第九話 【結婚って幸せってなんやろ?】
あの散々な宴の日から数日後、うちはベルゼバーンと向き合っとる。
「勇者華よ、覚悟は良いな!」
「よっしゃあ!こいやぁぁ!」
ベルゼバーンは両手からめちゃくちゃな量の魔力を迸らせながら向かってくる。
うちもスキル全開で迎え撃つ。
「おりやぁぁぁぁ!」
2人がぶつかり合う瞬間うちはこの数日間の事を思い返した。
宴の日
「もう結婚しないだと?どういうつもりだ?」
ベルゼバーンはうちに詰め寄ってくる、エストアやシャーリーが慌ててフォローしにくるけど、キレたうちは辺り構わず気持ちをぶちまけた。
「もう知らんわ!どいつもこいつも結婚しよう結婚しようってうるさいねん!
こっちはなんも準備出来てへんねん!
せやのにくっつくも離れるのもないんや!
あれか!皆うちの気持ちは無視か!?
うちはまだ結婚とか考えてないねん!
せやのにあれこれ言うなボケェェェ!」
「なっ?!じゃあなんで婚活とかしてたんだよ?!」
エストアが突っ込んでくるけどうちはまだまだ叫び足らんかった。
「婚活は今思ったらちゃんとしてなかったんやぁぁぁ!
あんなもんノリでしかないわあぁぁあ!
ほんまに結婚するって事をうちはわかってなかったんや!
ほんまに誰かに愛されるってどんなに大変で凄いことかわかってなかったんやぁぁぁ!」
「なに!?では僕の求婚はどうなるんだ?」
今度はキュリオスが突っ込んでくるけどやっぱりうちは叫びまくった。
「うちはまだ人に愛される準備出来てへんのやぁぁあ!
30年以上生きてんのにまだ準備中なんやぁぁあ!
だって人に愛されるのにうちはその愛に応える自信ないんやもん!!
まだまだ全然誰のことも本気で愛せてないんやぁぁぁ!」
「ほう?ではゆっくり愛を育めば問題ないな?」
ベルゼバーンは冷静に突っ込んでくるけどうちは最後まで叫び倒した。
「もし相手を同じだけ愛せんかったら困るやんけぇぇ!
もし愛せんかったらどないすんねん!
うちは浮気や別れは絶対に嫌なんやぁぁぁ!
せやからうちが本気で愛した人としか付き合えんのじゃぁぁぁあ!」
叫び倒して肩で息するうちをエストア、キュリオス、ベルゼバーンの三人は黙って見ていた。
さすがに愛想尽きたか?おもてたら、
「じゃあ俺は華が愛してくれるまで待つよ」
エストアが決心したような顔でそない言うた。
「そうだな、僕らに出来るのは待つことだけだな」
キュリオスも賛成しよる。
「ふふふ、よかろう、では誰が華に選ばれるか、今日より我らは待機に入り待つとしよう。
華が答えを出すまで過剰なアプローチは控えようではないか」
ベルゼバーンが訳知り顔でなんやルール決めよる、しかもエストアとキュリオスも賛成みたいな空気出しとる!
「ちょいちょいちょい!今更やけどあんた魔王やで??
エストア?キュリオス?こいつ魔王やけどそんな感じでええんか??」
うちは2人に確認する。
ほなら、
「魔王も魔族も関係ねぇよ、
俺等にとって大事なのは華だけだからな」
「同感だな。華に選ばれるためなら魔王とでもゆっくり茶を楽しむ時間を作ろうではないか」
エストアもキュリオスも魔王うんぬんよりうちが大事らしい。
一体全体何があったらこないなるねん??
「はいはい、話は決まったわね?
じゃあさっそく今後について話し合いましょう?
ベルゼバーンさん?キュリオス様?こちらへ」
シャーリーが現れて場を仕切りだした。
もう2人連れて村長の家に行こうとしとる。
多分村のことやらなんやらを話し合うんやろう。
「ちょい!シャーリー待っ・・・」
うちはシャーリーを呼び止めようとしたけど、
「はぁなぁちやぁぁん!!」
森の奥深くから吹き飛ばしたはずのノルムがルンルンで帰ってきた。
しかも完全バトルモード状態で。
「華ちゃんのキッーク効いたよぉ!
