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第9話 犬神ジュズ

 暴力団『滅牙』は規模は小さいものの活動範囲は広く全国に及ぶ。

 その組長が疋田ヤフサ。魔獣剣士ダイスケの高校時代の同級生。


 ヤフサは事務所で電話をかけていた。


「おい、ジュズか? アミもやられたぞ。これであとはツバキ以外は俺とジュズだけだ」


『なにか問題が? アミたちは単に同級生というだけでツバキに選ばれたに過ぎない。いてもいなくても変わらない』


「そういうことじゃねえ! 次は俺かお前かだぞ。なぜそんな落ち着いていられる。やっぱりジュズが裏で手を引いているのか?」


『何を言っているの?』


「ダイスケはお前の恋人だった。本当は今もつながってて、あいつにアミたちを殺させたんだろ?」


『バカバカしい。わざわざ電話をかけてきた理由がそれならもう切るけど。私はあなたと違って忙しいの』


「待て! ダイスケとは何の関係も無いんだよな? それをはっきり言葉にしてくれ」


『…………。ダイスケとは12年前から一度も会ってない。これでいい? つまらない嫉妬はしないこと。私の愛を失いたくないならね』


「分かってる。大丈夫だ。それともうひとつ。ダイスケは俺が殺す。文句ねえよな?」


『勿論』


☆☆☆


 真夜中の港。

 疋田ヤフサは一人で立っていた。


 待ち人来たる。

 ひげのおっさん。魔獣剣士、番ダイスケ。

 その両手に気絶した黒服の男たちを引きずっている。


「久しぶりだな疋田ヤフサ。悪いがお前の手下は先に片づけた」


 黒服を投げ捨てる。


「ったく今頃戻ってきやがって。野垂れ死んでればよかったのによお」


「お前らに復讐するために地獄から戻ってきたんだ」


「復讐だぁ? 罪もねえ人間を殺しまわった『逢魔』に入っといてよくそんなこと言えるな?」


「ああそうだよ! 俺は『逢魔』に入った! お前やジュズと一緒にな! ツバキが残妖にしてくれるって言ったから! そして俺は、俺だけが残妖にならなかった!」


 ヤフサは笑った。

「お前は失敗作だからなあ」


「何が失敗作だ! ツバキのせいで、俺は全てを失ったんだ」


「それは逆恨みって言うんだよ」


「黙れ。俺はお前らへの復讐以外に生きる目的は無いんだ。お前の薄ら笑いを今日でお終いにしてやる」


 ダイスケは木刀を構えた。


「ダイスケ。人間は残妖には勝てないって12年前たっぷり教えてやっただろ」


 ヤフサは両手に3本づつナイフを持った。

 ナイフによる近接格闘をダイスケは木刀でいなす。


柴剣刀鬼(さいけんとうき)


