第83話 銀行強盗
「一番最初に外に出たグループにあたしは混じって外に出たっス。だから分かるっス。町を攻撃したのは『逢魔』じゃなくて軍のほうっスよ。つまり最初から濡れ衣を着せるために『治療所』を開放したってことっス」
クシーニの話はドーシャには信じられないものだった。
「なんでそんなことする必要が? あんな何も無い場所攻撃して何の意味が?」
「あたしも意味分かんないと思ったっスけど、ドーシャ先輩の話でだいたい分かった気がするっス」
家に帰るまでの間、クシーニの分身に軽く状況の説明はしていた。
「要は残妖が暴れたという事実が欲しいんスよ。残妖相手に軍を動かす口実が。つまりこれからは残妖相手には軍隊が堂々と出てくる」
「政府は馬鹿なのか?」
シシュンが言った。
「軍隊でどうにかなるなら12年前のテロはあんなに被害を出してない。ヌルみたいな一部の残妖が強すぎることを無視しても、根本的に、都市に紛れた残妖を倒すのに戦車や戦闘機では無理があるんだ。残妖と一般人の区別などつかないんだから」
「まあ、それは奇妙ではあるっス。だから今まで『式』があったのにそれを凍結して軍隊にやらせるってのは不可解っス」
疑問にミヤビが答えた。
「単純よ。政府は合理性で動いてないということ。そもそも残妖絶滅なんてこと、苦労ばかりで得るものなんか何も無いのよ? 政府なんていっても結局はただの人間の集まり、人間は感情でしか動かない」
クシーニが嘲笑した。
「あたしみたいな人間ばっかってことっスか。だとしたら、人間は愚かっス」
クシーニは残妖を憎む残妖だ。ドーシャたちより政府の考えのほうが近いはず。ただ、それを愚かと嘲った。
「とりあえず政府のことは放っておこうぜ」
シシュンが言った。
「俺たちにどうにかできることでもないし、軍隊なら『式』より恐くない」
ドーシャは頷いた。
「そうだね。まずはお父さんに……、いや、先にライジュを探すか? 『白締』の綾瀬タイガに会いに行くべきか……」
「霜月隊長を探してみたほうが良いっス。あの人はこういうのに従う人じゃないっスから」
「その前に武器が必要だ。俺の鉈、取り上げられたままだ」
「あ、そうだ。私の包丁も取り返さないと。たぶん『管理局』か『研究局』?」
「『管理局』っスね、別に研究するほどの武器じゃないし。倉庫に放り込んであるんじゃないっスか」
「じゃあまずは『管理局』の倉庫だ」
というわけで武器を取り返しに出発する。
その前にドーシャたちは着替えた。いつまでも囚人服のお揃いでは目立つ。
それからレインとウララには留守番させる。大勢でぞろぞろ動くのも目立つし、このふたりは言うことを聞く保証が無い。家に置いとくのすら不安なのでチュチュに面倒を見てもらう。
だからドーシャ、シシュン、クシーニ、ミヤビ、ヤクモの5人だ。
「ていうか、2人ともついてくるの?」
ドーシャはクシーニとミヤビに言った。
クシーニが言う。
「だって見てて不安になるっていうか、ドーシャ先輩ってあたしがいないとダメな人間っスから」
「そ、そうか……?」
ミヤビも答える。
「神は力を使うために与えるのよ。わたくしは力を持って生まれ、そしてたまたまここにいる。きっと力を使えということですのよ」
「う、うーん。まあ、助かるからいっか」
そしてヤクモが言った。
「僕には訊いてくれないんですぅ?」
ドーシャは無視した。
そして目的地に着く。
「倉庫って、あれ?」
ドーシャはあまりのことに頬をひくひくさせる。
「そうっスよ。あれが『管理局』の倉庫」
クシーニは平然と指さした。
都会のど真ん中。
クシーニが指さしたのは銀行だった。
