第五話 契約と誓いと、兄のまなざし
夜明けが近づく頃、ふうりはそうたの背を借りながら、ふうまの待つアジトへと戻った。
だが――
「ふうりッ!」
怒号とともに、ふうまが駆け寄ってくる。
その瞳に浮かんだのは、安堵と、そして……怒りだった。
「無事でよかった……けど、なんで“コイツ”と一緒にいる!?何があったんだ!」
「……落ち着いて、ふうま」
そうたが遮るように前に出るが、ふうまはその姿を見るなり目を見開いた。
「その傷……吸血したのか?」
「……あぁ。ふうりの血を借りた」
その瞬間、空気がぴりついた。
「おまえ……何してくれてんだよ」
「あいつは俺の、大事な妹なんだぞ」
ふうりがすぐに間に入る。
「やめて!私がそうたに血をあげるって、自分で決めたの」
「しかも、“血の契約”まで結んだっていうのか……?」
ふうまの声が震える。
「それって……もう、あいつの“眷属”になったってことだぞ」
「半分、吸血鬼みたいなもんなんだぞ……!」
「……ふうりは、僕が守る。たとえ誰に否定されても」
「ふざけんな!」
ふうまが拳を振り上げたその瞬間――
「そこまで」
静かに、だが重みのある声が響いた。
「……さとる……」
さとるが現れると、その場の空気が一変した。
「ふうまの気持ちもわかる。でも、本人が選んだことなら……まずは話を聞け」
「……さとる。君には……怒られそうだな」
そうたの冗談めいた声に、さとるは目を細めた。
「……正直、殴りたい。でも」
「ふうりの命を助けたのは、おまえだろ?」
「ふうり」
「おまえは……どっちなんだ?そいつを“吸血鬼”として見てるのか、 “そうた”として見てるのか」
その問いに、ふうりは黙った。
心の奥で、何かが揺れていた。
“そうた”と目が合うたびに、胸の奥が熱くなる。
(怖くない。吸血鬼なのに……怖くない。
私のために、命を張ってくれた。あの瞳が、ずっと私を見てた)
「……私は、そうたを信じたい」
「吸血鬼じゃなくて、私の“幼なじみ”として……」
さとるが一瞬だけ眉をひそめたあと、ため息をついた。
「ったく……」
「簡単に許すわけじゃない。でも、今は……命を最優先にする」
ふうりはそっと、そうたの袖を握る。
「ありがとう……私、後悔してないよ。君と契約して」
そうたは柔らかく微笑んだ。
「……僕も、君と繋がれたことが、嬉しい」
でもその笑みの奥に、どこか切なさが混ざっていることに、ふうりはまだ気づいていなかった。