第二話:告げられた真実、壊れる日常
「そいつはもう“人間”じゃない!!」
ふうまの声が夜の静寂を切り裂いた。
目の前のそうた。
懐かしくて、優しくて……でも、確かに“吸血鬼”の瞳をしていた。
「……っ、兄さん、待って! そうたは、私のことを……」
「ふうり、後ろに下がれ」
そう言ったふうまの目は、いつになく鋭かった。
妹を守る者の目。吸血鬼に一切の情を許さない――冷たい覚悟がにじんでいる。
「……僕は、ふうりを傷つけるために来たんじゃない」
そうたの声は静かだった。
けれど、その一歩がふうまにとっては脅威だった。
次の瞬間、銀色の刃が振るわれた。
「兄さんやめて!!」
ふうりが叫ぶより早く、そうたの身体が宙を舞う。
そして、路地裏の壁に叩きつけられる。
「――ぐっ……!」
「吸血鬼に情けをかける暇なんてねぇよ。お前らは血に飢えた化け物だろうが」
背後から、もう一人の男が姿を現す。
黒いロングコートに、無表情な顔――そう、彼の名はさとる。
「ハンター……!」
そうたの顔色が変わった。
「ふうまの依頼でな。稀血の妹を守るために雇われた」
「さとる……さん?」
ふうりが戸惑う中、さとるは淡々と告げる。
「そいつが“吸血鬼”である以上、処理するのが俺の仕事だ」
「待って、違うの! そうたは私を助けてくれたの! 私を狙ってきた奴らから、あのときも……っ」
ふうりの叫びが、場の空気を止めた。
「そうたは、私の――幼なじみなんだよ……!」
言葉が途切れる。
震える唇を噛みしめ、ふうりはそうたの目を見つめる。
「……あのとき、消えたのは……私を守るためだったの?」
沈黙のあと、そうたは微かに頷いた。
「……君の血が、異能”を呼ぶ鍵だから」
「狙われることがわかってた。だから僕は……君から離れた」
ふうまが言葉を失う。
そして、さとるがわずかに眉をひそめた。
「……異能、だと?」
「そう。君の妹の血は、吸血鬼にとって“覚醒の導火線”になる」
「ある者は力を暴走させる。ある者は新たな能力を得る。ある者は……命すら繋ぎとめる」
「だから、君は狙われている。ふうり――君の血が、世界を揺るがす鍵になるんだ」
月が雲に隠れた瞬間、沈黙が場を包む。
そして、ふうりは気づく。
これまでの日常は、もう戻らない。
「……それでも、私は……自分の意思で動きたい」
「だから、教えて。そうた……全部、話して」
ふうりのその瞳は、もうただの少女のものではなかった。
そうして、運命を変える一夜が始まった――。