表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/92

第92話 明に生きる

 政府の計画では、『治療所』の開放とともに軍隊で残妖を叩く予定だった。

 だがその計画を利用し、九条アキラはヲロチの頭骨を使って残妖を増やし逆転させる第2の計画を立てた。

 そしてそれをドーシャが妨害し、8つの頭骨のうち7つが阻止された。だが1つだけ計画通りに発動し、多くの残妖が生み出された。


 結果、残妖を殲滅することはできず、逆に残妖が軍隊を倒すこともなく、戦闘は膠着した。

 予想外の苦戦にくわえほぼ同時に総理が暗殺され、九条アキラも死亡したため計画の指揮を執るものはいなくなった。

 計画は途中辞めとなり混乱だけが残された。



 ドーシャが家に戻ると仲間たちに迎えられた。


「ドーシャ、私ちゃんとやった! ほめて!」

 と勝利報告するレインもいれば、


「僕の女神、面目ない……」

 と敗北報告するヤクモもいた。


「まあ1人くらい負けても良かったみたいだから別にいいよ」


 慰めたつもりだがあんまり慰めになってなかった。


 家に上がり、父の亡骸を布団に寝かせる。

 誰も何も言わなかった。

 ただお婆ちゃんが泣いていた。


「ドーシャが殺したの?」

 レインが無邪気に訊いた。


「ううん。事故。これだけのことをして、死んじゃうんだから勝手だよね」


 ふと外を見ると、庭に8つの頭骨が置かれている。


「邪魔過ぎない? これ」


 ドーシャが率直な感想を述べるとチュチュが言った。


「頭骨はチュチュが天狗たちと元の場所に再封印しようと思うのです。ヲロチはまだ生きている。同じ場所に頭骨を置いておくのは危険なのです」


「大丈夫なの?」


「おそらく危険な旅になるのです」


「手伝いましょうか?」

 リンネが提案した。


「いいえ。天狗たちの協力があるから平気なのです。チュチュよりもドーシャさまを助けてあげてほしいのです」


 ミヤビが言った。

「残妖絶滅計画は別の人間が考えたそうですわね。心当たりはありましてよ。世界最大の財閥、ロスパスト。この世界のあらゆる陰謀の黒幕だという」


「その嘘くさい情報いるっスか?」

 クシーニが呆れている。


 ミヤビがむっとした。

「獣王財閥が言ってるのに信じられないの?」


「誰が言ってても信じないっス」


 クシーニとミヤビはあまり仲が良くない。


「なあ、これからどうするんだ?」

 シシュンが訊いた。


 ドーシャは答えた。

「今はちょっと休みたい。疲れちゃって。けど新生『逢魔』と政府の軍隊の戦いは止めなきゃならない。ねえ、今後も一緒に戦ってほしいって言ったら、ダメ?」


 シシュンが即答した。

「俺はずっとドーシャを手伝うよ」


 他のみんなも頷いてくれた。ひとりを除いて。


「あ、うちはパス。お金にならんことはせんから」

 ナセは拒否した。

 気軽にドーシャのために命を懸けてくれたり、拒否したり、ナセの考えはよく分からない。

「でも必要だったらその都度呼んでな。要相談」


「ありがと。ナセにはまず今までの借りの返済を考えないといけないね」


 それからみんなを見る。

「じゃあ、『地星山』はこれからも継続だね」


「その名前、まだ使うんスか」


「…………」


 いまだ不評だった。


☆☆


 それから1年。


 政府の奇妙な動きと『白締』の動画、なにより残妖が増えたことで、残妖の存在を信じる人が増えてきた。だけど何かが変わるほどじゃない。


 元『逢魔』首領の六文ヌルはあれから姿を見せていない。

 諦めるような奴じゃないと思うが。


 草薙アカネをはじめとした脱走残妖もほとんど捕まっていない。


 九条家の家宝、神刀ニルヴァーナは誰かに盗まれてしまった。触れないのであそこに置いていくしかなかったのだが、あとで見に行くと無くなっていた。金銭的価値は1億を超えるらしいし、なにより九条家の退魔の歴史とともにあった剣なのだが、どうせその技を継ぐものもいないししょうがないのだろう。


