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第21話 影代リョウヤ

「お前の負けだ影代リョウヤ」

 ドーシャが宣言する。

「けど私たちはお前を殺したりはしない。その代わり『逢魔』について洗いざらいしゃべってもらうけど」


 リョウヤは地べたに転がったまま笑う。

「ふふふ。お前らにくれてやるものなど何も無いわ」


 そして力の限り叫ぶ。


「レイン!」


 意図を察してレインが駆け寄ってくる。


 レインが振るビニール傘、そんなもの何の脅威でもないはずなのにドーシャはよけざるをえなかった。

 ドーシャを追い払うとレインはリョウヤの傍らでビニール傘を開いて盾のように守る。

 試しにドーシャは水流をレインに撃つがビニール傘に当たるとバチィッと異常な音と閃光を発して蒸発した。

 異様な卑妖術。ドーシャはあのビニール傘に触れるべきでないのは理解した。


 レインは水が入った目をごしごしこすっている。ビニール傘の破れ目から水が入ったのだろう。


「レイン」

 リョウヤが語りかけた。


「わしはおそらく逃げ切れん。だから聞け。

 『逢魔』も『式』も人間を残妖に変える術を手に入れた。これからは生まれつきの残妖ではなく作り出された残妖が戦う時代になる。わしらはお払い箱だ」


 ドーシャは驚く。

 普通の人間を残妖に変える。それを可能にするものが存在することをドーシャは知っていた。


「ヤマタノヲロチの頭の骨だ。『逢魔』が1つ、『式』が1つ。だがまだ6つ残っている。レイン、探して手に入れろ。『逢魔』よりも『式』よりも多く集めるんだ。それ以外にわしら真の残妖が生き残る方法は無い」