じゃあ次はうちの番だよね!?あああ!華ちゃんと戦えるなんて幸せだぁぁあ!」
完全にハイになったノルムがうちに迫ってきた。
そこからうちは朝までずっとバトルモード状態のノルムから追いかけ回された。
うちが決死の一晩を過ごしてる間に、シャーリー達の話し合いは済んだみたいやった。
結局村はこのままここでひっそりと存続することになった。
ベルゼバーンはうちとの事を決着付けるまでは人間に手出しせんと約束してくれたみたいやし、
何より今は早急に魔界の安定をしたいみたいやから、ひとまず人類が魔族に脅かされる日々は終わりちゅうわけやった。
しばらくは魔界と村を行ったり来たりしながらうちが答え出すんを待つスタイルなるみたいで、
用があればいつでも言うて来いって事らしい。
キュリオスも次期領主の立場使ってこの村を守る約束してくれた。
この森をプラムフィールド家の私有地にして誰も入れんようにしてくれるみたいやった。
ギルドの視察自体はうちが答え出したら終了するみたいで、
それまではギルドとプラムフィールド家の往復になるみたいやった。
ちなみにエストアは変わらず傭兵依頼こなしながらうちの答え待つらしい。
てか皆うちの事待ちすぎちゃう?!
忠犬ハチ公でもそない待たんやろ?!
うちは皆がうちを待つプレッシャーに押しつぶされそうになりながらひとまずギルドに帰ったんや。
ほんで数日間ゆっくり考えを整理してたら、ベルゼバーンから呼び出されたんや。
用向きは一対一の決着。
恋に関しては待つと決まったけど、
戦いはまだ決着ついてないし、魔族の掟でどちらが強いか決めなければならないって事で決闘を申し込まれた。
うちはまだ頭ん中モヤモヤモヤモヤしてたから、決闘して頭スッキリさせるんもありやろう、と思って決闘に応じた。
「よっしゃ!ほなベルゼバーン!容赦せえへんで!?勝っても負けても恨みっこなしや!」
「ふふふ、よかろう!我が力思い知るが良い!」
ほんでうちらは激突してやり合うことになったんや。
ほんで最初のぶつかり合いで意識が真っ白なったおもたら、
うちはほんまに真っ白な空間に来てもうた!
うちが目覚ますちゅうか、激突して意識途切れたみたいな感じなって、目開けたら真っ白な空間に一人ポツンとおった。
ベルゼバーンもおらんしなんやこれ?
おもてたら、
「華?」
うちを呼ぶ懐かしい声がして振り返ったら死んだはずのオカンが立ってた。
『はい!?!?』
エストア視点
俺は思い煩わっていた。
もちろん華の事についてだ。
俺は華の事が好きだ、誰にも渡したくない。
あのキュリオスの坊っちゃんや魔王にだって負けたくない。
けど華自身の気持ちを俺は考えれていなかった。
華は俺やキュリオスやベルゼバーンの想いすらちゃんと受け止めて、その上でずっとずっと考えてくれていた。
なのに、俺達はただ自分の気持ちをぶつけるだけでそんな華の気持ちを考えれていなかった。
「はぁぁぁぁ、俺はなんてバカで最低な奴なんだ。
絶対俺なんて選ばれねぇよ」
「・・・あんたねぇ、せっかく私がゆっくりしてる時にわざわざきて愚痴と鬱な空気振りまくの止めてくれるかしら?」
俺は今冒険者ギルドで仕事中のシャーリーに愚痴を吐きにきていた。
シャーリーは迷惑そうだが、他に吐ける奴がいないから仕方ない。
「だってよぉ、キュリオスはガキだけど次期領主で立場は俺よりずっと上じゃねぇか?
ベルゼバーンなんて魔界の王だぜ?
魔界の王の妃になれば何でも出来るぜきっと。
それに対して俺の嫁さんになっても大した贅沢させてやれねぇしなぁ。
はぁぁぁぁ、もう無理だあ」
俺はますます落ち込むが、シャーリーは黙って俺の頭に重めの本を角から落としてきた。
「いってぇ!!な、なにすんだよ!?」
「あんたウザいわよ、つまりあんたの話だと、華は信頼や愛より、立場やお金に目が眩む女だと言う事になるわよね?
あんた、私の友達をバカにしてんの?」
シャーリーにそう言われて俺はハッ!とした。
確かにそうだ、華は絶対そんな物に目が眩んだりしない奴だ。
なんでそれを言われるまで気づかないんだ俺は。
「・・・そうだな、確かにシャーリーの言う通りだ、華は立場や金なんかじゃ絶対揺らがない。
そんな華を俺は好きになったんだからな」
「わかったならあっち行きなさい。仕事の邪魔よ!」
俺はギルドから追い出された。
けどさっきまでより頭がスッキリしてる。
だからこそ今俺がやるべき事がわかっていた。
「よし!じゃあまずはキュリオスからだな!」
俺は目的の為に動き出した。
キュリオス視点
僕は今ギルドの資産管理についてのシャーリーからの書類に目を通していた。
大小様々な数字の羅列が頭に入ってくる。
僕は全て理解し適切な処理を都度行っていくが、
もし華がこの書類をみたら何と言うだろう?と想像したら笑いが込み上げてきた。
『なんやこれ!数字よりなによりこんなん字ちっこ過ぎてわけわからんわ!
