第五話 【それぞれの想い】
魔王の拠点付近の山道
華視点
うちは黙って拠点から歩いて帰ってる。
全身ダルいし、道は歩きにくいし、街までまだまだ遠いしでめちゃくちゃしんどかった。
「はぁ、なんでこんな遠いねん・・・」
それに一番だるいん理由は、
「ハハハ!まぁまぁ!来た道帰るだけじゃねぇか!ゆっくり帰ろうぜ!」
「うっさいわ!ボケ!」
エストアが行きより元気に歩いとるのが一番だるかった。
あの時、うちは何を血迷ったかこのアホにキスした。
ほならうちのスキルが発動してアホの傷を全部自動で癒した。
かくしてアホは完全回復して今うちの前をちょろちょろ歩き回っとるわけや。
「はぁ、こんなアホ助けるんやなかったで」
「華のおかげで助かったぜぇ!なんか前より元気だし力がみなぎるんだよなぁ!
本当ありがとな!」
うちはため息ついてだるなってるのにこのアホは陽気なもんや。
「あんなぁ?前より元気なんはうちのスキルがあんたに力わけたからやで?
うちの力もろて元気なったんやからうちに感謝して黙って歩かんかい!」
「おお!そうなのか!ハハハ!華の力かぁ!嬉しいなぁ!キスも出来たし言う事なしだ!」
うちはキスの話されてカァーとなる。
「お、お前なぁ!キ、キスしたんはたまたまやからな!!
多分人工呼吸で生き返る!みたいなイメージがうちの中にあったからそれでスキルが勝手にキスさせたんやからな!多分、いや絶対そうや!」
「ハハハ!ありがたいありがたい!キスに力に華からはたくさん贈り物もらえたなぁ!
ハハハ!」
「聞けやぁ!!」
こうしてうちらは来た時より余計に喧嘩しながら街に帰った。
ほんまに散々な依頼やったわ!
同時刻
領主の館
シャーリー目線
「・・・ではそのように致します。私めにお任せください」
私は町長が領主に頭を下げるのを冷めた眼差しで見つめていた。
(はぁ、まったく面倒ったらないわ。
こんな事なら華に付いて行ってあげれば良かった。
華大丈夫かしら?あの感じだと生理周期に被りそうだけど・・・)
「シャーリー君!君も頭を下げないか!領主様に失礼だろう!」
「・・・領主様のご随意に致します」
私は町長に言われて思考の海から我に返り、黙って頭を下げた。
(ほんっとにめんどくさい。早く終わらないかしら?)
私は親友の華に難しい依頼を任せてこちらに来たのに、
領主の館でした事といえば町長と一緒にひたすら領主の機嫌を取るだけ。
色々あったが一言で言えばそれが全てだった。
町長からすれば領主の機嫌を取れば色々と町が優遇される、だから必死になってご機嫌取りをしているのだろうが、
こちらははっきりいって退屈で仕方がなかったし、華の事も心配だし、早く終わらせたくて仕方がなかった。
そしてようやく領主から本日の本題を告げられ、
それがまた厄介極まりない依頼だし、
私はまったく気乗りしないそんな依頼を町長が二つ返事で受けるし、
あげく頭を下げさせられ心にも無い台詞を言う羽目になっている。
森にいた頃はこんな無意味な事はしなかったのに、
ギルドに入って副団長なんて役目押し付けられてからはこんな事ばかりだった。
(はぁ、なんで私は森の木々達から遠く離れてまでしんどい思いしてるんだろ?
はぁ・・・)
自分の境遇や、
町に帰ってからの雑事や、
体調が万全じゃない華の心配などを考えると私は心が軋むのを感じた。
数日後
冒険者酒場
エストア視点
「ぷはぁ!いやぁ今回はほんっとに死ぬかと思ったぜ!」
依頼から帰った俺はいつもの酒場で酒飲み仲間と宴会の真っ最中だ。
厳しい依頼を終えたあとは酒の肴に武勇伝を語らうのが俺たちの流儀だからだ。
「いやぁ!マジでよ!今回の依頼は魔王の拠点だけあってなかなか手ごわかった!
硬い防壁、無数の魔獣、強いやつらも居て本当に死にかけた戦いだった!」
俺は仲間達に拠点をいかにして攻略したのか事細かに語る。
仲間達は皆口々に褒めたり、驚いたりしてくれて俺はどんどん嬉しくなった。
「そして!最後は勇者華!が大スキル技で拠点ごと魔獣を一掃してくれたんだよ!
