最終話「流れを取り戻せ!」
ウン太とチン之助は、粘液に覆われた壁の影に隠れ、状況を観察していた。
「最終排出ゲートが完全に封鎖されている...」ウン太は震える声で言った。
バイラスター皇帝は巨大な王座に座り、緑色の粘液から作られた冠をかぶっていた。その姿は人間に似ているが、全身が緑色に脈動し、背中からは触手のような突起物が無数に伸びている。
「我がバイラスター帝国の勝利だ!」皇帝の声は体内全体に響き渡った。「この体は停滞し、やがて我々の完全な支配下に置かれる!」
チン之助は歯を食いしばった。「大停滞が始まっている。このままでは体内ワンダーランド全体が機能停止になる」
ウン太は突然、閃いた。「僕には秘密のバイパスルートがあります!」
「何だって?」
「実は、最終排出ゲートには裏口があるんです。緊急時のために作られた隠し通路なんです」
ウン太は誇らしげに説明した。「僕は迷子になりやすいから、いつも複数のルートを覚えておくんです。これが僕の特技なんですよ」
チン之助の目が輝いた。「だからキミは最終配達員に選ばれたんだ!」
二人は密かに動き出した。ウン太が先導し、チン之助が後に続く。
「ここです」ウン太は小さな通気口のような場所を指さした。「ここから入れば、バイラスター軍の裏をかけます」
狭い通路を這いながら進む二人。チン之助の体から放たれる成長線の光が、暗闇を照らしていた。
「ラクト博士の爆弾、準備はいい?」チン之助がささやいた。
ウン太は青い球体を握りしめ、うなずいた。
「作戦はこうだ」チン之助は真剣な表情で言った。「僕が成長エネルギーで皇帝の注意を引く。その隙にキミは裏からゲートのロックを解除するんだ」
「わかりました!」ウン太は決意を固めた。
「あと一つ」チン之助はウン太の肩に手を置いた。「君の役割は、この体にとって最も大切なものの一つだ。それを忘れないで」
初めて、チン之助の目には心からの尊敬の色が浮かんでいた。
作戦開始。チン之助は豪快に正面から飛び出し、眩しい金色の光線をバイラスター軍に浴びせた。
「なにごとだ!」皇帝が怒鳴る。
その隙に、ウン太は裏通路から最終排出ゲートのコントロールパネルに忍び寄った。
「えっと...この赤いレバーを引いて...青いボタンを押して...」
ウン太は迷いながらも、直感に従って操作を続けた。
突然、警報音が鳴り響き、ゲート全体が振動し始めた。
「お前!」バイラスター皇帝がウン太に気づき、巨大な触手を伸ばしてきた。
「今だ!」チン之助が叫んだ。
ウン太はラクト博士の善玉菌爆弾を投げた。青い閃光が広がり、バイラスター軍が一瞬動きを止めた。
「最終シーケンス、起動!」
ウン太は最後のボタンを力強く押した。すると、巨大なゲートが開き始め、激しい流れが発生した。
「何が起きている!?」皇帝は恐怖に叫んだ。
「これが僕の本当の力です!」ウン太は初めて、堂々と宣言した。「不要なものを体外へ運び出す、最終配達の力です!」
猛烈な流れがバイラスター軍を飲み込み始めた。皇帝はあがいたが、もはや抗えない。
「このような屈辱は...!」
皇帝の言葉は、轟音に飲み込まれた。
「やった...!」ウン太は膝をつき、安堵のため息をついた。
チン之助は駆け寄り、ウン太を抱き上げた。「素晴らしいぞ、ウン太!キミは体内ワンダーランドの英雄だ!」
最終排出ゲートを通じて、バイラスター軍と共に停滞していた全ての不要物が体外へと流れ出ていく。体内ワンダーランド全体に、新鮮な活力が戻り始めた。
数日後、大腸平原では盛大な祝賀会が開かれていた。
「万歳!ウン太とチン之助!」体内の住民たちが口々に称えた。
ラクト博士は眼鏡を光らせながら笑った。「見事な連携プレーだったね」
ウン太は照れながらも、胸を張っていた。もう自分の仕事を恥じることはない。
チン之助はウン太の横に立ち、誇らしげに宣言した。
「体内ワンダーランドは、様々な役割を持つ者たちが協力することで成り立っている。どんな役割も、どんな存在も、かけがえのないものなんだ」
二人は互いを見つめ、笑顔で拳をぶつけ合った。
「これからは定期的に連絡を取り合おうね」チン之助が提案した。「成長線と最終排出ラインをもっと連携させれば、体内の流れはもっとスムーズになるはずだよ」
ウン太はにっこり笑った。「約束します。もう迷子にならないように、しっかり地図も覚えますから!」
体内ワンダーランドに、再び健やかな流れが戻った。
そして誰もが気づいた。一見「汚い」と思われる存在も、「恥ずかしい」と感じる機能も、全てが生命の神秘的な循環の中で、尊く、必要な役割を果たしているということを。
あとがき:『体内ワンダーランド』を書き終えて
みなさま、『体内ワンダーランド』をお読みいただき、ありがとうございました!この物語、実は私の小学生の息子が「うんちとおちんちんのお話書いて!」とリクエストしてきたことがきっかけで生まれました。最初は「えぇ...」と思いましたが(笑)、考えてみると面白いチャレンジだと思ったんです。
普段「恥ずかしい」「汚い」と避けられがちな体の機能も、実は私たちの命を支える重要な存在。そんな当たり前だけど見過ごされがちな真実を、子どもたちにも楽しく伝えられないかと思ったんです。
ウン太のキャラクターを作る時は、「最も避けられる存在だからこそ、実は最も純粋で誠実な心を持っている」というアイデアから始めました。自己肯定感の低さも含めて、多くの子どもたち(そして大人たち!)が共感できる部分があるんじゃないかなと。
一方のチン之助は、自信満々だけどどこか空回りしているキャラクター。華やかで目立つ存在が必ずしも完璧ではなく、互いの違いを認め合い、補い合うことの大切さを表現したかったんです。
執筆中の最大の苦労は…説明しすぎず、かつ教育的要素を損なわないバランス取りでした!子どもたちに「これ面白い!」と思ってもらいながら、「あれ?人体のしくみって不思議だな」と興味を持ってもらえたら嬉しいです。
実は第2章のバイラスターの描写は、コロナ禍で子どもたちに「ウイルスって何?」と説明した時の経験から着想を得ています。怖がらせすぎず、でも現実の脅威も伝えられるよう工夫しました。
個人的にお気に入りのシーンは、ウン太が初めて自分の仕事に誇りを持つ瞬間。子どもたちにも「自分にしかできないことがある」と感じてほしくて。
「流れを取り戻せ!」というテーマは、実は私たち大人への戒めでもあります。便秘や生活習慣病など、現代人の多くの問題は「流れ」が滞ることから始まりますよね?健康の基本は意外とシンプル、排出と循環なのかもしれません。
この物語を読んで、子どもたちが自分の体に興味を持ち、「汚い」「恥ずかしい」という先入観なしに、命の神秘を感じてくれたら嬉しいです。そして何より、「違い」を認め合う大切さを感じ取ってもらえたら…。
次回作も妄想中です!もしかしたら「鼻水ちゃんと涙くん」かも?またお会いしましょう!