第63話 ナセVSジューグ
『式』長官九条アキラは携帯で情報局からの報告を見ていた。
「変電所を破壊したのが数百人の残妖だと……? すでにヲロチの頭骨で兵隊を作り出していたか。準備が終わっていたからヲロチの残妖にあっさり頭骨を渡したわけだ」
『式』のメンバーリストを眺める。
「ナルミ、ヨリヨシ、ホコリ、キジャチは治療中。フユヒとドーシャも負傷がある。だから今行動を起こしたのだろう。すぐ動けるのはレンとマナとサーヤ、少し時間があればススキとハナビも来れる。だが変電所を破壊したのは何かの準備のはず……。戦力をそっちに移動させるのは危険だな」
「しばらく『逢魔』がどう出るか待ってみては?」
秘書のハニが提案する。
総理が口を挟む。
「残妖どもが暴れるのを黙って見ている気ですか?」
アキラは少し考えこんだ。
「どちらにせよ数百人の残妖を相手にするならフユヒを動かすしかない。負傷しているとはいえ七凶天以外には負けないだろう。ドーシャとサーヤも同行させる。ススキとハナビも呼べ、数時間で到着する。マナは『逢魔』の目的が分かるまで待機させる。それと……レンには万が一に備えて特別な任務を命じる」
般若の面をかぶった『式』の隊員は命令に従い姿を消した。
☆☆☆
退魔師でドーシャの親友の風御門ナセはドーシャの代わりに破壊された変電所へとやってきていた。
「警察が封鎖しとったけど残妖を止められるもんでもないよ。さてさて『式』の隊長さんはまだ来とらんみたいやな。うちが一番か」
うろうろしていると突然自動車がこっちへ吹き飛んできた。
慌てて建物の陰に隠れる。
小学生くらいの子が自動車を次々蹴り飛ばしている。
「おい。遊んでんじゃねーぞ」
中学生くらいの少年が声変わりしたばかりの声で注意する。少年は真冬みたいに手袋をしてマフラーで口元を覆っている。そして頭のサソリの形の髪飾りが目立つ。
その少年は十数人の小学生くらいの子を引き連れている。
(『逢魔』や。確か前も子どもを使っとったな。子どもは強うはないけどこんだけ多いとさすがに一筋縄ではいかんな……)
ナセは髪の毛を伸ばして最後尾の子どもの口をふさぎ引きずり込む。地面に叩きつけて弱らせ縛ったまま髪の毛を切り離してその辺に転がす。先頭の子どもが派手に暴れてるから音で気づかれることはまず無い。
順番に後ろの子どもを狙い倒していく。
残り5人ほどになったところでサソリの髪飾りの少年が振り返った。
「霜月フユヒが来ていないか注意しろ。…………。なんか少ないな」
その間にナセは少年の前にいた子ども2人を倒す。
「あっ!」
それを見ていた子どもが声を上げる。
少年が再び前を見たところでもう1人引きずり込む。
髪の毛に引きずり込まれる仲間を見て少年もようやく気づく。
「髪の毛の卑妖術、まさか風御門ナセか?」
ナセは建物の陰に隠れたまま答える。
「うちもこの仕事始めて2年になるけど名前が売れてきたらしいな」
「2年前お前が退魔師になったのは俺のおかげだ」
ナセは驚いて建物の陰から出て正面から少年の顔を見る。
「祟ジューグ……」
2年前ナセの父、風御門タメミツを殺した残妖だ。
「『逢魔』におったとはな。関わることは無いと思うとったけど世間は狭いなあ」
ジューグは手袋を外した。
残った2人の子どもの頭に手を乗せる。
「あいつを殺してこい」
ナセは驚く。
「嘘やろ?」
慌てて逃げる。
2人の子どもが追ってくる。
髪の毛を操り建物のパイプに引っかけてひとっ跳びで屋上まで上がる。子どもたちも追ってよじ登ってくるがそこへナセが建物の柵やドアをはぎ取って投げつけ叩き落す。
地上へ落ちた子どもたちはちょっと相談して二手に分かれた。二方面から登ろうという算段だ。
しかし、分かれた直後に1人が頭を押さえてうずくまった。
「どうしたの?」
もう1人が慌てて駆け寄る。すると振り返ったもう1人の顔は真っ黒に変色していた。
「助けて……」
子どもは仲間にすがる。
仲間の異常な様子に怯えたもう1人は逃げ出した。しかし10歩も進まぬうちにその子どもも頭を押さえて倒れる。2人は痙攣し、苦しみ、死んだ。
「死によった」
ナセは冷淡につぶやく。
「祟ジューグ、知っとるよ。その卑妖術は感染する毒。その手で触れたもの、そしてそれに触れたものを汚染し破壊する。うちのおとんは見るも無惨な姿になって死んだらしいわ。けどまさか武器にするために子どもを連れてたとは思わんかった。うちもあくどいほうやと思っとったけどまだまだやな」
ジューグは遠くから答える。
「ガキどもに触れていればお前も死んでいた。それを知っていたからあいつらが死ぬまで逃げたわけだ。だがこれで終わったわけじゃない。俺はすでにこの街のあらゆる場所に触れている。この街全てが俺の武器だ」
「ええで。受けて立つ。おとんのやり残した仕事うちが片づけようか」




