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第86話 地星山

 ドーシャは帰る途中で仲間たちに会った。


「あれ? なんでここに? 私はお父さんに会いに行くからみんなはチーム分けのとおりに動いてって伝言したじゃん」


 シシュンが言った。

「それで『はいそうですか』ってなるわけないだろ。俺がどれだけ心配したと」


「僕の女神、もっと僕を信頼していいのではありませんか?」

 ヤクモが無駄な自信をもって言った。


「ドーシャさま、チュチュはいつだってドーシャさまの味方なのです」


「先輩、またあたしに嘘をついたっスね。いいかげん怒るっスよ」


「ドーシャ。あまり勝手なことをするなら今度こそ屈服させてわたくしのものにしてあげましてよ」


 ドーシャはなんかよく分からないけど謝罪した。

「なんか理不尽な怒られ方してる気がするけど、とりあえずごめん」


 リンネが問うた。

「で、お父さんには会えたのですか?」


「その話は帰ってしよう」


 ドーシャたちは家に戻った。


「お父さんには会えなかったけど、これが置いてあった」


 そう言って残妖絶滅計画書を出す。

 みんなで目を通したが、やはり計画の最終段階が明日実行されるということ以上の情報は出てこなかった。

 レインが自分も読みたいと言うので読ませたが「難しくて読めない」と言って投げてしまった。


「明日、全ての『治療所』を開放して残妖との全面戦争を始めるらしい」


「何年もかけて捕まえた残妖を逃がしてバカじゃないっスか」


「うん。『式』は12年前の戦いで軍隊なんかで『逢魔』を倒せたとは思っていない。お父さんも同じ考えのはず」


「地区の名前がいっぱい書いてあるのは何でしょう? このどれかにドーシャのお父さんがいるということ?」

 リンネが疑問を口にした。


「地区の名前については私もよく分からないんだ。特に思い出のある場所じゃないし」


「あの……」

 チュチュが遠慮がちに言う。

「8つの地名で思い出したのですが、この計画書には、ヲロチの頭骨のことが書かれてないのです。ドーシャさまのお父様はヲロチの頭骨を集めていて、だからお姉さまも頭骨を奪った。なのに、計画にはどこにもないのです」


「ヲロチの頭骨……。頭骨の数は8個。地名も8個」


「つまり、この場所にヲロチの頭骨を置いているのかもしれないわね」

 ミヤビがそう推測した。


「なんのために?」


「さあ? それは分からなくってよ」


「とりあえず地図で場所を確認してみたっスが、規則性はあるっスね」


 クシーニが地図を広げた。


 8つの場所は、ほぼ等間隔で並んでおり、つなぐと多少歪んではいるものの円形となる。


 ドーシャは地図を眺めていて気づいた。

「あ……」


 円の中心は、かつて母の故郷、夢幻山があった場所だ。つい先日、ライジュと戦った場所でもある。


「ここだ。ここにお父さんはいる」


「よし。じゃあ今度はみんなで行こう」

 シシュンが言った。


「ダメ」

 しかしドーシャは拒否した。


「ドーシャ」

 シシュンは咎めた。


「みんなにはやってもらうことがある」


「やってもらうこと?」


「この8か所にはたぶんヲロチの頭骨がある。あの計画書に書かれてない、意図的に隠された穴、本当の計画の要。みんなはそこに行って頭骨を手に入れてきてほしいの」


「自分で考えたみたいに言ってるけど、頭骨がそこにあるってそれわたくしが考えたことですわよね?」


 ドーシャは仲間を見渡した。

 シシュン、リンネ、クシーニ、ヤクモ、チュチュ、ミヤビ。


「8人には足りないな……。ちゃんと言いつければレインも行けるか? ウララにも手伝ってもらうのは……無理かなやっぱり。仕方ない、ナセを呼ぶか。最近ずっと手伝ってもらってるからあんまり呼びたくなかったんだけど」


 ドーシャは携帯でナセを呼んだ。


 2時間ほどするとナセがやってきた。

 名門退魔師の末裔、風御門ナセ。二口女の残妖。

 相変わらず綺麗な墨色の髪をしている。


「やっほー。やけにぎょうさん人がおるなあ」


「ナセ。来てくれてありがと。またまた命を懸けることになって本当ごめんなんだけど」


「ドーシャとうちは刎頸の交わりやろ? けどさすがにそろそろ首3個分くらい貸しがたまってきたな」


「生きてるうちに返済できるかな」


「うちはいつまでも待っとるよ」


「ありがとう。じゃあ、出発しよう。もうあまり時間が無い」


 夜の10時。日付が変わるまでほんの少し。


「待てよ」

 シシュンが言った。

「俺たちは大して仲良くもないし、境遇もバラバラだ。それでも今、同じ目的で危険に向かう」


「何が言いたいの?」

 ミヤビが不思議そうにする。


 シシュンが胸を張って答える。

「つまり、俺たちにはチーム名が必要だってこと」


 クシーニがでっかいため息をついた。

「はあ~。時間も無いってのに、子どもはほんとどうでもいいことにこだわるな~」


「お前のほうが年下だろ! それに、こういうのが大事なんだよ」


「なにか案があるの?」

 ドーシャが訊いた。


 シシュンが答える。

「ドーシャに決めてほしい。みんなドーシャのために集まってる」


「そうね。それが一番よ」

 ミヤビが賛成した。


「先輩、なんでもいいからちゃっちゃと決めてくださいっス」


「うちはドーシャが考えた名前ならそれでええよ」


 ドーシャは考えた。

 この戦いに相応しい名前。


「……夢幻山」


 ドーシャの母の故郷。

 今は無き思い出の場所。


「却下」

「ドーシャ先輩、もう少し空気読んでくださいっス」

「ドーシャ、それはちょっと……」


「なんで!? なんでもいいって言わなかった!??」


 あまりの不評っぷりにさすがに焦る。


「先輩のお母さんの故郷はさすがに先輩ひとりの感傷に浸り過ぎっていうか……」

「ドーシャ、こう、俺たちのことをもっと盛り込んだ名前にしてほしいんだが」

「う、うちは悪くないと思うよ?」


 ドーシャはしぶしぶ新しい名前を考える。


「……『地星山(つちほしやま)』」


「つちほしやま?」


「うん。星は天にあるけど、私たちは大地の星」


「うーん。抽象的すぎてイマイチっスけど、時間も無いしもうそれでいいか……」

「ドーシャって、ふっ、意外と詩人なのですわね」

「そもそもドーシャのセンスに期待しすぎなんよ」


「チュ、チュチュはいいと思うのです!」

 たまらずチュチュがフォローした。


「まあ、名前が無いよりマシだろう」

 名前をつけることを提案した当のシシュンが投げやりだ。


「なんでここまで言われてるんだろう……」

 言われたから考えたのに、理不尽だ。



 ドーシャたちは外に出る。


「車と運転手を用意したわ」


 ミヤビの言う通り、車が9台用意されている。

 ドーシャたちはそれぞれ別の目的地に向かう。


 仲間と別れそわそわしながら日付が変わるギリギリに着いたそこは、ドーシャが以前見たときとは全く異なっていた。


「なに、これ……」

 ドーシャは車を降りる。


 そこには、何も無かった。

 以前あった、駅も、商店街も、なにもかも。泥の海に沈んでいた。

 はるか遠くにぽつんと建物がひとつだけ残っている。


 ドーシャはその建物を目指して泥の海を歩き出した。

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