え?字デカくしたらわかるかって?
そんなん字を家くらいデカくしてもわからんわ!ははは!』
なんて言うんだろうと思うとホントに愉快な気持ちになった。
僕は華が好きだ。
心から愛している。
もしも華が『自分と一緒になるならプラムフィールド家を捨てろ』と言ってきたら迷わず捨てれるくらいに愛している。
だがそんな愛が華を苦しめていたようだった。
僕の幸せは華が幸せであることだ。
華が幸せになれないのなら僕の愛は封じよう。
いつかもし華が振り向いてくれたら惜しみなく愛を注げばいい。
だけどそこまで考えてから僕は自分が選ばれないであろうと思い気持ちが落ち込むのを感じた。
華はギルド仲間のエストアとかなり親しげだった。
2人には僕が入り込めない絆があるように思う。
だから無茶をして魔獣討伐なんてしようとしたが、見事に失敗してしまった。
自分は選ばれない、けどもし選ばれたらどんなに嬉しいだろう。
そのことで最近は一喜一憂する毎日だ。
僕の両親は一般的な理想の夫婦とは言えなかっただろう。
両親は互いに愛し合ってはいたが、
なにせ人間とバーバリアンの夫婦だ。
母はバーバリアンの中でも優秀な戦士だった。
だからこそ常に戦いを求め家に居ない事が多かった。
父はそんな母に文句も言わず付き合っていた。
母の為に国内外から強者を呼び寄せたり、
母の遠征の為に費用を捻出したりと甲斐甲斐しく接していた。
しかし結局母は戦いの中で果ててしまった。
母を失った父は嘆き悲しんだが、
僕は疑問に思う、
何故父は母を止めなかった?
何故家にいるように言わなかった?
何故僕から母を奪うような行為に手を貸していた?
・・・結局答えはわからない。
父と母の問題に息子の僕が口を挟むわけにはいかない。
けどそんな疑問が僕の心に深く傷を残していた。
だから僕は最初は強さを重視して妻を探した。
母のように戦場で死なぬような強さの女性を探す。
それが大前提だった。
けどそれが間違いだと誰も教えてくれなかった。
華が教えてくれなかったら僕は父と同じ過ちをしてしまう所だった。
華はそんな僕を許してくれた。
普段から僕を特別扱いしなかった。
優しくて、活発で、強くて美しい。
華は僕の理想の女性だった。
けど、華がいくら理想通りの女性でも、結局は華が決める事だ。
華が決めて自分達はそれに従う。
僕とエストアとベルゼバーンが決めたルールを僕は破るつもりは無かった。他の2人も同じだろう。
「・・・しかし、ただ待つしかないというのは辛いものだな」
僕が独り言を言っていると、執事から客が屋敷に来たと報告を受けた。
僕は客間に出向くとそこには荒々しくも勇ましいあの戦士が居た。
「よう、いきなりすまねぇな、ちょっと華の事で話があってよ」
僕はエストアからどんな華の話が聞けるかワクワクしながら執事に茶を用意させた。
ベルゼバーン視点
勇者華、その名は我にとってバラの美しさと茨の鋭さを思い起こさせる。
出会った時はまだ可憐な蕾であった。
未来への可能性を感じさせながらも、未だ花咲かぬ蕾。
ただそれだけの存在だった。
何度か戦い、切り合い、死合う。
その度に蕾は徐々に花開いてゆき、今や立派なバラとなった。
あまりに美しいそのバラは手折るのを躊躇わせた。
それよりも我が手中で永遠に愛でたい。
そんな想いが我の中に生まれていた。
強く、美しく、可憐で、激しい。
なにより自由なその花弁を愛でていたい。
人間と数百年争ってきた魔王にあるまじき感情だが、我の想いは止めれなかった。
そもそも我には人間の義父がいた。
母は魔族、実の父親も魔族、
しかして実父は我の誕生を待たず人間と争い死へ向かった。
母はまだ幼い我をかかえ途方に暮れていた時に我が義父となる者と出会った。
義父は人間ながら魔族の母と幼い我を不憫に思い、人間の迫害と、
同族だとしても弱者は貪る魔族達から我らを匿った。
母は最初こそ人間の義父を毛嫌いしていたが次第に愛に目覚めた。
義父もまた母を愛し、
そして我も愛した。
数十年の穏やかな時間。
義父は実父とは違い寿命で天寿を全うした。
最後まで穏やかに過ごし幸せに旅立った。
しかし母は再び夫に先立たれ病んだ。
もはや母に生きる活力はなく、そのまま2人の夫の下へ旅立った。
我は母には特段なにも思わなかった。
2人の父にもなにも感じなかった。
しかし、魔族でありながら、莫大な魔力と強靭な肉体を持ちながら、愛する者と添い遂げれない弱さに怒りを覚えた。
我は自らを鍛え上げた。
何があろうと愛する者を守り、共に生き、共に死ぬ為に力をつけた。
そして気づけば魔界の王になっていた。
だが圧倒的地位を得ても愛は得られなかった。
そしてそんな愛を探す我の前に現れた一輪の花。
それが華だった。
我と同じく愛に飢え、
我に並ぶ強さを持ち、
しかも人間でありながら長命である。
