第六話 【結婚したいとは言うたけど!】
うちは今猛烈に悩んどる。
いったいうちが何した言うんや。
なんでこないな事になっとるんや。
「華は僕にこそふさわしい。君は遠慮したまえ」
「うるせぇ!華はお前になんてやらん!!」
エストアとキュリオスが酒場で睨み合いながらうちを取り合っとる。
うちの目の前でや。
周りのギャラリーはめっちゃワクワクしながら見守ってるし、
シャーリーに至っては珍しくワインなんて飲みながら見物しとるし!
「お前ら止めえやぁ!こ、こんな事でケンカすんなや!」
うちは仲裁したけどさすがに、
『私の為に争わないで』
なんて歯の浮く台詞はよう言わんかった。
「華ちゃん?そこはもっとぴったりの台詞があるのに!」
うん、ノルムも黙っとこか!
てか完全に面白がってるやんな!?
「じゃあ華!お前はどうしたいんだよ!」
「そうだな、この際本人に選ばせた方が手っ取り早いな、
まぁ結果は見えているがな」
エストアとキュリオスはこんな時だけぴったり息合わせてきよる!
この展開に周りは大盛りあがりや、
・・・ほんまこいつら全員どついたろかな?
「「さぁ?!どっちを選ぶんだ?」」
問い詰められてうちは走馬灯みたいに過去を思い返す。
そう、きっかけはあの日やった。
数カ月前
冒険者酒場
「キュリオス・プラムフィールドだ。
先程も言ったが僕は勇者華を妻にする為にここに来た」
「なんでやねん!!!」
朝一番から町長が酒場にやってきて、
まだ昨日の酔いも冷めんうちらに紹介しだしたんがこいつや、
キュリオス・プラムフィールド
この辺り一帯を治める領主の一人息子。
銀色の髪がよう目立つ塩顔イケメン。
身体は坊っちゃんにしては引き締まったええ体格の細マッチョ。
あんまにこやかでもないから愛想ないように見えるけど、イケメンオーラでクール男子に見える。
しかも声がまたええ声しとる。
額に愛ってそうな、新世界の神と同じ名前の親友がおりそうなそんな感じのイケボや。
格好もイケメンらしく高そうな白のタキシード風スーツに、真っ白なコートはおっとる。
そんなどこからどう見てもええとこの坊っちゃんがいきなりギルドに入る?
しかもうちを妻にする?
いや、ほんま意味わからんわ!
「ん?なぜ驚いているんだ?」
キュリオスはうちが驚いてるんがわからんみたいやった。
心底不思議そうな顔でうちを見てくる。
イケメンに見つめられてもこの状況じゃなんも嬉しないからな!
「いや驚くやろ普通!
てかお前誰やねん!何のつもりやねん!?」
「ん?聞いていなかったのか?
僕はキュリオス・プラムフィールド、勇者華を妻に・・・」
「わかっとるわ!そないな事言うてるんとちゃうねん!
お前がええとこの坊っちゃんなんはわかるわ!
そんな坊っちゃんがなんでうちを妻にすんねんって言うとんねん!
自分でも言うの何やけど、貴族にはもっとええ女おるやろ!」
うちはキュリオスを睨みながら言うたったけど、
キュリオスはまだよくわからんみたいな顔しとるからうちはめっちゃ腹立った。
いや、わかれや!!
「華ちゃん華ちゃん!華ちゃんはええ女だと私は思うよ!
貴族にだって負けてないから自信出して!」
「ありがとうノルム、けど今はちょっと黙っててなぁ〜??」
ノルムのド天然なフォローは置いといて、うちにはほんまにこんな坊っちゃんに好かれる思い当たりはなかった。
坊っちゃんは説明してくれへんし困ってたら、
「はいはい、華落ち着きなさい。
私から説明してあげるから」
シャーリーが助け舟出してくれた。
シャーリーありがとう!!はよ説明して!
「はぁ、こちらのキュリオス様は今の領主様の一人息子よ、つまり次期領主様になるって事はわかるわね?」
「あぁ、その領主?って息子が継げるもんなん?まぁ継げるんなら一人息子やったら次期領主様やろなぁ」
うちはまだ領主やら貴族やらのしきたりはようわからんから素直に答えた。
ほならキュリオスがバカにしたように口挟んできよった。
「継げるに決まってるだろう。
僕の妻になるからにはもう少し教養を身に着けてもらわなければならないな」
・・・訂正、バカにしたようにとちゃう、バカにしてきた。
よし、こいつどつこう。
うちがそう決めて近付こうとしたらシャーリーが前に出てきた。
「華、落ち着きなさいって言ってるでしょ?
