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第1話 残妖 月夜の襲撃者

 深夜。

 ある会社員はようやく帰った自宅の入り口近くに女子高生が座り込んでいるのを見つけた。

 制服を着た、髪の長い女の子。


「俺は幻覚が見えるようになったのか? どちらかというと俺は大人のお姉さんのほうが好きなんだが」


「おじさん気持ち悪い独り言やめてよ」


 女子高生がしゃべった。幻聴まで始まったのだろうか。しかしその可能性を口にすればまた気持ち悪いと罵倒されそうなのでやめた。


「幻覚じゃないなら、君はなんでこんなところで座り込んでるんだ。ここ、俺の家なんだが」


「ほかに行くとこないから」


「家はどこだ」


「今日は家に帰りたい気分じゃないんだ」


「親とケンカでもしたのか」


 女子高生は首を横に傾けた。少し間を置いてから答える。


「親……。親。そう、ケンカした」


「ったく、しょうがねえな。タクシー呼んでやるからタクシー代はあとでちゃんと返せよ」


「待って。家には帰らないって言ってるじゃん」


「じゃあお前ここにずっといる気か?」


「うん」


「うんじゃねーよ。ご近所に変な噂が立つだろうが。迷惑だ」


 すると女子高生はにまっと笑った。


「じゃあさ。家に入れてよ。そしたら私も助かるしおじさんも助かる。一石二鳥だよ」


「あのな、女の子が知らない男の家に上がり込むなんてダメに決まってんだろ。危機感無いのか」


「え、おじさん私のことやらしい目で見てるの?」


「いや俺の話じゃなくて! 一般論としてだな……」


 会社員はだんだん疲れてきた。そもそもなんで残業帰りに女子高生に説教してるのか。

 家の鍵を取り出しドアを開け中に入る。

 女子高生は当然のように一緒に入ってきた。


「おい」


「お願い。今日だけでいいから。泊めてくれたらなんでもするから」


「しょうがないな。明日になったら帰るんだぞ」


 女子高生と軽い夜食をして会社員は眠りについた。

 ベッドは女子高生に譲ったので会社員は床で寝た。


 シャン……シャン……。


 聞き慣れない奇妙な音に会社員は目が覚めた。

 夜中の3時。

 ベッドに誰もいない。女子高生はどこに行った?


 シャン……シャン……。


 金属のこすれる音。真っ暗な台所から聞こえてくる。

 彼はそっと近づき、電灯のスイッチを押した。

 パッと明かりがつき、照らし出されたのは包丁を研ぐ女子高生。


 シャン……シャン……。


 真っ暗闇の中で包丁を研ぐ女子高生という異常な状況に混乱した。

 こいつはいったい何をやってるんだ?