華とであれば、我が母が成し遂げれなかった、愛する人間と添い遂げるという願いを叶えれるのではないかと我は考えた。
しかし同時に華自身に惹かれた。
たまらなく欲した。
強さを愛を地位をあらゆる物を求めた我がもっとも欲した。
華さえいれば他にはいらぬ。
そう思える程に。
華を手に入れれるか、はたまた見捨てられるか、もはや賽は投げられ我の手を離れた。
あとは約束通り待つのみであった。
我ながら滑稽ではあるがそんな事実が我の身を焦がす焦燥を生み苦しめていた。
そんな苦しみに耐えているといつぞやの剣士と領主の息子が我を訪ねてきた。
どうやら華についての話があるようだ。
我は一時でも苦しみから逃れる為に話をすぐに聞く事にした。
再び華視点
「オ、オカンかぁ?!え?ほんまに??」
うちは目の前に現れたオカンに驚いて腰抜かす所やった。
オカンはうちの知るオカンの姿のまま目の前に立っとる。
うちを見て涙目なりながら黙ってる。
うちは一瞬オカンに抱きつきにいこおもたけど、
我に返ってベルゼバーンにキレた。
「・・・ベルゼバーンコラァ!
お前やってええ事と悪い事あるやろが!!
死んだうちのオカンの幻出してなんのつもりや!!?」
うちはベルゼバーンにマジギレした。
ようよう考えたら死んだオカンが異世界におるはずないし、
今のこの空間も変な感じやし、
明らかにベルゼバーンが何か幻術か催眠術かなんや知らんけどやっとるんは明らかやった。
「おらぁ!はよ出てこいや!!」
うちはなかなか現れへんベルゼバーンにイライラして怒鳴りまくった。
ほなら姿は見えへんけどベルゼバーンの声だけしてきた。
「・・・華、聞こえるか?」
「おうおうおう!ちゃぁんと聞こえてるわ!
お前どこにおんねん!はよ出てこんかい!」
うちはベルゼバーンをしばいたろ思もて呼び出そうとした。
「済まないがそれは無理だ、今は声を聞かせるだけで精一杯なのだ。
華よ、我の話を聞け」
「なんやねん!なんでもええけどまずはオカンの幻消せや!うちこんなん一番イライラすんねん!」
うちはオカンの幻を消さそうとした。
こういう一番触れられたくない部分の幻術とかほんまに好かんからや。
「それは無理だ、なぜなら幻ではないからだ。
その方は我が召喚した本物の華の母だ」
「はぁぁあ?」
「時間がない、まずは聞け。
先日我の下に例の剣士と領主の息子がやってきた。
我に華の両親の魂を召喚する手伝いをして欲しいとの用向きだった」
「なんでやねん!?」
うちは剣士はエストア、領主の息子はキュリオスの事やとわかったけど、
なんで2人がそないな事頼むんかわからんかった。
「我は剣士から華、お前の過去について聞かされた。
両親の不貞が原因で家族がバラバラになり、
母が早くに去りその事をお前が後悔している事、
その母に報いるため結婚し幸せになろうとしている事、
全て聞かせてもらった」
「・・・あんのおしゃべりクソ剣士!」
うちは自分の過去をペラペラ話すエストアに怒り感じたけど、
今はそれどころやなかった。
「ほんで!?それ聞いてどないしてん!?」
「領主の息子も同じ話を聞き、我らの想いは一つになった。
それは華、お前をわずかな時間でも両親と再会させてやりたいという想いに。
そこで領主の息子がギルドを含めた様々な機関に情報収集をさせ、
ダンジョンや危険な場所の情報は剣士は自ら赴き、
集めた情報で得た技がこの霊魂召喚の儀だ。
数百年前に失われた技術ではあったが、地道な情報収集のおかげで我は会得出来た」
うちは自分が知らん間に何勝手しとんねん!ってなったけど、三人が自分の為に頑張ってくれた気持ちは素直に嬉しかった。
「しかし霊魂召喚は禁術であった。
技の特性もさることながら、発動に必要な魔力が膨大だからだ。
魔力が足りないまま発動すれば術者の命を削り死に至らしめるだろう。
それは我といえど例外ではない。
我の魔力でも発動出来るかどうかは五分五分、賭けになってしまう。
だから華、お前の力を借りたのだ」
「はぁ?うちなんもしてないで?」
「先ほどの力のぶつかり合いで、お前の力を術式発動に使わせてもらった。
術は無事発動し、今は我の魔力でこの空間を保っている。
・・・さぁ、話は終わりだ。
召喚した霊魂はこの空間でしか存在出来ない。
空間が崩れたら再び去るだろう。
華、存分に話すが良い」
それだけ言うてベルゼバーンは黙ってもうた。
うちは色々な情報がてんこ盛りで頭わやなったけど、
とりあえずオカンに向き合った。
「えっと?じゃあほんまなん?ほんまにオカンなん?」
「うん、オカンもびっくりしたけどそうみたいやわ。
死んだ!おもたらいきなりまた華に会えたんは嬉しかったけどな。
まぁそのコスプレみたいな格好は全然似合ってないけどな!」
オカンはうちが覚えてるオカンそのままやった。
口調や仕草や表情、全部うちが大好きなおかんやった。
・・・もうええ、これが幻なんかどうなんかどうでもええ!!