キュリオス様は次期領主、つまり私達の住む街も地域も全て引っくるめた主になるの。
それで、領主になる前に私達の事つまりギルドの事を知ろうとして下さったのよ?」
「・・・なんでギルドを気にすんねん」
「ギルドは今や我が領地の主要産業の一つだからだ」
シャーリーとの会話にキュリオスが割って入ってきよった。
うちはめんどくさそうにキュリオスを見たけどこいつはお構い無しに話しだした。
「我が領地の主要産業は主に絹や農作物の輸出業だったが、
近年ギルドを中心とした傭兵稼業も大きな利益を出すようになってきた。
だから僕は領主になる前にギルドの仕事を直に体験しておこうと決めた。
実際の現場を知らずに政を決めれないからな」
うちはキュリオスの話聞いてもピンとこんかった。
うちらのギルド、ニューワールドは傭兵稼業なんてしとったっけ??
「・・・華?あんた私達のギルドは傭兵してたかなぁ?なんて考えてるんでしょ?」
うちが悩んどったらシャーリーが心読んだみたいに答えてくれた。
「私達のギルドも傭兵稼業してるのよ?
華が嫌がるから華には傭兵の依頼は回してないけど。
普段はだいたいエストアがしてくれてるわ」
うちは思わずエストアの方を見た。
エストアはすぐに目を逸らして誤魔化してきよった。
「・・・傭兵の依頼って国同士の戦争に行ったりもあるやんな?」
「当たり前じゃない。しかも領主様直々の依頼も多いから断れないしねぇ。
けどエストアが上手く依頼を片付けてくれてるおかげでうちのギルドは繁盛しているし、
この領地も安泰ってわけ」
うちはもう一回エストアを睨んだけど、こいつ明後日の方向いて知らんぷりしとる。
言われてみたら確かにギルドに入って初めに聞かれた。
人間と戦うかもしらんけど傭兵依頼はするか?って。
報酬は良かったけど、うちは当然断った。
平和な日本に住んでたのにいきなり人間と戦うなんか考えられへんかったからや。
それ以来シャーリーから傭兵の依頼が回ってきた事ないけど、まさかエストアが一手に引き受けとったなんてうちは思いもせんかった。
エストアかて人間同士の殺し合いなんて参加したないはずや。
金に困ってる話もきかんし、わざわざ傭兵依頼をする必要あらへん。
ほな、なんで傭兵稼業なんてしとんのや?って話や。
「・・・もしやうちの為?」
うちは答えをボソッと口に出したらめっちゃ恥ずかしなった。
あっかぁぁぁあん!うわ!なんやこれ!
エストアがうちの事好きって聞いてもうたから全部なんや変な感じに捉えてまう!!
傭兵稼業してんのはうちに傭兵させへん為?
護衛依頼ばっかりしてたんもうちを守れるように?
そう言われたらうちが手こずりそうな依頼を誰かがこっそりと片付けてたり、
酒場にうちが欲しかった装備やアイテムが寄付されたり、
普段から何かと誰かが助けてくれとった。
それが全部エストア?
いやいや!そない決めつけるんは自信過剰やんな!
そもそも好かれてるんも確定かわからんし!
もしかしたら昨日のは夢やったかもやしな、うん!
「華?何悶えてんのよ??」
うちが一人でうだうだ悶えてたらシャーリーが怪訝そうに見てくる。
うちはなんとか体裁を整えた。
「いや?別に?なんでもないで?」
「はぁ?まぁいいけど。
話を戻すけど、傭兵稼業もこの領地の大きな財源なのよ。
特にうちは大きな戦に傭兵、つまりエストアみたいな凄腕の戦士を派遣してきたから結構な額を国から報酬としてもらえてたの。
国から領地に報酬が入って、領主様からギルドに報酬が入る、
私達は報酬が貰えて潤うし、
領主様も国王様から評価されて潤う、
今やこの領地は国の中でもかなり評価が高い領地となってるのよ?
