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006


 結局、木庭袋さんの死体が見つかったのは一カ月以上先のことだった。


 死因などの細かいことは、警察からは聞いていない。怪異に襲われて死んだんだとすると心底可哀そうだと思ったが、二階曰く、「少なくともキノコの怪異に襲われたわけではないだろう」とのことだった。


「……なんで? 俺、お前が『これは霊の仕業じゃない』って言うたびに、いっつも信じらんないんだけど」


「霊も怪異も、自分で決めたルールは守るからだよ。守るというか、縛られている、というべきかな。あそこにいた怪異は、死体しか襲わなかったろう?」


「……じゃ、木庭袋さんはなんで死んだんだよ」


「怪異のせいじゃない――とは言い切れない。だが少なくとも、あのキノコのせいじゃない。で、他に怪しいものは特にいなかった」


「でもでも、何人も不調をきたして退職続出だったんだろ?」


「そりゃ、普通の人なら不調もきたすだろう。森の下の土壌が、まるごと全部怪異なんだから……あの日の俺の顔色の悪さを忘れたか?」


「そーいや、そーだった」


 具合の悪い二階なんて見慣れているからなんとも思わなかったが、そりゃー普通の人が職場に行くたびにあんなに顔色悪くしてたらやってらんないよな。この森は呪われていると考えて(というかその想像は全然外れでも何でもないわけだが)、退職したっておかしくない。


「ねー。木庭袋さん、自分が死んでるってことには気付いてたと思う?」


「どうだろうな。だが、後から死体が見つかった今回のようなケースの場合は、その時点で火葬が行われて成仏できることが殆どだ」


「ふーん……」


 心霊現象における依頼人の苦しみは、様々だ。


 身体の不調に困っているとか、物がなくなって経済的な問題が生じているとか、自分の気がおかしくなったんじゃないかと不安になるとか。


「……彼の願いが『研究を続けたい』だったとすると、今回の仕事は失敗だったかもしれないな」


「うーん、どうかな」


 俺は木庭袋さんが言っていたことを思い出す。


「木庭袋さん、願いは『なんでもいいから本当のことを知ること』だって言ってたぜ。生きてても死んでてもいいから、って」


「そうか。……まあ、それでも成功だとは言えないが」


 今回の依頼はとにかく怖かったし、報酬金も当然貰えていないけど、そういえば依頼人自身が怪異だったっていうパターンは初めてだ。そういう意味では、なかなか貴重な体験をさせてもらった気もする。


 とはいえなんともしっくりこない。誰も助けていないし、祓ってもいない。森の怪異に死体が攫われていくところを見届けただけだ。そういえば、木庭袋さんはどうやって俺達にメールを送ってきたんだろう? 死んだことに気が付かずに、普通にパソコンからぽちぽち送ってきてたんだろーか。


「ところで、藤田。お前、今回は本当に凄かったな」


「え、何が?」


 二階が俺のことを褒めるなんて珍しい。霊にでも憑りつかれてるんだろーか。


「いや……普通、目の前で死体が動いていたと知ったら、大抵の人間はショックを受けるものだから」


「ああ。たしかに! めちゃくちゃ驚いたな」


「嘘を吐け」


 二階が笑う。俺も愛想笑いで付き合いながら、やっぱり二階は人を小馬鹿にしてくるぐらいのほうがいいな、と思う。こいつの具合はいっつも悪いものの、それでも多少ねちねち言う余裕はあるぐらいのほうがいいな、と。



<了>


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