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第62話 逢魔が時

 夕方。日が沈み始めた刻。

 何十人も入れる広い部屋にたった4人。

 1人は『式』の長官九条アキラ。

 もう1人は秘書の國生ハニ。



 2人はある秘密の交渉のために来ていた。


 交渉相手の1人は屈強な男性。防衛大臣。

 もう1人は鋭い目をした女性。眞利アリス総理大臣だ。眞利は12年前の『逢魔』との戦いのとき防衛大臣を務めており残妖との戦いを指揮した経験がある。


 総理は言った。

「話とはなんでしょう。政府の所有するヲロチの頭骨の返還なら電子メールで指示したはずです。返事も電子メールに返信していただければ結構」


「我々は頭骨を返す気は無い」

 アキラは答えた。

「あれは非常に危険性の高い呪力の結晶だ。みすみす残妖に奪われる政府が持つより我々が管理したほうが安全と考える」


「誰が持つべきかなどという話はしていません。あれは我々の物です。拾ったら持ち主に返すのが道理でしょう?」


「あいにく『式』は国際機関『世界人間連盟』の下部組織であり、各国の法を尊重はすれど従う義務は負わない。そもそも我々は法に従っていてはできない非合法な活動を請け負っている。政府の代わりにだ」


「強制的に差し押さえることもできるのですよ」


「政府に『式』の残妖を倒せはしない。だが我々も政府と対立を深めるために来たわけではない。頭骨は返せないが代わりに総理が望んでいたものを差し上げよう」


「私が望んでいたもの?」


 総理はアキラの目を覗き込む。そこにアキラの意思は読み取れない。何も映っていない。



 長い時間をかけて交渉は終了した。

 一瞬部屋の電灯が消えてまた点く。

「分かりました。ではそのときまでヲロチの頭骨は『式』に預けておきましょう」


「くれぐれもご内密に」


「あくまであなたたちが私を裏切らない限り。我々はこのことが洩れても困らないのですから」


 そこで部屋のドアがノックされた。男性が1人入ってくる。

「総理。首都で大規模停電が起きています」


 さっき一瞬電灯が消えたのは停電のせいだ。政府機関は予備電源に切り替わったため停電していない。


「わかりました。すぐ行きます」


 総理が立ち上がったとき、般若の面をした男性も入ってくる。面の下からくぐもった声でなにごとか囁く。

 面の男性は梔子レン。『式』の隊員の1人で長官のアキラの護衛として部屋の外で待機していた。


 アキラも立った。

「『逢魔』の仕業か……。総理、我々もともに行きましょう」


 総理はいやそうな顔をしたが断りはしなかった。

 4人はともに部屋を出る。

 アキラは誰にも聞こえない小声でつぶやく。

「六文ヌルめ。まだそのときではないというのに」


☆☆☆


 ドーシャはこの日は自宅にいた。

 珍しく任務が無くて暇になっている。もっとも、いつ任務が入るか分からない生活ではあるが。


 おばあちゃんが嬉しそうに晩御飯を作り始める。

 ライジュがいなくなってドーシャが『式』で戦うようになってからおばあちゃんはずっと1人で夕食をとっていた。

 もっとも最近は下桐チュチュがおばあちゃんと一緒にいてくれるのだが。

 今日もチュチュが一緒にいる。


「ていうかさ。ヲロチの残妖は倒したけどまだ帰らないの?」


「チュチュの仕事は歴史の記録なのです。歴史に終わりは無いのです」


「まあ助かってるから別にいいけど」


 3人で食卓を囲む。

 すると電灯が消えて真っ暗になった。

 とはいえ残妖であるドーシャとチュチュは夜目が利くので問題は無い。


「あ、おばあちゃん動かないで危ないから」


 ドーシャは慌てて携帯のライトを点ける。

 その間にチュチュが電灯のスイッチをつけなおす。だがつかない。ブレーカーを見に行きしばらくして帰ってくる。


「つかないのです」


「ニュース見る限り停電っぽい」

 ドーシャは携帯の画面のニュース記事を見せる。


「どうしよっか」


「電気が復活するまで待つしかないのです」


「やっぱそうするしかないか」


 ドーシャは窓の外の夜の街を見る。

 いつもに比べればかなり暗い。それでも自動車や携帯のライトが生きている。


「この街を真の闇が覆うとき……」

 ドーシャはシシュンの言葉を思い出した。


『この街を真の闇が覆うとき『逢魔』は全て終わらせる』


 ドーシャの携帯の着信音が現実に引き戻した。

 メッセージ。

「『逢魔』が複数の変電所を破壊した。ただちに現場に向かい『逢魔』の戦闘員を排除せよ」


(シシュンの言葉が本当なら変電所の破壊は始まりに過ぎない……)

 ドーシャは迷った。変電所に向かえば取り返しがつかないことになるのではないか。だが先日のヲロチの残妖との戦いで『式』の戦闘員の半数近くが治療中で、通常の任務のこともあるため今この街で動ける隊員はドーシャを含めて数名だけだ。


 ドーシャはナセにメッセージを送ってみる。

「今どこにいる? こっち来れる?」


 すぐに返事が返ってくる。

「まだこっちおるよ? 来たついでにこっちで仕事やっとこうと思って。もし実家帰ってたらそっち行くのに朝になってしまうよ」


「ラッキー。じゃあ悪いけど今から言う場所に向かって『逢魔』と戦ってほしいの」


「気軽に命懸けさすなあ。でもええよ。ドーシャとうちは刎頸の交わりやからね」


 ドーシャは携帯をしまうと言う。

「それじゃあちょっと行ってくるから」


「わたくしも行きます。ただごとではないのでしょう?」

 チュチュが言う。


「チュチュはおばあちゃんと一緒にいて。大丈夫、すぐ帰ってくるから」

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