華全然知らなかったでしょ?」
シャーリーに言われてうちはなんも言えんかった。
うちはそういう政治とか領地やとかややこしいのは前世からめっちゃ苦手やったから、聞いても右から左で全然気にした事もなかった。
それより自分の結婚とか、魔王とのいざこざとかに意識向いとった。
・・・なんかうち嫌な奴やなぁ、エストアはギルドや領地の為に戦争に行ってたのに、
うちは婚活やなんやいうて酒飲んでただけやん・・・
「・・・まぁ華は勇者だから傭兵なんてしなくて良かったのよ。
華には魔王との戦いが大事な仕事なんだから」
うちが落ち込んでたらシャーリーが気付いて励ましてくれた。
なんか泣きそうなるから止めてぇ。
「まぁつまりキュリオス様は領主様になる前に、大きな利益をもたらした私達のギルドを視察がてら体験しにきてくれたってわけ。
だから粗相はしないようにね?次期領主様の機嫌を損ねたらせっかく今までエストアがしてきた事が無駄になっちゃうわ」
そう言われたらうちはキュリオスになんも出来ひんかった。
だからさっきの失礼な態度は水に流そかと思ったけど、
「ちょっと待って?ほなうちを妻にする言うんわどういう事なんや?」
「あぁ、それは・・・」
「決まっているだろう」
黙って話聞いてたキュリオスがまた口挟んできた。
「お前はこのギルドでもっとも強い冒険者で、
魔王と戦う勇者なのだろう?
ならば僕と結婚するのは当たり前ではないか」
「なんでやねん!」
うちは今日二回目のなんでやねん!を使った。
いや、ほんまに意味わからんからな!
「なんで勇者やったらお前と結婚せなあかんねん!
さっきも言うたけど貴族ならなんぼでもええお嬢様を嫁に出来るやろ!」
うちにも領主が貴族でもかなり偉いのはわかる。
せやったら妻なんていくらでも選びたい放題なはずや。
しかもちゃんと貴族の礼儀をわきまえたお嬢様選んだ方がこいつもええやろうに。
「それは我がプラムフィールド家の家訓に反する」
「プラムフィールド家の家訓??」
きょとんとしたうちにキュリオスは呆れながら説明してくれた。
「どこまで無知なのだ・・・
我がプラムフィールド家の領主は強き女性を妻に迎えるべしとの家訓があるのだ。
領主ともなれば命を狙われる事も多々ある。
領主自身は屈強な護衛をいつも引き連れているからまぁ安全だ。
しかし、その妻はどうだろうか。
妻は夫の公務中は基本的に邸宅で暮らしている。
もちろん護衛は付けるが女性である妻に24時間屈強な男のガードを付けるのは忍びない。
だから貴族の妻には女性の護衛を付ける場合が多いのだが、
女性の護衛は珍しく、また実力も低い水準の場合が多い」
「そんな事ないやろ!女性かて強い奴はようさんおるで!」
うちは思わず反論した。
シャーリーやノルムを知るうちからしたら、女性が弱いとかめっちゃ気分悪い決めつけやったからや。
「華?あんた私やノルムの事を考えて言ってるかも知れないけど、それは間違いよ?
私やノルムが珍しいのよ?」
うちの反論にシャーリーが横から訂正してきた。
「エルフの女性は基本人間とは関わらないし、森からも出ないから護衛にはならない。
ドワーフの女性でノルムくらい力が強いのは稀よ。普通のドワーフ女性は人間の女性より少し筋力が高いくらいなんだからね?
他の種族にしても女性が特化して強くて護衛も出来るなんて居ないのよ。
せいぜいマーメイド族くらいかしら?けど地上での護衛にはならないわね」
うちはそない言われて唖然とした。
嘘やん!シャーリーもノルムも強いからこの世界の女性は強い人多いと思っとったわ!
「あ、けど女性が弱いってわけじゃないわよ?
強い女性ももちろんたくさんいるけど、わざわざ貴族の護衛をする人は稀って感じなのよ」
「その通りだ、だから貴族の中には女性が小さなうちから将来護衛にするために鍛える者もいるくらいだからな。
だが我がプラムフィールド家は違う、妻の護衛に困るなら、
妻自身が強ければ良い、
その考えの下、代々の領主は強き女性を妻にしてきたのだ。
実際僕の母上は屈強なバーバリアン族の戦士だった。
護衛どころか母上が暴れ出した時に止める人材が必要になるくらいだったが」
うちは驚きの事実聞かされて唖然とした。
バーバリアンってほとんど蛮族やん、
そんな種族でも強かったら嫁にするって凄い家やなぁ。
「せやけど貴族って血筋とか重要視するんとちゃうんか?