な!華?!」
「・・・やかましい、あんたなんでそないに元気やねん」
華はぐったりして疲れている様子だった。
拠点壊滅から一気に戻ってきたから疲れたんだろう。
「だからゆっくり帰ろうって言ったんだよ。
めちゃくちゃ疲れてんじゃねぇか」
「やかましい!お前のテンションに疲れたんじゃ!」
華は機嫌悪くしてそっぽを向いてしまった。
仕方なく俺はまた仲間達との飲みに戻った。
しばらくすると酒場にシャーリーがやってきた。
シャーリーも華に負けず劣らず疲れている様子だった。
シャーリーはすぐ華のテーブルへ行き二人で飲んで話して楽しく過ごしているようだった。
・・・正直羨ましかったが、俺が行っても邪魔になるだろうというのはわかっていたので遠慮した。
夜も更けた頃、
客達はみんな帰るなり飲み潰れるなりして酒場はがらんとしてきた。
華も珍しく酔いつぶれて酒場の椅子で大いびきをかいて寝ていた。
シャーリーはそんな華にそっと魔術で作った毛布をかけている。
「お疲れ、今日は華珍しく潰れたんだな」
俺はシャーリーに近づき話かけた。
シャーリーは不機嫌そうな様子で俺を睨んでくる。
「・・・私が潰したのよ、エルフに伝わる秘薬をお酒に混ぜたの。
アルコールに耐性のある華でもさすがに落ちたわね。
それよりエストア、あんたそこに座りなさい」
シャーリーは俺と話すために華を潰したらしい。
俺はなんとなく要件はわかるが黙って座った。
「なんだよ」
「わかってるんでしょ?あんた護衛のくせによくも華を危険な目に合わせたわね?」
やっぱり予想通り依頼の件だった。
俺は気まずくなって目をそらしたが、シャーリーに無理やり顔を掴まれ引き戻された。
「あんたを護衛にしたのは華の体調が気になったからなのよ?
それが何よ?華の生理にも気付かず、無理させて、あげく死にかけてるじゃない。
華は私の友達なの。本来なら私が付いて行きたかったけどあんたを信頼して任せたのに何なのあんた?」
「・・・すまない、生理までは見抜けなかった。申し訳ない」
俺は頭を下げ謝罪するがシャーリーは許さなかった。
「あんたねぇ、
本当に華が好きなの?
あんたが華を好きだっていうから色々協力してるし、信頼もしてたのに、もう協力やめようかしら?」
そう言われて俺はぐうの音も出なかった。
俺は華が好きだった。
出会った瞬間からずっと好きだった。
声が聞けるだけで嬉しかった。
少し話せただけでその日は最高の日になった。
華がギルドに入ってくれてますます惹かれた。
一緒に依頼をこなす日々がたまらなく幸せだった。
だから華が結婚相手を探してるのは辛かった。
自分は相手にされないことが惨めだった。
だけど自分からはアプローチなんて出来なかった。
はっきり振られてしまったら多分俺は生きていけないからだ。
「華を死なせかけたのは俺のミスだ。
本当に済まなかった。
護衛失格なのもわかっている」
俺は改めてシャーリーに頭を下げて謝罪した。
シャーリーは腕を組みそっぽを向いた。
「・・・華から話は聞いたわよ。
確かに死にかけたみたいだけど、あんたが助けたんでしょ?
それに拠点攻略を死ぬ気でしてくれたみたいだし。
私もちゃんと華の体調について言わなかったから悪かったわ。
だからもういい」
俺はシャーリーが悪いなんてまったく思わなかった。
生理の事はいくら友達でも言いにくいだろうし、確証もなかったなら言わないだろう。
それに俺なら体調が悪い華をカバーするはずと信頼していた事を察して俺はますますいたたまれなくなった。
「すまない、次があるなら絶対に華に無理はさせない。
必ず俺が守り抜く」
「もういいって言ってるでしょ?
それに華は言ってたわ、依頼自体は大変だったけど、
あんたとゆっくり話せたのは楽しかったって」
「本当か!?」
俺は思わず立ち上がりシャーリーに詰めよった。
シャーリー俺を押しのけて続きを話しだした。
「むさ苦しいから離れなさい。
・・・本当よ、まぁ本音はなかなか話さなかったけど私にはわかるわ。
あんたに感謝してるみたいだし、ゆっくり話せて楽しかったみたいよ。
次からもその調子なら上手くいくんじゃない?」
「マジかぁ!よし!よし!」
俺は嬉しくなり喜んでソワソワしまくる。
けどある事にふと気が付きシャーリーに質問した。
「なぁ?それならお前が提案して俺が普段からしてる、
【あえて華に意地悪して気を引く作戦】
は逆効果なんじゃないか?