 『式』は凍結前のメンバーを集めて復旧した。

 ただフユヒ隊長は『式』に戻っていない。

 フユヒ隊長はひとりでヌルを追っているが、ハニの世話をしているので前より大変なようだ。



 ドーシャの姉、ライジュは『白締』をやめて家に戻っていた。

 お婆ちゃんとお菓子を食べてくつろいでいる。


「私が戻ってきたらドーシャのほうが帰ってこなくなるとは」


「ドーシャ、どうしてるだろうねえ」


「あいつ私と違って無茶ばっかするからな」


 ライジュは自分のしたことは無茶だとは思っていない。


 ライジュの携帯にメッセージが入った。


「うわ。連中の小競り合いだ」


 ライジュは『式』に戻っていた。今やライジュが隊長だった。



 真っ昼間の商店街で銃声が鳴っている。


 サングラスにスーツの者たちが複数の勢力に分かれて撃ち合っている。

 どう見てもヤクザの抗争だ。

 だがそうではない。


 真っ赤な派手なドレスの人物が前に出た。大柄な30代の女性。

 銃弾が飛び交う中に出ていくなど自殺行為だ。だが弾が当たらない。いや、当たっても平気なのだ。

 女性は残妖だった。


 敵対勢力が叫ぶ。

「天道テラスだ! 殺せ!」


 銃弾がテラスに集中するが意に介さない。


 テラスがふうっと息を吹いた。

 口からシャボン玉のようなものがいくつも出てくる。


 風に流れたシャボン玉に触れた敵対ヤクザの体が風船のように膨らみ、宙に浮いた。


「バカ! あのシャボン玉に触れるなって言ってるだろ!」


 悲鳴のような声で仲間に注意する。


 天道テラスは国内最大の犯罪残妖組織『空亡(そらなき)』の首領だ。

 元はただのヤクザだったが七凶天の八重垣ツバキとつながりがあったらしく残妖の知識が深い。

 脱走囚人や、ヌル追放時に『逢魔』を離反した残妖などを吸収し、社会の混乱に乗じてここまで急成長した。

 目的は残妖を利用した闇ビジネスの総取り。


「役立たずはいらない」


 中学生くらいの少年、いや、そのように見える影が現れ、風船になったヤクザに触れた。すると今度はヤクザは黒い影となり、消滅した。


 羽々斬ヨミ。

 新生『逢魔』の首領。『空亡』の次に巨大な組織であり、国内の犯罪組織はほぼこのどちらかに集約される。


 硝煙から突然人間が湧いて現れた。瞬間移動だ。

 ツンツン髪にオレンジの服。

「俺っちたち『逢魔』の目的はこの国だ。天道テラスごときにビビる奴はいねえよなあ」


 そこへ激しい銃撃が一斉に撃ち込まれる。


 ツンツン髪の男性は瞬間移動で消え、ヨミは影だから銃弾をよける必要が無い。そして天道テラスはシャボン玉の膜で自分を守った。


 撃ったのは小型飛行機械だった。


 なぜ銃弾ごときを残妖たちが防いだのか。それはこの弾丸に残妖を無力化する薬品が使われているからだ。


「ミスだ。戦果はゼロ」


 顔の半分を機械で覆った男性が言った。

 この者が小型飛行機械を操って攻撃した。


 残妖を無力化する薬品は残妖には扱えないが、機械を中継することで使えるようにした。こうすることで自分の能力の弱さを補っている。


 晦トバリ。元『情報局』の残妖。そして現在は犯罪残妖組織『常闇』首領。


 『常闇』の目的は残妖を闇に葬ることだ。それを残妖がするというのは違和感があるかもしれない。だが残妖を嫌う残妖はいるものだ。そして、この組織には純血の人間がスポンサーになっていると噂される。


