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92.分家ビルディン子爵家の次男 2

アレクに道場に連れて行ってもらい、師範を紹介してもらう。


「ああ、アレクから聞いている。我がジンクス派イットーイナコ流の開祖『ジンクス・レリ・マ・イットー』師範のことを聞きたいらしいな。」


『ジンクス・レリ・マ・イットー』は、アレクの師範の祖にあたる。フィアレアラ様の言っていた通りジンクス師範は平民だった。彼の父親は本家イットー侯爵家とは世代の離れた分家の次男。独立後、平民となったので彼は最初から平民だった。


兄から勉強を学び王都第一初等学校に入学するが、入学式初日、同じクラスになった後の国王フェリオ・マ・アール王子殿下に馴れ馴れしく話しかけ、貴族子弟に殴り飛ばされるトラブルを起こす。

そのトラブルがきっかけでフェリオ王子殿下と仲良くなり、将来はフェリオ王子殿下にお仕えしたいと志す。


平民の次男の彼が中等学校に進学するためには、体育特待生で学費全額免除しか道がない。ジンクス少年は体育特待生推薦枠を勝ち取るために苦手な勉強を頑張った。そして、体育コーストップの特待生として中等学校に入学する。


王子殿下にお仕えするためには、準貴族以上の身分が必要になる。たとえ高等学校に入学出来たとしても平民では難しい。だが、ジンクス少年は中等学校でも常に勉強も運動もトップであり続けた。もしかしたら、平民でも優秀であれば王子殿下にお仕えできるチャンスがくるかもしれないと、あるかどうかも分からない期待と夢を持ち続けた。


そして、中等学校三年生の時、父親の兄の分家イットー侯爵家の伯父が、『高等学校に体育特待生推薦枠で進学するほど優秀ならば、養子嫡男にならないか。』と言ってくれたのだ。

伯父の養子になれば、平民ではなく準貴族。夢だった王子殿下にお仕えすることが出来る。彼は、人生をかけて努力した。絶対に体育特待生推薦枠を勝ち取る。誰にも負けない自信があった。


そんな彼に転機がくる。王子殿下の双子の妹王女殿下と剣術勝負をして負けてしまったのだ。


まさかの敗北だった。勉強も運動も常に体育コースのトップであり続けていた。なのに、体が弱くて初等学校時代二年間も休学していた五星王女殿下と剣術勝負をして負けたのだ。しかも、惜敗ではなく完敗。全く相手にならなかったのだ。


王女殿下の剣術の腕前に衝撃を受けた彼は、王女殿下の剣術の指南役である人物に教えを乞うことにした。その人物は、王女殿下の護衛をしていた『カッタル派イットー流道場の嫡女』だった。彼女は、五大流派全てを扱うことが出来たのだ。


「えっ?カッタル派イットー流の嫡女だったのに他流派、それも全て、なのですか?」


オレは驚いた。まさか、カッタル派の嫡女が他流派なんて。カッタル派は、他流派を圧倒する最強の流派だと思っていた。他流派なんて学ぶ必要なんてないと。


「カッタル派イットー流は、基本魔力なしの実力勝負。激しく打ち合う流派だからカッタル派イットー流だけを極めても体力と力の劣る女性では男性に勝てないと思った彼女は他流派を学ぶことで誰にも負けない力を欲した。

もちろん、彼女が他流派を学ぶことに反対する者もいた。一つの流派を極めてそれで負けたとしても本望ではないかと。

だが、彼女はそれを否定した。彼女には守りたい人がいたからだ。命をかけて守る。その人を守るためならば、どんなことをしてもどの流派を使っても必ず勝つ。一つの流派を極めて負けても本望なんて自己満足な美学なんて要らない、と。

そんな強い信念を持ち、五大流派を全て扱えるようになった結果、彼女は男性にも負けない力を得たのだ。」


アレクの師範はそう言った。


オレは、凄い女性だと思った。確かに、自分一人ならば、負けても本望だ、で済むかもしれない。だけど、守りたい人がいるならば、どんなことをしてもどんな流派を使ってでも必ず勝つなんて、強い。カッコいい。もちろん賛否両論あるだろうが、オレも勝つことが一番大切だと思う。


ジンクス少年は、彼女の信念に感銘を受け、カッタル派イットー流道場に通い始める。平民で次男の彼を月謝タダにして支えてくれたのは、時の騎士団の団長。彼は、カッタル派イットー流道場の嫡女の父親とは従兄弟同士になり、幼い頃から道場に通い、成人後も仕事の傍ら道場で子どもたちに剣術指導をするのを手伝っていたのだ。彼は、ジンクス少年が初等学校一年生の時の担任の先生の夫だった。彼もまた自分の夢を叶えるために努力して騎士団長にまで上り詰めた男だった。


『お前の志をオレが応援してやろう。オレも同じだったから。お前は、特待生推薦枠を勝ち取り、オレの期待に応えろ。そして、将来、オレや、お前のように頑張る少年少女がいたら応援してやれ。この国の王になられる王太孫殿下をお守り出来るくらい強い男になれ。殿下や、殿下の子孫を支える将来の子供達が憧れるような強い男になれ。それが今お前を応援してくれているみんなへの恩返しだ。』


そう言って応援してくれた時の騎士団長やたくさんの人達に支えられ、ジンクス少年はさらに努力を重ねる。そして、見事に高等学校の体育特待生推薦枠を勝ちとり、姓を持たない平民『ジンクス』ではなく、分家イットー侯爵家の嫡男『ジンクス・レリ・イットー』として高等学校に入学した。


ジンクス少年は、高等学校の学生時代、カッタル派イットー流の道場に通い、五大剣術流派を習う。


そこから先の話は、超有名で、彼は高等学校三年間学科トップの成績を維持し続けた。高等学校卒業後は、国王陛下の専属護衛を、後に護衛長を務め、陛下から特別騎士爵の爵位を与えられ、騎士団長に上り詰めた。現役引退後は、『ジンクス派イットーイナコ流』道場を開き、後身の育成に尽力を注いだ。


彼の流派は、中等学校三年生の時、体の弱い王女殿下に完敗した経験からきていて、魔力を持たない者、子ども、女性であっても鍛え方次第で屈強な男性にも勝てるようにと編み出された流派で、三星以下、女性に人気の新しい流派となったのだった。

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