第6話 長官秘書の自宅訪問
暖かい真昼。
ドーシャは自宅の居間でちゃぶ台にもたれかかりながら携帯でウェブ漫画を読んでいた。
基本的に任務は夜間にこなすので日中は緊急の任務が入らない限りゆるく過ごしている。
ちなみに読むのはだいたい異世界恋愛。特に悪役令嬢が好きでドーシャは幼稚園のとき将来なりたいものに「あくやくれいじょう」と書いたくらいだ。
ドーシャは漫画を読みながら半分寝ていた。よだれがちゃぶ台に垂れる。
ふと気がつくと物音と話し声が聞こえる。
家にはドーシャとおばあちゃんしかいないはずだ。
お父さんが帰ってきたのだろうか。
よだれを拭いて起きる。
玄関へ行くとおばあちゃんが誰かと話していた。
「國生さん」
「あ、ドーシャちゃん」
赤土色の髪に黄土色の目の女性がにっこり笑って手を振ってきた。
國生ハニ。
『式』の長官秘書。長官のサポートが仕事だが、たまに直接指揮を執ることもある。
上司にあたるがドーシャと3つしか変わらぬ19歳。
「何の用?」
「九条さんに頼まれてドーシャちゃんの様子を見に来たの」
九条というのは『式』の長官でドーシャの父親だ。ドーシャは母親の姓を名乗っている。
「気になるなら少しくらい家に帰ってこいって伝えてよ」
「まあそう言わないで。九条さんは忙しいんだから」
ハニはドーシャをなだめる。
ドーシャはハニのそういうところが好きになれなかった。
娘であるドーシャよりもお父さんのことを理解しているとでも言うようなその態度……。
ハニは家に上がった。
「ほら、お土産」
ハニはハムの入った箱をくれた。
「あ、ハムだよおばあちゃん!」
さっきまでのもやもやも消し飛びドーシャははしゃいだ。
ドーシャはハーフ山姥。肉は大好物だ。
さっそくおばあちゃんと箱を開けてまな板に並べる。
「私手伝います」
ハニがおばあちゃんの代わりに包丁を握ろうとする。
「えええ?」
ドーシャは困惑した。
ハニはとてもとても料理が下手だった。普段料理をしてないのは明らか。そのくせドーシャの世話を焼こうとしてやりたがる。
おばあちゃんもちょっと困っている。
ハニはドーシャの上司でもあるため断りにくい。
「そうねえ。切って焼くだけだから大丈夫かしら」
結局包丁を渡してしまった。
ドーシャは不安でたまらない。
ハニは受け取った包丁をぶんぶん振り回し力任せにハムを叩き切る。
「ふん! ふん!」
「あああ……」
ドーシャはハーフ山姥なので包丁を粗雑に扱うことに強い拒否感がある。しかしハニはドーシャの上司であるため文句も言いにくい。
厚さに偏りがあるハムをフライパンで焼く。これはおばあちゃんが隣で見ているので大丈夫だろう。
そして完成したハムを切って焼いただけのもの。
皿に盛ってちゃぶ台に置く。
「やったー」
ドーシャは箸を出してハムを食べる。ちなみにこれは夕食ではなくおやつである。
おばあちゃんはにこにこ見てるだけで食べない。
「あ、おいしい」
ドーシャはハムをぱくぱく食べる。
ハニも割り箸で一緒に食べる。
ハニは箸を握るように持ち、ハムに突き刺して食べる。箸を正しく持つことができないらしい。
おばあちゃんはハニと仲がいいが、このときばかりはいやそうな顔をする。ドーシャとしては別に気にしないのだが。
ほぼドーシャひとりでハムを全部食べる。
ハニは携帯をいじっていた。
「あ、事件発生。近いな……」
ハニがそう言ってしばらくするとドーシャの携帯の着信音が鳴った。いやな予感がする。
確認するとメッセージが1件。送り主はハニ。出動命令だ。
「隣にいるんだから直接言いなよ」
ドーシャはしぶしぶ立ち上がった。
「しゃーない。行ってきますか」
「いってらっしゃい」
ドーシャが出ていくとき、おばあちゃんがハニに野菜とか渡しているのが見えた。
☆☆
夕日をバックに金属バットをかついだモヒカンの男性が自転車で爆走する。
そこをドーシャが横から盛大に蹴りを入れて倒す。モヒカンは派手に転んで頭から地面に落ちた。
しかしモヒカンは何事もなかったかのように立ち上がる。
「てめえやる気か?」
「警官を殴った上パトカーを破壊したのはお前で間違いないな?」
ドーシャの質問にモヒカンは金属バットを振りかざして答える。
分かり易くていい。ドーシャも右手に力を込める。
「まだ明るくて人目もあるしとっとと終わらせる。野分山の暴風!」
ドーシャは右手から暴風を放つ……つもりだったが、放たれたのはハムだった。
ハムがべちゃっとモヒカンの顔に当たる。
ドーシャの卑妖術は体内に溜めたものを放出することができるというもの。
食後すぐは誤爆しやすいため任務前の食事は控えることが望ましい。




