第二話 【異世界でも婚活!】
とある夜景の見える丘での事
「華さん、どうでしょう今日は楽しめましたか??
私の素晴らしいデートをさぞ堪能出来たでしょう??
よろしければ結婚を前提にお付き合いしましょう」
うちは今告白されとる。
超美形で、
スタイル抜群で、
金髪で、
白い歯で、
身体は白い肌と緑の鱗で覆われてて、
真っ赤な角があって、
バカでかい羽が生えてる、
いわゆるドラゴヒューマンのイケメンに告られとる。
めちゃくちゃイケメンやし、性格はちょっとナルやけど優しいし、
何よりうちの事気に入ってくれたんやけど、
「すみません、今回はご縁がなかったと言うことで・・・」
数日後
冒険者酒場
「ああぁ!結婚したぁい!!」
うちはいつもの冒険者酒場でエールビールをグビグビ飲みながら愚痴をたれてる。
もうオーク用大ジョッキ三杯目やけどまだまだ飲みたらんかった。
「華?ちょっと飲み過ぎ。
もう三杯目じゃない、しかもそんなジョッキで」
「うっさいなぁ〜飲まなやってられへんわぁ〜
ゴクゴク!プハァァァ!」
うちの暴飲をなんとか止めようとしてくれとるんは同じギルドの仲間シャーリー。
エルフのシャーリーは緑のロングヘヤーがごっつ似合うめちゃくちゃ美人さんや。
エルフやからかきっちりした性格してて、何かとポカやりがちなうちを色々世話してくれてる。
今も自分は滅多に飲まんくせに、わざわざ酒場まで来てうちの世話してくれてる。
「はぁぁ、シャーリーが男やったらなぁ〜
うち絶対婿にすんのになぁ〜」
「何言ってんのよ。例え男になっても華の婿なんて絶対お断りよ。
・・・まだトロールの方がマシかも??」
「何でやねん!ちょっと酷ない!?うち傷心なんやからなぁぁ!」
シャーリーはきっちりした性格やけど、こないして冗談も言える仲やから、ほんまに付き合いやすいし、一緒に居て楽しい友達や。
「冗談じゃないからね?本気で嫌だから」
「いやそこは冗談で良いやん!何でトドメ刺そうとするかなぁ!?」
「もーシャーリー?華ちゃんはこれでも傷心なんだから慰めてあげなきゃ??」
しょげたうちを優しく慰めてくれたんは小柄なドワーフのノルムや。
ノルムも同じギルドの仲間で、うちの事をいつでも優しく慰めてくれる聖母はんみたいな友達や。
顔つきもめっちゃ優しい顔してるし、
頭の角は花でめっちゃコーデして短めの髪型にごっつ似合っとる。
ほんまにオカンみたいに・・・
いや、おばあちゃんみたいに癒される存在や
「ノルムばあちゃん〜ありがとう〜〜
うちを優しく癒してくれ〜」
「お、おばあちゃん??私おばあちゃんなの??」
うちが甘えたらノルムは困ったようにあたふたしだした。
けどそんな姿がまた可愛いからますますうちは癒された。
「はぁ〜ノルムも男やったらなぁ〜
絶対結婚して毎日癒されたいんやけどなぁ」
「だ、だめだよぉ。
私には愛する旦那様がいるんだから華ちゃんとは結婚出来ないんだぁ〜
ごめんね華ちゃん??」
うちの軽口にノルムは生真面目に答えてくれる。
そんな真面目な態度もいつもなら大好きやけど、
「うぁぁ!優しいノルムにまで振られたぁぁ!もう無理やぁ!!うちなんてずっとひとりぼっちで生きてくんやぁぁぁ!!」
まともにショックを受けたうちはまたやけ酒を浴びるように飲む、ノルムとシャーリーは困った顔して途方にくれてしもたみたいや。
「うぅごめんなぁシャーリー、ノルム〜
うち何かのためにごめんなぁぁ、うぅうぅうわぁぁぁん!!」
泣き出したうちをシャーリーが優しく撫でてくれた。
「もー華ったら。これくらい友達なんだから当たり前よ?
それより、華?今回のあの男性なんで断ったのよ??
