを怖がらせるな!」と私を守ってくれるだろう。


(これで、一生レイコ様一筋で生きるための「最強の免罪符」が手に入ったわけだ。ありがとう考察班。君たちの深読み能力に乾杯!)


 それに「共依存尊い」という意見は素晴らしい。わかりみが深い。深すぎてマリアナ海溝レベルだ。

 私たちが愛し合っている(一方的な信仰だが)ことは、画面越しにも伝わっているらしい。

 嬉しい誤算だ。世間も捨てたもんじゃない。


 ◇


 最後は、ビジュアル面の評価だ。

 先日発売された週刊誌のグラビア、あの「鳥かご」の写真への反応を見てみよう。


 ◇


 今週のグラビアのAiちゃん、エロすぎワロタ


 ***

 5: 名無しさん

 Aiちゃんのグラビア、やばすぎて本屋で変な声出たわ


 10: 名無しさん

 天使時代のニコニコ笑顔も良かったけど、この「光の消えた目」が最高に唆る

 虚ろで、どこか諦めてて、でも欲しがってるような目

 何かに目覚めそう


 22: 名無しさん

 鎖似合いすぎだろ

 白い肌に黒い革の首輪、そして赤い薔薇

 色彩の暴力と背徳感がすごい

 これもうアイドルのグラビアじゃなくて芸術作品だわ


 40: 名無しさん

 社長が鎖持ってる構図、天才か?

 あれ絶対「お前は私のモノだ」っていうハヤトへのメッセージだろ

 鎖を引かれて上を向かされてるアイちゃんの首筋⋯⋯たまらん


 69: 名無しさん

 清純派をここまで堕とすエンパイアの性癖www

 ありがとうwww

 いいぞもっとやれ

 次はどんな衣装で来るんだ? 期待しかない


 74: 名無しさん

 おいたわしやAiちゃん⋯⋯

 こちらも抜かねば無作法というもの⋯⋯


 80: 名無しさん

 やっぱりこの2人ってそういう関係なん?

 リアルでもやってそう


 99: 名無しさん

 虐待だなんだと騒がれてるけど正直興奮した奴、挙手ノ

 

 100: 名無しさん

 ノ

 

 101: 名無しさん

 ノ


 102: 名無しさん

 ノ


 ***


(ノ)


 私は心の中で高らかに挙手した。


(わかる。わかるぜ。激しく同意する。私も鏡見るたびに興奮してるもん)


 私は自分の首元に手をやった。今日も今日とて、しっかりとチョーカーは巻かれている。

 この冷たい感触が、ネットの書き込みを読むことでさらに熱を帯びて感じられる。


 「光の消えた目」か⋯⋯。あれはレイコ様に首を絞められて(鎖で)、酸素が薄くなった時のトロンとした目なんだけどな。まあ、結果オーライだ。


 世間は「可哀想」と言いながら、その背徳的な美しさに魅了されている。

 同情と性的な視線、この二つが入り混じったドロドロとした感情こそが、今の『Ai』というコンテンツの燃料だ。


(もっと堕ちてやるよ。もっと酷い目にあってやる。お前らが引くくらい、レイコ様に染め上げられた姿を見せてやるから⋯⋯精々、私の養分になってくれよな!)


 私は最後のポテトチップスを口に放り込み、炭酸で流し込んだ。

 プハァ、と息を吐く満腹だ。お腹も承認欲求も。


 私はタブレットを閉じ、パイプ椅子の上で大きく伸びをした。


「あーあ。平和だなぁ⋯⋯」


 ハヤトは消え、ピュア・パレットは自滅し、私の地位は盤石となった。

 あとはこの快適な「犬小屋」でレイコ様の帰りを待つだけ――。


 ガチャリ。


 唐突にドアが開く音がして私は跳ね起きた。反射神経が光の速さで私のモードを切り替える。


「⋯⋯部屋は汚してないでしょうね」


 レイコ様だ。予定より早いお帰り、彼女はドアの隙間から冷ややかな視線を投げかけてきた。


 私は瞬時にスナック菓子の袋を背後に隠し(隠しきれてないが)、タブレットを伏せた。

 表情筋を総動員して「だらしないオタク」の顔から「怯えた従順なペット」の顔へとトランスフォームする。


「は、はいっ! 今すぐやります⋯⋯! いえ、もう大体終わりました⋯⋯!」


 私は床に膝をつき、平伏した。


「⋯⋯部屋がポテチ臭いわよ。換気しなさい」


 レイコ様は呆れたように鼻を鳴らし、バタンとドアを閉めた。


「は、はいぃっ!」


 私は弾かれたように立ち上がり換気扇のスイッチを入れた。

 心臓がバクバクしている。怒られた。ポテチ臭いと怒られた。


(⋯⋯ご褒美だ)


 私はニヤケ面を隠しながら、急いでゴミを片付け始めた。


 ネットの評価? 世間の同情? そんなものはデザートの飾りにすぎない。

 私の世界、私の価値、私の全ては――このお方の機嫌ひとつで決まるのだ。


(ああ⋯⋯今日も蔑んだ目が素敵でした、レイコ様⋯⋯!)


 私はゴミ袋を結びながら、明日への活力が湧いてくるのを感じていた。

 厄介オタクは死んだが、ここに最強の変態オタク(私)が生き残っている限り、この物語は終わらない。


 さあ、次の命令をお待ちしております、ご主人様!

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