第三話:覚醒の夜、君を選んだ理由
その夜、ふうりは初めて知った。
自分の血が、どれほどの価値を持ち、どれだけの“命”に繋がっているのかを。
そして、そうたが何を背負い、何を捨ててきたのかを――。
古びた洋館。
そうたが今、ひとりで暮らしているという場所。
ふうりはそこへ、ふうまとさとるに見送られながら足を運んだ。
「……ここに来てくれて、ありがとう」
そうたは優しく笑ったけれど、その笑みの奥には深い哀しみがあった。
「ねぇ、そうた……どうして、吸血鬼になったの?」
「あの日、私に何も言わず消えた理由を、ちゃんと聞かせて」
ふうりの言葉に、そうたはしばらく沈黙した。
そして、静かに語り始める――
☁️【過去】数年前の冬
「ふうり……っ!」
幼なじみとしていつもそばにいたあの日。
ある晩、ふうりが吸血鬼に襲われた。
まだ“稀血”のことも知らなかった頃。
彼女は重傷を負い、血を失い、命の灯が消えかけていた。
「誰か……誰か助けてくれ!!」
そうたが叫んだとき、現れたのは――まさとだった。
吸血鬼の長である男。
冷ややかな瞳でふうりを見下ろし、こう告げた。
「その少女の命が惜しいか?」
「ならば、お前が代わりに“夜の眷属”となれ」
迷いなどなかった。
ふうりを救えるなら、自分の命などどうなってもよかった。
「……僕は、彼女を守りたい。何者になっても」
そしてそうたは、契約を交わし、血を受けた。
その代償として――
人としての生を捨てた。
「……それが、僕が吸血鬼になった理由」
「君を守るためだった。……でも、それが正しかったのか、ずっとわからなかった」
そうたの声は震えていた。
ふうりの胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
「……バカだよ、そうた。何も言わずに消えて……勝手に決めて……」
「でも、ありがとう」
「私のこと、守ってくれて。生きててくれて、本当に……ありがとう」
涙が、頬を伝う。
「私はもう、ただ守られるだけじゃいたくない」
「私の血が鍵なら――運命だろうと戦ってみせる」
「あなたと一緒に」
そうたの瞳がわずかに見開かれた。
「……ふうり」
次の瞬間――
バリーンッ!
洋館の窓が割れ、黒い影がなだれ込んでくる。
「っ、来たか……」
「ふうり、後ろに!」
吸血鬼の刺客たち。ふうりの血を求める、 ‘’異能の覚醒”を目指す者たち。
「させない! ふうりは渡さない……!!」
闇の中、そうたの目が赤く光る。
この夜、ふうりとそうたは
本当の意味での“共闘”を始めた。