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第38話 オークション!

 真夜中、日付が変わる5分前。

 都市の中心に位置する巨大な会館。


 何か所かある入り口で『式』のフユヒ隊長、長官秘書ハニ、『サンソルシエール』の3人、『怪力乱神』の虎バイファなどと一緒に周囲を警戒しつつ入場する。


 入場整理の係員に鈴木エーイチからの招待状を見せる。

 係員は墨色の長い髪を揺らしながら招待状を携帯と照らし合わせて確認する。

 なんか記憶にある特徴だ。


 ドーシャは気づいた。

「風御門ナセ!」


 風御門ナセは名門退魔師一族の末裔で二口女の残妖でドーシャの友人だ。


「なんでここに?」


 声をかけられナセはドーシャの顔を見た。

「このアルバイトお給金良かったから。ドーシャこそなんでここに?」


「そのアルバイトの雇い主を捕まえに来たんだよ。ていうか七凶天なんだから分かるでしょ」


「あー。ドーシャの仇やったっけ?」


「ほんとナセ興味ないね」

 ドーシャは呆れてしまう。


「どうでもいいけど早く招待状の確認を済ませてほしいヨ」

 バイファが割り込んでくる。


 ナセは招待状を確認して嫌そうに言った。

「うわ。虎バイファや」


「知ってるの?」

 ドーシャは訊いた。


「招待客として来る可能性のある中で要注意人物はあらかじめリストアップされて伝えられとるから。『怪力乱神』の虎バイファ。戦闘力が高い上に好戦的。その卑妖術は死を司る」