バーバリアンやら、うちみたいな訳のわからん女を妻にすんのはええんか?」
「くだらんな、血筋などまったく意味がない。
貴族に求められるのは高貴さ、そして確かな実力だ。
高貴でもなく、実力もない無能が血筋のみで領主になれは間違いなく領地は荒れるだろう。
だからプラムフィールド家は実力を何よりも重視する。
僕が次期領主になるのも父上の子供だからじゃない、僕に領主としての力があるからだ」
キュリオスはそない言うてシャーリーをジロリと睨む、
さっき領主の息子やからとか言うてたんをちゃんと覚えとったみたいや。
「・・・失礼しましたキュリオス様。
ではキュリオス様が滞在中の護衛は勇者華に一任します。
是非とも親睦をお深めください」
「待て待て待て!」
うちはシャーリーがさらっと護衛を押し付けてきたんを聞き流さんかった。
「なんでうちが護衛やねん!
違うメンバーに頼みいやぁ!」
「ダメよ。キュリオス様を確実に護衛するならそれ相応の実力者じゃないと。
だから、うちのギルドなら華が適役なのよ」
「いやいや!実力者なら自分もやん!あとノルムとか・・・
エ、エストアとか!」
うちはエストアの名前呼ぶんもちょっと恥ずかしかったけど、なりふり構わず誰かにこの依頼を押し付けようとした。
せやけどシャーリーは首振って呆れてる。
「ダメよ。理由は3つ。
まずノルムは実力はあるけど護衛には不向きね」
「うん!私も護衛はちょっと無理かなぁ?戦いになったら忘れちゃいそう!」
ノルムはあっけらかんと言うてヘラヘラ笑っとる。
確かにノルムは戦場では手につけられへん暴れっぷりやし、護衛は向いてないかぁ。
「ほ、ほなエストアは?」
「そうだ、俺が代わりに護衛する。
華は護衛経験も少ないからな、俺がやる」
エストアは当然のようにうちを庇って依頼を引き受けようとする。
前までなら、
『よう言うた!さすが男前!礼は今度身体で払うわ!ワハハ!」
なんて冗談言うてたやろけど、今はそんなん全然無理やし!むしろ今までの言動思い返したらなんでエストアに好かれてるんかわからんくなってきた!!
「エストアもダメ」
うちがモヤモヤしとったらシャーリーがダメ出ししてくる。
「2つ目の理由、エストアには傭兵依頼があるのよ。
また南の国で紛争よ。
領主様直々の依頼だからすぐに出発してもらわないと」
「なに!?またあの国の紛争か?!
これで何回目だ??!」
エストアはめっちゃ驚いとる。
「文句言わないの。起きたものは仕方ないんだから任せたわよ。
それともあんたがキュリオス様の護衛するなら、代わりに華に傭兵依頼を任せる?」
「・・・俺が傭兵依頼をする。クソ!!」
エストアはイライラした様子で酒場から出ていった。
シャーリーはそんなエストアを気の毒そうに見とった。
うちはもう観念したけど一応最後の理由も聞く事にした。
「わ、わかったわ、ほな3つ目の理由は?」
「3つ目の理由はキュリオス様が華と親睦を深めたいからよ。
あ、別に嫁にいけって言うんじゃないわよ?
ただキュリオス様の人となりを知れば華もキュリオス様を気に入るかも知れないじゃない?
だから護衛ついでにお互いを知る良い機会だと思ってね」
シャーリーはそない言いながらも全然良い機会と思ってる顔しとらんかった。
うちはそんな顔見たら、シャーリーもキュリオスの護衛をうちにさせるんは嫌な事、
せやけどなんや事情があって渋々引き受けてしもうた事を察した。
ほならもうしゃあないんやん・・・
「わかったわ、せやけど短期間だけやで?
