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第29話 修羅の本性

 リンネに糸を切ってもらうとドーシャは変態メガネを尋問する。


「で、お前誰? 何が目的? 黒鉄イクサとどういう関係?」


「僕はぁ……ただ、黒鉄イクサを超えたかったんですぅ」


「どういうこと? 意味分かんない」


「語ると長い話なのですが……。10年前、僕の両親は黒鉄イクサに殺されました。イクサは僕も殺そうとしたのですが、僕が残妖だと分かるとやめたのです」


「なんか聞いたことあるな」


 ドーシャはちらとクシーニを見るがクシーニのほうは特に反応は無い。


「イクサは去る前に言ったんです。いつか復讐に来いって。ですがあの圧倒的暴力を思い出すだけで体が震えて……。そこで考えたんです。イクサの獲物を先に殺せばイクサを超えたことになるんじゃないかって。イクサの獲物を、イクサと同じように刀で、イクサより先に殺す。この発想に僕は天才なんじゃないかと思いました。これでようやく僕はイクサを超え、10年前の恐怖を乗り越えることができるんですぅ!」


「最低すぎる……」


 ドーシャは一発ぶん殴るか悩んだ。


 ふと気づく。


「お前、イクサが狙う人間が分かるの?」


「勿論。調べるのに時間はかかりましたが。イクサは」


 話の途中だが携帯にメッセージの着信。ドーシャは聞きながら携帯を見る。


「見逃した子どもが大人になるのを待ってるんですよぉ。自分と戦うのに相応しい相手になるまで」


 情報局からだ。今回の事件で殺された残妖の素性。


「そうです。今イクサが狙っているのは自分が殺さなかった残妖ですぅ」


 殺された残妖はみな過去に黒鉄イクサに家族を殺されている。

 そのときに残妖であることが判明し管理局の保護下に入った。


(クシーニはこれを最初から知っていた?)


 ドーシャはクシーニを見る。クシーニは携帯で同じメッセージを読んでいる。


(クシーニが犠牲者の共通点に気づいていて、それを隠した理由は分かる。自分の手で黒鉄イクサを殺すためだ。報告すれば霜月隊長の管轄になってしまう)


 だがなにか引っかかった。


(ん? あれ? 新宿サクヤは? あいつは七凶天だ。イクサが狙う条件に当てはまってない)


「あのぅ、それじゃ僕はもう帰っていいですかね?」

 変態メガネが恐る恐る質問する。


「いいわけないだろボケ!」


 あまりの発言にドーシャは顔面をぶん殴ってやろうとしたが、それより先に変態メガネが血を吐いた。


 胸から刃が生えている。刃はすっと引っ込み変態メガネは倒れた。

 背後にいたのは顔に十字傷の大男。


「く、黒鉄イクサ……!」


 これほど近くにいたのに気づかなかった。巨体でありながら移動に一切音が無い。


 変態メガネが息も絶え絶えに言う。

「ああ、黒鉄イクサ。殺すならあのとき殺してくれたら良かったのに」


 黒鉄イクサは笑う。


「それじゃつまらねえだろ。俺の食い残しどもが抗い、策を練り、捨て身で挑み、足掻いてくれなきゃ楽しくない」


 イクサは妖刀阿修羅姫を無造作にこちらに向ける。


「お前らもそう思わないか?」


 リンネが妖刀サンサーラをかまえる。

 シシュンも鉈をかまえつつ訊いた。


「大丈夫かドーシャ? やるんだよな?」


 ドーシャも包丁をかまえつつ考える。


(真っ正面から鉢合わせるとは思わなかった。でもこっちも4人いる。落ち着いて戦えば……)


