第一話 再会の夜、牙は微笑む
この物語は、「血」と「絆」をテーマにした、ちょっぴりダークで、でも真っすぐな恋のお話です。
人と吸血鬼という違う種族の間で揺れる感情――
運命に抗いながらも、ただひとりの人を想い続ける姿を描きたくて、
この物語を書き始めました。
切なくも温かい時間を、どうかあなたと一緒に歩めますように。
放課後の帰り道。
夕暮れに染まった街の片隅、ふうりは誰かの視線を感じていた。
ふと足を止め、振り返る。けれど、そこには誰もいない。
(……また、だ。最近、ずっと……誰かに見られてる気がする)
街灯が灯る頃、ふうりはいつものように駅へと向かう。
けれどその日は、いつもと少し違っていた。
「――ふうり?」
耳に届いた声に、心臓が跳ねる。
信じられない。その声は、もう二度と聞けないと思っていた――。
「……そう、た……?」
そこに立っていたのは、ふうりが忘れられなかった幼なじみ。
変わらない面影、けれどどこか儚げで、異質な雰囲気を纏っていた。
「本当に……ふうり、なんだね」
優しく微笑むその唇の端から、わずかに覗いたのは――鋭く尖った牙。
ふうりは、後ずさった。
「嘘……だよね……吸血鬼なんて、そんなの……」
「ごめん。全部、話すよ。でも――」
そうたはゆっくりと近づいてくる。
その赤い瞳が、まっすぐふうりを射抜いた。
「君の血が、目覚めた。……もう、君を放っておけない」
「――君の血を狙ってるのは、僕だけじゃない」
不意に背後の闇がうねった。
数人の気配――明らかに人ではない何かが、ふうりを取り囲む。
「離れろ、ふうり!」
怒声とともに割って入ったのは、兄・ふうま。
その手には、銀色に輝く短剣。
「……やっぱり、近くに来ていやがったな。吸血鬼」
「待って、ふうま! そうたは……!」
「関係ない! そいつはもう“人間”じゃない!!」
その瞬間、ふうりの世界が大きく、音を立てて揺れた。
運命の歯車が、再び回り始める――。