「オカァン!!」
うちはオカンに思いっきり抱きついて号泣した。
「ちょっ!痛っ!華!あんたごっつ力強かったんやなぁ!オカン死んでまうわ!
ってもう死んでるんやった♪」
「オカァァン!あいたがったぁ!!うわぁぁあ!ああああぁ!!」
うちはオカンのボケにツッコむ余裕も無かった。
「ちょっとちょっと!あんた泣きすぎやで?!
もう30にもなるんやからそんなピィピィ泣きな!」
「だ、だっでぇ!お、おがん死んだんうぢのぜいやがらぁ!
うぢがく、くろうばっがりかけたがら、お、おがん身体わるぐじで、し、死んでもうだんやん!
ご、ごごめんなぁお母さんごめんなさいぃ!」
うちは号泣しながらオカンに土下座した。
だってほんまにずっと思うてたんや、
オトンがおらんくなったんは不倫のせいやけど、
その後の生活を支えてくれたんはオカンや。
うちは何にもしてない。
ただ勉強してただけ、オカンが死ぬまで一銭も稼いだ事ない。
それどころかうちの学費稼ぐ為にオカンはめちゃくちゃ働いてた。
その結果が早死や。
そんなん完全にうちのせいやん。
いや、それ言い出したらうちが居らんかったらオトンと離婚しても再婚でけたかもわからんし、
うちが居らんかったらオトンも不倫せんかったかも、
うちさえ産まれへんかったら良かった、
そない思うからうちはオカンに頭下げたけど・・・
「このアホタレ!」
ビシッ!
「痛っ!」
オカンはうちの頭にチョップかましてきた。
昔からオカンはうちの事をめったに怒らんけど、怒る時は初めにまずは頭にチョップがお決まりやった。
うちは懐かしいオカンのチョップに嬉しくなった。
「へへ、なんや久々のオカンチョップ嬉しいなぁ」
「やかましいわ!何嬉しがっとんねん!
あんた今怒られてるんやで!
ええか?オカンが死んだんは華のせいとちゃう。
ただオカンの運が悪かっただけや」
うちはオカンならそない言うやろおもてたけど、あんま納得は出来ひんかった。
「あんた、納得してへんやろ?」
「うっ、鋭い」
「はぁぁ、ええか?オカンが華の為に働くんは当たり前や、だって親やもん、それが当たり前やねん。
身体悪くしたんはオカンの運が悪かっただけ。
それにオカンはなんも後悔してへんよ?
まぁ、華の花嫁姿見られへんかったんはちょっとだけ心残りやけどな」
「・・・オカン」
「あ、あとオトンの件も華はなんも悪くないからな?
・・・むしろあの件はオカンが悪かったんや。ごめんな?華」
うちは急に謝られて驚いた。
オカンかてあの件ではなんも悪ないはずやのになんで??
「やめぇや、オカンかて悪ないやんか?なんで謝んの?」
「ん~~まぁそれは本人と話したら早いかもやな。
・・・あんた、もう出てきぃ?」
オカンが呼びかけたら急にオトンが現れた。
その瞬間うちはベルゼバーンが
両親の魂を召喚
って言うてたんを思い出した。
「はぁぁぁぁ!お前もおんのかい!なにしに来たんや!?」
うちはオトンに向かって睨みつけた。
オトンは職人してた頃と変わらん姿で現れたけど、やっぱりしゅんとして申し訳なさそうやった。
「は、華、久しぶりやな?げ、元気してたか??」
「やかましいわ!うちはなにしにきてんって言うとんねん!!」
うちはオトンに対する怒りが収まらんかった。
ほなら横からオカンが口挟んできた。
「華!やめとき!お父さんを悪く言うたらあかん!」
「なんでやねん!こいつが全部悪かったんやん!
