表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

負荷を上げる

「ご苦労様。頑張ったね」

 落札者が、肉壁(にくかべ) の頭を撫でる。一見優しい世界に見えるけれど、私は騙されない!


 落札者は、唐突に肉壁(にくかべ) に水をかける。こんな寒い中、そんなことをすれば、肉壁(にくかべ) が凍えてしまう――飴と鞭か。とんでもないDV(ディーブイ)野郎だ。落札者は、して良いことと、悪いことの分別を付けられないようだ。私は、落札者が持っている瓶を取り上げる。

「何故そんなことをするんですか!?」

「傷が浅いから、放っておいても平気だけど、痛みが続くのは可哀想だから、回復薬をかけているんだ」

 肉壁(にくかべ) を、(こご)えさせようとしたわけではないようだ――勘違いした私に非がある。

「出過ぎた真似をして、ごめんなさい」

 取り上げた瓶を、落札者に返す。

 落札者は瓶を受け取った後、顎に手を当て考え込む。

「……なるほど。肉壁(にくかべ)の物理耐性を効率的に上げるため、負荷を上げるよう提言してきたのか。確かに、安易に回復させることで、耐性獲得が遅れる可能性がある。逆に、痛みを継続させることで、耐性獲得が早まる可能性もある……効率を重視するのなら、限界まで負荷を掛け、耐えさせる方が良い……そういうことだね」

 落札者がぶつぶつと独り言を呟く。そして、納得したように、一人でウンウンと頷く。


 落札者は、晴れた表情で肉壁(にくかべ)に問いかける。

「君を効率的に成長させるには、より強いモンスターが生息しているところへ行くべきだ。肉壁(にくかべ)は一人で、どのエリアまで行ける? ついでに魔力袋を寄生させてレベルを上げたい」

「砂漠あたりまでなら、なんとか耐えられる」

「モンスターの湧きが悪いから、効率が悪い。もう少し頑張れるよね?」

「氷結の森……の入口(いりぐち)付近までなら」

「負荷が高いほど成長しやすいんだけど。森の中はキツイ?」

「多分無理」

「死ぬ?」

 肉壁(にくかべ)伏目(ふしめ)になり、深く頷く。

「と思う……」

「限界まで負荷を掛けるほど成長が早い。頑張れるよね?」

「……頑張ってみる」

「決定だ。今から向かうと、到着は夕方頃か……夜が更けた後の方が、強力なモンスターが出現する。どこで時間を潰そうかな」

 肉壁(にくかべ)は死にそうだと訴えているのに、更に負荷を上げようだなんて、正気の沙汰とは思えない。


 二人のやり取りの中で出てきた砂漠と、氷結の森。どちらも初めて聞く場所。オークション会場から出た後も、初めて見る景色が続いていた。私は改めて、遠い場所に連れて来られたのだと認識する。


 ぎゅるるるぅ!

 私の腹が、空気を読まず大きな音を鳴らす。


「もっと負荷を高めろという進言か。確かに、夜が更けるほどにモンスターは強くなる。俺を立てるため、生理的な音を使って伝えるとは、素晴らしい気遣いだな。腹が減っては何とやらと言うし、一旦町に戻って、夕食をとってから向かうとしようか」

 肉壁(にくかべ)は青ざめ、憔悴しきった顔をしている。回復出来るとはいえ、傷付いた分の痛みは感じる。これから死ぬほど痛い目に遭いにいくと言われているのだから、嫌に決まっている。


 ただ、私自身(わたしじしん)は、自分でも意外な程に冷静さを保てている。

 買われるというのは、こういうことなのだろうと、納得している。人間であろうと、お金さえ払えばまた買える。消耗品なのだから、壊れたらまた買えば良い。そう考えるようになるのは、自然な流れだと思う。

 むしろ、高いお金を払って購入したからこそ、壊れるまで使い(たお)そうとするのは、当然の行為ともいえる。今ここに居るのが肉壁(にくかべ)だけというだけで、他にも落札者が購入した人間が居るかもしれない。


(何人も居るなら、一人くらい減っても何も思わないのかな……嫌な世界に変わっちゃったな……)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