せっかく華の事気に入ってたみたいなのに」
「うぅ、そ、それは・・・」
シャーリーがうちが飲んだくれてる原因の見合いについて聞いてくる。
正直、いくら友達でも失敗した見合い話はしたくなかったけど、
「そうだよ!華ちゃんの事気に入った男性なんて珍しいんだからもったいないよ?!」
「いや、ノルムさん?それ今のうちにはめっちゃ効くから止めて??」
二人がグイグイ聞いてくるからうちはとうとう根負けして話す事にした。
「いやだって・・・
価値観の差がありすぎるんやぁぁあ!」
「「はぁ?」」
シャーリーとノルムは二人揃ってきょとんとしてる。
うちは二人にもわかるように話す事にした。
「いやだってな?ドラゴヒューマンって半分ドラゴンやん??」
「そりゃそうじゃない?」
シャーリーはまだわからないようやった。
「ドラゴンが半分入ってるからかな、うちとは全く価値観が違うんやて!」
「例えば?」
ノルムもわからないみたいやった。
「例えばやけど!初顔合わせの初デートの初っ端から、
なっにもないだだっ広い草原のど真ん中で5時間ただ立つだけやったんやで??
そんなんありえる?!5時間なんも言わんとただ立ってるだけやで??
こっちが何を話かけても無視やで??
もうあれやもん、うち騙されとる?これなんかのドッキリか?ってほんまに疑ったからな??
ほんで5時間経ってから向こうがなんて言うた思う?
『いゃーやはり風を感じるのは良いですね』
って言うんやで??
風とか知らんがな!?なんや風を感じるって!
うちは風より孤独感じまくって孤独死してそれこそ風になるとこやったわ!!」
溜まりに溜まった不満をぶちまけてみるけど、やっぱり二人には響いてなかった。
「デートで風を感じさせてくれるなんて素敵じゃない??」
「うん!自然の恵みは心を豊かにするから、すっごい良いんだよ♪」
二人はガチガチの自然大好きっ娘やからやっぱりうちの気持ちは伝わらんかった。
まぁ、シャーリーは森の民、ノルムは土の民の血ぃ引いてるから当たり前なんやけど。
「いやいや、うちみたいな普通の人間はそんなんキツいんよ??
しかもその後もずーっと自然豊かな場所巡りやし!
おまけに飯は自分で狩った獣肉やで!しかも生!!
いや絶対あんなん無理やからな!!
なんぼ見た目良くて、中身もよかっても、あんだけ価値観ちゃうかったら無理やて!」
うちは二人に出来るだけ分かりやすく伝えたつもりやけど、やっぱり二人はあんまりわかってなさそうな感じやった。
「ん〜?つまり肉じゃなくて魚がよかったの?」
「ちゃうわ!魚でも結局生やろ!?誰が好みの話しとんねん!」
「あ!わかった!華ちゃんはお肉じゃなくてお野菜が欲しかったんでしょ!?」
「うちはベジタリアンか!?
野菜なら生でもいけるし良いかもぉ♪ってなるかい!!