「黒鉄イクサァっ!!」


 クシーニの叫びに思考を中断される。


「家族の仇、ここで討つ!」


 クシーニは魔石のハンマー、硫槌潰魔をかまえて突撃する。


「お前も俺の食い残しか。楽しませろよ」


 分身含め3人のクシーニが一斉に攻撃するがイクサは全くの余裕だ。刀一本であしらう。

 相変わらず無口な分身は攻撃には参加していない。


「ああもう! リンネ、シシュン、行くよ!」


 ドーシャは号令をかけて突撃する。


 4対1、クシーニの分身を含めれば6対1。

 しかしイクサは全員の攻撃を捌ききる。スピードがまるで違う。それでいてイクサはまだ自分から攻撃をしかけていなかった。


「臥薪山の狼」


 シシュンが自らの速度を強化しイクサに追いつき鉈を振るう。

 イクサは刀で鉈の横を打って逸らす。


「速いだけ。剣筋が甘い。才能ねえなお前」


 鉈を弾かれて体勢を崩したシシュンの胸をイクサは浅く斬る。

 胸から血を噴いたシシュンは動きが止まる。

 イクサは刀を振りかぶろうと少しだけ剣先を持ち上げたが途中でやめてその場を飛び跳ねるように移動する。

 リンネがイクサのいた場所に刀を振り下ろす。そしてすぐイクサを追いかけ突きを放つ。

 イクサは体をひねってよける。


「こっちは熟達した剣技だ。けどなんか違和感あるよなあ? 技と使い手、別々に組み合わせたような不自然さ」


 イクサはリンネの手の甲を斬った。


「血が武器だったか。二度は喰らわねえよ」


 イクサは返り血を浴びないように注意を払って戦っている。


 イクサの力は圧倒的だ。

 真正面から力のぶつけ合いをして勝てる相手じゃない。


「カチカチ山の山火事!」


 ドーシャは両手から火炎を放つ。

 イクサは火炎に包まれたが涼しい顔をしている。


「効かんなあ」


 クシーニ本体が距離を取った。

「使うのは今しかないっス」


 ビー玉を転がす。それは煙を発してもうひとりのクシーニに変わった。


「クシーニ5号」


「ご、5号?」


 ドーシャは呆気にとられる。

 だってクシーニは3人しか分身を作れないはずだ。だからこれはクシーニがずっと隠してきた切り札。


 クシーニ5号は本体から魔石のハンマーを受け取り代わりに自分のハンマーを本体に渡した。

 無口な分身を除く4人がイクサに挑む。


 分身の中でも5号は明らかに強くイクサと対等に打ち合っている。

 イクサの顔から余裕が失せる。


 クシーニたちがイクサを取り囲んで同時にハンマーを振り下ろす。よけられない。

 イクサは自ら3号のハンマーに突っ込んだ。額で受ける。ハンマーが砕けた。同時に3号を斬り伏せる。3号はビー玉に戻って割れた。

 同様に2号、本体の攻撃もよけない。イクサはただ5号の攻撃だけを受け流して戦う。

 2号も倒された。


「いくら分身を増やそうが魔力ある本物の武器はひとつだけだ。何年もかけた成果がこんな小細工だけならそろそろ終わりにするぜ」


 イクサがクシーニ5号に刀を振り上ろす。


 その瞬間を待っていたようにシシュンとリンネが左右から同時に攻撃した。

 イクサは瞬時に刀でシシュンの鉈を防ぎ左手でリンネの刀を持つ手をつかんでとめた。


「ぐおおおおおおおおおお!」


 イクサが咆える。


 ドーシャがイクサの肩に包丁を突き立てていた。

 左右と上からの同時攻撃だったのだ。

 だけどまだ決着じゃない。


「浅い! 鋼のような硬さ」


 今まで見せなかった怪力でイクサは3人を吹き飛ばした。

 ドーシャは無理にこらえず投げ飛ばされる。


 今度はクシーニ5号がイクサにハンマーを振り下ろす。


「やれ、クシーニ!」


「こんなもんで俺が……」


 イクサは刀で迎え撃とうとして、足を滑らせた。


 イクサの足元に泥濘。

 さっき包丁を突き立てたとき、ドーシャは底なし山の泥濘をイクサの足元に撒いておいたのだ。

 イクサの脳天へハンマーが迫る。


「ふ、ふざけるなあああああああ!!」


 イクサの叫び。

 そして、静寂。


 クシーニ5号のハンマーはイクサに届かなかった。

 というより、クシーニ5号がまるで金縛りにあったかのように突然動かなくなった。


「な、なにが起きた……?」

 ドーシャには理解できない。


「俺がやる!」

 シシュンが動いた。


「とめろ!」

 イクサが怒鳴る。

 するとシシュンの鉈は刀に受け止められた。受け止めたのは、リンネ。


「て、てめえ……」

 驚愕と怒りでシシュンが顔を赤くする。

 だがすぐにイクサがシシュンの髪をつかむ。


「はあ、はあ。ったく、こんなガキどもに俺の卑妖術を見せることになるとはな」


「卑妖術? まさか」


「ふん。俺は他人の精神を支配し操ることができる。こうやって体に触れることで」


「や、やめろ……」


 シシュンの抵抗がだんだん弱くなっていく。やがてシシュンはただ立ち尽くす人形となった。


「こっちは前に戦ったときにやっといた。おかげで役に立った」

 そう言ってリンネを指す。


 シシュン、リンネ、クシーニが全員イクサの支配する人形と化した。


「で、でもクシーニはいつ……?」


「ああ、こいつは俺の食い残しだからな」


 食い残し。イクサが殺さなかった残妖。


「まさか7年前から?」


「そうだ。笑うだろ? こいつらはそうとも知らず俺を殺すために生きてきたんだ。最初から絶対勝てないようになってるのになあ」


「なんのために、そんな人を馬鹿にしたようなことをするんだ」


「俺はなあ戦いを楽しみたいんだ。だが危ねえこともしたくねえ。だからいつでも絶対勝てるように保険をかけて戦うんだ。まあでも俺に卑妖術を使わせたんだ。このゲームはお前らの勝ちでいいぜ。あの世で自慢するといい」


 洗脳されたシシュン、リンネがドーシャに近づいてくる。

 一方でクシーニたちはイクサを守るように集まる。ドーシャの後ろにいた無口な分身も。


「まずい、勝ち目がない。かといって逃げればみんなは確実に殺される……」


 ドーシャは母の包丁を握りしめる。


「逃がしはしねえよ。俺の卑妖術をしゃべられちゃ困る。せっかくのゲームが台無しだ」


 イクサが一歩迫る。


 そのとき、即座にクシーニの無口な分身が5号のハンマーを奪った。

 後ろからイクサの脳天にハンマーを振り下ろす。


「がっ」


 血を撒き散らしてイクサが倒れそうになり両手を地に着いた。

 驚愕の眼で後ろを見る。


「な、なぜ、俺に逆らえる」


「あたしは、あたしが殺されるところを見ていた……」

 無口な分身が初めて口を開いた。


「7年前、お前はあたしを洗脳した。だけどあたしは最初に分身を生み出したときから本当の精神を分身に移していたんだ。あの日あのときからずっと、あたしの肉体にいたのはクシーニ4号。お前が精神を操ったのは分身のひとりに過ぎなかったんだ」


 クシーニたちが集合しひとりになる。


「終わりだ。黒鉄イクサ」


 クシーニがハンマーを振り上げる。


「待て。お前は俺の食い残しに過ぎない。食うのは俺で、食われるのはお前でなきゃいけないんだ!」


 ハンマーが振り下ろされた。



*************************************


 名前:黒鉄(くろがね) (イクサ)

 所属:七凶天

 種族:食人鬼(じきにんき)の残妖

 年齢:35

 性別:♂

 卑妖術:他者の精神を支配する。

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