第14話 逢魔の裏切り者
ドーシャは『式』の基地にいた。
緊急招集だ。『式』の戦闘員全員が呼ばれている。
建物の入り口には既に何人かいる。
やはり一番最初に目が向くのはお父さん。『式』の長官だ。
黒髪に黒い瞳。
ドーシャと目が合っても特に反応は無い。
お母さんが死んでからずっとこうだ。
代わりにお父さんの隣にいる女性が手を振ってきた。
『式』の戦闘員ではない。國生ハニ。
黄土色の瞳に赤土色の髪。19歳にして長官秘書を務める。
お父さんのサポートが仕事で、ときどきお父さんの代わりに指揮を執ることもある。
「九条さん。ドーシャちゃん来てますよ」
ハニはお父さんに顔を近づけてそう言う。
(國生さん、いっつもお父さんにべったりしてるんだよなあ)
苦笑いで手を振り返したあと、他のメンバーを見る。
宇佐ススキ。長身短髪。内気。かわいい。
梔子レン。般若の面をつけてる。無口。
左官ヨリヨシ。二児の父。貴重な常識人。
佐佐ジンバ。布で両目を隠した妹を連れている。妹は残妖だが『式』の戦闘員ではない。
手弱女ハナビ。ぶりっ子。ドーシャの嫌いなタイプ。
百々マナ。巫女服。凶暴なので近寄らないほうがいい。
花鏡ナルミ。騎士の恰好をしたナルシスト。
海神キジャチ。いつも女の子のドールを持っているお兄さん。心が壊れてるので優しくしてあげよう。
日本全国に散って活動している割には出席率高い。約半分のメンバーが揃ってる。
「間に合ったっスか?」
後ろから大声で入ってきたのは紫髪のメガネっ子。
石塚クシーニ。ドーシャの1個下で『式』においても後輩。
「あ、ドーシャ先輩。聞いたっスよ。呪い殺しのツバキを仕留めたらしいっスね」
「私が殺したわけじゃない」
「そうなんスか? そりゃ残念だったスね」
「クシーニ。私はあいつらを殺すことを目的にしてるわけじゃない」
「うーん。あたしならこの手で殺してやりたいっスけど」
クシーニも家族を七凶天に殺されている。
ドーシャとクシーニは同じ獲物を狙う仲間であり、異なるスタンスを持っていた。
「時間だ」
お父さんが口を開いた。
「10人。霜月隊長がまだ来ていないが半分集まったなら上出来だろう。
詳細はすでに伝えてあるがもう一度言っておこう。
『逢魔』で5人の幹部が叛乱を起こした。たちまち4人が首領のヌルに殺されたが1人だけ逃げ切った。名は影代リョウヤ。
ヌルは裏切り者を許さない。組織の全戦力を繰り出して影代リョウヤを追っている。
これは好機だ。影代リョウヤは『逢魔』の最高幹部。ヌルにつながる情報を持っている。『逢魔』より先に見つけ出して捕縛しろ」
「どうやって探せばいいの~?」
ぶりっ子ハナビが質問した。
「影代リョウヤはC市のどこかに潜伏している。情報局が探知する、といいたいところだが既にC市は戦場になっていて『式』以外が中に入るのは危険すぎる。よって情報局のサポートはC市外からになる。影代リョウヤがC市から脱出すれば分かるがそれ以上は期待せず虱潰しに探せ」
「ええ~?」
不平を洩らすハナビもそうだがドーシャも探知能力は無い。佐佐ジンバの妹が探知能力を持つので全くの手探りというわけでもないが……。
「影代を探すなんて面倒なことしないで全員ぶっ倒せばいいんだよ」
凶暴巫女マナが言った。
「それは無理。『逢魔』のほうが戦力が多いから」
合成音声でキジャチの持つドールがしゃべった。このドールはキジャチが携帯で打った文字をしゃべる。
お父さんが続ける。
「影代リョウヤの捕縛を優先しろ。なお『逢魔』は影代リョウヤが『式』に亡命することを恐れているが亡命の意思は確認されていない。接触すれば戦闘になる可能性が高い。
既にC市は戦場になっていて住民を避難させている。行け。今いないメンバーも到着次第現場に向かわせる」
『式』の隊員たちは一般職員の自動車に乗って出発する。
☆☆☆
一般家庭。
首の骨を折られた夫婦の死体が転がっている。
長いひげの老人が冷蔵庫を漁り、食卓で飯を食っていた。
老人の名は影代リョウヤ。
外では大きな警報音が鳴っている。
「『式』の情報統制か。奴らもC市内で決着をつける気か? 『逢魔』だけでも面倒だというのに。どうにかしてC市を脱出せねば」
いつまでも隠れてはいられない。見つかる前に移動しなくては。
牛乳を飲む。
「おじいちゃん誰?」
子どもの声がした。
奥から出てきた小学生くらいの子。
目が合う。
(子どもがいたか。追っ手ばかり気にして家の中に注意が行かなかった。騒がれたら面倒だな……)
「ああ、パパの友達じゃよ。パパは……今ちょっと寝ているが」
無理のある嘘だが死体に流血は無い。今の子どもの位置から死体は見えているはずだし死んでいることに気づいてたらとっくに騒いでいるだろう。
リョウヤはそう考えての誤魔化しだったが、子どもの反応は予想外だった。
「なんで嘘つくの? おじいちゃんがパパ殺したんでしょ?」
リョウヤは硬直する。
(なんだ? 親が殺されたのを知っていたのか。なぜ平然としている……?)
