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第48話 音楽準備室

 放課後。ドーシャの部屋。


 ドーシャはベッドに座り、チュチュはイスの上に正座している。


「とりあえず怪しいのは獣王ミヤビ。絶対何か隠してる」


「もしミヤビさまが頭骨の所有者ならかなり危険なのです。この学校はほとんど全員がミヤビさまのグループに属しているのです。その全員が残妖であり敵となる可能性があるのです」


「学校のほぼ全員が敵だとさすがに手に負えないなあ」


 ファイア倶楽部は4人だったし、呪い殺しのツバキですら十数人のグループだった。これほどの規模のグループを作ることのできる権力者に頭骨が渡ったのだとしたら、そしてその人間が頭骨で残妖を増やすことをためらわないとしたら。


「でも最低限ヲロチの頭骨を見つけてからじゃないと『式』に増援を頼めないし」


「学校は広いとはいえ人間よりも大きな頭骨を隠せる場所はそう無いのです」


「頭骨と一体化すれば見つけられない。といってもヲロチの妖力が強すぎて一体化にはリスクがある。呪い殺しのツバキでもせいぜい5分くらいだった」


「5分では隠したとはいえないのです。考慮しなくて大丈夫なのです」


「そうだね。どこか頭骨を隠せるような広い場所があるはず」


「それも他の生徒が頭骨を奪えないようにしているはずなのです。もし頭骨を奪われたら立場が逆転してしまうのです。残妖であっても容易に侵入できない場所か、あるいは侵入しようとすればすぐに分かる目立つ場所なのです」


「そんな都合良い場所ある?」


「無ければ成立しないのです。必ずどこかにあるはずなのです」


 学校にそんな場所があるのだろうか。たいていの鍵は残妖ならムリヤリ破壊できる。

 じゃあ頭骨をずっと見張っているのか? 校舎と寮はすぐ近くとはいえずっと見張っていられるわけはない。絶対に裏切らない仲間がいたとしても24時間見張るには何人必要だろう。


 一番最悪なのはヲロチの頭骨が関係してないパターンだ。

 一生見つからなくて学校生活が終わらない。


 そういえば昨日の揺れと轟音はなんだったのだろうか。

 ヲロチの頭骨が関係しているならあれも無関係ではないはずだ。


「ところでドーシャさま。これはいったい?」


 チュチュは机の上のプリントの山を視線でしめす。


「ああそれ? ただの宿題。どうせやっても意味無いから気にしなくていいよ」


「ドーシャさま。宿題はちゃんとしないとダメなのです」


「うわマジメだ」


「ドーシャさまと一緒に校舎の探索をしようと思っていたのですが、チュチュひとりで行ったほうが良さそうなのです」


「なんでよ。ふたりで行ったほうが絶対いいって」


「学業も大事なのです。心配はいらないのです。生徒が行ける場所を歩いてくるだけなので危険は無いのです」


 チュチュは立ち上がって部屋を後にする。


「いやだから宿題やるつもりはないんだけど」


 行ってしまった。来るなと言われたのについていくのも気が引ける。だからといって大人しく宿題をする気にもなれない。


「じゃああっち行くか」

 ドーシャもまた部屋を出る。


☆☆


 チュチュは校舎内を歩く。

 日が暮れてきているのでだいぶ生徒は少なくなっている。

 そろそろ学校が閉まる時間だ。

 教師と会うとまだいるのかといった目で見られる。あまり長時間の探索はできないだろう。


 ふと音楽準備室の前で立ち止まる。

 中から何か聞こえたような……。

 チュチュは空気を操る妖術を持ち、風の流れ、空気の振動、音といったものに敏感だ。


(ですがこんな場所に頭骨が置いてあるはずは……。あまりに無防備、盗んでくださいといっているようなものなのです)


