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第61話 決心

 日も沈みすっかり暗くなった頃。ドーシャは珍しくこの時間帯に喫茶店にいた。

 ヤマタノヲロチの残妖との戦いからまだそれほど日も経ってない。ドーシャの傷は癒えていなかった。

 それでも減らない任務の合間を縫ってここにいる。


 ジュースを飲みながらぼんやりと思いにふける。

 大規模テロを引き起こした七凶天。ドーシャが戦う大きな理由。


 これまでに何人かとは遭遇したし、その末路も知っている。


 呪い殺しのツバキは仲間に殺された。

 殺戮者イクサは自分の卑妖術を過信して殺された。

 闇の中の影エーイチはドーシャが倒し逮捕された。

 青天のキララは死体で見つかった。誰に殺されたのかは分からない。


 残っているのは3人。


 狂少女は今もどこに潜んでいるのか分からない。

 新宿サクヤは堂々と一般人として生活している。


 そして……『逢魔』首領、六文ヌル。

 12年前の指導者であり今も『式』と戦い続けている。

 これ以上犠牲者を増やさないためにも必ず倒さなければならない相手だ。


 ドーシャはさらなる戦いが待ち受けていることを予感していた。



 ふと窓をコツコツ叩く音で我に返る。

 窓の外を見ると蓑をまとった少年がいた。


「いつもの喫茶店に来いっつーから中で待ってたんだけど」

 ドーシャは喫茶店の外に出て少年と話す。


 少年は高山シシュン。『逢魔』の戦闘員。

 敵ではあるがドーシャが無理やり仕事を手伝わせたりして多少の付き合いがある。


「にしても街中でその恰好はやめろって言ったろー。服も買ってやったのに」

 蓑は目立ちすぎる。


 シシュンはそのことには触れない。話しやすい場所を探して歩く。

 そのうちに公園の近くの空いた場所で立ち止まって話し始めた。


「ドーシャ、今日は大事な話があって呼んだんだ」


「大事な話?」

 ドーシャは怪訝な顔をする。

 心当たりが無い。ただわざわざ呼び出してきたのだから重要なことなのだろうという気はしていた。


「俺は、俺はさ、人間に父を殺された。前にも話したよなこのことは。母さんはあまり父さんの話はしなかったけど、俺が小さい頃、夜泣いていたら話してくれた。ま、恥づかしい馴れ初めはどうでもいいから省くけど、2年くらい山の中で暮らして山の暮らしに飽きたから俺を連れて街に戻ってきたんだとさ。母さんは俺を人間として育てたいらしいが俺はやっぱり残妖だ。人間としては暮らせないよ」


「そんなことないよ。人間社会で普通に暮らしてる残妖は大勢いる」


「気持ちの問題さ。俺は父親が妖怪だと知っている。父が人間に殺されたことを知っている」


「気持ちの問題ならなおさら大丈夫だよ。シシュンなら」


「ありがとうドーシャ。俺はドーシャを見て、自分の人間の部分も受け入れられるようになった気がする。だから……今の俺の気持ちを伝えに来た」


 ドーシャは無言で待つ。


「何度も誘ってくれたよな。『式』に来ないかって。考えてみればそれも悪くないかもしれない。ドーシャはお母さんの愛した人間を守るために戦ってる。俺の父さんも人間の母を愛した。『逢魔』を裏切ることは恐くない。裏切り者呼ばわりされることも、『逢魔』に命を狙われることも、仲間を倒すことも、恐くないんだ……」


 ドーシャは何も言わない。待っている。


「ただ……ひとつだけ。ひとつだけ裏切れない理由がある。ボス、六文ヌルのことだ。あいつは冷酷で仲間を仲間とも思ってない。だけど俺はヌルを裏切れない。裏切れない理由がある。だから……そっちには行けない」


 ドーシャはようやく口を開いた。

「分かってたよ。こっちには来ないって。だからその恰好なんでしょ。妖怪山爺の恰好」


「ああ。ドーシャには感謝してる。今までありがとう」

 シシュンは携帯を投げてよこした。以前ドーシャがシシュンにあげたものだ。


 ドーシャは携帯をつかむと問う。

「けど教えて。ヌルを裏切れない理由って何? 弱みを握られてるなら言ってみてよ」


「逆だよ。俺はヌルの秘密を知っている。たぶん俺だけに話した、ヌルの……。だから俺だけはヌルを裏切り見捨てるわけにはいかない。俺自身がそう思うから、そうするほかにない」


「後悔するよ?」


「多分な。けどどっちにしたって後悔するんだ」


「だったら私には何も言えない。悲しいけど」


「次に会うときは敵になる。ためらうな。真の闇がこの街を覆うとき『逢魔』は全て終わらせるつもりだ」


 シシュンは夜の横断歩道を渡っていく。ドーシャはその場から動かず見送る。通り過ぎる自動車が何度も姿を隠し、すぐにシシュンも見えなくなった。

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