「なんで黙ってるの?」
「そうだ。わしが殺した。それでお前はどうする? わしが怖いか、それとも憎いか?」
「なんで? 生きている者は必ず死ぬよ」
こともなげに答えた。リョウヤは笑い出した。
「く、くくく。そうか。お嬢ちゃん、わしと一緒に来い。きっと楽しいぞ」
「わたしパパに絶対外に出るなって言われてるの」
「パパはもう死んだ。気にすることないだろう」
「そう? じゃ、行く。お外に出るの初めてだから楽しみ」
子どもは靴を探し始めたが、サイズの合う靴が結局見つからなかった。どうやら本当に外に出たことが無いらしい。
「わしは影代リョウヤだ。お嬢ちゃん、名前は?」
「雨漏レイン」
レインは破れたビニール傘を片手に裸足で外に出た。
笑うレインにリョウヤは昔死んだ妹を思い出す。
☆☆☆
C市には避難を促すサイレンが鳴り響いている。
『式』の隊員10人は別々の場所に着く。C市を囲むように配置されそれぞれC市中央を目指して影代リョウヤを探す。
バラバラに行動するのは危険ではあるものの隊員の安全より影代リョウヤの捕縛が優先される。
ドーシャは民家の屋根の上を走る。
探知能力が無いので高い所から目で探すしかない。
山姥は山から別の山の動物の顔が見えるくらい視力が高い。
「といっても遮蔽物多くて全然見えないんだけど」
ときおり『逢魔』の残妖らしき人間が見える。
「あいつらもまだ見つけてないな。キョロキョロ探してる」
離れた民家の屋根に2人組がいる。
でかいのと小さいの。小さいのは座ってマシンガンを構えている。
小さいのと目が合った。
こちらにマシンガンを向けてくる。
ダダダダダッ。
「痛っ」
撃たれた。
山姥の体は山そのもの、山を破壊する威力が無ければ山姥を殺すことはできない。が、痛くないわけじゃない。
「ケンカ売ってる? 買うよ?」
「おいククロ。『式』と遊んでる暇は無いぞ」
でかいのが小さいのに注意する。
「俺たちの任務は影代リョウヤを探すことだ」
小さいのは振り向きもしない。
「……退屈なんだよ」
ぼそっと呟く。
「一人でやれ。俺は影代リョウヤを探さねばならん」
でかいのは背を向けてどこかへ行く。
「ったく」
ククロは相棒を諦めマシンガンを撃ち始める。
「いたたたっ」
いくつか弾丸をもらいながらドーシャは接近する。
「カチカチ山の山火事!」
ドーシャは左手から火炎を放った。
ククロは右にかわしながらマシンガンを撃ち返してくる。
ドーシャは右手で弾丸を受ける。
「そんな玩具でよく私にケンカ売れたな?」
ククロは答えず、別の武器を取り出した。
ロケットランチャーだ。
お互いの距離は10メートル程度。発射に少し時間がかかるのもあり、よけるのは容易い。
だがロケットランチャーが発射される直前にククロの左目が強く光った。太陽のごとき眩しさ。
目がくらんだところにロケットランチャーが着弾する。
立っていた民家は跡形もなく吹き飛びドーシャは瓦礫に埋もれた。
ククロは静かに笑う。
だがその笑いもドーシャが瓦礫から這い出すと固まった。
「げほっげほっ。今のが切り札? だったら山姥ナメすぎ」
ククロは再び左目を発光させる。眩しさにドーシャは目を細める。視界を失った隙にククロはいなくなっていた。
「逃がすか!」
ドーシャは周囲を探す。ククロがアパートの陰に逃げた。
急いで追う。曲がり角まで来るとククロの姿が見える。
すると突然アパートの上から黒い髪のようなものがいっぱい伸びてきてククロに巻きついて持ち上げる。
バキバキと音がしてククロが落ちてきた。全身を軽くねじられている。一応死んではいない。
