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第8話 魔獣剣士

 山姥の血を引く残妖、深山ドーシャは夜のネオン街を走っていた。

 普通の人間が出せる速度に抑えながら人混みを通り抜ける。


 10分前、お父さんから指令が来た。

 暴漢が現れた。残妖の可能性が高い、と。


 妖怪の血を引くドーシャは夜目が利くのだが、逆に看板の明かりや自動車のライトが普通の人間以上に眩しい。


 携帯で現在地を何度も確認する。暴漢の位置も情報局から送られてきているが見るたび位置が変わっている。


「えっと、あのお店がここで……、だから目的地は……ここ?」


 ドーシャは周囲を見回すが人が多くて分からない。耳を澄ますが雑音が多くて分からない。

 それでもようやく異変を見つけた。


 コンビニから人が声を上げて逃げ出している。

 明るい金髪の女性、Tシャツの男性、普通のサラリーマン、そして最後にヒゲの男性が木刀を振り回しながら出てくる。


 間違いなくこのヒゲが暴漢だろう。


 金髪の女性を執拗に追う暴漢にドーシャは飛び蹴りを放つ。

 暴漢は木刀で受けた。渾身の力でドーシャを押し返す。ドーシャは身をひるがえして離れた場所に着地する。

 鬱陶しそうに暴漢は言う。


「残妖か。意外に早く出てきたな」


「いつまでも暴れさせとくわけにいかないから」


 ドーシャは両手を天に突き上げ、振り下ろすように暴漢へ向ける。


野分(のわき)山の暴風!」


 突風が巻き起こり暴漢は後ろへ吹き流されそうになる。


 この技は人に見られても問題ないため街中で使いやすく便利。


 暴漢は木刀を舗装された道路に突き刺してバランスを取った。

 追撃のため近づいたドーシャに暴漢は体勢を立て直し木刀を横薙ぎに振るう。狙いは低く腿のあたり。ドーシャは跳んでかわした。


「忠剣回帰」


 かわしたはずの太刀が反転して戻ってくる。


(速い!)


 二の太刀をかわせずドーシャは胴を打たれた。コンビニまで吹っ飛ばされガラスを割る。

 急いで立ち上がるが痛みによろめく。


「普通の木刀じゃないねそれ」


 暴漢はつまらなそうに答える。


「廃仏毀釈で破壊された国宝級の仏像から作られた木刀カルマだ。お前ら残妖と戦うために手に入れた」


「は、はいぶつきしゃく?」


 小学校中退のドーシャには難しい単語だった。


「でも今の一撃で分かった。おっさんは残妖じゃない」


 残妖ならもっと痛い。

 聖なる武器なのか呪われた武器なのかよく分からない由来だが、どっちにしろ呪力を持つ武器と達人じみた技の冴えで戦っている。


「だからどうした。お前ら残妖は人間を見下しているがその慢心ゆえに死んでいくんだ」


「別に見下してないけど」


 ドーシャの母を殺した風御門の退魔師も普通の人間だったし、ドーシャの父もかつては退魔師だった。


 とにかく山姥の肉体にダメージを与えられる武器だ。暴漢の剣の速さも相まって迂闊に近づけない。また、人の目が多く妖術も風以外は使いづらい。

 どう攻めるか考えながらジリジリと慎重に間合いを縮める。


 ドーシャの右足が小石に触れた時、暴漢が右足を前に出し前のめりに姿勢を低くした。

 暴漢が低く構えたことで背後が見える。明るい金髪にヒョウ柄の服の女性。最初に逃げていた、暴漢が狙っていた人。その手から30センチほどもある爪。


「死ねっ!」


 あの爪はおそらく残妖だ。しかしなぜ狙われていた人が残妖だったのか、わざわざ戻ってきて反撃するのか、ドーシャには分からない。


「猟剣追走」


 暴漢が一歩前に進みながら後ろを向く。金髪の女性の爪はわづかに届かず、暴漢の胸の皮を裂いて血がしぶく。暴漢はそこを一気に戻るように木刀を突き入れ女性の胸を貫通した。

 女性は血を吐いて動かなくなる。位置的に即死だろう。

 木刀を引き抜き女性が倒れる。

 暴漢はドーシャを一瞥した。


「あと3人。お前のご主人様のツバキに伝えておけ。首を洗って待ってろってな」


「ツバキ? 誰のこと?」


「呪い殺しのツバキの命令で俺を殺しに来たんじゃないのか?」


「呪い殺しのツバキだと……?」


 ついこの間も名前を聞いた気がする。

 ドーシャは記憶から情報を手繰る。


 呪い殺しのツバキ

 本名不詳・年齢不詳

 12年前に大規模テロを起こした残妖集団『逢魔』の中心メンバー。凶天と呼ばれる最高幹部。

 逮捕された『逢魔』メンバーの証言には出てくるものの実際に姿を見た者はおらず、それ以来活動していないため実在を疑問視する声もある。


 『逢魔』の大規模テロは残妖でない人間と残妖との間の対立を深めた。そして激化した戦いに巻き込まれてドーシャのお母さんは退魔師に殺された。

 元を辿ればテロを起こした『逢魔』が悪い。

 だからドーシャは呪い殺しのツバキを必ず倒す。

 それがお母さんの仇を討つことだと信じてる。


「おっさん何者? 呪い殺しのツバキとどういう関係? 見たことあるの?」


「ツバキは俺から全てを奪った。俺は復讐のため地獄から戻ってきた魔獣剣士」


「魔獣剣士って」


 何もかも異常な状況だが推定30歳前後のおじさんが魔獣剣士とか名乗っちゃうのが一番異常だった。


 魔獣剣士が木刀を納める。

「これ以上お前にかまっている暇は無い。警察も来たみたいだしな」


 パトカーのサイレンが近づいてくる。


 『式』は国家権力とつながっているもののその存在が秘密となっているため現場の警官とはトラブルになる。

 逃げる魔獣剣士を追わずドーシャもネオン街の闇の中に隠れた。


☆☆


 『式』の本部でドーシャは警察の捜査資料を見ていた。


 12年前、ちょうど『逢魔』のテロのあった年の、ある高校の卒業アルバムの写し。

 昨日魔獣剣士が殺した女性も含め、ここ1ヵ月でこの中から3人が殺害されている。

 殺された3人とよくつるんでいた人間が4人、その名を挙げられている。


 犬神ジュズ。疋田(ひきた)ヤフサ。

 不良って感じの連中。


 3人目、番ダイスケの写真に目が留まる。

 昨日の魔獣剣士のおっさんだ。面影はあるものの気弱そうな見た目でだいぶ雰囲気は変わっている。


 最後、4人目、長い茶髪に眠たげな眼をした少女。八重垣ツバキ。高校生の割には幼い感じが残る。


「これが呪い殺しのツバキなのか?」


 八重垣ツバキは卒業後は消息不明となっている。


「誰も見たことの無い呪い殺しのツバキのことを魔獣剣士のおっさんは知ってる。ツバキが12年間見せなかった尻尾。逃しはしない」



*************************************


 名前:(つがい) 大輔(ダイスケ)

 所属:なし

 種族:純血の人間

 年齢:30

 性別:♂

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