1話
0.
濡れてぐちゃぐちゃになった絵画を乾かしても価値はつかないように。
折れた棒をつなぎ合わせても強度は戻らないように。
死んだ生き物が再び動き出したとして、それを生き返ったと言ってもいいのだろうか。
ただ、一度は墓に埋めたはずのスラッチが再び立ちあがり、僕のことを噛み殺そうとしてる今この時も、僕の心にはまたスラッチに会えた喜びが確かにあった。
1.
何度倒れても立ち上がり続ける精神力。
そして、永遠の命。
幼いころにあこがれた英雄譚の主人公たちが持っていたその特別な〝能力〟を、生涯をかけたとしても僕が得られることはない、と気づいたのはいつ頃だろうか。
初めて失恋した時?
それとも村の長の息子が能力で作った巨大な落とし穴のせいで全身にすり傷を負ったのに僕だけが怒られた時?
いつかは覚えていないけど。
そんな現実逃避じみたことが頭に浮かぶのは、僕が今のこの状況を到底受け入れられないからだろうか。
目が覚めると家族が殺されていた。
ひどく冷えた朝のことだ。僕は氷のようになった石畳にひざをつき、同じくらい冷たくなった犬のスラッチの体を抱きかかえながら「どうして永遠の命はないのだろう」と泣きじゃくり続けた。
ここはデュサダイ経済特区の片隅。大小問わず店や家が立ち並ぶ。時間帯ということもあり、家の前の大通りは仕事前の人々や行商人があわただしく行きかっている。
スラッチの全身には打撲の跡が見て取れた。間違いなく何者かに殺されたようだった。酔っ払いかなにかの仕業だろうか。
大型犬であるスラッチとは11歳の時に一緒に暮らすようになってから10年近く経つが、その間に誰かを襲ったことなどはなかった。
その体躯のわりにのんきな性格で、好きなことはひなたぼっこ。争いごとが何よりも嫌いで、例えば野良猫やよそが飼っている犬にケンカを売られても相手にすることはなかった。
立つと人間の胸ほどまでの大きさがある生き物が自分より半分以下の犬にほえられても地面に伏せたままじっと耐えている姿を思い出して吹き出しかけたが、泣いているせいでおえつ交じりの声が出た。
そんな僕らに突き刺さるのは道端の吐しゃ物をみるかのような視線。
「邪魔だキキノイ!」
打ちのめされている僕にそう言ってパン屋の店員の若い男がスラッチの上を平気でまたいでいく。仕事終わりの水商売の女が大げさに避けていく。
まるで考えもしなかった。
まさか町のやつらがこんなに薄情だなんて、考えもしなかった。
大地主のうすらぼけた老人が死んだ時には大粒の涙を流しながら葬式に並び、そこで振舞われた美味い飯をたらふく食っていた連中が、僕たちに起きた悲劇には眼もくれないだなんて考えもしなかった。
金持ちの死は悼まれ、僕の家族の死は疎まれる。『命に貴賤はない』と偉そうにのたまったのは誰だっただろうか。
裏庭の隅を掘り返して墓を作ってやる。墓石などはないので土を掘り返すのに使った木のヘラを突き刺した。