キュリオス様?あんさんいったいどのくらいここにおるつもりなんや?」
「様はいらんぞ、将来の妻になるのだから気楽にしろ。
期間はだいたい数カ月を予定している。
その間にギルドの仕事は全て見させてもらうつもりだ」
「・・・マジかぁ」
うちは数カ月間どないして過ごそうか考えたら頭が痛なってきた。
それからうちの毎日キュリオスの護衛につく日々が始まった。
キュリオスは毎日とにかくよう働く貴族やった。
うちが護衛に付いてから毎日休みなくギルドの仕事見て回っとる。
なんやったら見るだけやのうて手伝える事は手伝ったり、
体験出来る仕事はどんなしんどい仕事でもやりよった。
例えばギルドの倉庫を見た時は、
「華?この倉庫はあまり使われていないみたいだな?」
「あぁ、なんや昔からずっとガラクタしもうてる倉庫みたいやで?
ギルドの皆が冒険中に色々なアイテム見つけて、値打ちもんか思って持ち帰るんやけどたいていガラクタやねん。
それをテキトーに放り込むだけの倉庫やねん」
「なるほどな」
キュリオスは納得したかに見えたけどすぐ人を雇うて倉庫の掃除を始めよった。
自分で埃まみれなりながら一つ一つガラクタを片付けていったんや。
どんなガラクタも勝手に捨てんと持ち主に確認して処分したり、
持ち主不明のもんはきっちり自分で鑑定して金に替えた。
中には値打ちもんが隠れてて、倉庫が綺麗になる頃にはかなりの財産なっとった。
「あんた凄いなぁ!倉庫一目みてこんな稼げる思うたんかいな??」
「当たり前だ、プラムフィールド家の者として鑑定は身に付けていて当然のスキルだ」
キュリオスは特に威張ることも無く言ってのけよった。
せやけどうちにはやっぱり凄い思うた。
「それより、稼いだ金を使ってこの倉庫を改造するぞ?」
「改造?どないな風に?」
「地域住民達にギルドの理解を深めてもらう施設にする。
冒険者が集めたアイテムを陳列し、ギルドの活動と合わせて紹介するんだ」
キュリオスはギルドの為に新しい施設作るつもりやった。
けどなんでそないな施設作らなあかんかうちにはわからんかった。
「なんでそんな施設作るん??ギルドについてはもう充分住民の皆さん知ってはるんちゃう??」
「甘いな、僕の調べた限りでは冒険者酒場に出入りする業者や、
装備品等を扱う商人以外はまだまだギルドについてよく知らない住民も多い。
冒険者といえばあらくれ者や、粗暴な者といったイメージも付きまとう職業だ、
一般人より優れた戦闘力を持つ以上それは避けれない。
だからこそイメージ戦略が大事なんだ。
冒険者はこんなふうに世の役に立っていると知らせ理解してもらう。
それだけで随分風向きが変わるはずだ」
キュリオスの意見にうちは目からウロコやった。
冒険者がそないな風に見られてるなんて思いもせんかった。
「はぁ〜そんなん全然考えた事もなかったわ。
てかうちら一般の人からは悪く見られてたん??」
「あくまで一部の住民にはな。
実際領主である父上の下には
『冒険者ギルドを解体しろ』
『乱暴者を街から追い出せ』
なんて声が数カ月に何件かは寄せられている。
しかしそんな声も冒険者について正しく知ってもらえばなくなっていくだろう。
まぁ時間はかかるだろうけどな」
うちはそんな事全然知らんかった。
皆うちらを好いてくれとるって思ってた。
せやけど思い返したら、うちが関わる一般の人って酒場のマスターやら、装備品売ってくれる商人しかおらん。
もっと大勢の人らからしたらうちらはあらくれ者集団なんや、って思ったらめっちゃ居心地悪ぅなってきた。
「そんな辛そうな顔しなくて大丈夫だ、
僕がなんとかしてやる。
その為の施設を今から作るんだからな」
そない言うてくれるキュリオスはめっちゃイケメンに見えてうちはさすがによう顔見んかった。
キュリオスはそれからあっちゅーまに施設完成させて、古びた倉庫は生まれ変わって、冒険者を知るための新しい観光スポットになった。
街の人や、旅人さん達がたくさん来てうちらの事知ってくれるんは不思議やけどめっちゃ嬉しい体験やった。
他にもギルドの仕事をキュリオスは次々とこなしていった。
シャーリーに任せきりな事務作業も難なくこなすし、
長年積み重なった書類の山や、複雑化した帳簿なんかをぱぱっと整理してうちらみたいなアホにもわかるようにしてくれた。
財源確保にも尽力してくれてシャーリーいわくキュリオスが来てからの数週間でうちらのギルドの収益が倍増しとるみたいやった。
しかもただ銭ばらまいて収益出したんとちゃうくて、ちゃんと後々まて安定した利益出せるようなプランをいくつも実行した結果らしかった。
こないな風にキュリオスはずっとギルドの為に働いてくれとる。
しかもちゃんとギルドメンバーともコミュニケーションとって仲良くしとる。
今やすっかり顔なじみの貴族ちゅう感じで親しまれとる。
うちの知る貴族ちゅうんは毎日ぐうたらぐうたら過ごして、
実務は取り巻きの奴らに任せっぱなしにして、
自分は何もせんくせに偉そうにだけするカスやったんやけど、
キュリオスはちゃうかった。
真面目で、優秀で、働きもん。
日本の政治家にも見せたりたいくらいの立派な貴族やった。
せやけど・・・
「おい、華。今日は何を昼食にしたいんだ??僕が何でもご馳走してやろう」
「いや、何でもええよ。自分が好きなもん食べたらええんちゃう?」
「なら昼食の後に買い物へ行くか?
