81.二年生学年末休み
「さぁ、行くわよ~。南国バカンスに~。」
三学期末の学年末休み、私は再びサザリーナンダ公爵領に遊びに行くことになった。今回は移動なしの全部遊び。しかも、冬の今に南国リゾートなんて楽しみしかない。リマリーエに断られた時はがっかりしたし、今回の学年末休みはどこにもいけないと思って諦めていたから、急に行けるようになったことがめちゃくちゃ嬉しい。
クノハ先生、クララ王女様、リマリーエの三人に外側から魔力隠蔽、衝撃吸収、防音防壁、普通の結界、姿隠蔽の五重の結界を一気に張る。そして目指すサザリーナンダ公爵領、マナリーにあるサザリーナンダ公爵家の別荘にに一瞬で移動する。
「着いた、着いたわよ。さぁ、リマリーエ、泳ぎに行こう。」
「…凄い。マジ一瞬でうちの別荘の前…。ってか、フィアレアラ様の結界と転移魔法で移動だったんだ…。クノハ先生だと思ってましたわ。」
「あなたの父親にはね、都合上私ってことになったのよ。普通はね、こんなに離れたところまで一気に移動なんて出来ないわ。距離が長ければ、長いほどたくさん魔力を使うのよ。例えば、60km移動するならば、一気に60kmを移動するよりも30kmを二回の方が使う魔力量は少なくて済むのよ。だから転移出来る限界の距離がある。
私ならば、マナリーまで最低8回くらいは繰り返さないと移動出来ないわ。自分一人だけでも厳しいのにたくさん連れては年齢的にも無理があるわ。移動距離に限界がないのは、フィアレアラ皇女様だけよ。魔力の質が普通ではないのよ。」
「質が普通ではないとはどういう意味ですか?もちろんフィアレアラ様の魔力は私の知る五星の人達の魔力と違うとは思っていますが。」
「立ち話では終わらないわ。」
「あっ、申し訳ありません。すぐに別荘の中にご案内致します。」
別荘の玄関前にはたくさんの使用人達が私達を待っていた。事前に行く日時を言っているから部屋の準備も出来ていて、すぐにそれぞれの客室に案内してくれた。
今回は、日程の都合上、移動時間を短縮する。
王宮の私達の専属侍女と護衛達は、サザリーナンダ公爵家でお休みだ。偽装の空馬車のみがサザリーナンダ公爵領に向かって移動している。
私達の侍女と護衛の代わりの者達は、移動先々でサザリーナンダ公爵家が用意してくれる。
…………………………
「リマリーエ、リマリーエ。早く海に行こう。」
案内された部屋に荷物を運び入れ、早速リマリーエを海に誘うが、断られた。
「フィアレアラ様。まだ朝の6時半ですわ。こんなに早くから誰も泳ぎませんわ。」
「えー。じゃあ、釣りは?釣りに行こう。釣ったお魚をお昼ご飯で食べるなんてどうかしら?クノハ先生とクララ王女様も一緒に釣りにいきませんか?」
前回ここにきた時、ルアーフィッシングを楽しんだ。磯から大きな魚が釣れたのだ。引きが強くて面白かった。餌釣りの小魚狙いも楽しかった。海のレジャーは最高だった。
釣りはめちゃくちゃ楽しいのに、何故かリマリーエ以外には断られてしまった。なので、リマリーエと二人で釣りに行く。狙うはまた磯から大型魚。
「全然釣れない…。」
「ですから、ここ数日は潮が悪いとうちの使用人達が言ってましたわ。小魚の群れが回ってないって。」
「そうね。」
聞いてはいたが、少しくらい何かアタリがあるかと思ったのに、全く何のアタリがない。
「ルアーは諦めた方がいいかと。ターゲットを小さな魚に変更してエサ釣りにしませんか?」
「…うん。」
仕方ない。のんびり餌釣りながらリマリーエと話す。
「フィアレアラ様、今回、私、クノハ先生にたくさん魔法指導していただく予定ですが、クノハ先生側にそれに見合うだけのメリットを全く感じないのです。
五星にとって魔法は命に関わる力ですわ。普通、他人には教えません。肉親であっても親子以外は微妙ですわ。きょうだいはライバルですから。なのに、前回同様、もしかしたらそれ以上指導していただけるなんて常識的に信じられないのですわ。」
「…メリットがあるからよ。ってか、あなたにそうなってもらわないと困るのよ。」
リマリーエは知らない。クノハ先生がリマリーエに魔法指導する本当の理由を。何も知らないリマリーエがそう言うのは当たり前だった。クノハ先生は、今日の最初の魔法指導の時間にその理由を話す予定だが、ちょうど聞かれたから私からも説明することにした。
「あなた、第二王子をどう思う?何度か会ったことあるわよね?近くにいれば直接触れなくても誰でも少しくらい相手の魔力を感じるわ。お互いの魔力量に二倍以上の開きがあれば相手の魔力量が正確には分からなくなるけれど、多いか少ないかくらいはく分かるわ。あなたは子供だから大人よりももっと第二王子の魔力量がよく分かるわよね?第二王子は、王家王族五星だと思う?」
リマリーエは、第二王子をどう思っているのだろうか?彼女は、第二王子が旧帝国皇族家系五星でないことは分かっているはずだ。リマリーエの話を聞けば彼女の父親であるサザリーナンダ公爵が第二王子をどう思っているのかがある程度分かるはずだ。サザリーナンダ公爵家は、第二王子の家系を知った上でを偽り続けているのかどうか、これから先は、どうするつもりなのかを聞いてみることにした。