こいつが浮気なんてするから全部めちゃくちゃなったんやん!」
「ちゃうねん!華!話聞いて!」
「嫌や!うちはこいつ絶対許さんからな!何の事情あっても絶対許さ・・・」
「すまんかった!!!」
オトンが大声出して土下座した。
肩震わせて床に涙流しながらの謝罪やった。
「すまん!全部オトンが悪かったんや!
華に迷惑かけて、花子(オカンの名前や)に苦労かけて死なせたんは全部オトンが悪かったんや!
ほんまにすまんかった!」
オトンは涙ながらに謝罪するけどそんな分かりきった事言われて今更許せるかいな!
うちは改めて怒鳴りつけたろおもて口開きかけたけど、
今度はオカンもオトンの隣に座って土下座しだした!
「華ちゃうねん、孝二さん(オトンの名前や)は悪くないねん。
ほんまに悪かったんはオカンやねん」
「花子!もうええて!お前は悪ないから!」
「いや、孝二さんだけに罪かぶせられへんわ!うちも悪かったんやしちゃんと謝らせて!」
「・・・花子」
「・・・孝二さん」
二人は一気に自分らだけの世界作ってまう、うちは頭爆発しそうなくらい混乱した。
「待って待って待って!え?なんで二人そんな感じなん??
なんでオカンが悪いん?浮気したんオトンやろ??」
混乱するうちにオカンが覚悟決めたみたいに向き直った。
「・・・今から華に全部話すわ」
うちはオカンから全部の事情聞いた。
オトンが浮気したんはホンマやった。
せやけどオカンも合意の上の浮気やった。
合意の上の浮気ってなんやねん!
ってうちはツッコんだけど、二人はちゃんと説明してくれた。
オトンの浮気相手の奥さんは元はオカンとオトンの幼なじみらしい。
昔は三人で仲良く遊んだ大事な友達らしかった。
ほんでオトンはずっとその幼なじみが好きやった。
オカンはオトンの事好きやったけど、オトンは幼なじみ一筋やったから諦めてた。
せやけど幼なじみの家はなんや名家らしくて、幼なじみの意思は無視して後の旦那さんのとこに嫁入りさせよった。
オトンは当時色々頑張ったみたいやけど嫁入り止めれんかった。
オカンいわく、幼なじみもオトンの事好きやからこれ以上迷惑かけとうなくて自分は嫁入り受け入れたみたいやった。
うちは漠然と三人の中で色んな想いやら駆け引きが当時あったんやろなぁって思うた。
ほんで傷心のオトンにオカンが告白したらしい。
『自分は二番目でええから妻にしてほしい、
一番好きなんは幼なじみのままでええから』
って言うたって聞いてうちはオカン凄いな!思うた。
実際オトンはしばらくはそんなん申し訳ないから言うて断ってたらしいけど、
オカンの圧に負けて結婚したんやと。
せやけどオトンいわくオカンの事もその時はちゃんと一番好きやったと、幼なじみの事はもう忘れて前向いたらしかった。
ほんで月日が流れて、
うちが産まれてしばらくした時、オトンとオカンの所に幼なじみの情報が偶然舞い込んだ。
なんでも幼なじみは全然幸せな結婚生活しとらんみたいやった。
旦那さんとの間に子供がなかなかでけへんくて、それが原因で旦那の実家から詰られたり、旦那さんからも冷たく扱われてるちゅう話やった。
しかもその旦那は幼なじみ以外にも女作って遊び呆けてるみたいやった。
オトン達はすぐ幼なじみに連絡して事情聞いた。
話はほんまで今の生活はほんまに辛いらしい。
離婚しようにも実家との絡みがあるからでけへんらしくてがんじがらめやった。
せめて二人は話聞いたり、たまに会ったりして幼なじみを癒してあげた。
そんな流れで幼なじみとオトンが二人で会った時に間違いが起きた。
「やっぱりやっとるやんけ!」
うちは思いっきりツッコんだけどオカンが止めてきたから話の続きをとりあえず聞いた。
ほんでオトンはすぐオカンに土下座して謝って、幼なじみもめちゃくちゃ謝ってきたらしい。
二人はほんまに流れの中で起きた間違いで、もう二度と会わないし、なんやったら幼なじみは責任とって死ぬくらいの勢いやった。
オカンは二人に怒り感じたけど、でもそれ以上に二人が自分を大切に想う気持ちも伝わってきたから逆に提案した。
『このまま孝二さんを二人の旦那にしてまうんはどないや??』
この提案に二人は大反対したけど、オカンの粘り強い説得で三人の不倫生活が始まった。
オトンは週の半分以上はオカンやうちと過ごす事。
せやけど残りはちゃんと幼なじみを妻として愛して癒す事。
子供が出来たら旦那さんの子ちゅう事にするか離婚するか決める事。
もし離婚したら今度はオカンか幼なじみかどちらか一人に決める事。
こんだけのルール決めて三人は不倫生活をずっと続けた。
最初はオカンがイライラしたり、
オトンが申し訳なさそうにしたり、
ギクシャクする事もあったみたいやけど、
でもだんだん上手くいきだした言うから人間の慣れって凄いわぁってうちは思うた。
てか合意の上の不倫生活とか昼ドラか!