欲しい物を何でも買ってやろう」
「いや、いらんて。うちはただの護衛なんやから気にせんといて?」
こないな風にキュリオスがちょいちょいアプローチしてきよる。
正直キュリオスはイケメンやし、金持ちやし、真面目な好青年って感じ何やけど、恋愛対象には何故かまったく見られへん。
まぁ、理由は思い当たるからキュリオスに質問してみる事にした。
「なぁ?ところであんたいまいくつやねん?」
「ん?僕は今年で18歳になる。歳が気になるのか?」
「・・・いや?別に?」
ほらぁぁ!キュリオスはまだ18歳やん!
日本なら高校生やん!
うちは身体は28歳で止まってるけど、中身はもう30超えてるんやでぇ??
さすがに10個下はなぁ!しかも高校生とか犯罪スレスレやん!
「歳の事なら気にするな。
プラムフィールド家では子供は18歳で成人扱いすると決まっているからな」
「いや気にしてへんって・・・
てかあんたはええんかいな?うちもう30超えてるんやけど?」
「まったく構わない、見た目や歳を気にするのは愚かな事だ。
僕が妻に求めるのは強さだけだ」
「・・・あ、そう」
うちは改めてキュリオスを恋愛対象に見られへん理由がわかった。
歳の事もあるけど、キュリオスは結婚相手を強さだけでしか選んでへん。
見た目や歳は気にせえへんのもそのせいや。
それってつまり強かったらうちやのうてもええわけや。
だからキュリオスなどんなええ人でも、うちは全然惹かれへんのやな。
理由もわかったし、うちは後の期間を黙って護衛して、この依頼をさっさと終わらせる事にした。
キュリオスも護衛依頼が終わったら諦めてちゃう女探しに行くやろ。
うちはそない気楽に考えとった。
「華、今日の仕事が終わったらディナーに行くぞ」
「・・・だから行かへんって」
仕事終わって、酒場から宿に戻る前にキュリオスがまた飯に誘ってきた。
キュリオスはしょっちゅう晩飯にも誘ってきよる。
しかもなんぼ断っても諦めよらん。
根性は大したもんやけど、うちもええ加減うんざりしてきた。
「キュリオス、あんたなぁええ加減わかりぃや?
うちはあんたにはなびかん。嫁はん探しは他でしぃ。
正直毎回毎回飯誘ってくんのうっとおしいねん」
うちはこの際はっきり言うたる事にした。
はっきり拒絶したらこいつも諦めるやろ思うたんやけど、
「ん?何故僕の妻になるのを拒むんだ?
何か事情があるのか?」
いや全然あかんやん!こいつ自分が振られるとか微塵も考えてないやん!
どんだけ自信過剰のイケメンやねん!狩◯英孝か!!
うちは内心でツッコミ入れながらキュリオスに向き直ってさらにはっきり言うたった。
「何も事情なんかあらへん。
ただお前の嫁になりとうないだけや」
「な、何故だ??」
「理由は一つ、お前が嫁に強さしか求めとらんからや。
それってつまりうちやのうてもええ言う事やろ?