アパートの屋上から長い髪を使ってするすると少女が下りてくる。
知った顔だ。
「風御門ナセ」
「やっほー」
白い帽子に綺麗な墨色の髪。風御門ナセは二口女の血を引く残妖。金銭で仕事を請け負う退魔師だ。
「なんでここにいるの? 部外者立ち入り禁止なんだけど」
「ドーシャのお父さんに雇われたんよ。ほんとは『逢魔』相手なんて割に合わんからお断りなんやけど、うちとドーシャは刎頸の交わりやからな」
刎頸の交わりとは、その人のためなら頸を刎ねられても惜しくないという強い友情を表す言葉である。
「だから私死ぬ気無いって」
ドーシャは携帯でナセとのツーショットを撮る。ナセはピースを自分の頬にくっつけて笑う。忙しいので1枚だけ。
☆☆
ククロと別れたカンベエは民家の隙間を歩いて行く。
物音一つ聞き逃さないよう慎重に探索するが民家の中で息を潜まれたら見つけ出すのは困難だ。
だが『逢魔』には探知能力を持つ残妖がいるので、カンベエの仕事は影代リョウヤが逃げられないよう見張ることだ。それでいつか見つかる。
カンベエはシャッと舌を伸ばして民家を破壊した。
カンベエは垢嘗めの血を引いており舌を何十メートルも伸ばして武器とすることができる。
こんなことで影代リョウヤが出てくるとも思えないが、ただ見ているより少しづつあぶり出す。
「わ」
小さな子どもの声がした。
破れたビニール傘を持った裸足の女の子。
突然民家が崩れたので驚いたようだ。
「逃げ遅れか?」
カンベエはそんなとこだろうと思い、拳銃を取り出してその子を撃った。
バチィッ! バチィッ! バチィッ!
拳銃の弾丸が当たったとは思えない異常な音がした。
「な、なんだ……?」
カンベエは何が起きたか理解できなかった。
女の子が拳銃を破れたビニール傘で防いだのだ。
だがビニール傘に弾丸が当たってこんな音はしない。そもそもビニール傘で銃弾は防げない。
とにかく目の前の女の子が何か危険な存在だとカンベエは直感した。
シャッ!
舌を伸ばして側面から攻撃する。
民家を破壊する舌だ。普通の人間ならバラバラだし、残妖相手でも充分攻撃力がある。
だが次の瞬間、舌は2メートルほどを残して消滅した。
「あ……」
カンベエは何をされたか分からなかった。ただ女の子が閉じたビニール傘を剣みたいに振っただけ。
逃げなければ。カンベエはようやく自分の状況を理解した。この子どもは自分より強い。
しかしそう思ったときには背後から刀を持った老人が忍び寄りカンベエを斬り捨てていた。
「レイン、お前やっぱり残妖か」
影代リョウヤはビニール傘の女の子に言った。
「残妖?」
レインはカンベエの死体をビニール傘でつついて遊んでいる。
「化け物のことだ」
レインはにっこり頷いた。
「うん! ママがいつも言ってた! レインは化け物だって」
「そうか。わしもだ」
リョウヤにとっては遠い昔。だが今も罵る両親を夢に見る。
「遊んでないで移動するぞ。仲間と連絡が取れなくなればすぐに応援がやってくる」
レインはぷくっと頬を膨らませてイヤイヤと首を振る。
「ほらほら」
リョウヤはレインの手を握って連れていく。昔妹にしたように。
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名前:加羅 九黒
所属:違法残妖組織『逢魔』戦闘員
種族:一つ目小僧の残妖
年齢:25
性別:♂
卑妖術:左目が光る。
名前:桶屋 勘兵衛
所属:違法残妖組織『逢魔』戦闘員
種族:垢嘗めの残妖
年齢:24
性別:♂
卑妖術:舌が伸びる。