「死を司る? 具体的に何ができるの?」

「さあ?」

「さあ?って。情報ゼロじゃん」

「しゃあないやんそう書いてあったんやから」


 雑談しながら全員の招待状の確認を済ませる。

 地中に潜伏しているキジャチの存在にも気づかれてはいない。


 施設に入るドーシャにナセは言う。

「暴れんといてよドーシャ。せめてうちの口座にお給料振り込まれるまで」


 ドーシャは黙って笑みを浮かべ、答えぬまま施設内に姿を消した。


「うあー絶対あかんやつや」


 ナセはひきつった顔でただ見送る。


☆☆


 もう時間ギリギリだというのにオークション会場はガラガラだ。


「ここにたどり着くことができなかった組織も多そうだな」


 アレクサンドルの言うとおり、オークション前の争いで脱落した組織は多いだろう。ドーシャたちが直接倒した組織だけでも10を超えるはずだ。


 数百人は入れるホールだがいるのは30人程度だ。

 その中には『疾』隊長の迫水シンジもいる。


「ったく。C国は脱落しなかったのかよ」

 シンジは嫌そうにこっちを見ている。


 他には陰気な銀髪の男性もいる。初老といったところ。


 その男性を見てバイファが呟く。

「吸血鬼バロール、あいつもわざわざヤマタノヲロチを買いに来たのか」


「よく知ってるね」


「バロールほど有名な残妖は知っておきなヨ。いつ敵になるか分からないんだから」


「『式』は外国と戦うための組織じゃない」


 ドーシャは今いる招待客を全員確認したが『逢魔』の六文ヌルはいない。招待されているはずなのだが。


 時計の針が重なる。

 12時だ。


 壇上に老人が現れる。

 七凶天のひとり「闇の中の影」鈴木エーイチ。

 巨漢の部下、王カイを引き連れている。


 ドーシャの手に力が入る。

 それに気づいたのか長官秘書のハニが釘を刺す。


「何度も言いましたがヤマタノヲロチの頭骨が出てくるまで鈴木エーイチに手を出してはいけませんよ」


「分かってるってば」


 鈴木エーイチは何も言わない。何かを待っている。

 しばらくするとガサガサジャラジャラと音を立てて2階の特等席に人が現れた。

 鈴木エーイチはそれを見てマイクに声を通す。


「あー。では始めようか」


 ドーシャはその特等席に座った人を観察する。

 大きな宝石のついた冠をかぶった太ったヒゲの中年男性。


「まるで王様みたいだけど。あれ誰?」


 ハニが答えた。

「まるでというか、王様ですよ。このエレシュキガル島王国の。王様なんて言っても所詮お金でこの国を作り上げただけのマフィアですが」


「残妖?」


「普通の人間です」


「ふうん」


 どうでもいい挨拶を聞き流しているとようやくブツが会場に運び込まれてきた。

 何の変哲も無い剣。


「ってあれ? ヤマタノヲロチの頭骨じゃないの?」


「今回の目玉商品ですから、出てくるの一番最後ですよ」


「ヤマタノヲロチだけ売るわけじゃないんだ……」

 ドーシャはがっかりする。


 鈴木エーイチがセールストークをしている。

「この剣は地中海の英雄が魔物退治に使ったものとされ……」


 意外なことにかなり活発に入札がされる。


「みんななんであんなもの買ってるの? ヤマタノヲロチを買うお金無くなっちゃうじゃん」


「彼らは最初からヲロチの頭骨を買うことを諦めてるんですよ。C国やA国に財力で勝てるわけないですからね」


「へー」


 様々ないわくつきのアイテムが売られていく。

 しばらくすると壇上に8歳くらいの女の子がやってきた。

 日に当たってないと思われる青白さ。うつむいてできるだけ動かないようにしている。


「次の商品は手に入れるのに特に苦労した逸品。地球上に10人も残っていないと言われる吸血鬼カーミラの血を引く残妖だ」


 鈴木エーイチの紹介にドーシャは血の気が引く。

「残妖を……売ってるの……? なんで? あいつだって残妖なのに?」


 アレクサンドルが小声で答える。

「人間の奴隷を人間が売っていた時代もある。同じ人間と思っていなければ何でもできる。奴にとっては同族ではないのだ」


 フユヒ隊長も言う。

「鈴木エーイチはそういうやつです。全てをお金でしか見ていない」


「でも……」

 ドーシャは目の前の光景がまだ信じられない。


 入札が始まる。

「5000万」

「6000万」

 子どもひとりの値段とは思えないような額が次々提示される。


 突然ハニが叫んだ。

「7000万!」


「國生さん、どうしたの?」


 ドーシャの質問にハニが説明する。


「ここに集まったどの組織に買われてもあの子の将来は地獄です。だったら私が買います」

 ハニは震えている。感情的なのは珍しい。


「やめておけ」


 少し離れた場所から声がする。

 『疾』隊長の迫水シンジだ。


「奴隷を買うのは奴隷商人の思うツボだ。なぜ奴隷が売られているか考えろ。買う奴がいるからだぞ。目の前の奴隷を救っていいことした気になれば満足か? 奴隷制度に加担しておいて自分の目の前だけ悪いことが無くなってればいいなんてのは卑怯者のやることだ」