てか飯の事からから離れぃ!」
うちは一通り突っ込んだ後アホらしなってまたビールをがぶ飲みした。
もう前ならとうにぶっ倒れるくらい飲んでんのに全然酔われへん。
「もぉ〜じゃあ華はどんな人が好みなのよ??」
シャーリーに聞かれてうちは改めて考えてみるけど、
パッと浮かぶ好みなんてなかった。
「・・・そんなんわからんわぁ、
とりあえず浮気さえせんかったらええかなぁ」
そんな自分の言葉で嫌な過去が蘇ってきた。
うちの家は仲良し家族で有名やった。
元気な職人のオトンは仕事から帰ってきたらまずオカンを抱きしめしとった。
オカンはオトンの仕事がどんなに早くても毎朝ちゃんと起きて見送りしてた。
お互い好きだの、愛してるだのしょっちゅう言うてたし、
手繋いだりキスしたりスキンシップもようしとった。
毎日お互いを愛し合ってる両親を、子供の頃はきしょく悪い!言うて笑ってたけど、ほんまは嬉しかった。
仲良しのオトンとオカンが大好きやった。
せやけどうちが中学に上がった頃オトンが浮気したんや。
相手は取引先の奥さん、
オトンとはずっと関係があって、
その奥さんにオトンとの子供が出来て、
旦那にバレてって修羅場になったらしい。
オカンは毎日泣いとった。
普段は明るくて元気で冗談ばっかり言うオカンがずっとずっと泣いとった。
うちには『大丈夫やからごめんなぁ』、
言うて平気なふりしとったけど、
全然大丈夫ちゃうし、オカンが謝る必要も全然ないのにずっとうちに謝ってきた。
うちはそんなオカン見てるのも辛かった。
うちはオカンを必死に励まして、
家事とか出来ることは手伝って、
なんとか乗り越えて元気なオカンに戻したかった。
せやけど世間は甘くなかった。
近所の人らにもオトンの浮気は知れ渡っとって、
道歩いてるだけでヒソヒソ言われたり、
顔合わせたら、さも心配してるような口ぶりで、根掘り葉掘り浮気について聞き出そうとしてオカンの傷口を抉ってきた。
近所の子供らにまで
『浮気家族!』
なんてバカにされたりした。
オトンの仕事がなまじ地域密着型の職人業やったから皆を敵に回したようなもんやった。
極めつけは相手方の旦那さんが家まで乗り込んで来たことやった。
上等なスーツ着て、たっかい車で乗り付けて、
家の玄関でオカンの事ボロクソに怒鳴り散らてた。
『お前の旦那のせいで家庭はめちゃくちゃや』
『慰謝料たんまり払ってもらう』
『お前も娘もただじゃおかん』
『落とし前付けさせるから覚悟せぇ』
そんな脅しをずっとオカンにぶつけてた。
オカンはなんも悪くないのにその間ずーっと土下座して謝ってた。
『すみませんすみません、申し訳ありません』
そない言うてずっと謝るオカンはずっと泣いとった。
うちは怖くてよう出ていかんかった。
相手の旦那さんはほんまに怒ってて、それまで本気で怒る大人を見たことなかったうちは家の奥でブルブル震えるしか出来ひんかった。
せやけどオカンは
『娘は関係ないんです、娘だけは許して下さい、
うちは何でもします、お金も払います、
だから娘にはなんもせんでください』
そう言うてうちの事を必死に守ってくれた。
結局近所の人らが警察呼んでくれて何事も無くその場は済んだんやけど、
オカンはその日以来心を病んでしもうた。
そんな中オトンはずっと家におらんかった。
浮気がバレてオカンやうちに責められて居づらくなったんやろな。
最初はコソコソと肩身狭く暮らしてたけど、だんだんと帰ってけえへんようになってきて、
しまいには全く姿見せへんようになった。
オカンが泣いてても、
怒鳴られても、
心病んでも、
オトンは助けに来んかった。
せやけどうちはそれでもよかった。
あんなクソ親父はいらん。
オカン泣かせて傷つけて、最低や。
だからあんなオトンは居てほしなかった。
だからうちはオカンと二人で生きるって決めた。
中学卒業したら働いてオカンと二人で頑張って暮らすって決めた。
今思えば無茶な生き方しようとしてたんやけど、
それはオカンが止めた。
『娘の人生をこれ以上めちゃくちゃにはさせへん。うちに任せとき』
そない言うて絶対うちには働かせてくれへんかった。
ちゃんと高校、大学といかなアカン!言うて聞かんかった。
ほんでオカンは今まで働いた事なかったのに、いきなりパートを三つ四つと掛け持ちして働き出した。
心もまだ弱ってるのにそんな無茶するオカンをうちは止めれんかった。
せめて家事とかはうちが全部したりしても、オカンは明らかなオーバーワークやった。
けどうちが何言うても、
『オカンは大丈夫、心配いらんよ?』
そない言うて働き続けた。
うちが高校、大学と卒業するまでそれは続いた。
うちはこうなったら
『うちが就職したら絶対楽させたる!』
って決めてガンガン勉強して、まぁまぁえぇ大学に奨学金借りて入学出来た。
ほんで大学でもガンガン勉強して、
就活頑張って、えぇ会社に内定もらえて、大学卒業して、
これでやっとオカンに親孝行出来る!楽させたる!