強けりゃ嫁は誰でもええと思っとるもんのとこに誰が嫁ぎたいねん、アホか」
うちにはっきり言われてキュリオスは相当ショック受けたみたいやった。
青い顔して目泳がせてめちゃくちゃ動揺しとる。
「そ、そうか、そ、そうだな。
た、確かにそれは失礼だったな、す、すまない」
キュリオスは頭下げて謝ってきよった。
酒場のやつらがめっちゃ見てる中で。
うちはまさか貴族が頭下げて謝るなんて思わんし、
端からみたらうちが貴族のボンボンいじめてるみたいに見えるんは容易に想像出来た。
「お前ほんまにアホか!こんなとこで頭下げんなや!お前貴族やし次期領主やろ?!こんなんしたらあかんって!」
うちはキュリオスの頭上げさそうとしたけど、頑なに動かんかった。
「いや、これは僕の謝罪であり、けじめだ。
プラムフィールド家の家訓にはこうある、
【強き者を伴侶とすべし】と、
しかしこういう家訓もある。
【他者の尊厳を損なうなかれ】
僕は強き女性を求めるばかりに気を取られ大事な事を見誤っていたようだ。
本当に君には失礼な事をした。済まなかった」
キュリオスは誠心誠意謝って頭下げてくる。
うちにはどないしたらええかわからんかった。
「わ、わかったって!もうええから頭上げてぇな?
あんたも悪気あったわけちゃうし、もう謝らんでええで??」
「許してくれるのか??」
「許す許す!もう全然許すからほんま!だからもうええやろ??」
キュリオスはそない言われてようやく頭上げてくれた。
ほんでうちの事を真っ直ぐ見つめてきた。
「ありがとう勇者華。改めて君に惹かれたよ」
「ん??」
「改めて君に好意を感じた。
こんな事は初めてだ。是非とも君を妻に迎えたい」
キュリオスは真っ直ぐうちを見ながらプロポーズしてきよった。
周りのもんは口笛吹いて大騒ぎや。
てか、
「な、なんでやねん!あんたうちの強さだけが好きなんやろ?!」
「先程まではそうだった。
しかし今は違う!君のおかげで僕は大事な事に気付けた。
君は失礼千万だった僕を許しもしてくれた。
まだお互いわかりあえない部分もあるだろう。
けど今、僕は心から君を妻にしたいと思っている。
今すぐではなくて良い。
だが僕の事を知って、君が気に入ってくれたなら僕の妻になってくれないか??」
超どストレートなプロポーズをされてうちは頭真っ白なった。
え?どういう感じこれ?
ほんま状況に付いてけんのやけど!?
「「華良かったじゃねぇかぁ!」」
「「結婚おめでとう!」」
「おめぇみたいなのをもらってくれんだ!ありがてぇなぁ!ワハハ!」」
外野の冒険者共が好き勝手に囃し立てよる。
うちはとりあえずこいつら全員どついたろと決めた瞬間、
「待てよ!何勝手抜かしてやがる!」
エストアが酒場に入ってきた。
エストアはキュリオスが現れた日にすぐ傭兵依頼の為旅立って今帰ってきたみたいやった。
「あら?エストア早かったわね?もう依頼完了したの?」
いつの間にか現れたシャーリーがエストアの早い帰還に驚いとる。
「ふふふ♪きっと華ちゃんが心配だから早く帰って来たのかな?」
「うん、きっとそうだね。エストアは本当に良いやつだなぁ」
ノルム夫妻はうちらをみて呑気に楽しそうにしとる。
てかみんな集まり過ぎやろ!
「依頼なら終わったよ!
それより!おい!そこの坊っちゃん!」
エストアがキュリオスを指差して睨みつけた。
「華はお前にはやらん!」
「君は??なんの権利があって僕の求婚を邪魔するんだい?」
キュリオスもエストアを睨み返す。
「俺は・・・華の仲間だ!
だからてめえみたいな腑抜けた貴族に大事な仲間はやらん!って話だ!」
「はぁ?ただの仲間が口を出さないでもらおうか?」
「なんだと!?」
回想終了
こないして2人の言い合いが始まったんや。
ほんで今うちは2人からプロポーズを受けんのか受けへんのか決めろ!言われとる。
なんでや!なんでこないなるんや!?
確かに結婚したいとは言うたけど!
こんな感じは想像してないやん!
「う、うわぁぁぁ!わからんわボケェ!!」
うちは叫んで酒場から走って逃げるしかでけへんかった。