今回は意地悪なんてしなくても上手くいったんだし?」
俺が普段から華にちょっかいをかけたり、わざとシャーリーにアプローチするのは、
シャーリー発案の策だからだ。
意地悪をする事で気を引き、シャーリーにアプローチする事で嫉妬心を引き起こす策らしかった。
俺は恋愛の駆け引きなんてまったくわからないし、
シャーリーはすこぶる頭が良いし俺よりずっと長生きしている。
そんなシャーリーの策だから俺は信頼して実践していたのだが、
「何言ってるのよ?人族の男性は好きな相手には意地悪するって何かの本で読んだわ。
それにエルフ族の女性は嫉妬心が高まる程相手を大事にしたくなるのよ。
多分人族の女性も同じでしょ??」
シャーリーは自信満々にそう言うが、俺には種族間の隔たりが邪魔をしている気がしてならなかった。
「いやぁ、けど実際華に意地悪すんのキツいんだよなぁ。
華も嫌そうにしてるしさぁ」
「そうしてる内にあんたに意識が向くはずよ。
だから今は辛抱しなさい」
「本当かよ・・・」
俺はシャーリーの言葉に疑惑を持ちつつ、
明日からは華にどう接しようか悩みまくっていた。
同時刻
華視点
(はぁ?!え?あ?えぇぇ!?)
うちは酔いつぶれたみたいで、気が付いたら酒場の椅子に寝かされとった。
普段は酔いつぶれるなんて滅多にないんやけど、
今日は酒の周りが早くて急に潰れてもうた。
せやけど拠点攻略で毒受けたからか、うちのスキルが解毒スキルを覚えたみたいで、
うちは一瞬落ちたけど割とすぐ目覚めたんや。
ほんで意識取り戻したらシャーリーとエストアのアホがなんや話しとるんが聞こえてきた。
シャーリーがエストアに怒っとるみたいやった。
なんかうちを死なせかけたのを責めてるみたいや。
まぁ、うち的にはエストアが護衛の役目してくれんかったとは思わんし、
なんやかんや言うてもちゃんと拠点攻略頑張ってくれたんは感謝しとるから起きて仲裁したろおもたら・・・
『あんたねぇ、
本当に華が好きなの?』
なんて台詞が飛び込んできてうちは完全に固まった。
エストアがうちを好き?
なんで?あいつはシャーリーが好きとちゃうかったん?
なんでそんな話なっとるん?!
うちがパニックなってたら話がどんどん進んでく。
シャーリーはうちがエストアに感謝してる事や、ゆっくり話せて楽しかったんも見抜いとるし、
しかもそれ本人に言うとるし!
ほんでエストアはめっちゃ喜んでるし!!
なんやこれ!なんかめっちゃ恥ずかしいんやけど!!
あかん!こんなん明日から二人の顔観られへん!
てかエストアはうちにいらんことばっかり言うたりしてくるやん!
なんでそれでうちの事好きやねん?!
『なぁ?それならお前が提案して俺が普段からしてる、
【あえて華に意地悪して気を引く作戦】
は逆効果なんじゃないか?』
そない考えとったら答えはすぐ聞こえてきた。
いや犯人はシャーリーお前かい!
なんや意地悪して気を引くって!
小学生の男子か!
大人の恋愛には絶対逆効果やし、なんやったら小学生の恋愛でも上手くいかんわ!
いったい何の本読んだんや!
うちは内心でシャーリーに突っ込みまくった。
シャーリーは頭はめっちゃ良いけどちょっと天然なとこあるし、
多分エルフと人間の種族差もあるからたまに全然トンチンカンな事言うたりしたりしてまうねんなぁ。
てかエストアはほんまにうちの事が好きなんかぁ・・・
なんやろ、エストアなんて全然意識してなかったのにそない言われたらかっこよく見えたりするやん・・・
洞窟で話してた時も楽しかったし、
拠点攻略ではちゃんと守ってくれたし、
うちがダウンしてからは責任感じて一人で戦ってたんもある意味男らしいし。
えぇ~うちどないしよか??
ほんまに明日からどないしよ?
エストアとどない接したらええんや?
うちはそんなふうに悶々悩みながら寝たふりを続けた。
翌朝
「えぇニューワールドギルド皆様、こちらのお方が本日からギルドにお試し加入されます。
丁重におもてなしして下さいね?」
町長の説明を遮るようにしてうちらの前に現れたんは・・・
「プラムフィールド公爵が第一子、
キュリオス・プラムフィールドだ。
そこにいる勇者華を妻に迎えるためギルドに来た。
今日からよろしく頼むぞ」
「はぁぁぁぁ!?」
突然の事にうちの感情は爆発しそうやった。