重めのドラマに出来るんとちゃうか??!
そんなん思いつくオカンにうちはちょっと引いたわ!
うちは色々言いたい事もあるけどグッと飲み込んで話最後まで聞いた。
不倫生活は上手くいってた。
幼なじみはえらい元気なったみたいやし、
うちや誰にもバレてなかった。
せやけど終わりはきた。
とうとう幼なじみに子供が出来たんや。
父親はオトン、DNA鑑定もしたから間違いないみたいやった。
せやけどそのDNA鑑定が不味かった。
鑑定した機関に旦那さんの知り合いが勤めてて、
あれよあれよと言う間に不倫がバレた。
そこからは怒涛の展開で、
幼なじみは身重のまま家追い出されて、
うちは知らんかったけどオトンに相手の旦那さんから多額の慰謝料請求されたみたいやった。
ほんで三人は話し合った。
長い長い話し合いと謝り合いがあった。
誰も怒りはなくて、三人は幼なじみの子供とうちをどうやって守るかに集中してた。
出た結論は、オトンが全部の罪被る事。
オトンが全部悪かったようにしたら世間もうちも納得出来る。
離婚してオカンと離れたら慰謝料の支払い面でも迷惑かけへん。
もちろんオカンと離婚しても幼なじみと一緒にはならへん。
二人から離れて金銭面でだけサポートする。
それがオトンが出した結論やった。
オカンと幼なじみは反対したけど、オトンは絶対譲らんかった。
だから妥協案として、金銭面のサポートは幼なじみだけにしてほしいとオカンは言うた。
幼なじみはこれから出産や子育てが待ってる。せめて金銭面でだけは手厚くサポートしたってくれとオカンから言うたらしい。
今度はオトンが反対したけど最後にはオトンも渋々やけど納得した。
幼なじみは反対しても無駄やとわかって、オトンとオカンに何回も何回も謝って、頭下げて泣いてたらしい。
ほんで結果はうちの知る通りや。
オトンが悪者になって、オカンも演技してオトンを責めて、
離婚してうちと二人の生活をオカン一人で支えて。
オトンは幼なじみからも離れて一人で暮らす。
まぁ救いない話やった。
「・・・まぁ話はこんな感じやわ、今まで黙っててごめんな?
華が就職したら話そう思うてたんやけどうちその前に死んでもうたからな〜」
「いや、そんな軽く死んだ言うなや!
てかうちはどんな感情でおればええんや!?」
うちは今頭ン中をぐるぐるぐるぐる色んな感情が巡りまわってクラクラした。
じゃあオトンは悪くなかった?
いやでもきっかけはオトンの間違いのせいやし?
せやけどオカンから不倫始めよう言い出したしなぁ?
でも受け入れたオトンにも責任ある?
ん~~わからんなぁ!?
「華、難しく考えるな。悪いのはオトンや。
オトンが浮気なんてせんかったら良かったんや、せやから悪いのはオトンや」
オトンはそない言うて頭下げてる。
オカンはそんなオトンを見て呆れてた。
「この人まだこんなん言うてるわ〜
確かに最初の浮気は腹立つけど、
でもその後のはうちも納得の上やし、
離婚してからもええ言うたのにお金くれてたやん?
うちらにお金渡すために無理して働いて身体壊して早死するくらい。
あの子にもちゃんと生活費渡して、
慰謝料もちゃんと払って、
うちらにまでお金渡すって、まったくどんな働き方したんや」
「それは俺なりのケジメや。気にせんでええ」
うちはオカンの葬式に来たオトンがくたびれてたんを思い出した。
あれば長年無理な働き方をしてたからやった、しかもそれはうちらにお金渡す為にでもあったと知ってうちは居た堪れんくなった。
「あ〜う〜な、なんて言うたらええんかわからんけど、
とりあえずオトン!ごめん!そんな事情も知らんとえらい冷たくしてもた、ごめんなさい」
うちはオトンに頭下げるけどオトンが慌ててうちの頭上げてきた。
「やめぇや!華が怒るんは当たり前やし冷たくしたんは当然や!
