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第59話 最後の頭骨

 凍りついていた世界が突然真夏のように暑くなった。

 アカネが立ち上がる。

 アカネが一瞥するとフユヒ隊長の体が燃え上がる。

 突然のことに混乱しつつもドーシャは助けに入ろうとするが前に進もうとした瞬間地面が陥没してドーシャは埋まった。


「八紘八宇は自然の全てを支配するヤマタノヲロチの真の力だよ。いかなる残妖もこの力に抗うことはできない……」


 暴風が吹き荒れ、雨が打ちつけ、日光が体を焼き、大地が隆起し、稲妻がつんざく。


 永久に続くかと思われた天変地異は不意に終わった。

 まずドーシャは終わったことが信じられなかった。

 空を覆う黒雲もなくなり嘘のような晴天だ。


 埋まった体を引っ張り出す。

 周囲を見渡すが立っている者は他にいない。巨大な石の下敷きになって倒れているナセを見つけ助け起こす。


「あいたた……。何が起きたん?」


「分からない。アカネもいない……」


 遠くを探すドーシャ。

 ナセがちょんちょんとつついてドーシャに示す。


「なあこれ」


 ナセが指さしたのはさっきまでナセの上に乗っかっていた石だった。


 ドーシャはそこで初めて気づいた。

 石じゃない。巨大な蛇の骨。


「うわ」

 ドーシャは驚いてまじまじと見る。

 間違いない。ヲロチの頭骨だ。

 コンテナを見るが壊れてはいない。それどころか他にも頭骨があちこちに散らばっているのに気づいた。


「頭骨を捨てて逃げた……?」


「いったいなんでなん? うちらの負けやったやん」


「たぶんアカネも限界だったんだ。最後に出した技は全ての頭骨が揃ってない不完全な状態で使うものじゃなかった。だからアカネ自身が耐えられず頭骨との融合を維持できなくなった」


「じゃあ引き分けか」


「私たちの勝ちだよ。アカネは頭骨を失った」


「そう? 蛇は執念深いって言うで?」


「けど頭骨を7つ全て失った以上できることはない……」


 そこまで言って気づく。

 頭骨が6つしかない。

 数え間違いかと思って数え直すがやはり6つだ。

 アカネは『式』の頭骨以外は全て手に入れたと言っていた。それを信じるなら7つのはず……。


☆☆☆


 草薙アカネは山の中を歩いていた。

 弱りきって足を引きずる。

 洞窟へとたどりつくと中に入っていく。

 闇の中、アカネを待ち受けていたのは2つの赤い眼。


 それは大蛇だった。

 シューシューと声を出す。

「アカネ……。その傷は……」


 アカネは洞窟の壁にもたれかかるように座る。

「アカネはへいきだよ。今回は負けちゃったけど次はきっと勝つ。でもちょっとだけ休ませて。疲れちゃったんだ……」


 アカネは目を閉じる。

 静寂。

 どれほどそうしていただろうか。誰かが落ち葉を踏む音でアカネは目を覚ました。


「人間が近づいてきたな……」

 大蛇が言う。

 足音は洞窟の中へ入ってくる。すぐにそれはアカネたちの前に現れた。


 白い髪に夜空のような黒い瞳の少女。


「山姥の、か」

 アカネは少し笑った。

「名前は深山ドーシャ……だったかな」


「純血の妖怪……?」

 洞窟の奥の大蛇を見て驚く。


 アカネは頷く。

「そうだよ。アカネのご先祖様なんだ。つまりヲロチの子孫でもある」


「純血の妖怪が生き残っているなんて」


 大蛇が答える。

「もはや死んでいるのと変わらん……。私の寿命はもう残されていない……」


 アカネが泣きそうな声で言う。

「そんなこと言わないでおじいちゃん。頭骨を集めればきっと良くなる」


「まさか……」


「そうだ……。私は頭骨の力で生き永らえている……」

 大蛇が巻きついている岩はヲロチの頭骨だった。


「最後の頭骨……。使わなかった理由がこれなんだね」


「頭骨が無ければおじいちゃんは死んでしまう。ドーシャ、お願いだから見逃して」


「悪いけど見逃すことはできない。私が見逃しても『式』は必ずここを突き止める」


「だったら……戦うしかないね」

 アカネは壁を這うように立ち上がった。


 それを大蛇が止める。

「よせアカネ……。もう充分だ……。私はすでに寿命を超えて生きた……。天命なのだ……」


「違う! おじいちゃんはまだ生きられる……。頭骨はもう一度集める。それできっと……」

 最後までは言えなかった。

 胸の傷口に拳を叩き込まれアカネは地に這いつくばった。


「頭骨はもらっていく」


 大蛇は抵抗しなかった。



 アカネは気が遠くなる。

 脳裡に浮かぶのは遠い記憶。


 山の中で迷った幼い日。不思議な感覚に導かれ洞窟で大蛇と出会った。

 綺麗だと思った。

 老いてなお何百年を生き抜いた強さと偉大さを感じさせる。

 アカネはそれからたびたび大蛇に会いに行った。

 小学生に上がっても、中学生に上がっても、高校生になった今も。

 嬉しいことも、楽しいことも、悲しいことも、つらいことも全て話した。

 アカネにとって大蛇は誰よりも親しい家族だった。


「おじいちゃん……」


☆☆


 頭骨を引きずって洞窟を出る少女。

 そこへもう一人が現れる。

 火炎のような赤い髪に青空のような青い瞳の少女。

 『白締』の綾瀬タイガ。


「ライジュ。どうやら見つけたようだね」


 ドーシャの姉、ライジュは頷く。

「うん。これが最後の頭骨だ」



*************************************


 名前:草薙(くさなぎ) (アカネ)

 所属:なし

 種族:ヤマタノヲロチの残妖

 年齢:16

 性別:♀

 卑妖術:《蛇視眈々》

     視線であらゆるエネルギー値を低下させる。

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