 レインはぼんやりと頷いた。


「1つだけ場所が分かっている。それを洩らさぬためにヌルはわしを殺したがった。ヲロチの頭骨の1つはS内海に沈んでいる。

 レイン、最後の命令だ。それが終わればお前は自由だ。思うがままに砕き、引き裂き、血を浴びてこい」


 そしてリョウヤはレインに最後の言葉を言った。


「わしを殺せ」


 ドーシャは耳を疑った。なぜそんなことをさせようというのか。


 レインが傘を振りかぶる。


「カチカチ山の山火事!」


 慌ててドーシャはレインを攻撃する。レインは傘を盾にした。そして片手でリョウヤの首を絞める。

「礫石山の礫!」


 ドーシャが両手を合わせて開くとそこに石が現れる。それを思いっきり投げつけるがレインのビニール傘に当たった瞬間粉々に砕け散った。


 リョウヤは最期までレインを見ていた。

 妹のことを思いだす。


☆☆☆


 8歳の頃、葬式があった。

 死んだのはリョウヤの2つ下の妹。

 リョウヤのことが大好きで、いつも後ろをついてきていた。

 しかし、リョウヤと一緒に遊んでいたときに川に落ちて溺死した。


 両親、祖父母、嘆き悲しむ皆を見て、リョウヤは何も感じなかった。

 一週間後、二週間後、だんだん日常は戻ってくる。両親は相変わらず悲しんだままだが。

 人が死ぬなんてこんなもんか。

 自分の心に何の変化も無いし、妹が化けて出ることも無い。

 みんな大げさに騒ぐからどんなものかと思ったのに、期待外れだ。


 妹を殺したのはリョウヤだった。


 時が経ちリョウヤが高校生になると両親は残妖であるリョウヤの力に怯えるようになっていた。

 陰でひそひそ。化け物だとか、リョウヤのほうが死ねばよかったとか。


 リョウヤは「なるほど、確かに」と思った。

 自分は化け物なのだ。だから妹を殺しても何も思わない。

 化け物が人間らしく生きようとしたのが間違っていた。化け物は化け物らしく。それが正しい姿なんだ。


 リョウヤは両親に告げた。自分が妹を殺したと。両親の罵声を心地よく耳に浴びてリョウヤは家を出た。


 いくつもの犯罪組織を渡り、ついには六文ヌルと出会い仲間となった。ヌルは残妖が人間を支配する世界を作る野望を持っていた。

 リョウヤは支配など興味は無い。だがヌルと一緒にいるのが最も己の目的に近いと考えた。


 しかしヌルは裏切った。


 巨大な頭骨を見せ高揚して言う。


「見ろ。ついにヤマタノヲロチの頭骨を手に入れた。12年前、ツバキはこれほどの道具を持ちながら自分の愉しみのためにしか使おうとしなかった。あのタヌキが頭骨を俺に譲っていれば『逢魔』が負けることはなかった。力尽くで奪おうにも奴の絶対反撃能力の前に刺客は皆死んだ。だがヤマタノヲロチには頭が8つある。同じものがあと7つあるんだ。俺はそれを探し求め、そしてついに手に入れた。これからはいくらでも残妖を作り出せる。もはや『式』は敵ではない」


「わしら残妖は特別な生き物ではなかったのか?」


「ん? ああ、勿論。作り出された残妖などただの兵隊であって俺たちと同じわけがない。俺たちはその上に立って支配する」


 身分に差をつけて統治するのはよくあることだ。別におかしくはない。

 だがヌルとずっと仲間だったリョウヤは嘘だと分かった。ヌルは残妖のためと言いながら残妖を信じていない。やつはもう他の残妖を必要としないだろう。


 ヌルのいない場所で『逢魔』幹部たちは話し合った。


「ヤマタノヲロチの頭骨を奪おう」

「ああ。無限に兵隊を作れるならヌルはいらない。俺たちでこの国を分け合おう」

「もうひとつの頭骨も場所が分かっている。そっちを手に入れてからのほうがよくないか?」


 リョウヤは呆れた。


(こいつらもか……。人間が簡単になれるなら残妖は化け物でもなんでもない。それを理解しないこいつらも化け物ではない。本当の化け物はわしだけか)


☆☆☆


 雨漏レインはリョウヤの首を絞める手に力を込める。リョウヤの首の骨が軋む。

 笑顔のレインにリョウヤも安堵する。


 こいつは知り合いですら殺すことに躊躇いが無い。妹を殺した自分と同じだ。いや、殺しを楽しんでいるレインはそれ以上だ。

 ずっと会いたかった。自分以上の化け物に。妹を殺した化け物の存在を否定できるのはそれ以上の化け物だけだから。


 首の骨を折られてリョウヤは死んだ。


 レインは周囲の残妖を数える。殺せるかどうか。答えはすぐに出る。

 ドーシャが死んだリョウヤをどうするか迷っている間にレインは逃げ去った。


「もうここにいる必要はなくなった」


 ヌルがそう言うと大地が裂け水が流れ川になる。

 ヌルは作り出した川に飛び込んだ。物凄い速度で流れていく。部下のシシュンとナズナも慌てて川に飛び込む。フユヒ隊長が川を凍らせるが逃げ去ったあとだった。


「僕たちも撤収するよ」

 『白締』の3人も逃げていく。


「『逢魔』の残党がまだ周辺にいるはずです。各自捜索、逮捕してください」

 フユヒ隊長が号令を下す。

 自らも先陣を切ろうとして、すべってこけた。


☆☆


 最終的に『逢魔』は逮捕者11人、死亡者5人。『式』は重傷者7人となった。


「これだけ損害を出せば『逢魔』は活動を縮小せざるをえないでしょう。ただ、我々『式』も重傷者が多くて今後の活動に支障があります」


 そう言いながらまたこけてるフユヒ隊長。撮影するドーシャ。


「撮らないでくださいドーシャ」


 フユヒ隊長の言葉を聞き流しドーシャは考える。


(いや、影代リョウヤの話が本当なら『逢魔』はすぐにでも戦力を回復してくる。それができるから部下を使い捨てたんだ)


 と、そこで携帯に『式』の長官秘書から連絡が入る。


『D市第6地区で残妖出現。無差別殺人を行っている。

 残妖はビニール傘を持った裸足の子ども』



*************************************


 名前:影代(かげしろ) 良夜(リョウヤ)

 所属:元『逢魔』幹部

 種族:桂男の残妖

 年齢:69

 性別:♂

 卑妖術:目を見た者の平衡感覚を失わせる。

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