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第一話 絶倫探偵事務所、開店! ~謎の消えたパンツ事件~

「いらっしゃいませー! ここが噂の『なんでも探偵事務所』でございます! 浮気調査から失くし物探し、果ては人生相談まで、何でもござれ! 特に俺の得意分野は……ふふふ」

事務所のドアを開けて入ってきた依頼人は、顔を真っ赤にして立ち尽くしていた。

二十代後半くらいのOL風女性。スーツ姿で清楚な雰囲気だが、目が泳いでいる。明らかに緊張している。

俺――行雄いきおは、カウンターに肘をついてニヤリと笑った。

「どうぞお座りください。お茶でも淹れますか? それとも……俺の熱いお茶を?」

「行雄さん! いきなり下ネタやめてください!」

バシッ!

背後から鋭い音が響く。玲奈れいなが手に持った鞭(もちろんおもちゃの飾り鞭)を軽く振り回しながら、呆れた顔で俺を睨んだ。

玲奈は事務所の紅一点その1。お姉さん系でスタイル抜群、黒髪ロングにタイトスカート。普段はクールだけど、怒ると本当に怖い。どSの女王様気質がにじみ出ている。

「初対面のお客様にいきなりセクハラですよ? 事務所の評判が落ちます」

「いやいや、俺の下ネタは事務所の売りなんだぜ? ほら、看板にも『絶倫対応可』って書いてあるだろ」

「書いてないです! あなたが勝手にマジックで書き加えただけで、私がすぐに消しました!」

玲奈がため息をつく横で、もう一人の紅一点――淫子いんこが興味津々で依頼人を観察していた。

淫子は大学生で、事務所のアルバイト兼見習い探偵。妹系ロリフェイスにツインテール。見た目は可愛らしいのに、性に対する好奇心が異常。知識はまだ浅いけど、興味の方向がとにかく偏っている。

「ねえねえ、お姉さん。何かエッチな相談ですか? ふふ、どんなお願いかなー?」

依頼人がビクッと肩を震わせる。

そして、最後にいるのが忠志ただし。高学歴の真面目くん。眼鏡をかけた長身イケメンで、東大卒のエリート。事務所のブレーン担当だが、下ネタが全く通じない天然っぶりが玉に瑕。

忠志はパソコンをカタカタ叩きながら、いつもの無表情で言った。

「行雄さん、玲奈さんの言う通りです。初対面で性的なジョークはハラスメントに該当する可能性があります。厚生労働省のガイドラインによりますと――」

「はいはい、わかったわかった! じゃあ真面目に聞こうぜ。お嬢さん、どんなご用件ですか?」

俺が両手を挙げて降参ポーズを取ると、依頼人はようやくソファに腰を下ろした。

「その……実は、すごく恥ずかしい話なんですけど……」

名前は佐藤美咲さん。都内の会社員。

昨夜、家に帰ったら、下着が一枚なくなっていたという。

「え、パンツが?」

俺が思わず身を乗り出す。

「ち、違います! パンツじゃなくて……ブラジャーです! 洗濯物干してる時に、ベランダから一枚だけ消えてて……」

美咲さんは顔を真っ赤にしながら説明した。

最近、近所で「下着泥棒」が出没しているという噂がある。

でも警察に届けても「証拠がない」と取り合ってもらえず、ネットで検索したらこの事務所が出てきたらしい。

「なんでも引き受けます、って書いてあったので……」

「なるほどねー。ブラジャー一枚の失踪事件か。面白そうだ!」

俺がニヤニヤしていると、玲奈がまた鞭を鳴らした。

「面白そうって……ただの下着泥棒ですよ?」

「でもさ、犯人はどうやってベランダに入ったんだ? 美咲さんの家はマンションの四階だろ?」

忠志がパソコンから顔を上げて、至極真面目に言った。

「可能性としては三つ考えられます。一、風で飛ばされた。二、鳥がくわえて行った。三、近隣住民がベランダ伝いに侵入した」

「鳥って……カラスとかがブラジャー持ってくかな?」

淫子が首を傾げながら、妙に興味深そうに呟く。

「ブラジャーって、ワイヤー入ってるやつだと結構重いよね。カラスが運べるかな? それとも、犯人はブラジャーをコレクションしてる変態さんかなー? ふふ、どんなプレイしてるんだろう」

「淫子ちゃんまで変な方向に……」

玲奈が頭を抱える。

俺は立ち上がって、拳を握った。

「よし、決まりだ! この『消えたブラジャー事件』を、俺たちなんでも探偵事務所が解決してやる!」

「え、もう受けるんですか?」

美咲さんが驚いた顔をする。

「もちろん! 料金は成功報酬で、後で俺の……じゃなかった、事務所の口座に振り込んでくれよな!」

「行雄さん!」

バシッ!