「呪いのアイテムを保管するのにただ置いとくだけじゃ『逢魔』とかに奪われるかもしれないっスからね。警備員置くのもコストがかかるし。じゃあ警備員を置いても不自然じゃなくてコストもまかなえるよう、銀行としても営業してるっス。あたしらの目当てのものは地下の金庫にあると思われるっス」
「いや、それじゃ私ら銀行強盗になるじゃん」
「そうっス」
「さすがにそれは……。お尋ね者にはなりたくないっていうか……」
「そういうと思ってちゃんと用意しといたっス」
クシーニから黒い布を手渡された。覆面だった。
「えええ……」
ドーシャは受け入れきれない。
するとクシーニが覆面を取り上げた。
「冗談っスよ。ドーシャ先輩は外の見張りだけやってればいいっス。襲撃をかけるのはあたしとシシュンのふたりだけで充分っス」
シシュンが頷く。
「そうだな。俺たちはもともと捕まってた身だし、多少罪が増えようが大したことない」
「僕も行きますよぉ」
ヤクモが言う。
「回収したいものは他に無いっスか? だったら行くっスよ? 落ち合う場所はK高校正門前で」
シシュンとクシーニとヤクモは覆面をかぶって銀行に突撃した。
3人が入った瞬間、警報が鳴る。
「あいにく、普通の強盗とは違うんだよ!」
シシュンとヤクモが警備員を打ち倒している間にクシーニが鍵のかかった扉を蹴破って先に進む。
目指すは金庫室だ。
鋼鉄の扉すら破壊して進む残妖に通常の守りは意味が無い。
だから、金庫室の前にはやせこけた男性がパイプ椅子に座っていた。
金庫番の残妖だ。
うとうとしていたが、向かってくる3人に気づいて慌てて立ちあがろうとする。
「やらせるな!」
クシーニが叫ぶのが早いか、ヤクモが粘着性の糸で金庫番の腕を壁に貼り付けた。
シシュンがすかさず殴り倒そうとすると金庫番は曲がり角に逃げた。なんと手を壁に貼り付けられたまま。というか、そもそも曲がり角なんて無かったはずだ。
「なんだ?」
シシュンは驚きつつも追って曲がり角を曲がる。
するとそこは無数の曲がり角でできた迷路になっていた。
「空間系か、あるいは幻覚系の卑妖術っスね」
そう言いながらクシーニは分身たちと迷路に突撃する。右往左往するシシュンとヤクモを置いて迷路を人海戦術で踏破する。
すぐに迷路は消えてなくなった。
クシーニが気絶した金庫番を床に転がす。
「時間稼ぎ用の卑妖術ってところだろうけど、能力の相性が悪かったっスね」
シシュンが金庫室をこじ開けた。
「少し時間をロスしたっス。『式』が来る前に片づけるっスよ」
金庫室には無数の鍵のかかった引き出しがある。
中心には巨大な金庫。
シシュンはその巨大金庫を破ろうとしたがびくともしなかった。
クシーニが言う。
「それは『治療所』と同じ物理破壊不可能な特殊素材の金庫っスよ。でもたぶんあたしらの目当てはそっちじゃないから、こっちを探すっス」
鍵のついた引き出しをぶっ壊して引き抜き、中身を確認して投げ捨てる。
「こっちは普通に壊せるんだな」
シシュンの疑問にクシーニが視線すら動かさず答える。
「特殊素材は熱に弱いっスからね。かなりデカくしないと熱に耐えられないんスよ。残妖は炎を使うのも多いし。そんなことより急がないと、たくさんあるから日が暮れるっスよ」
シシュンとクシーニとヤクモの6人で作業だ。3人多いのはクシーニの分身。
一方、外ではドーシャはひとりで近くを見張っていた。ミヤビは反対側を見張りに移動している。
周囲では野次馬が外から携帯で撮影している。ドーシャは野次馬のさらに外側から様子を見る。
ふと遠くからタタタと走ってくるものがいるのに気づいた。
ドーシャはその人物に見覚えがあった。
「うわ厄介なのが来た」