 『空亡』『逢魔』『常闇』の3つで3大犯罪組織と言われる。

 今はこの3つと『式』が争う混迷の時代だった。


「おらあああああああああああ!!」


 瓦礫が飛んできて小型飛行機械をいくつか打ち落とした。

 火炎が吹き、影となった少年が逃げる。


 そして真っ赤なドレスの女性を包む泡に人間が飛び込んできて、ぽよんとはじかれた。


「学習しないね、あんたも」

 テラスは呆れている。


「またお前か」

 トバリがうんざりしたように言う。


「なぜ邪魔をする」

 ヨミが苛立つ。


 飛び込んできたのは老婆のごとき白い髪、夜空のごとき黒い瞳の少女。

 犯罪残妖組織『地星山』首領。

 深山ドーシャだった。


「お母さんも私も、人間が好きだからかな」


 母が人間を愛したから、ドーシャは人間と残妖の不和を引き起こす者たちを母の仇として戦ってきた。


 悪いやつをいっぱい見てきた。

 快楽のために人を傷つける者。金銭のために人を傷つける者。保身のために人を傷つける者。示威のために人を傷つける者。憎悪のために人を傷つける者。愛のために人を傷つける者。

 人を傷つけることだけは、残妖も普通の人間も同じだ。

 人間の世が続く限りこの者たちがいなくなることは無い。


 けど敵だったのに仲間になれた者たちもいた。

 それは利害の一致だったり、情けだったり、興味だったり、様々だ。


 結局ドーシャは人間を嫌いになることはなかった。

 だから前に進み続ける。

 みんなを愛してる。

(あとがき)

山姥主人公で書きたかっただけ。


山姥は人気は全然無い。みんな知っている有名な妖怪なのに。

ところで、一般的山姥のイメージは実際どうなのだろうか。


実は江戸時代には若くて美しい山姥の絵が描かれてたりする。別に老婆だから悪いとかそんなことは無いのだけれど。だいたい若い山姥は山女とか山姫とか呼ばれてるだけだから。


山姥が人間に幸を与える話もあったりする。

これは鬼なんかと同じだね。


きっとね、もともと山姥は山の神だったんだよ。それが人間にとって都合が悪いから、神から魔物に堕とされた。どう都合が悪いのかっていうのは差別的な話になるからここではしないけど。

山の神様は女神が多いって言うしね。(出典不明)

零落した山の神、それが山姥なんだ。


(以上は民俗学的研究とかではなくただの妄想です)


話は変わるけど現実のヲロチの頭骨は神社に祀られてるらしいです。

勝手に暴れさせちゃったけど現実では暴れそうにないから安心だね。

作中でも言ったけど、ヤマタノヲロチは剣を取り返して海に戻ったという考えもあって、江戸時代くらいにはそう信じられてたらしいです。これは剣は失われていないとする考えと合わないため現代では語られることはあまりありません。

酒呑童子という鬼がヲロチの子どもという説があって、酒呑童子にも子どもがいたという話もあるから、実際ヲロチの血を引く人もいるかもね。


もうちょっと出番作る予定だったけど入れるところが無くて出番削ったキャラがかなり出てしまった。

綾瀬タイガの能力は炎と冷熱反転の2種類でした。ちょっと特殊な残妖。祖先の妖怪をそのまま体内に引き継いでいます。作中には出しませんでしたがタイガのような特殊な残妖は複数人存在します。

『式』の隊員の一部は『死鬼』に入れる予定で作ったんだけど結局全部新キャラでいいかなってなっちゃった。


河童とか天狗とか有名どころはだいたい出せたけど鬼を出しそびれた。

どこかで使おうと取っておいたら最後まで使わなかった……。最初を素直に鬼にしとけばよかった。

塵塚怪王は出せてよかった。マイナーだけど明確に山姥の上位とされてる妖怪なので。山姥主役なら出したい妖怪。


書いてる自分は楽しかったけど、読んでて面白かったなら幸いです。

ここまで読んでくれてありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