66.公爵令嬢リマリーエ 4
来週からは、期末テストが始まる。つまり、一学期は後半月で終わりだ。
フィアレアラ様は、一学期の中間テストで全教科満点だった。私も頑張ったのだが、ケアレスミスをしてしまい、満点だったのは、六教科中、四教科。残念な結果だった。今回の期末テストこそはもっと頑張ろうと思っている。
しかし、フィアレアラ様は、完璧なお方に思う。五星ならば気になる彼女の魔力量だが、私のお父様が分からないほど膨大らしい。そして、運動神経も抜群で、一学期のスポーツテストは、女児でありながら男児の一番を抑えての学年トップだった。剣術なんてイットー侯爵家の嫡男バッシュよりも上手い。頭もいい。春の遠足では川で溺れるアレクを助けたヒロインだ。
顔も可愛い。優しい。楽しい。
彼女は、男女も学年も問わず大人気だ。
今日までは朝の挨拶と選択授業で毎日彼女と一緒なのだが、来週から一学期終業式まで、授業は午前中になる。彼女と一緒にいられるのは朝の挨拶だけになってしまう。そして、学期末休みの間は彼女に会えない。
淋しい。彼女と同じクラスの友人達がうらやましい。授業中も授業間休み時間も一緒に過ごせるから。私と彼女は来年も違うクラス確定だから。
…………
「リマリーエ、リマリーエ。どうしたの?選択授業終わったわよ?帰るわよ。」
「えっ?あっ、ぼーっとしていましたわ。」
「期末テストの勉強で寝不足だったりするのかしら?」
「違いますわ。期末テストの勉強ならば、だいたい終わりましたから。後はちょっとした復習程度ですから、寝不足になるほどでは…。」
「私も特にこれといって勉強することもないから復習程度よ。」
「フィアレアラ様に苦手な教科ってあるのですか?」
「ないわ。私の代わりに努力してくれた人がいるから。私、その人の褌履いてるのよ。」
「えっ?褌ですか?」
「そうなのよ。だから私もね、その人のために協力することにしたのよ。協力といってもね、私、おやすみなさいって寝るだけなんだけどね。」
「…意味不明ですわ。」
「ふふっ。それはそうよね~。リマリーエ、今日で午後授業終わりだからあなたともっと話していたいけれど、帰らないと。お迎え来てるし。」
「そうですわね。来月から午前中授業で、私とは朝の挨拶程度になりますわね。」
校門に向かって帰りながら話す。
「フィアレアラ様。学期末休みのご予定は、何かあるのですか?」
「ん?ノーストキタ公爵領で過ごす予定よ。クララ王女様と、ソウル第一王子様と一緒にね。魔法の練習のために、クノハ先生夫婦が連れて行ってくれるのよ。クノハ先生の夫は、ノーストキタのお方だから。ノーストキタの自然に触れるのは夏の今が一番いいからって。」
王族五星クノハ・レリ・アール王義母殿下。
言わずと知れた第一王妃クノン・マ・アール陛下の母親だ。フィアレアラ様と孫王女クララ殿下の二人に魔法を教えているとは聞いている。
そして、夫のノエル王義父殿下は、前ノーストキタ公爵様の異母弟。四星第一王子ソウル殿下の魔法の先生だ。
魔法は、イメージ力が大切だ。保護者が許可さえすればクノハ殿下ご夫婦が二人の孫とフィアレアラ様を魔法技術向上のためにノエル殿下のご実家ノーストキタ領に連れて行き、自然に触れさせると言うのならば、領に行くのに何の問題もない。保護者のクララ王女様のご両親は反対しないだろう。フィアレアラ様の保護者は、第一王妃陛下。第一王子殿下の保護者は、国王陛下ご夫妻。国王陛下に反対はないだろう。ノーストキタは、領のほとんどが常夏の我がサザリーナンダと真逆で、常冬だ。ノーストキタ領に行くならば、短い夏の今が最適だ。
「リマリーエは、学期末休み、ずっと王都なの?」
「いいえ。私は、二番手ですから、学年末休み以外の一学期末、二学期末休みには自領に戻されますわ。去年からお父様に自領を視察して回るように言われています。私の将来は、分家サザリーナンダか、もしくは…。」
「ああ…、そうなるわよね…。私も同じよ。皇族五星皇女なんて…。」