 ハニは抗弁する。

「じゃあ、目の前のあの子は見殺しにしろって言うんですか?」


 感情的なハニと対照にシンジは落ち着いている。


「そうだ。今あの子を救ったところで第2第3の犠牲者が生まれるだけに過ぎない。1人救って2人犠牲者を増やすのは善行などではない」


 ドーシャは気持ちがぐるぐるした。

 だったらあの子を救うことはできないということなのか。


 ハニが苦々しげに言った。

「より多くを救うために見殺しにされた者が納得することは決して無い……」


 ドーシャは少し気になった。その言い方がまるで他人のことではないような……。


 ハニはシンジを無視して入札を続ける。

「1億!」


「國生さんお金あるの?」

 ドーシャは心配になった。


「これで最後です。これ以上は払えません」


「意外とお金持ちなんだ」


「『式』の今年の予算全部です」


「…………」


 ドーシャは聞かなかったことにした。


 しばしの静寂。

 誰も何も言わなければ落札が確定する。

 緊張の走る数秒間。


「2億」

 上からだみ声が落ちてきた。


 今まで黙って見ていたエレシュキガル国王だ。

「新しいおもちゃが欲しかったところだ」


 ハニは声が出ない。

 静かな絶望。


 鈴木エーイチがにやりと笑う。

「それでは……」


「3億」


 しゃがれた、しかし力のある声が遮った。

 声の主は陰気な銀髪の男性。確か吸血鬼バロールとか言ったか。


「10億」

 エレシュキガル国王がさらなる値段を提示した。

 桁を上げたのは自らの財力を見せつけ小競り合いを省くため。


 だが吸血鬼バロールは即答した。

「20億」


 エレシュキガル国王が歯ぎしりした。

 お金はあるが奴隷1人に払うには高額すぎる。ムキになるのは損だ。


 国王の表情を見た鈴木エーイチが入札を打ち切る。

「では、バロール様の20億で決まりだ」


 バイファが口笛を吹く。

「バロールのやつ、同じ吸血鬼だから情けをかけたか? 馬鹿なやつヨ」


 その後も何人もの残妖がオークションにかけられる。

 ハニは毎度買おうとしたが全て失敗した。そのいくつかはエレシュキガル国王が買っていった。

 満足そうな国王をハニは射殺すような目で見ていた。


☆☆


 鈴木エーイチがマイクを握る。


「さて、皆さまお待ちかねの商品に移りましょう」


 エーイチの付き人の巨漢が布に覆われた巨大ななにかを手押し車で運んでくる。

 鈴木エーイチが布を取り払った。


 巨大な頭骨。ヤマタノヲロチだ。


 突然壇上に何かが放り込まれた。

 それは鈴木エーイチの足元に転がり、轟音、衝撃、そして煙を撒き散らした。


「爆弾!?」


 同時に招待客の複数が立ち上がり壇上へ向かって動き出した。

 怒声と衝撃。煙でよく見えないがヤマタノヲロチの頭骨を奪うための攻撃なのは間違いない。

 このままヤマタノヲロチを奪われるのは不味い。

 ドーシャは立ち上がろうとして、しかしフユヒ隊長に止められた。


「大丈夫ですよドーシャ。あの程度で闇の中の影を倒すことはできません」


 しばらくすると声はやむ。

 煙が晴れると鈴木エーイチは無傷で立っていた。

 部下の王カイが死体を掃除している。


 迫水シンジがこぼした。

「あの体たらくで闇の中の影を倒せると思っていたとはな。せめて隙を作るくらいは頑張ってくれたら頭骨を奪うチャンスだったんだが」


 鈴木エーイチがマイクを握り直す。

「あー。お騒がせした。気を取り直して紹介しよう。ヤマタノヲロチの頭骨だ。ヤマタノヲロチとは我が国の伝説で……」


「前置きはいい。今は情報社会。由来くらい日本人じゃなくても知ってるヨ。競りを始めろ」

 バイファが急かす。


 鈴木エーイチは頷いた。


「よかろう。最初の値段は100億。オークション開始だ!」


「150億」

「200億」

「300億」


 開始してすぐみるみる値段が上がっていく。

 最初は『疾』の迫水シンジも参加していたが500億を超えると黙ってしまった。

 すぐにC国とA国の一騎打ちとなる。


「1000億」

 バイファが桁を上げた。


 A国のエージェントが仲間と相談する。

「1100億」


「1500億」

 バイファはさらに値を上げる。


「そんなに払えるの?」

 ドーシャは思わず訊いてしまった。


「C国からお金に糸目はつけない、破産しても買ってこいと言われてるヨ」

 バイファは平然と答える。


 A国のエージェントは降参した。


「所詮民主主義国家。財布の紐を愚民どもが握っている以上愚民どもが価値を理解できないものにはお金を出せないのヨ」

 バイファは勝ち誇る。


「じゃああとはヲロチを港まで運ぶのを『世界人間連盟』の皆さんに手伝ってもらおうか。ここからが一番危険だから気を抜かないでほしいヨ」

 そう言ってドーシャたちを見る。

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