玲奈の鞭がまた鳴った。

──こうして、事務所初の(?)本格事件が始まった。

まずは現場検証だ。

美咲さんのマンションは事務所から電車で三十分ほどの場所にある。

四人でぞろぞろと美咲さんの部屋に上がり込む。

「すごい、女の人の部屋って良い匂いがするねー」

淫子がキョロキョロしながら、ベッドに座ろうとする。

「だめ! 勝手に座らない!」

玲奈が慌てて止める。

忠志はすでにベランダに出て、足跡や指紋がないか真剣に調査中。

「ベランダの手すりに、微細な擦り傷があります。これはロープか何かが引っかかった痕かもしれません」

「おお、忠志くんやるじゃん!」

俺は美咲さんに近づいて、ニコニコしながら聞いた。

「ところでさ、その消えたブラジャーってどんなやつ? サイズとか色とか、詳しく教えてよ。参考になるから」

「そ、そんなことまで……!」

美咲さんが真っ赤になる。

「行雄さん、またセクハラですよ?」

玲奈が呆れ顔。

「いや、犯人の好みがわかるだろ! 例えばレース付きのセクシーなやつだったら、変態確定だし。スポーティなやつなら運動好きの犯人かも」

「なるほど……確かにプロファイリングに役立つかもしれません」

忠志が真面目に頷く。

「私、Dカップで……色は黒のレースです……」

美咲さんが蚊の鳴くような声で答えた。

淫子が目をキラキラさせて近づく。

「黒レース! エロいねー! お姉さん、普段からそういうの着てるんだ。すごい、触らせて……じゃなくて、写真とかない?」

「ないです!!」

美咲さんが叫ぶ。

その時、忠志がベランダから声を上げた。

「皆さん、こちらを見てください。隣のベランダとの間に、怪しいものが落ちています」

全員がベランダに集まる。

手すりの下、植え込みの中に、小さな金属のフックが落ちていた。

「これ……グラップリングフック?」

玲奈が眉をひそめる。

「つまり、犯人は下の階からロープで登ってきて、ブラジャーを盗んだってことか!」

俺が興奮気味に言う。

「しかし、なぜ一枚だけ? 洗濯物は他にも干してあったはずです」

忠志の指摘に、全員が顔を見合わせる。

淫子がぽつりと呟いた。

「もしかして……犯人はブラジャーだけが目当て? それとも、特定のサイズが好きとか?」

「うわ、変態だ……」

美咲さんが震える。

俺は腕を組んで考え込んだ。

「よし、張り込みだ! 今夜また犯人が来るかもしれない。俺たちがここで見張ろうぜ!」

「ええっ!? 泊まりですか!?」

美咲さんが慌てる。

「大丈夫、俺が守ってやるよ。夜這い……じゃなくて、夜の見張り専門だから!」

「行雄さん!!」

バシッ! バシッ!

玲奈の鞭が連続で鳴った。

結局、その日の夜は事務所に戻って作戦会議。

翌日、再び美咲さんの部屋で張り込みを決行することになった。

夜十時。

美咲さんの部屋の明かりを消して、五人で息を潜めている。

淫子と忠志はリビングのソファ、玲奈と俺はキッチンの陰、美咲さんは自分のベッドで仮眠。

「……ねえ、行雄さん」

玲奈が小声で話しかけてきた。

「なに?」

「この事件、なんか変じゃないですか?」

「どう変?」

「下着泥棒って、普通もっとたくさん盗むでしょ。一枚だけって……」

その時。

ベランダの方でガサッと音がした。

全員が固まる。

俺がそっとカーテンの隙間から外を覗く。

――いた。

黒い影が、ロープを使ってベランダに降りてきている。

人影は洗濯物に手を伸ばし……またブラジャーを一枚、そっと取った。

「今だ!」

俺が飛び出す。

「待てー! 下着泥棒!」

犯人が驚いて振り返る。

月明かりに照らされたその顔は――

「え……お前、まさか……」

犯人は、近所に住む高校生の

男の子だった。

しかも、顔見知り。美咲さんの隣の部屋に住む、いつも挨拶してくれる優等生タイプ。

「な、なんでお前が……!」

少年は慌ててロープを掴むが、俺が飛びついて押さえ込んだ。

「やめろって! 誤解だ! 誤解なんだ!」

そこに全員が集まる。

少年は泣きそうな顔で説明を始めた。

実は、彼には好きな人がいる。

その人は――美咲さん。

「え、私!?」

美咲さんが驚く。

少年は恥ずかしそうに続ける。

「佐藤さんの洗濯物見てたら、いつもすごく綺麗に干してあって……それで、ブラジャーのサイズがわかって……誕生日プレゼントに、同じサイズの可愛いブラジャーを買おうと思って……」

「は?」

全員が固まる。

「だから、一枚借りてサイズを確認しようと……返そうと思ってたんだ! 本当に!」

「……それで、一枚だけ盗んでたの?」

玲奈が呆れた声で言う。

「うん……でも、怖くなって返せなくて……」

少年が頭を下げる。

淫子がポカンと口を開けたまま。

「え、つまり……エッチな目的じゃなくて、純粋な恋心?」

「そう……です」

美咲さんはしばらく黙っていたが、ため息をついた。

「……バカね。でも、気持ちは……ちょっと嬉しいかも」

少年がパッと顔を上げる。

「でも、勝手に人のもの取っちゃダメだから。ちゃんと謝りなさい」

「はい! ごめんなさい!」

少年が深々と頭を下げた。

俺は肩をすくめて笑った。

「まさか、純情下着泥棒事件とはな。ミステリーじゃなくてラブコメかよ」

忠志が真面目にメモを取りながら言った。

「しかし、犯罪行為であることに変わりはありません。警察に――」

「忠志くん、今回は見逃してあげようぜ。若いってのは間違いもするもんだ」

玲奈も珍しく優しい声で言った。

「そうね。美咲さん、どうします?」

美咲さんは少し考えて、微笑んだ。

「今回は……許してあげます。でも、次やったら本当に警察だからね?」

「ありがとうございます!」

少年が泣きながら喜ぶ。

そして数日後。

美咲さんから事務所に連絡があった。

「実は、あの子の誕生日プレゼント、私が一緒に選んであげたんです。可愛いブラジャー、喜んでました」

「へえ、めでたいじゃん!」

俺が笑う。

「それで……お礼と言っちゃなんですけど、今度みんなでご飯でもどうですか?」

「いいねー! 俺、肉がいい!」

「行雄さん、また下ネタ待ち?」

「待ってないって!」

事務所に笑い声が響いた。

こうして、『消えたブラジャー事件』は、誰も傷つかずに解決した。

でも、俺たちの日常は、これからもきっとこんな感じで続くんだろうな。

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