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第11話 偽りの執着

 ジュズは我がままだった。

 自分が食べたいお菓子を俺に買わせた。そして代わりに自分が食べさせたいお菓子を買って俺にくれた。


 ジュズは身勝手だった。

 遊園地で自分が行きたいところばかり行って俺の意見は聞かなかった。


「私はあなたが好き。だからあなたは私のもの。返事は?」


「うん……」


 俺はジュズの所有物だった。

 それで俺は満足だった。

 ジュズのことが好きだったから。


 いつまでも続くと思っていた。

 だってジュズのほうから「好き」って言ったんだ。

 なのに。

 永遠の愛なんてものを信じた俺は愚かだった。

 ジュズが本当に俺のことを好きだったのか、今となっては分からない。

 俺がジュズのことを本当に好きだったのか、今となっても分からない。


☆☆☆


 犬神ジュズが呪い殺しのツバキを殺した。


 哄笑するジュズ。


「ついにヲロチが私のものになった。12年。このためにツバキに従っていた。これからは私が残妖どもの支配者になる」


 物が落ちて崩れる音。

 誰かが上から降りてきた。


「これであとはお前ひとりか」


 男性の声。

 魔獣剣士、番ダイスケ。


「ここにきて魔獣剣士のおっさんまで登場か」


 重傷のドーシャはじっと見ているしかできない。


「ダイスケ。今までどこをほっつき歩いていたの」


「どこ、と言われれば地獄だ。俺は地獄を見た。だから復讐を誓った。そして今ジュズ以外全員死んだ。だけどそんなことはどうでもいい。俺が本当に殺したかったのはジュズ、お前だけだ」


「くだらない。12年経ってるのよ? 私は表社会でも裏社会でも成功した。ダイスケだけが12年前に取り残されてるの」


「誰のせいだ!」


「そうやって他人のせいにする。私がダイスケに何かした?」


「何もしなかった」


「ほら」


 ジュズの勝ち誇った笑い。


「もういい。話すのも疲れる。終わりにしよう」


 ダイスケは木刀をかまえた。


☆☆☆


「いやだ、じゃなくて、はい、でしょ?」


 ジュズが言った。


「でも……」


「でもじゃない」


 ある日ジュズは言った。

 ツバキが妖怪にしてくれるから一緒に行こうと。

 どう考えてもろくなことにならない。ダイスケは全力で拒否したがジュズの気持ちは変わらなかった。なぜそこまでこだわるのか、ダイスケには分からなかった。


 そしてジュズは残妖になり、ダイスケはならなかった。


 ツバキは笑った。

「失敗じゃ。どうやらお前には妖怪の血が一滴も流れておらぬようじゃのう」


 ツバキの仲間の残妖たち、疋田ヤフサのような者どもは失敗作のダイスケを堂々とイジメるようになった。


 ジュズは助けなかった。

 ダイスケよりもヤフサの隣にいることが多くなり、冷ややかな目で暴力を振るわれるダイスケを見ていた。


 そしてそれでもジュズはダイスケを放さなかった。自らの所有物だと公言し、他の残妖どもにも奴隷のように扱わせた。


 ついにはあろうことか『逢魔』の大規模テロも手伝わせた。

 だからダイスケは隙を見てジュズから逃げた。

 しばらく呆然自失の日々が続いた。

 無気力になった。どうやって生きていけばいいか分からない。

 だから、復讐を決意した。

 人は目標が無ければ生きていけないから。


☆☆☆


「おっさん、犬神ジュズは遠呂智の頭骨と融合してる。殺されるぞ」


 ドーシャは傷だらけの体を押さえて言った。


「覚悟の上だ」


 ダイスケの目に迷いは無い。


「柴剣刀鬼」


 三連続の突き。

 ジュズはこともなげにかわした。


「犬神の人間を犬神剣術で殺す気なの?」


 ジュズが爪を振るうと鮮血が舞う。脇腹を軽くえぐられたダイスケは片膝をついた。

 ジュズはダイスケの太ももに爪を突き刺す。何度も、何度も。

 ダイスケは座り込む。もはや立つことはできないだろう。


「ダイスケ。これでもう逃げられないね。あなたは私の所有物なんだから……」


 しかしジュズは苦痛に顔を歪め自らの頭を押さえた。

 ヲロチとの融合の限界が近いのだろう。


 ダイスケは木刀を杖がわりに体を少しだけ起こし、構え直し体勢が崩れるまでの一瞬で突きを放った。


 通常ならヲロチと融合したジュズには通じなかっただろう。

 しかしヲロチとの融合は限界に達し、そして木刀が突いたのはツバキの絶対反撃で深々とつけられた傷痕だった。


 木刀がジュズの体を貫き赤いオーラが抜けていく。近くにヲロチの頭骨が分離した。

 そのままジュズは倒れ込み、それをダイスケは受け止めた。


 ジュズが嘲笑した。

「は。満足? 復讐……だったかしら? やり遂げた」


「別に何も。結局、他にやることが無いからやってただけで、俺はジュズを憎んでいなかったのかもしれない」


「でしょうね。だってダイスケ、私のこと全然好きじゃなかったから」


「好きだった。誰よりも」


「嘘ばっか。私がヤフサといても全く妬かなかった。ヤフサは面白いくらいダイスケに妬いてたのよ」


「俺は……」


「別にいいけど。私も別にダイスケのことなんか愛してなかった。恋人なんて私にとっては成り上がるための道具に過ぎない。ダイスケも、ヤフサも。

 私はね、全部が欲しかったのよ。全部。表社会も、裏社会も、裏の裏の残妖の世界も。その全てで頂点に立つ。それが叶うはずだった……」


「ジュズ」


「昔失くした玩具につまづいて失敗するなんて笑っちゃう」


 ジュズはそれきり何も言わなくなった。

 ダイスケも横に倒れる。

 ドーシャはすぐに医務局と管理局に連絡した。


 ダイスケのおっさんはまだ息があったので医務局が連れて行った。ダイスケはただの連続殺人犯として処理されるだろう。


 そしてヤマタノヲロチの頭骨は研究局が回収した。

 しかし、ヤマタノヲロチには8つの頭があったという。つまり、あれと同じものがあと7つある……。


 ドーシャはしばらく医務局の病院で寝ていた。1週間もあれば治る。


「あと6人……」



 12年前、『逢魔』が1度壊滅したとき、強大な力を持つ7人の残妖が逃げ切った。

 それらをまとめて、『七凶天』と呼ぶ。


 『逢魔』のテロの巻き添いになって死んだ母のために、ドーシャはその7人を必ず倒すと決めた。



 当面の目標は当時最も『逢魔』首領に近い地位にいた、現『逢魔』首領の六文ヌルだろう。

 現在も『逢魔』は国内最大の違法残妖組織であり『式』の20人に対して『逢魔』の戦闘員は50人を超える。

 その目的は国家転覆。残妖の国を作るとかほざいてるらしい。


 七凶天で最も脅威となるのは狂少女と呼ばれた残妖。

 本名不詳。

 推定殺害人数1万人以上。

 圧倒的戦闘能力と殺害人数から6、7歳程度の少女にもかかわらず史上最悪の残妖とまで言われた。

 逃走後の消息は完全に不明。

 見つけられるかも分からないし、見つけたとしても勝てるか分からない。


「それでも私は戦い続ける。それがお母さんの望みのはずだから」

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