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第3話:狼の誤算、少女の反撃

満腹になった狼は、次なる獲物、赤ずきんを待ち伏せることにしました。おばあさんに扮してベッドに潜り込み、赤ずきんが来るのを心待ちにしました。


しばらくすると、扉の向こうから可愛らしい足音が近づいてきます。


「おばあちゃん、パンとワインを持ってきたわ」


狼は声を枯らしておばあさんのふりをします。「ああ、赤ずきんかい。よく来たね。こちらへおいで。」


狼は、ベッドのそばまで来た赤ずきんと、得意げに会話を交わしました。


「おばあちゃん、どうしてそんなに声がしわがれているの?」

「それはね、風邪をひいてしまったからさ」


狼は、目の前の赤ずきんが全く動かないことにわずかな違和感を覚えつつも、空腹が完全に満たされたわけではないことに焦り、今まさに赤ずきんを丸呑みしようと口を大きく開けた、その時でした。


「おばあちゃん、その大きな口は何?」


その言葉に、狼はハッとしました。彼の目に映っていた「赤ずきん」は、微動だにしない。生きた人間特有の息遣いや体温を感じさせない。その瞬間、狼は目の前の存在が偽物であると悟りました。


「この! わしを騙そうとしたな!」


狼はベッドから飛び起き、偽物の赤ずきんを睨みつけました。家の中を確かめると、そこには本物の赤ずきんはもはやいない。狼が会話していたのは、あらかじめ仕掛けられた巧妙な罠の一部だったのだと、ようやく理解が追いつきました。狼は怒りに任せて家を飛び出しました。しかし、家の外にはすでに本物の赤ずきんが、そしてその隣には無事なおばあさんが、冷静な目で狼を見つめて立っていました。


その時、村の猟師が通りかかりました。彼は、赤ずきんに以前から相談されていた通り、この周辺を巡回していたのです。


「どうした、お前たち。何か揉め事か?」


猟師は、狼が明確な攻撃姿勢を見せていないこと、そして何より、赤ずきんが冷静に立っているのを見て、すぐに鉄砲を構えることはしませんでした。彼は森の番人として、やみくもな暴力よりも状況の把握と公平な判断を重んじていたのです。


猟師の問いに、狼が言葉を詰まらせていると、赤ずきんが静かに口を開きました。


「狼さん、あなたは先ほど、おばあさんを食べたつもりでいるようだけど…」


赤ずきんはにやりと笑いました。


「あなたが食べたのは、おばあさんではなく、私が仕掛けたおばあさん型の爆弾よ」


狼は顔色を失いました。胃のあたりが、急に熱を帯びたように感じます。ドクン、ドクン、と不吉な鼓動が響くようです。


「その爆弾は、あと少しで爆発するわ。解除方法は一つ。私と勝負をすることよ」


赤ずきんの言葉に、猟師は「ほう、勝負とは?」と興味を示しました。すると、狼はこれ見よがしにふてぶてしい笑みを浮かべ、ポーカーの腕に自信があるかのように言いました。


「よし、勝負なら受けて立つ! ポーカーでどうだ? 勝った方が、もう一方の望みを一つ叶えるというのは?」


赤ずきんは冷静に狼の目を見返すと、「いいわ。ただし、ルールは公平に、一切のいかさまはなしよ。猟師さんが立会人となって、厳正に見てくれるわね?」と、暗に狼の狡猾さを牽制するように言いました。


猟師は頷き、厳かな声で宣言しました。「よし。この私が見届ける。いかさまは断じて許さんぞ。勝った方の要求を、敗者は潔く受け入れること。これぞ、森の掟だ」


その時、猟師が携行する鉄砲の銃身が、鈍い光を放ちました。その冷たい輝きは、狼の瞳に宿る最後の野心さえも凍てつかせ、力ずくで赤ずきんに事をなすことを許さない、森の掟の重さを象徴しているようでした。


狼は、この提案が受け入れられたことで、内心勝利を確信していました。彼の計算では、ポーカーは単なる時間稼ぎであり、赤ずきんの手札を読むことなど造作もないこと。この勝負に乗ることで、猟師の監視の目もクリアし、勝負に勝てば正々堂々と赤ずきんを食らい、爆弾の解除コードも手に入ると確信していました。村の猟師は事態の深刻さと、この奇妙な勝負の行方に興味を抱きつつも、公平な立会人として勝負を見守ることにしました。

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