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第12話 はらから ドーシャとライジュ

 ドーシャには1つ上の姉がいる。


 深山ライジュ。


 かつて『式』のエースだったが1年前のある日忽然と姿を消し違法残妖組織『白締(はくてい)』のメンバーになっていた。


「なんでライジュは私とお父さんを裏切ったんだろう」


 ライジュが消えてまだ1週間しか経っていなかったとき。


 ドーシャは携帯の画面を見つめる。

 映っているのは動画配信サイト。個人でも自由に動画をアップロードできる。


「こんにちは。タイガです。今日は新しい仲間を紹介しようと思います」


 タイガと名乗ったのは短く切り揃えた赤い髪に澄んだ青い瞳の人物。少女にしては低い声で喋っている。名前も外見も女性的なところは無く、女性だと分かるのはドーシャがそうと知っているからに過ぎない。


「こんにちは。ライジュでーす」


 画面に入ってきたのは白い髪に夜空のような黒い瞳を持つ、ドーシャに瓜二つの少女。

 1度もドーシャに見せたことの無いような笑顔で挨拶している。


「ライジュはもともと『式』の人で、僕とも何度か戦ったね」


「まあ私が『白締』を壊滅寸前に追い込んだと言っても過言じゃないかな」


 苦笑するタイガ。


「確かにライジュのせいでうちのメンバーだいぶ減ったよ。『白締』を解散することも考えたくらい。結局配信メインで細々と続けていくことになったけど。だからライジュがうちに来たときは驚いた。『白締』を潰そうとしてたあいつが何で? 絶対スパイだろって」


「スパイなんかしないよ。『式』はもう『白締』を危険度Cランクに修正した。スパイするならAランク狙うよ『逢魔』とかね」


「確かにね。私もライジュはスパイじゃないと思ったから仲間に入れた。みんなには反対されたけど」


「ありがとう。私も『式』を抜けるとき、タイガがいるから『白締』を選んだんだ。宿敵だからこそ信じられる。ま、でも疑われるのはしょうがないかな。私も別に『白締』の目的に共感してここに来たわけじゃないし」


 『白締』の目的は残妖の存在を公にすることだ。


「そういうこと言うとますます嫌われるよ?」


「もともと好かれてないからへーき。私は私の目的さえ達成できればいいんだ」


「ライジュの目的って?」


 ライジュはカメラに目線を向けた。まるでその先にいるドーシャを見るように。


「『式』を滅ぼす」


 しばしの沈黙。


 キメ顔を続けるライジュに耐えきれなくなったタイガが質問する。


「どうして? 『式』はライジュの仲間だったんじゃないの?」


「私が『式』にいたのはお父さんが長官だったからってだけ。要はお父さんのお手伝い。けどもう無理。あそこの残妖は人間扱いされてない。『式』って名前の意味、知ってる?」


 ドーシャは腹が立った。人間扱いされてないなんて嘘だ。だって、指揮しているのはお父さんだから。しかし怒りを抑える別の感情もあった。ドーシャも『式』の意味は知っている。

 タイガも意味を知っていたらしく軽く答えた。


「勿論。式神の式」


「そう。『式』の残妖は式神、つまり使い魔なんだよ。残妖でない人間の手足となって働く下僕。その仕事は同族狩り」


 届かないと知りつつドーシャは言った。


「残妖を取り締まれるのは残妖しかいない。誰かがやるしかないじゃん」


 当然ライジュはドーシャの言葉など知らず続ける。


「『式』を滅ぼすのは『式』の長官の娘である私の役目だ」


 動画の残りの部分はライジュの趣味とかプロフィールを語るだけのドーシャにとって何の意味も無い内容だ。

 ドーシャは動画に低評価をつけた。ちなみに高評価も1つついている。おばあちゃんがつけたんだろう。


 『白締』の動画は『世界人間連盟』によって検索しても表示されないようになっている。

 そのため見ているのは検閲している『世界人間連盟』の人間くらいだ。

 よってこんな配信には何の意味も無い。だからこそ動画配信くらいしかできなくなった『白締』は脅威ではないのだ。ライジュもそのことは知っている。


 だけどライジュが本気で『式』を滅ぼす気ならいつか必ず立ちはだかってくる。

 ライジュは夢みたいなことは言わない。そのライジュがバカバカしい目標を掲げてくるということは本気だ。

 ドーシャはライジュに1度も勝ったことが無い。それでも逃げるつもりはない。


「ちょっと外に行こうかな」


 いつかライジュと戦う日のため、強くならなければ。


 そう思って1階に下りると話し声が聞こえる。

 嫌な予感がしながら居間に行くと、おばあちゃんとライジュが話していた。


「なんでいるんだよお前!」


 ライジュが振り向いた。


「うるさいなあ。自分家なんだからいてもいいでしょ」


「自分の立場分かってんの? 『式』を抜けただけじゃないんだよ。『白締』に入った。敵なんだよ!?」


「はあ……ドーシャがうるさいから帰るね」


「またおいで」


 おばあちゃんがニコニコして送り出す。


「二度と来るな!」


 ドーシャはそう叫んでから考え直した。


「いや、今ここで決着をつけよう」


「は? 正気?」


 ライジュは心底哀れんだ目でドーシャを見た。


「今まで1度も勝ったことないじゃんドーシャ。0勝99敗(カンスト)だよね」


「私そんなに負けてる??」


 ライジュは庭の奥側に立つ。


「手加減しないよ」


 ドーシャは反対側に立つ。


「ライジュ。私が勝ったら全部話して」


「何を?」


「私たちを裏切った理由」


「そんなの白締ちゃんねるの動画を見たらいいじゃん」


「あれは嘘だ。ライジュは理想のためには戦わないし、他人のために戦うこともしない」


「ドーシャが私の何を知ってるの? なんにも知らないくせに」


 ライジュはドーシャを見下している。しかしその言葉こそドーシャの知らない事実があることの証明だった。


「だったら教えてよ。なんにも言わないくせに」


「めんどくさ。少しは自分で考えたら?」


 しかしドーシャの顔を見て言い足した。


「はいはい勝ったら教えてあげる。勝ったらね」


 そうして2人は戦った。

 結果は、まあ、勿論ライジュが勝った。


「またね」


 おばあちゃんがドーシャの手当てをしているうちにライジュは去った。


 またねとは言ったものの面倒を避けてかライジュは家に現れることは無かった。

 おばあちゃんはときどきどこかで会っているらしいが……ドーシャに教えることは無い。

 定期的に動画に現れるので会えなくて寂しいとかは全く無いのだが。


☆☆


 それから約1年。

 ドーシャは珍しく朝に街を歩いていた。


「あれ、ライジュ?」


 聞き覚えのある名前を呼ぶ聞き覚えのある声。


 ドーシャはすぐに声をかけられているのが自分だと理解した。姉に間違われることは珍しくない。


 声の方を見ると、よく知っている顔。

 火炎のような赤い髪に、青空のような青い瞳。


 『白締』の動画によく現れる少女、綾瀬タイガだった。

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