94.フィアレアラの三年生一学期 5
第二選択授業は、体育か魔法。私は体育を選んだが、第一選択授業同様少数派だ。四星以下であっても親きょうだい以外から魔法を習うことが出来るのは学校くらいしかない。魔法は家庭の経済状態まで左右する重要な力だ。王都第一初等学校の児童は皆貴族か準貴族かその親族で、純粋な平民はいない。つまり皆MR保持者で二星以上なのだ。当然のように魔法授業を選択する。
体育を選ぶのは、騎士団、護衛などの体を使う職に就きたい児童で、男子児童が多い。女子児童は第一選択授業よりかは少し多い程度で少ないが、男女合同の第一選択授業と違い男女別だ。
授業が終わった後、教室に戻ろうとした時テスとアレクが私のところに来た。
「フィアレアラ様。」
「フィアレアラ様。」
「何?テス、アレク。」
教室に向かいながら二人と話す。
「オレたち、フィアレアラ様が言っていたジンクス派の開祖『ジンクス・レリ・マ・イットー』師範のことをもっと詳しく知りたくて、ジンクス派の師範にお話を聞きに行ったんだ。」
へー、そうなんだ。フェリオの親友とは知っているけれど、フィオナの記憶の解放は中等学校二年生の終わりまでだから詳しく分かるのは初等学校時代の平民ジンクスのことで、その後の彼のことはあまり詳しく知らない。
フェリオの第一王妃だったレリーリアラことクノン第一王妃陛下が、平民から伯父の養子嫡男の準貴族になったジンクスを高等学校卒業後、フェリオは自分の護衛に指名した上に、護衛長、騎士爵の爵位まで与えて、騎士団の団長にしたと言っていた。そんな親友贔屓話しか知らない。もちろん、彼が努力して優秀だったからこそそんな贔屓が出来たのだろうけれど。
「ジンクス師範は、凄い男だった。オレ、彼のように夢を叶えるために努力することにしたんだ。次男だからって人生諦めたらいけないと思ったから。オレ、中等学校の体育特待生推薦枠の全額免除を狙ってみることにしたんだ。」
「頑張ってね、テス。そうよ、子供が人生を諦めてはいけないわ。自分の未来は自分で切り開くのよ。」
「うん。フィアレアラ様。それで、オレ、ジンクス派の道場に通うことになりました。カッタル派だけでなくジンクス派の剣術も習うことでもっと強くなりたくて。」
…ジンクス派の剣術は私では分からない。フェリオでないと。
「ジンクス派の師範は、フィアレアラ様のことを知ってたよ。我が王国の五大流派全てを師範並みに扱えるなんて、身も心も己に厳しく鍛えていらっしゃるに違いないとおっしゃってた。オレらもそう思ってます。」
…言えない。
鍛えていたのは私ではなく前世の私です、前世の記憶のおかげで私は何の努力することなく五大流派全て扱えるようになりました、なんてテスに言えるわけがない。
「フィアレアラ様。ぼくは、師範にフィアレアラ様は、剣術だけでなく勉強も完璧で、定期テストは全て満点だと言ったよ。師範はさらに感服してたよ。相当の努力家だと。」
…言えない。
勉強なんて復習程度しかしていないなんて。一生懸命勉強したのは私ではなく、前世の私です、前世の記憶のおかげで私は勉強する必要ない、なんてアレクに言えるわけがない。
「ぼくたち、みんな、フィアレアラ様を尊敬しているんだ。フィアレアラ様みたいにぼくたちも一生懸命頑張ろうって思っているんだ。」
テスもアレクもそう言って私を尊敬する眼差しで見ている。一緒に教室まであるく女子友達までがキラキラした目で私を見てる。
ううっ。
なんて居心地が悪いのだろう。みんな揃ってそんな目で私を見ないで欲しい。
『完璧主義の私の前世が努力し過ぎなのです。私は少し前まで努力なんてしなくていい、目立ってはいけないと教えられました。』
そう言ってしまいたいけれど、言えない。
「…私なんて、全然、まだまだよ。」
それだけ言うので精一杯だ。
「謙遜しなくてもいいのに。いや、もしかして、フィアレアラ様は、まだまだずっと上の高見を目指していたりするの?さすが。さすがフィアレアラ様です。オレたちももっと頑張るよ。現状に満足することなく常に向上心を持つべきだってことだよね。」
「えっ?えっと…。まぁ、そんな感じ?かしら?」
「フィアレアラ様がよければ、今度、ぼくたちと一緒に稽古しようよ。ぼくたちの道場に来て欲しいけれど、無理かな?ぼくたちの師範がフィアレアラ様にお会いしてお手合わせ願いたいって言ってたよ。」
ジンクス派イットーイナコ流の道場か…。フェリオは行ったことあるのだろうか?親友の開いた道場に。
『ないわよ。国王も前国王も基本王宮から出ないわよ。公式の訪問や行事以外。フィオナならば、自由に外出出来るけれど、フィオナの姿でジンクスの道場には行けないわ。』
そうなんだ。ってか、そうよね、私も学校に行く以外ほとんど自由はなかったわ。私の父上や祖父母達は、外出どころか自分たちの宮から出ることさえもほとんどない。
『【んふふっ。フィアレアラ。あなた、同級生にずいぶん過剰評価されてるわね。笑えるわ。】』
『そうね。努力したのは私なのにフィアレアラが超努力したみたいね。』
とても居心地悪く感じているわよ。まっ、でも、魔力も前世の記憶も実力のうちだと開き直るしかないわね。私であることに変わりないわ。
『【ふふっ。その通りね。】』
『ええ。生きていた頃の努力が失われることなくまた自分自身の役に立つなんていいことだわ。何度生まれ変わっても私は私であり続けるのよ。最高だわ。』
『【ならば、私ね。みんな私よ。】』
『私だわ。』
『【フィオナ、あなた、さっき言ってたじゃない、何度生まれ変わっても私は私だと。ならば、フィオナは私でしょ?フィオナもフィアレアラも私ってことよ。】』
『訂正するわ。前世の自分を反面教師にしてより良い私になったのよ。だから私とエリザベートは違うわ。』
前世と前々世の馬鹿なやり取りはスルーしよう。前世と前々世の自分は反面教師だわ。
『『【失礼ね。フィアレアラ。今のあなたがあるのは私達がいるからよ。】』』
そう言うと思ったわ。
前世と前々世の私は私の予想通りの反論をした。




