第43話 帰国
C国秘密残妖軍団『怪力乱神』の虎バイファはC国の軍艦で帰国する最中だった。
「もうすぐエレシュキガル島王国の領海を出る。気を抜くな」
バイファは配下の兵に声をかける。
この軍艦には『怪力乱神』の残妖が100人乗っている。その全てが水系妖怪の残妖。海上での襲撃に備えた構成だ。
軍艦がぐわんと揺れた。
「来たか」
海が荒れ狂い軍艦が激しく揺れる。
「どうした。波をしずめろ!」
バイファが叫ぶが部下たちは狼狽えている。
「海が……我々の卑妖術を受けつけません!」
海面から撃ち出されるように飛んできた人間が船内に降りる。
その数、10人以上。
その内のひとりは長身長髪、青い唇の男性。
『逢魔』首領、六文ヌル。
「敵襲だ!」
バイファは黄色い呪符の巻かれた短剣を握る。
ヌルのほうへと走り出そうとした瞬間、船が傾いたため足が止まる。
その隙に『逢魔』の戦闘員が『怪力乱神』の兵士を倒していく。
「何をしている! 反撃しろ!」
「卑妖術が効かないんです!」
バイファの命令に返ってくるのは兵たちの悲鳴のような叫び。
次々に倒されていきすぐに生き残っているのはバイファだけとなった。
バイファを取り囲む『逢魔』の戦闘員たち。
ヌルが言う。
「護衛を水系妖怪に絞ったのは失敗だったな。100人の水系妖怪の残妖より俺1人の卑妖術のほうが強い」
「お前1人で『怪力乱神』の精鋭100人の卑妖術を押さえ込んだというのか?」
「そうだ」
ヌルは誇るでもなくさも当然という顔で肯定した。
「さて、おとなしくヲロチの頭骨をこちらに渡してもらおう」
「『怪力乱神』の四将軍のひとり、虎バイファをなめるなヨ」
バイファがくるりと一回転しながら短剣を投げた。
攻撃の始まりを感じさせない自然で速い動作に『逢魔』の戦闘員の半分が防御を間に合わず短剣が突き刺さって死んだ。ヌルは海水を操って短剣を受け止めている。
揺れる船上でバイファは『逢魔』の戦闘員を次々と倒していく。残るはヌル1人。
ヌルは海水を操って攻撃と防御を行う。さらには波を使って船を自由に揺らす。
バイファはなんとかヌルの水に捕まらないように戦うが攻撃しようとすれば船が揺れるため攻め切れない。
ヌルが両手を広げた。
周囲の海水が天にも届かんばかりに持ちあがる。
「面倒だ。これで死ね」
大量の海水が船を洗うように襲いかかる。逃げ場も無くバイファは水に飲み込まれる。
水に包まれ動きが取れないバイファ。ヌルはバイファの短剣を拾い、投げる。
短剣はバイファの胸の中心、心臓の位置に突き刺さった。
目を見開きゴボゴボと息を洩らし動かなくなるバイファ。
ヌルは卑妖術を解いた。
バイファを包む水が重力に従い床に落ち流れていく。バイファは倒れたまま動かない。
船を揺らす波も収まり静寂が訪れる。
ヌルが歩き出す。
バイファの死体のそばを通り過ぎ船内への扉を開こうとしたそのとき。
バイファが跳び上がりヌルの背中へと短剣を突く。
バイファの額のお札がはがれていた。その額には……穴。
「頭に穴が開いても心臓を貫かれても死にはしない。不死の卑妖術……といったところか」
ヌルは振り返りもせずに短剣を水で受け止めていた。
「お前が最初から死んでいることには気づいていた。体内の水分が異常に少なく流れてもいない。全身の生々しい傷は生きているものと違って自然治癒力を持たないからか」
ヌルは振り返りながらバイファを蹴り飛ばした。バイファは海へと落ちる。
ヌルが手を振ると海に渦が発生しバイファを海の底へと飲み込んでいく。
「沈め。暗い海の底で永遠に魚と暮らすといい」
☆☆
ドーシャが目を覚ますとまだ潜水艦の中だった。
「ドーシャ、気がついた?」
ナセがいる。
寝たまま顔だけ横に向けると鈴木エーイチがナセの髪の毛でぐるぐる巻きにされている。
潜水艦の動きが急に止まって船内が揺れる。
ドーシャにはどうすることもできないので寝たままでいるとがやがやと人の声がする。
「きっと救助よ。うちがSOS出させたから」
ナセが自慢げに言う。
確かに救助らしい。屈強な海の人間たちがやってきてドーシャたちを運んで別の船に乗せてくれる。
驚いたことにその船はドーシャたちがエレシュキガル島までやってきた船だった。
長官秘書のハニがドーシャたちを見つけて駆け寄ってくる。
「無事で良かった。急に島が沈んだのでみんなを置いて先に船に乗ったんですがずっと心配で」
「私もキジャチもあんま無事じゃないけど……」
とはいえここで死ぬ気も無い。
ハニは1人足りないことに気づいた。
「フユヒは?」
「霜月隊長は國生さんを追っていったんだけど会わなかった?」
「いいえ。まあ、フユヒならきっと大丈夫でしょう」
☆☆
ドーシャたちは一旦エレシュキガル島から近いA国へと寄り、治療を受けることとなった。
鈴木エーイチも『世界人間連盟』A国支部に引き渡されその監獄へ入れられる。
エレシュキガル島王国の沈没は大きなニュースとなった。
死者・行方不明者2000人以上。
周辺国による救助活動が行われ、100人程度が救助された。
その中には海上をさまよっていたフユヒ隊長もいる。
奇妙なことにほんの少しだけ沈没していない場所が残っていて、それは奴隷の檻のある場所だった。
奴隷たちが救助されるとそのわづかな陸地は溶けるように消えていったという。
無事帰国したドーシャ。
今は『式』の仕事は休んで自宅にいる。
七凶天はあと4人。
破壊神サクヤ。
青天のキララ。
狂少女。
そして『逢魔』首領六文ヌル。
しかし今は休息のときだ。
胃から漏れてしまった火や水や雷を食べ直さないといけないし、それに……。
ドーシャは折れてしまった包丁を見る。
お母さんの包丁はこれだけしかない。
いや、正確にはもう1本あるがそれは姉のライジュが持っている。
「くれって言ってもくれるわけないよなあ」
ドーシャはため息をつく。
じっと包丁を見るが折れたままだ。
「接着剤でくっつくかな」
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名前:虎 白花
所属:C国秘密残妖軍団『怪力乱神』力将軍
種族:キョンシーの残妖
年齢:29
性別:♀
卑妖術:《死不死》
自らの生命活動を停止させる。停止している間は死ぬことがない。




