屋根裏農園
「むっかつくっ」
咲が務める会社には電話で咲を貶すのが趣味なセンパイがいる。
曰く、名前が悪い、趣味が聞香なんて等々。
「やめやめ!買い物行こう」
そして歩いていて、声がしたように思うも人影は無い。
「最悪、最悪だ!」
しかし再び聞こえた声に目を凝らせば、小さな人が水たまりに嵌っていた。
「一寸法師?」
「違う!我は少彦名だ!」
「ああ。あのちっさい神様」
「ちっさい言うな!・・・まあ、合っているが」
「ごめん。家に行こう。きれいにして乾かさないと」
そっと手で掬いあげ、来た道を引き返す。
「蛙に振り落とされてしまってな。面倒をかける」
「困った時はお互い様。はい、ここが私の家。名前は咲」
言いつつ小さな浴場を用意した。
「好きに使って」
そして手早く小さな貫頭衣を作る。
「ありがとう。いい具合だ」
「髪はみずらよね!」
「出来るのか」
「ネットで調べたわ!」
「そ、そうか」
観念して頭を差し出したものの、少彦名はその出来に満足のため息を吐いた。
「本当に世話になった。咲が来なんだら土座衛門だったわ」
「すくな様、ちっさいから」
「ひと言余計だ、まったく。して礼がしたいのだが、願いはないか?」
「農園が欲しいけど」
「空いている部屋は?」
「庭じゃなくて?」
「ここの庭は、農園にするには狭かろう」
「すくな様ならいけそう」
「雨が降れば大洪水だな」
「確かに!ちっさい農園だから!」
「うるさいぞ!で、あるのか?」
「屋根裏なら」
そしてそこで咲が見たのは、少彦名が創った農園。
「凄い、不思議。ちっさいけど」
箱庭として楽しむと言う咲に少彦名は小槌を渡した。
それは、元の大きさを記録してから小槌を振ると小さくなり、もう一度振ると元に戻るというもの。
「えー」
最初は訝しがった咲も、箱庭が農園サイズになるのを実感し目を輝かせた。
「凄い!屋根裏農園素敵!ありがとう、すくな様!」
その日から咲は農園を満喫、少彦名とお茶をして、と毎日が楽しくなった。
「え!?」
そんなある日突然来たセンパイが農園を見、ちんけな箱庭だと貶しながら小槌に手をかけ見事に縮んだ。
「咲を害すからだ」
喚くセンパイを見た少彦名はそう言ってにやりと笑い咲の肩に飛び乗った。
「して、今日の茶菓子は何だ?」