何回も言うけどオトンが悪かっ・・・」
オトンはそこまで言うて途中で言葉切った。
「・・・あかん!俺らを呼んでくれた人の魔力が尽きかけとる!
もう時間ないわ!」
うちはそない言われて慌ててベルゼバーンの魔力を探知してみた。
ほならもう枯渇寸前で、いつこの空間が壊れてもおかしなかった。
「あちゃあ!ほんまかいな!華!何か聞きたい事、話したい事ないんか??
今が最後のチャンスやで!?」
オカンに急かされてうちはめちゃくちゃ慌てた!
どないしよ!?話したい事、聞きたい事めちゃくちゃある!
せやけど時間は多分5分も無かった。
ほんでうちは頭フル回転させて一つの事を思いついた。
「あ、ほならオカン達に聞きたいんやけど・・・」
うちはエストア、キュリオス、ベルゼバーンの三人から求婚されとる事を相談した。
オカンはうちが三人から求婚されとる事にめちゃくちゃびっくりして、
オトンはめちゃくちゃキレてた。
「なんやと!?華が結婚!?まだ早いやろ!!
その三人はどんな奴らなんや!?ちゃんとした男なんか!??」
「・・・オトンは無視してええからな?
華、誰と結婚するか、結婚しないか、決めるの華の自由やで?
せやけど華の人生の半分あげるんやから、よう考えるんやで??」
オカンは冷静に話してくれたけどオトンがめちゃうるさい。
「ええか華!結婚相手はめちゃくちゃ慎重に選ばなあかんねんで?!
まだ華には結婚早いんちゃうか?!
ゆっくり考えて相手に命預けれる!くらいに思えてからでええんちゃうか!?」
「あんたうるさいなぁ!うちらはもう死んでるんやから華の好きにさしたり!」
オカンが微妙にツッコみにくいフォローの仕方でフォローしてくれた。
うちはフォローも嬉しかったけど、二人が離婚する前みたいな感じで居てくれて幸せやった。
「ありがとう、オカン、オトン。
死んでから見れるか知らんけど、ちゃんとうちが結婚して幸せなるん見ててな??」
うちは涙ながらにそない言うたんやけど、二人は目見合わせて同時に答えた。
「「結婚だけが幸せちゃうで?」」
「はぁ?だって二人ともさっきは結婚は慎重にせぇって・・・」
「それは華が結婚したいならや」
とオカンが言うて、
「そやそや、華が幸せなんやったら結婚なんてせえへんでもええんやで??」
オトンも同意してくる。
うちは今までオカン達みたいな幸せ家庭持ちたいから婚活してたのに、
それが全部崩れた気分やった。
「はぁぁぁぁ!え?今更結婚せんでもええとか言われても!」
「もちろん華が結婚したいなら自由やで?
せやけどもう死んでるオカンらにはなんも言う資格ないからな。
オカンらのせいで苦労もかけてもうたし、これからは華の人生を自由に生きてな?
それがオカンの望みやわ」
「オトンも同じや、華が幸せなら結婚はどうでもええ。
自分が幸せやと思う生き方してくれたらそれでええんや」
二人とも話まとめていく、どうやら別れの時が近いみたいやった。
「ちょっと!オカン!オトン!なんや勝手に話まとめなや!
まだまだ話したい事あんねん!」
うちは必死に引き留めたけど、オトンとオカンはだんだん身体薄なってく。
「ああ〜あかん、もう時間ないわぁ〜
華?最後に一つだけ言うとくなぁ?」
オカンは目潤ませながら最後の言葉言ってくる。
「うちは華のお母さんになれて幸せやったよ?
色々迷惑かけてほんまにごめんな?
華が将来結婚したらオカンみたいにならんといてな?」
「・・・オカン」
「華、オトンも同じや。
オトンのせいでほんまに申し訳無かった。
華は今まで通りオトンの事は嫌いでかまへん。
せやけど一つだけ約束してくれ。
華、幸せに生きてな?オトン達より幸せに生きてな?」
「オトン!」
二人は言いたいだけ言うて消えていった。
最後まで笑顔でうちを優しゅう見守りながら消えた。
「なんやねん!うちにこれからどないせい言うんや!
結婚だけが幸せちゃうならどないして幸せになればええんや!!」
うちは怒鳴るけど誰も答えへん。
それどころか空間がひび割れて崩壊しかかっとる。
「ちゃんと最後まで見守ってぇやぁ!
ちゃんと話そうやぁ!
もう一回顔見せてぇやぁ・・・」
うちの泣き言が響きながら空間は砕けた。