第七話 渇きの夜と、重なる影
月が高く昇った深夜。
アジトの一室――そうたは横たわりながら、息を吐いた。
「……ねえ、ふうり」
「ん……?どうしたの?」
布団の端で本を読んでいたふうりが顔を上げる。
「ちょっと……お腹すいたかも」
「え?」
ふうりは目を瞬かせた。
そうたはゆるく笑いながら、首をすくめる。
「僕らにとっての“お腹すいた”って、ちょっと違うけどね」
「そっか……血、だよね……?」
「……うん。でも、君の体のことを考えると、何度もは無理できない。だから我慢しようと思ってたんだけど……」
そうたが視線を逸らしながら、ぽつりと呟く。
「君の匂いが、強くなってて。近くにいると……ほんと、抑えるの大変」
ふうりの頬が、ふっと熱くなる。
「……吸っていいよ」
「……本気?」
ふうりはそっとうなずいた。
「私、そうたが我慢してるの、見てるほうがつらい。大丈夫だよ、少しだけなら……」
そうたはしばらく黙っていたが、ゆっくりと体を起こして、彼女に向き合う。
「ありがとう。……でも、吸うって行為は、ただ血をもらうってだけじゃない。
契約した今、君が感じる“絆”も、 “熱”も――全部、僕に伝わってしまう」
「……うん。わかってる」
ふうりはその瞳を、まっすぐに見返した。
そして、服の襟元を指でそっと引き、うなじを差し出す。
「……いいよ。私、そうたに触れられるの、怖くないから」
ほんの一瞬、ためらったあと。
そうたは静かにふうりに口づけるように顔を寄せ、そっと牙を立てた。
――チクリ、とした痛み。けれど、そのあとは不思議な温かさと、胸の奥がじんわりと熱くなる感覚。
(……あったかい)
ふうりの瞼が自然と落ちていく。
そうたの手が、そっとふうりの背を抱き寄せた。
「……ごめん、止まらないかも」
「……止めなくて、いいよ」
理性を越えてしまうほどに、心が重なった夜。
それはただの“吸血”ではなく、
ふたりが本当の意味で繋がった、運命の夜だった。
――その事実が、これからの未来をどう動かすのか。
ふうりも、そうたも、まだ知らなかった。