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第1話「最終配達員と駅長の出会い」

挿絵(By みてみん)

ウン太は今日も迷子だった。


「あれ?ここはどこだ?」


体内ワンダーランドの巨大な通路を、彼は途方に暮れた表情で見回した。


方向感覚のないウン太にとって、複雑に入り組んだ体内世界は、毎日が冒険の連続だった。


彼は丸みを帯びた、温かみのある茶色の体をした少年。柔らかい質感の肌には、食物の繊維のようなテクスチャが点々と付着している。着ている配達員のつなぎは、あちこちが擦り切れ、シミだらけだ。


「ぼくはただのゴミ運びなのかな...」


ウン太は自分の役割に、いつもそう思っていた。


最終配達員。それが彼の肩書き。体内から不要なものを集め、最終排出ゲートまで届けるのが使命だった。


でも、その道のりを彼はよく忘れてしまう。そのたびに自分を責め、卑下した。


「他の人たちと違って、ぼくの仕事は誰も喜ばない」


ウン太の言葉は、巨大な赤い管の中に響き、こだました。血管だろうか?それとも腸管?


小さな体から大きなため息がこぼれる。誰も彼を必要としていないんじゃないかという不安が、また胸をよぎった。


「君、そこで何をしている?」


突然、背後から声がした。


ウン太が振り返ると、そこには信じられないほど輝かしい姿の少年が立っていた。


「やあ、君はこのエリアの住人かい?私はチン之助。この成長線ターミナルの駅長さ!」


彼は流線型の体を持ち、メタリックな輝きを放っていた。体表面には成長線を表す光のラインが走り、その姿はまるで未来から来たようだ。金と銀の装飾が施された駅長服は、ピシッとアイロンがかかっている。


「あ、あの、僕はウン太です。最終配達員の...」


ウン太は言葉を詰まらせた。チン之助のような輝かしい存在の前で、自分の仕事を口にするのが恥ずかしかった。


チン之助はウン太を上から下まで観察し、鼻をピクッとさせた。


「最終配達員?あぁ、キミは"あれ"を運ぶ係なんだね」


彼の表情には、微妙な距離感が浮かんでいた。


ウン太はうつむいた。やはり誰もが自分を避けたがる。いつもそうだ。


「で、どうしてこんなところをウロウロしているんだい?キミの職場は最下層区画だろう?」


チン之助の言葉は温かみがなかった。


「道に迷ってしまって...ぼくはいつも迷子になるんです」


ウン太の正直な告白に、チン之助は眉をひそめた。


「なんだって?キミの仕事は重要なのに!体内バランスが崩れるじゃないか」


チン之助の姿勢が変わった。彼は背筋をピンと伸ばし、駅長らしい威厳を漂わせる。


「いいかい、私はこの成長線ターミナルで、全身への栄養と成長のシグナルを送る大切な仕事をしている。キミも自分の役割をしっかり果たさなきゃ!」


ウン太は顔を赤らめた。生まれて初めて、誰かに自分の仕事の重要性を指摘されたのだ。


「でも...どうやって帰ればいいか分からないんです」


チン之助は大げさなため息をついた。


「仕方ない。今日は特別に案内してあげよう。ついてきたまえ」


チン之助の足取りは軽やかで、まるで体内を踊るように進んでいく。一方、ウン太はぎこちない足取りで必死に彼についていった。


「僕は...生まれた時から最終配達員なんです」


ウン太は歩きながら、自分の生い立ちを話し始めた。


「食物繊維と古くなった細胞たちが混ざり合って、ある日突然意識を持ったんです。気がついたら、"最終配達員"という肩書きと、体外に運ぶべきものがそばにありました」


チン之助は興味深そうに聞いていた。


「私は違うね。私は成長ホルモンの光から生まれた。この体の未来を作る使命を与えられたんだ」


彼は誇らしげに胸を張った。


「この駅を通過する全てのエネルギーと情報は、私の管理下にある。一日も休まず、体の成長と変化を支えているんだよ」


二人の会話は続き、互いの役割についての理解が少しずつ深まっていった。


突然、轟音が体内に響き渡った。


「なっ...何だ!?」


チン之助の表情が一変する。


全身を揺るがすような振動。異様な熱気。そして、どこからともなく漂う甘ったるい匂い。


「これは...侵入者の気配だ!」


チン之助の声は緊張に満ちていた。


彼の体の光るラインが激しく点滅し始める。


「緊急事態だ!全システム警戒態勢に入れ!」


ウン太は混乱していた。


「何が起きているんですか?」


チン之助の目には、今までに見たことのない真剣な光が宿っていた。


「バイラスター...奴らが来たんだ」


その瞬間、体内全体を揺るがす轟音と共に、壁から緑色の粘液が噴き出し始めた。


「逃げるぞ!ウン太!」


チン之助はウン太の手を掴み、走り出した。


二人の前には、これから始まる前代未聞の冒険が待ち受けていた。体内ワンダーランドの運命は、最も不釣り合いな二人組の手に委ねられたのだ。

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