 そう思いつつも音楽準備室の扉に手を伸ばす。

 引いてみるも開かない。鍵がかかっている。

 残妖の腕力なら扉を破壊することもできるが確証も無いのに目立つことはしたくない。チュチュは手を離した。


(明日鍵を手に入れて、それからドーシャさまと一緒に来てみましょう)


 チュチュが音楽準備室を見つめていると声をかけられた。


「下桐チュチュさん」


 低く力強く可憐で優雅な声。


 くるくるの茶髪と黄金の瞳。

 獣王ミヤビ。

 取り巻きはいない。ひとりだ。


「音楽準備室に何か用なのかしら?」


「いえ。ちょっと物音が聞こえたような気がしただけなのです。ただの気のせいだったのです」


「ふうん、物音ですか。それは気になってしまうのも仕方ないですわね。ですが先生の許可が無ければ中に入ることはできませんわ」


「仰るとおりなのです。別に中を見たいとは思ってないのです。チュチュはそろそろ寮に戻ろうと思うのです」


「お待ちになって」

 しかしミヤビが引き留める。


 チュチュは警戒する。怪しまれているのだろうか。だが今のところこちらの正体がバレる要素は無いはずなのだが。


「中を見る方法がありますわよ」


「え?」


「わたくしはこの学校の鍵を全て自由に持ち出すことができます。なんといってもこの学校を作ったのは獣王なのですから当然ですわね」


 チュチュは考える。

 わざわざ見せるということは中には何も無いということだろう。

 しかし万が一ということもある。可能性は潰しておきたい。


「いいのですか? でしたらお願いしてもよろしいでしょうか」


「もちろんですわ」


 ミヤビは歩き出す。

 どうやら今鍵を持っているわけではないようだ。

 チュチュはここで待つか少し迷ったが、ミヤビのあとをついていく。


 下校時間を知らせる音楽が流れる。

 生徒はもう帰らなければならない。


 ミヤビは職員室に入った。チュチュも入る。

 教員が不審げに見るがミヤビは堂々と鍵を取る。


「音楽準備室を少し使わせてもらいますわ」


 教員たちは何も言わない。


 下校時間が過ぎて生徒のいなくなった校舎を歩き音楽準備室に戻る。

 ミヤビが扉を開ける。

 中に置かれたさまざまな楽器、それらはほとんど壊れている。そして……。


「そんな。まさか」


 チュチュは信じられないものを見た。


☆☆


 その頃、ドーシャは草薙アカネの部屋にいた。

 アカネはヘッドホンで音楽を聴いている。


「アカネ、昨日の揺れだけどさ」


 反応が無い。


「もしもし? もしもーし」


 アカネがヘッドホンを外した。

「何ー?」


「昨日の揺れ。気にならない?」


「倉庫で物が倒れただけって言ってたけどー?」


「どう考えてもそんな近くじゃなかったじゃん。学校のほうだと思うんだけどどこか心当たり無い?」


「そんなこと言われてもなー。ここにいてそんなこと分かるわけないしー」


「やっぱ分かんないかー」


 もっともドーシャもそこまで期待してない。

 別の質問をする。


「昨日の揺れってさ、毎日のことだったりする?」


「ううん。昨日だけだよ」


「昨日だけ、か」


 レツとミヤビを振り切って昨日校舎に行くべきだったか。

 それにしても昨日いったい何があったのだろう。ヲロチの頭骨が原因ならばもっとずっと前からあるはず。


 しばらく考えるドーシャ。


 不意に周囲の気圧が上がった。

 微かに遅れるもほぼ同時に轟音と揺れ。


「!」


「また揺れた」

 アカネはのんきにしている。


「やっぱり学校のほうだ」


(それに、今の気圧の上昇は……)


 ドーシャは立ち上がった。


「行ってくる」


「えー? 災害のときは見に行ったりしないほうがいいよー?」


 ドーシャはアカネの部屋を出て猛ダッシュで階段を駆け下りる。

 1階に下り寮の玄関に向かうと雑木林レツが仁王立ちして待っていた。


「深山ドーシャ。部屋に戻れ」

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