 女子高生は手をとめて振り返った。


「見た?」


 何を見たというのか。答えられなかった。

 女子高生は包丁を握ったままこちらへ歩いてくる。

 本能的に危機を察し玄関へ走った。

 チェーンロックがかかっている。自分はかけていない。あいつがかけたんだ。

 チェーンを外す1秒の間に女子高生が駆け寄ってくる。


「だ、誰か……!」



 静かな夜。


 あの冴えない会社員のことは前から目をつけていた。最初に殺した人間、父親に顔が似ていたから。

 だから家の前で待っていた。


 それにしても笑える。知らない男の家に上がるのは危機感が無い? 知らない子どもを家に上げる危機感の無い男に相応しい間抜けなセリフだ。


 1人になった家で殺人者はゆっくりベッドで眠る。


 朝になったら金目の物をあさって出ていこう。居心地は悪くないがずっといたら見つかってしまう。けど朝までは柔らかいベッドで眠っていたい。


 呼び鈴が鳴った。


 殺人者は一瞬で目覚め警戒態勢に入った。

 まだ夜の3時。


「真夜中に訪問者? イタズラならいいけど、警察なら……」


 足がついたのだろうか。


 殺人者は包丁を手に足音を殺して玄関に忍び寄る。そうしてドアの覗き穴から訪問者を確認する。


 女の子だ。中学生か、高校生か。自分と同じくらいの年齢。

 扉を見るその瞳は夜空と同じ色。


 この家の主の親戚か? おそらく違うだろう。


 なぜそう思うか。

 彼女の髪が真っ白だったからだ。

 殺人者は髪を黒く染めている。そうしなければ目立つからだ。

 そう、本来自分も彼女と同じ白い髪。

 だからこいつは自分と同じ……。


 そこまで考えたところで殺人者は吹き飛んで床を転がった。


 目の前のドアが吹き飛び自分を跳ね飛ばしたのだ。

 間違いない。白髪の訪問者がドアを蹴破った。

 壊れたドアをどかして急いで立ち上がる。

 ずかずかと上がり込む訪問者。


 殺人者は包丁を構えて質問した。

「あんた誰? いきなり何の真似?」


 訪問者は言った。

「『世界人間連盟』治安維持局・戦闘部隊『式』、深山ドーシャ。お前みたいな残妖を捕まえるのが仕事だ」


「残妖?」


「妖怪の血を引き、妖怪の力を持つ者」


「あんたも残妖?」


「そう。山姥の残妖」


「やっぱり。私も山姥だよ」


 殺人者は薄く笑った。初めて見た同族だから。

 けれど敵である以上倒さねばならない。


 殺人者は包丁でドーシャに斬りかかった。

 ドーシャは狭い廊下内で少しだけ体を動かしてよける。


「私の包丁をよけたのはあんたが初めてだよ。だから、これを見せるのもあんたが初めてだ」


 殺人者は右手を大きく後ろに引いた。

 するとドーシャは体の動きに反して殺人者の方へ滑った。

 殺人者は近づいてくるドーシャの喉元へと左手の包丁をまっすぐ突き出した。


 殺人者は触れずに物を引き寄せることができた。

 いつからそんなことができたか覚えていない。

 人を殺すには不必要な能力だった。そんなことしなくても包丁を手に握って刺すだけでいい。

 だけど今分かった。これは残妖同士で戦うための能力だ。


「死ねっ!」


 しかしドーシャは体をひねり包丁にかみついて受け止めた。

 殺人者は慌てて両手で包丁を引っ張るが振りほどけない。

 包丁にひびが入り、砕けた。


 ドーシャは包丁の破片を吐き捨て、言った。

「知ってる? 山姥は骨すら噛み砕く」


 武器を失った殺人者は視線を左右に揺らした。


(まだ勝てる? 勝てるかもしれないが、そもそも勝つことに意味など無い。不要なリスクだ。逃げよう。逃げなければ)


 殺人者が逃げ場を探して視線を揺らした一瞬の隙にドーシャは近づき胸へ真っ直ぐ拳を放つ。

 殺人者は右手で受けるがその手をドーシャがつかむ。左手でどうにかしようとするがそちらもつかむ。お互い両腕が使えない状況となった。こうなると歯しか武器が無いが、相手も山姥。油断すると自分が首を噛み切られる。


 しかしドーシャはそんな駆け引きをする気は最初から無かった。


「逆鱗山の(いかづち)


 ドーシャの体がピカッと光り殺人者の全身を鋭い痛みが走り抜ける。

 ドーシャが自分の体から強い電気を発したのだ。


 残妖には卑妖術と呼ばれる特殊能力がある。

 殺人者の引力がそうであるように、ドーシャには体内に炎や電気など様々なものを溜め、自在に放出する能力があった。


 殺人者は倒れ伏した。

 痙攣し立ち上がることができない。


「勝負あったね。あとは管理局があなたを『治療所』という名の牢獄に連れていく」


 ドーシャは殺人者に背を向け自撮りを始めた。

 殺人者と自分が写るよう角度を調整し無表情でピースする。


 殺人者は声を絞り出した。

「くそっ。なんで人間なんかに飼い馴らされてんだ。そんなことしたって人間にはなれないのに」


 ドーシャは気にしない。

「残妖は人間だよ」



 かつては山ほどいた妖怪たちは科学の発展で姿を消した。

 しかし彼らもただ消えることを良しとはしなかった。

 彼らは人と交わり人の中に妖怪を残す。

 妖怪の血を引く人間、残妖の誕生。

 今となっては人間の9割は妖怪との混血だと言われている。

 この事実を隠すためだけに作られた組織が『世界人間連盟』であり、その日本支部の戦闘部隊が『式』である。



*************************************


 名前:深山(みやま) 瞳紗(ドーシャ)

 所属:治安維持局・残妖戦闘部隊『式』

 種族:山姥の残妖

 年齢:16

 性別:♀

 卑妖術:《山位一体(さんみいったい)

     山中に収まる程度のものを体内に収め、自在に放出する。



 名前:枯山(かれやま) 月夜(ツクヨ)

 所属:なし(殺人者)

 種族:山姥の残妖

 年齢:16

 性別:♀

 卑妖術:引力を操る。

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