 一瞬に放たれる三度の突きがヤフサの両肩と喉に刺さる。潰れたカエルのような声を出してヤフサは地面に倒れた。


「12年前とは違う。俺は残妖を殺すためだけに生きてきたんだ」


「そうかよ」


 ヤフサは立ち上がる。


「こっちだって12年前と同じじゃねえ。あのときお前を殺さなかったのは、お前がジュズの所有物だったからだ。今は違う。ジュズがお前を殺していいって言ってる」


 ダイスケの足が止まった。

 ヤフサがナイフを投げた。物理法則を無視した軌道でダイスケの体に刺さる。


「はっ。まさか期待してたのか? まだジュズに好かれてるかもしれないって。ジュズは最初からお前みたいな軟弱な野郎は好きじゃなかったんだよ。だから俺を選んだ!」


 ダイスケは体に刺さったナイフを抜いて捨てる。

 ヤフサは新たにナイフを用意する。

 ダイスケは中段に構える。

 2人は同時に走った。

 間合いに入る前にヤフサが右手のナイフを投げた。変則軌道で襲い来るそれをダイスケは木刀で全て打ち落とす。

 ヤフサの左手のナイフがダイスケの喉笛を狙う。


「闘剣決殺」


 ダイスケの木刀がヤフサの左手を打ちナイフが落ちる。さらに逆袈裟斬り、最後に脳天に木刀を叩き込む。

 ヤフサは倒れた。もう立ち上がらない。


「あと2人。ツバキと……ジュズ」


☆☆


 ドーシャが到着したときにはすでに魔獣剣士はいなかった。


「遅かったか……」


 残るはツバキとジュズ。ツバキの居場所は分からないからジュズのところに行くしかない。


 ドーシャが立ち去ろうとしたところに、カツカツと足音を立てて何者か来る。

 ドーシャは音を立てないようじっとしてどこかに隠れようとしたが足音の主が声をかけた。


「隠れなくていいですよ」


 残妖は夜の闇でも見える。真珠のネックレスをした女性。


「誰だ?」


「私は犬神ジュズ。そちらは『式』かしら」


「…………」


 『式』のことを知っている。カタギではない。


 ジュズは倒れたヤフサを一瞥する。

「どうやらヤフサは死んでしまったようね」


「魔獣剣士のおっさんはあんたも狙ってるみたいだけど?」


「魔獣剣士? ああ、ダイスケのこと? 似合わない肩書き名乗っちゃって」


「おっさんはなんであんたらを狙ってる? あんたの同級生の八重垣ツバキは呪い殺しのツバキなのか?」


 ジュズは爪をいじりながら考える。


「そうね……。こういうのはどうかしら。あなたが私に勝てたら教えてあげる」


 ジュズはその辺に転がっていた黒服たちから刀を奪った。

 そのまま中段にかまえる。


「なんでそんなことしなきゃいけないんだ?」


「いやなら別にいいんですよ」


「痛くても後悔するなよ?」


 ドーシャは右手を胸の前にかまえた。


「野分山の暴風!」


 体内に溜め込まれた大風をジュズに向けて解き放つ。

 ジュズは風より速く動いてかわした。人間離れした動き。やはり残妖。

 ドーシャが次の行動を起こすより早く近づき胴を薙ぐ。ドーシャはかわす。が、かわした太刀が反転してもう一度襲い来る。ドーシャはそれも皮一枚でかわした。


「忠剣回帰をかわしますか」


「一度見た技だからね。魔獣剣士のおっさんが使ってた」


 ドーシャは右手で腹をさする。薄く斬られたはずだが血は出てない。所詮普通の武器だ。山姥の(はだ)を傷つけられるものではない。


 ドーシャは正面から突っ込んだ。

 同時にジュズも突っ込んでくる。

 一瞬のうちにドーシャは両肩と胸の中心に強い衝撃を受け吹っ飛ばされた。


「柴剣刀鬼」


 どうやら三度の突きを一気に打ち込む技のようだ。

 道路に大の字に倒れることになったが、ドーシャはゆっくり立ち上がる。

 ジュズの剣は速く強い。妖刀の類を持っていたならかなり危険な相手になっただろう。


「やるじゃん。けど、もう使えない」


 ドーシャは右手に握った刃を投げ捨てた。ジュズの刀は真ん中で折れている。攻撃を受けたときにお返しに叩き折っておいた。


「そちらこそ思ったよりはできるようですね」


 ジュズは刀を捨てた。


「いいでしょう。教えてあげます。あなたの思ってるとおり私の友人の八重垣ツバキが呪い殺しのツバキです」


「やっぱりそうか。それで、なぜ魔獣剣士のおっさんはあんたたちを狙ってる?」


「さあ? 私はダイスケを可愛がってたつもりなんだけど、なぜかダイスケはいなくなってしまって……。そんなことよりツバキは私の家に住んでるの。捕まえたいなら行きなさい」


 なんとジュズは家の鍵を投げてよこした。ドーシャは慌ててキャッチする。


「どういうつもり? ツバキとどういう関係なの?」


「ただの同級生よ。さあ、早く行かないとツバキがいなくなってしまうかも。ツバキは面倒が嫌いだから『式』が出てきたのを知って逃げる準備をしているから」


「あんたも捕まえてやるから逃げるなよ」


 ドーシャはジュズを残して急いで走った。


 ジュズはドーシャを見送ってぽつりと言う。


「本当はもっと強い残妖が良かったんだけど。時間も無いし仕方ないか」


 ドーシャはジュズの家に突入する前にお父さんに連絡を入れた。


 呪い殺しのツバキ相手なら本来ドーシャが出る幕ではない。『式』の隊長が出向く。

 しかし隊長が別の任務中というのと情報の確度が低いということで却下されてしまった。言われてみれば呪い殺しのツバキがいるというのはジュズの証言しかない。


 ドーシャにはツバキが本当にいるか確かめる任務が与えられた。


「犬神ジュズの言うことが本当ならツバキはもう逃げる支度をしている。隊長を待ってる時間は無い。もしツバキがいるなら私が倒す」


 ドーシャは音を立てないようそっと家の扉に鍵を差し込んだ。


 家の中は暗い。

 だが床下から物音がする。

 どこかに隠し階段があるのだろう。ドーシャはしばらく畳をひっくり返して探し回ったが、結局床を破壊して地下室に下りた。



*************************************


 名前:疋田(ひきた) 八房(ヤフサ)

 所属:暴力団『滅牙』組長

 種族:野干(やかん)の残妖

 年齢:30

 性別:♂

 卑妖術:投げたものが相手を追う。


 名前:犬神(いぬがみ) 数珠(ジュズ)

 所属:量販店『イヌガミマート』社長

 種族:魔犬の残妖

 年齢:30

 性別:♀

 卑妖術:嗅覚に優れる。

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