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第18話 赤銅の眼

 『白締』の綾瀬タイガは道を阻む氷を砕いてヌルを追う。


 一方フユヒ隊長は追わずこちらを振り向く。

 ドーシャのほうへ歩き出し……滑ってこけた。


「隊長……」


 脇にいた看護師姿の女性に支えられて立ち上がった。


 フユヒ隊長は赤面しつつ大きめの声で言う。


「私の妖術は強すぎるあまり床が凍ってこけやすくなるという大きなリスクがあるのです。こほん。それよりドーシャ、任務変更です。ヌルが現れた以上もう影代リョウヤを探す必要はありません。『式』の全戦力を持ってヌルを撃滅します。一緒に来てください」


 ドーシャはナセを見る。

「ナセ、まだやれる?」


 ナセはさっきの戦いで弱ってる。


「あー、うちはここで待っとる。ドーシャと一緒に行きたいのはやまやまやけど髪に力が入らんのよ」


「分かった。『逢魔』の戦闘員がまだいるかもしれないから気をつけて」


「ドーシャも気ぃつけて」


 ドーシャは隊長たちとともにヌルを追う。


☆☆


 公民館周辺。


 『式』の隊員のひとり、宇佐ススキはフユヒ隊長からの招集を受け、音速を超える速度で移動していた。


「はわわ、急がなくちゃ。ヌルがいるなんて聞いてないよう」


 市街を駆け抜けるススキは目の前に現れたものに気づいて急ブレーキをかけた。


「はわわわっ」


 ススキが止まった10センチ先に、破れたビニール傘を持った裸足の女の子がいた。


「な、なんでこんなところに? 逃げ遅れたの? お父さんお母さんは?」


「パパとママは死んだよ」


「えっ」


 ススキは周囲をキョロキョロ見回すが確かに保護者がいそうな気配はない。


「そ、それじゃお姉ちゃんとついてきて。ここは危ないから」


 ススキは子どもの左手を握った。

 握り返すその握力にススキは疑問を持った。


「キミ、残妖?」


 子どもは答えない。目すら合わせない。いや、どこか別の場所を見ている。

 ススキの視線もそちらへ……。


「離すなよレイン!」


 突然の声とともに、近くに停めてあった自動車が跳ね飛び長いひげの老人が現れた。右手に真っ赤な刀身の刀を持ち、振り抜くため左手を添える。

 一瞬の後、ススキの首があった場所を刃が通過した。


「もしかして影代リョウヤ?」


 ススキは20メートルは離れた場所でレインを抱きかかえていた。


 影代リョウヤは赤い刀を中段にかまえ直す。

「逃げ足の早い」


「わたし、最速の残妖って言われてるんです」


「ふん。……レイン、そこにいると邪魔だから戻ってきなさい」


 レインはススキの腕の中から逃げた。


「あの、その子は?」


「雨漏レイン。さっき拾った」


「ひ、拾った?」


「もっと紹介してやりたいがのんびりしてたら捕まってしまう。次こそ真っ二つにしてやるからそこを動かんでもらえるか?」


 リョウヤがススキへ斬りかかる。

 ススキはほとんど瞬間移動のような速さで逃げる。


 宇佐ススキは月の兎の血を引く残妖。その卑妖術は自らを加速することだった。


 ススキが語りかけた。

「影代リョウヤ。わたしたちはあなたを倒すために来たんじゃない。むしろ逆で、あなたを助けに来たんです。わたしたちと一緒に来てください。『式』があなたを守ります」


 リョウヤは嘲った。

「くだらんな。命が惜しくば『逢魔』になぞ入らんさ。それにどちらにしろ同じこと。『逢魔』だろうが『式』だろうがわしら残妖に未来など無い」


「どういう意味ですか?」


「下っ端は知らんだろうて!」


 リョウヤは刀をかまえる。

 ススキは一瞬で距離を取る。


「いうことを聞いてくれないんだったら倒さないと。あなたは『逢魔』で人をたくさん殺してる」


「なぜ最初からそうしない? それが残妖の生まれてきた意味だ! わしらは他者をねじ伏せるために力を持って生まれてきた!」


 ススキはポケットからゴルフボールほどの鉄球を取り出す。

 リョウヤの脇を突風が駆け抜ける。

 同時にリョウヤの左腕に鉄球がめり込んでいた。また、胸や腹を守った刀にも鉄球がぶつかり落ちた。

 鉄球を受けた左腕は目で見て分かるほどにくぼみ、大きな痣となる。


 加速した状態で静止した物体に触れるのは静止した状態で高速の物体とぶつかることと同じ。

 直接攻撃しようと思えばススキ自身も大きなダメージを受けてしまう。

 ゆえにススキは直接相手に触れず鉄球を投げて戦う。

 加速した状態で放つ鉄球の運動エネルギーは大きな破壊力となってリョウヤを襲う。


 ススキが鉄球を握りリョウヤを見、再び加速して視界から消える。

 リョウヤはとっさに刀で自らを守った。

 突風とともに刀ごしに強い衝撃を受ける。

 なんとかやり過ごしたが、このままでは敗北必至だろう。


「次で決めます」


 またススキが両手に鉄球を握りしめ、全身の筋肉に力を込める。

 狙うリョウヤと視線が合う。リョウヤの赤銅色の瞳からは闘争心が消えていない。


 ススキの姿が消えた。

 リョウヤの脇を突風が吹き抜け……そして背後で建物が破壊される爆音が轟いた。


 リョウヤは無傷だった。

 鉄球は当たらなかった。


「ふん。終わったぞ」


「え、もう?」


 レインがびっくりする。


「全然見えなかった。つまんないよー」


「楽しませるためにやっているわけではない」


「死体どこ?」


「あいにくだが死んではおらんだろうな」


「トドメ刺そう?」


「拾いに行く暇は無い。そもそもレインが見つからねば戦う必要も無かった」


「だってつまんないんだもん」


「わざと見つかったのか? レイン、あまり足を引っ張るなら連れて行かんぞ」


「やだ! 一緒に行く!」


「じゃあ言うとおりにしなさい」


「分かった……」


 レインは早足でリョウヤの隣を歩く。


「ねえおじいちゃん。次はもっとブシュッと斬ってよ」


「ほんとに分かっておるか?」



*************************************


 名前:宇佐(うさ) (ススキ)

 所属:『式』

 種族:月の兎の残妖

 年齢:20

 性別:♀

 卑妖術:自らを加速する。

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