察してくれた。
そう、公爵家五星令嬢の私の婚約者候補は、王家の二人の王子殿下なのだ。一つ年上の四星第一王子ソウル殿下か、若しくは、三つ年下の五星第二王子ハウル殿下。
おそらく…、四星第一王子ソウル殿下の配偶者になり、王族になる可能性が一番高い。
「…はい。ちなみに、フィアレアラ様のお相手で一番可能性が高いのは…?」
「二つ年下の私の従弟よ。叔父上様皇帝陛下の第一皇子でね、彼が皇太子で次の皇帝になるのはほぼ間違いないわ。皇帝の第一配偶者は必ず五星って決まっているから、彼の第一皇妃候補の婚約者は私に確定に近いわ。彼の年齢に合う五星女性が私以外いないから。最悪だわ。超ワガママな傲慢皇子なのよ。私、彼が嫌いなの。」
「将来の相手の選択肢なんてないに等しいですわよね~。」
フィアレアラ様も私と同じだった。彼女の婚約者候補は皇家の第一皇子殿下。フィアレアラ様の将来は、皇帝の第一皇妃陛下の可能性が一番高いのだった。
「うん。でもね、私、足掻いてみるつもりなのよ。私ね、そのために魔力を空っぽになるくらいまで毎日超鍛えているのよ。まぁ、勝手に空々になるともいうけれど。叔父上様皇帝陛下に圧勝するためならば、たいしたことないわ。」
マジか~。叔父の皇帝陛下に圧勝するつもりって、ヤバ凄過ぎる。
「私ね、少し前までは諦めていたのよ。叔父上様皇帝陛下に命令されたら従うしかないってね。皇帝の第一皇妃なんて超嫌だけど、皇族五星女性として生まれたからには仕方ないって。
だけど、嫌ならば、嫌って言うことにしたの。そのために、私、この世界一強い五星になるわ。誰も私に逆らえないくらい、誰も私に命令できないくらい強い五星にね。」
「フィアレアラ様ならば、なれそうですわね。」
「ふふっ。ありがとう。じゃ、またね。」
………………
『この世界一強い五星、かぁ~~。』
フィアレアラ様は、大きなお方だと思う。勉強も運動も普通の人と違う。ダントツの桁違いだ。そして魔法も。遠足の時にみた彼女の魔法は、私の知らない魔法だった。
帝国の第55代皇帝ウィレム・ヤ・マティス陛下の姪となる五星皇族皇女『フィアレアラ・マティス』殿下。
会えない時もつい彼女のことを考えてしまう。私は…、彼女が好きなんだと思う。
だけど、彼女の恋人になりたいとか、そんなつもりは全くない。
私は仲の良い友人の立ち位置でいたいのだ。
彼女の留学期間は二年間。その後、彼女は帝国に戻られる。そして、彼女が正式に従弟皇子殿下の婚約者になったならば、彼女が帝国から出ることはないだろう。私とも…もう二度と会えなくなる。
だから、友達でいい。仲のいい友達で。
…。
…。
…。
いや、友達でいいなんて、そう自分に言い聞かせているだけだ。
本当は、彼女に告白して、フラれるのが怖い。
私だって本心では好きな人の恋人になりたい。
婚約者を親に決められてしまうのは仕方ないって思っている。ならば、婚約者が決まるまで短い間だけでも好きな人の恋人になりたい。今まで同級生の男児に興味なかったのに、彼女を好きになってそう思うようになった。
はぁ~~。
ため息が出てしまう。
私は、何故あの人を好きになったのだろうか?同性で帝国からの留学生のあの人を。
でも、初めて会ったあの時以来、彼女が気になって仕方ないのだ。彼女のお側にいたいのだ。
彼女が我が王国にいる間だけでも、彼女の『特別』になりたいと思う。彼女の『恋人』に。
だけど…、
恋人になるためには告白して彼女に私の気持ちを伝えないといけない。もしフラれてしまったら、仲のいい友人に戻ることは出来ない。
ならば…、
一番仲の良い友人になることを選びたい。
『特別』な『友人』に。
はぁ~~。
去年までの私は何故あんなに自信満々だったのか分からない。自意識過剰な子供だったのだと思う。今の私は自分に自信がない。何かをしてそれが失敗に終わることが怖い。
私は、彼女を好きになって臆病になったのかも知れない。