って思っとったら、
オカン死んでもうた。
長年の過労か、
うちが就職出来た安心感か、
なにが原因かわからんけどオカンは病気してすぐ、ぽっくり逝ってもうた。
まだ歳も60なる前やった。
・・・早すぎるやろ。
ようやく今からやん!
何でやねん!
うちは葬式で泣きながら何でや!何でや!ってオカンの冷たくなった身体に言い続けた。
周りの人らも引くくらいうちはボロ泣きした。
けど、オトンが葬式に来て涙は一気に引っ込んだ。
『何しにきたんや!』
『おどれの浮気のせいでオカンがどんだけ苦労したかわかっとんのか!?』
『今まで姿も見せんかったくせになんや今更!!』
『帰れ!二度と姿見せんな!!死ね!!アホンダラ!!』
うちはそんな風にオトンをボロカスに口撃して葬式から追い出した。
オトンはなんも言わんと黙って帰って行った。
風の噂では、もう職人は辞めたらしい。
浮気相手とも上手くいかんくなって、
一人で細々と暮らしてるみたいやった。
世間の信用失って、
職も無くなって、
家族からは嫌われて、
そんなオトンは記憶の中のオトンよりずっと小さなってた。
腰も曲がり、頭は禿げて、うつむきながら帰って行く姿は今思えば哀れなもんやけど、
当時のうちにはそんな風に思うゆとりはなかった。
それからちょっとしてオトンも死んだと報せがきた。
オカンと同じく病気でぽっくりやった。
最後は一人でさみしく死んだみたいやった。
うちはそれがオトンにはふさわしい死に方やったと思ったし、悲しくもならんかった。
だから葬式も行かんかったし、墓の場所すら知らん。
オトンが死んでも少しだけ虚しくなるだけやった。
それからのうちはしばらくぽっかりと心に穴が空いたみたいに暮らしとった。
何してもおもんない。
美味い飯食べても美味ない。
おもろい漫才みても笑えへん。
何んもない。ただ生きてるだけやった。
せやけどうちは思い出したんや!
オカンはうちがこんな風に生きるん望んでたか?
オカンは何のために死ぬまで働いてたんや?
オカンの望みは何やった?
・・・それはうちが幸せになる事や。
オカンはうちに幸せになって欲しかった。
ずっとずっとそれは言うとった。
だからうちは幸せにならなあかんねん!
死んだオカンが異世界まで見てくれてるかわからんけど!
でも見てくれとるなら幸せな姿見せたらなあかんねん!
じゃあうちの幸せは何や!
決まってる、家族や。
バラバラになってしもうたけど、うちはやっぱり仲良かったオカンとオトンがおる家族が大好きやし、あの頃が一番幸せやった。
だからうちも結婚せなあかんねん!
幸せになるために結婚して、家庭作らなあかんねん!
異世界がなんや!
婚活がなんや!
絶対負けへんでぇ!!
「うぉぉぉ!絶対やったるでぇ!
絶対結婚するんやぁぁ!」
決意を新たにしたうちの雄叫びを聞いてシャーリーとノルムが顔を見合わせて笑顔である提案してきた。
「華?じゃあ実はまたお見合いの話があるんだけどさっそく明日良いかしら??」
「おう!うちはいつでもえぇで!
こうなったら多少の価値観の違いなんて目瞑るわ!!」
シャーリーのさっそくの提案にうちはドーンと乗っかった。
「流石華ちゃん♪次は頑張ろうねぇ♪」
ノルムに励まされて、次の見合いこそ絶対成功させる!って息巻いてうちはまた酒をグビグビ飲みまくって明日に備えた。
翌日
「は、華たんは、こ、交尾は、一日な、何回が良いですか??
ぼ、僕は、一日二十回い、以上はで、出来ます!
け、結婚したら、た、たくさん子供作りしま、しょうね!?」
「・・・すみません、今回はご縁がなかったと言う事で!すみません!」
見合いに現れたオークとの席からうちはダッシュで逃げ出した。